【完結】色づく想ひ    作:ワンダーS

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どうも、作者です。
評価くれた人、ありがとうございます。
以上。


個別:百鬼 23

 

 「ねえ透くん。余、気づいちゃったんだけどさ。」

 「…何にだ?」

 唐突にそんな声を上げる百鬼に、正直こんな問答をしている余裕は無いのだが、少しでも彼女の気がそらせるのならと藁にも縋る心地でそう問いかける。

 「あのね、余と透くんが一緒に寝るのに反対なのってフブキちゃんでしょ?なら、フブキちゃんも一緒に寝れば解決すると思うんだけど、透くんはどう思う?」

 さも名案とばかりに言う百鬼であったが、しかし、俺にはそれの何処が名案なのかさっぱり理解できないでいた。

 「そうか、なら、白上に直接そう言ってきたらどうだ。」

 「うん、昨日言ったら恥ずかしいからって断られちゃった。」

 予想外の答えが返ってきて思わず力が抜けそうになるも、危うい所で持ち直す。

 「もう言ってたのかよ。そこで駄目って言われてるのに何でさも今思いつきましたって顔で提案してきたんだ。」

 「だってー…。」

 そのツッコミに襖から半分覗いている百鬼の眉が八の字に歪む。条件は同じはずなのだが、どうしてあちらはこんなにも涼しい顔をしていられるのだろう。

 「透くん、駄目?」

 上目遣いで見てくる百鬼に思わずドキリと心臓が鳴る。どうも俺がこの仕草に弱いという事に薄々気付いてきたようで、百鬼は事あるごとにこうしてお願いをしてくるようになった。平時なら即オーケーしてしまう所だが、ただ、それも状況によりけりで。

 「駄目だ、聞きながら、無理やり押し入ろうと、襖を開けようとするな!」

 両手を使って、百鬼が開けようとする襖を閉める方向に全力を込めながら声を荒げる。尚、当の百鬼は片手で普通に襖を開けようとしているのみで、最早襖の方が開こうとしている様に見えるが、残念ながらこれが彼女と俺の力の差である。 

 「どうして、そんなに俺と一緒に寝ようとする!?」

 時間は夜。外ではお月様が昇り夜空と向かい合っている時間帯だ。後ろでは既に布団は敷いてあり、後は寝るだけという所で百鬼が訪ねてきた。

 襖を開け何の用かと聞けば百鬼は開口一番に『余、透くんと一緒に寝たい。』と口にした。その言葉を聞いた瞬間、反射的に襖を閉めようとした所で百鬼に途中で止められ、現在に至る。

 「透くんこそ、何で駄目って言うの?前まで一緒に寝てたじゃん!」

 「前は…、そうだけど、今は事情が違うんだって!」

 断る理由はただ一つ、以前との決定的な違いとして、俺が百鬼への恋心を自覚してしまった事にある。想い人が隣で寝ている中すやすやと寝られる程、俺の肝は座ってはいない。なんなら心臓がうるさすぎて百鬼まで寝られなくなる可能性すらある。

 「そうだ、百鬼、白上だ。百鬼と白上と一緒に二人で寝れば解決だろ。」

 あまりに唐突の事に動揺して思いつかなかったが、こんなにも身近に解決策があった。これならばと百鬼に伝えるも、けれど当の彼女はぶんぶんと首を横に振って拒絶する。

 「透くんじゃないと駄目なの!」

 「だから、何でそうなる!」

 一々心臓に悪い百鬼の言動に動転しそうな心を必死に落ち着けながら更に力の加わった襖に抵抗するようにこちらも出力を上げる。

 「…いつっ…。」

 イワレの流れを意識した途端ぴきりとした痛みが体を駆けた。目の前の百鬼へと意識を集中していただけに、不意に襲い掛かったそれに思わず声が漏れる。

 「っ…。」

 すると、それを聞いた百鬼がはっと驚いたような表情を浮かべたかと思えば、ぱっと襖に掛けていた手を放した。

 尚、この時点で俺はまだ襖を閉める方向に力を加えたままである。拮抗していた状態から急に片方の力が無くなり、慣性の法則の赴くがままに襖は閉まる。

 「ああ!?」

 しかしそこで事は終わらなかった。全力を込めていたこともあり、行き場をなくしたその力がただ踏ん張っただけで相殺できる筈もなく。そのまま俺は体ごと壁へと頭から突っ込み、次の瞬間ごっと鈍い音が部屋の中に鳴り響いた。

 「と、透くん、身体大丈夫!?」

 受け身を取ることすらままならずに壁と衝突した額の痛みに呻いていると、再び襖が開く音が聞こえて慌てた様子で百鬼が部屋の中へと入って来る。

 「な、百鬼。そこは身体じゃなくて頭の心配じゃないか…?」

 「え?…透くん、頭大丈夫?」

 どうしても気になってしまい涙に霞む視界で百鬼へと指摘すれば、彼女は一瞬ぽかんとしたかと思うと、素直に受け取りすぎた変換でそう言い直した。

 「いや、俺が悪かった。大丈夫だ。」

 ぐさりと刺さったその言葉に精神的ダメージを負いながら無事を伝える。額はじんじんと痛むが、触ってみた感じ血が流れている訳でも無い。けれど、百鬼は尚も心配そうな表情でこちらを見ている。

 「本当に大丈夫?身体痛くない?」

 「本当に大丈夫だって。…それにしても、何で身体の心配なんだ?」

 先ほどから気になっていたが、妙に百鬼はぶつけた額ではなく身体の方を心配してくる。何か変な所でもあるのかと全身を見回してみるが、特に変わった点は見受けられない。

 「だって透くん、さっき痛がってた。」

 「ん、あぁ、襖で押し問答してた時か。だから百鬼は手を放したんだよな。」

 結果、人間ロケットとして壁に体当たりを敢行する羽目になった。けれどやはりイワレによる身体強化の恩恵は凄まじく、それでも傷一つ負っていない。勿論、普通に痛みはする。

 そんなイワレによる身体強化だが、先ほどは思わず使用しようとしてイワレの流れに意識を向けた途端、全身に痛みが走った。これは今までに経験の無い事だった。

 「まぁ、イワレの制御にでも失敗したんじゃないか?特にここ数日は全然使ってなかったし。」

 最後にイワレを使用したのは、確かキョウノミヤコへケンジの墓参りに行った時だ。その時も簡単な身体強化を使ったのみで、ワザともなるともっと前の事になる。

 原因としてはこの辺りかと挙げるも、しかし百鬼は納得がいかないようで、こちらへ向けられているその瞳を紅く光らせた。

 「…今の透くん、イワレが凄く不安定になってる。」

 「不安定…。」

 今一ピンとこず、改めて自らの身体を見下ろしながら百鬼の言葉を繰り返す。

 彼女の瞳は、本来捉えることの出来ないイワレを捉えることが出来る。故に彼女がそう言うのならそれは事実なのだろう。ただ、実際にそれがどういう状態なのかまでは、俺には分からない。

 「今の俺のイワレが濁ってるとは聞いてたけど、それとはまた違う感じで?」

 「うん、濁るのは質の問題なんだけど、不安定なのはイワレ自体が揺らいでる感じ。余もこんなの初めて見た。」

 そう言う百鬼は尚も心配げな視線をこちらへ向けている。彼女自身長い事イワレを見てきた中で、ここに来て初めて見るイワレの状態に困惑しているのだろう。この辺り、やはりイワレの無いウツシヨ出身である事が影響しているのか、はたまた他に何か要因があるのか判断が付かない。

 「…まぁ、今の所痛む以外に症状を無いし、しばらくは様子見で良いだろ。」

 「うーん、そうだけど…。」

 どちらにせよ対処法も無いのだ、これが落としどころだとそう言えば、百鬼は不満げに唸り声を上げる。普段はのほほんとしている彼女だが、こういう時は意外と心配性な面が見えるようだ。ちょっとした発見に何処か嬉しさを感じつつ、話を纏める様に手を叩く。

 「よし、分かった。そんなに心配なら今日は早めに休むことにするよ。だから百鬼も早く自分の部屋に…。」

 言いながら百鬼の背を押して自然な流れで部屋の外まで誘導しようとするが、彼女はぴたりとその場で立ち止まったまま動かない。

 「…百鬼?」

 思わず呼びかければ、百鬼はぷくりと頬を膨らませてジトリとこちらを見上げる。どうやらこちらの思惑は完全にバレてしまっているようだ。

 「透くん、体よく余の事追い払おうとしてる。」

 「そんな、まさか。」

 そんな彼女の視線から逃れる様に視線をあらぬ方向へと向けるが、視線を逸らしているにも関わらずびしびしと彼女の鋭い視線を感じる。いけると思ったのだが、まだまだ見通しが甘かったらしい。

 「余、今日は絶対透くんと一緒に寝るから。」

 部屋から追い出すどころか、むしろ百鬼の意思をより強固なモノにしただけに終わった。紆余曲折を経て結局は振り出しに戻ってしまい、どうにも徒労感が拭えない。

 「なら、せめて理由だけ教えてくれ。…何でそんなに俺と一緒に寝たがるんだ。」

 「…。」

 まだ答えて貰ってなかったと先の質問を繰り返せば、百鬼は押し黙ってしまう。その様子は何を言おうかを迷っているのではなく、話そうかどうかを迷っているように見えた。

 「…だって透くんと一緒じゃないと、安心して眠れない。」

 やがて、百鬼はしゅんとした表情でそう言葉にする。一瞬そんなことでと考えかけるが、明らかな不安を帯びた彼女の顔を見てすぐに考えを改める。

 「俺と一緒なら、安心して眠れるのか?」

 「うん。」

 確認するよう問いかければ、すぐに百鬼は頷いて見せた。この流れはマズイと自分でも分かっているが、それに抗う術を俺は持ち合わせていない。

 「透くん…。」

 そして懇願するように名を呼んでくる彼女の声に、自分の中の最後の砦が陥落したことを察した。

 「…分かったよ。」

 諦観に息を吐きながら一言伝えれば、百鬼の顔がぱっと明るくなる。その顔が見れただけで満足している自分が居るのだから我ながら安いものだと、半ば自分に呆れながら苦笑を浮かべるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜が更けて、一日が終わりを告げる。それはごく自然な普通の日常とも言えるが、けれど今日に限ってはそう簡単には終わってくれないらしい。

 「透くんと寝るの久しぶりー。」

 緊張から心臓が平時の倍程の速度で早鐘を打つ中、対照的にリラックスして間延びしたそんな百鬼の声が後ろから聞こえてくる。

 あの後、すぐに百鬼は枕を持って来て布団へと潜り込んだ。そうして了承した手前、今更後戻りは出来ないと俺も意を決して百鬼と二人同じ布団で眠る事にしたのだが、しかし想像していた以上に立ちはだかる壁は大きかった。

 「…透くん、何でこっちに背中向けてるの?」

 「いや、別に。何となくだ。」

 不思議そうに問いかけてくる百鬼に何とかそれだけ返す俺は、自分でも驚くほどに彼女の存在を意識してしまっていた。せめてもの抵抗と後ろを向いて彼女を視界から外すも、同じ布団の中、嫌でも彼女の気配は感じ取れる。

 「ふーん…。」

 そんな生返事が返って来たかと思えば、何やら後ろの百鬼がもぞもぞと動き出す。何をしているのかと不思議に思っていると、こつんと背中に触れた感触に思わず瞠目する。

 「あ、凄いドキドキしてる。」

 「おい、百鬼!?」

 先ほどよりも近い、それこそ至近距離で聞こえてくる百鬼の声に慌てて後ろへと視線を向けて布団を捲れば、すぐ目の前でこちらを見上げる彼女の姿が視界に映る。 

 「やっとこっち向いてくれた。」

 「お前な…。」

 違う意味でドキドキする心臓を宥めながら呆れたように言えば、百鬼はくすくすと悪戯な笑みを浮かべる。

 「だって、透くんがずっとあっち向いてるから。」

 「だからってそんなに近くに来なくても良いだろ。あと、地味に角が刺さりそうで怖い。」

 言いながら、顔の前をちらつく二本の角を指さす。百鬼の顔が丁度胸の前あたりにある為、必然的に角が俺の顎を捉えていた。それを指摘すれば、百鬼は視線を上へ向けて自らの角を触る。

 「あ、ごめん、すぐ取り外すね。」

 「え、それ外れるのか?」

 「ううん、嘘。」

 思わず信じ込んで振り返りながら声を上げるも悪びれる様子もなくあっけらかんと言ってのけた百鬼に、つい目の前にある彼女の脳天を小突きたくなる。

 「…。」

 「…ごめんなさい。」

 代わりに無言のままじっと見つめていれば、さしもの百鬼も悪いと思ったのか素直に謝って来た。とはいえそこまで気にするような事でも無いし、百鬼も俺が本気で怒っているとは思っていないだろう。

 「よっ…。」

 百鬼はそんな掛け声を上げると、再びもぞもぞと今度は目線が同じ位置になるように移動する。すると、当然目の前の彼女の端正な顔立ちが視界一杯に映る。

 「こうすれば角は当たらないよ。」

 「…あぁ、そうだな。」

 満足げに言ってくる百鬼にそう答えながら、近すぎる彼女の顔から逃れる様にそっと天井へと視線を向ける。今日は丁度月が出ていなくて良かったと、明かりの無い部屋の中でふと思う。

 「今日の百鬼、なんかテンション高くないか?」

 「えー、そうかな…。」

 どうやら彼女自身自覚は無いようで、俺のその問いかけに百鬼は首を傾げていた。

 「でも、そうかも。余ね、今ちょっと楽しい。」

 そう言って、百鬼ははにかんで見せる。

 「さいですか。もう少し落ち着いてくれても良いんだぞ?」

 「それは無理なご相談ですわよ?」

 百鬼の謎のお嬢様言葉に、深夜テンションからか妙に可笑しく感じてくすくすと二人して笑い合う。ようやく現在の状況に慣れてきたようで、心臓がはち切れそうだった緊張も少しずつ鳴りを潜めて行った。

 「…ね、透くんって尻尾と獣耳が好きなんでしょ?」

 「ん、あぁ、そうだけど。」

 聞いてくる百鬼どころか白上にも既に知られている事だ、今更隠すような事でもないと頷いて肯定する。すると百鬼は「じゃあ…。」とおずおずと口を開き続ける。

 「余の角は、触りたいって思う?」

 「…。」

 そう聞かれて、思わず無言のまま視線を百鬼の額から伸びる角へと移す。綺麗な角だ。これが百鬼だからこう思うのか、ただ純粋な感想なのか定かではないが、少なくとも興味が無いと言えば嘘になる。

 「透くんなら、触っても良いよ?」

 「百鬼…。」

 明かりも乏しく、百鬼の顔色は伺えないが恐らくその頬は今赤く染められているのだろう。本当に良いのだろうか、そう思いつつも興味に突き動かされるように手は彼女の角へと伸び、百鬼はぎゅっとその目を瞑った。

 そして遂に触れるかという所で、けれどやはりと俺は腕を止めた。

 「…いや、やっぱり遠慮しとく。確かに興味はあるけど、百鬼も恥ずかしいだろ。」

 「余はそれでも良いよ?」

 「百鬼に我慢させてまで触ろうとは思わないって。」

 尚も肯定してくれる百鬼にけれど、俺は頑なにそう言うと伸ばした手を引っ込める。恐らく以前までなら厚意に甘えて触らせて貰っていたのだろうが、だが今百鬼の厚意に甘えるのは、どうも彼女の気持ちに付け込んでいるような気がした。

 「…透くんって、変な所で気を遣うよね。」

 「なんだよ、悪いか?」

 ぽつりと呟くように放たれたその言葉に憮然として返せば、百鬼はくすりと小さく笑った。惜しいことをしたとは思っている。けれど、これで良いのだ。

 「ううん、透くんのそういう所も、余は好きだよ。」

 こうして、その後も他愛も無い話を続けながら夜は更けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夢を見た。

 見覚えのある夢だ、辺り一面に咲き誇っている無数の花。そして、その中でひときわの存在感を放つ枯れて萎れてしまった花。それらに既視感を覚えながらも、ふと以前に見た夢とは違う点にも気が付いた。

 何も感じないのだ。以前感じた押しつぶされてしまいそうな寂寥感も、狂ってしまいそうな絶望感も、一切の影も無く、心は平静を保っている。

 そして、もう一つ気が付いた。

 前回とは視点が違う。以前は一人称だった、けれど今はそれを遠くから眺める第三者となっている。俺は花に囲まれていない、囲まれていたのは可憐な鬼の少女だった。

 視線の先の彼女は自分を囲む花を大事そうに抱えていた。大切に、丁寧に、守るようにそれらを抱えて、けれど、花はそんな彼女の意思に反して枯れてしまって。

 枯れた花を抱きしめながら、彼女は泣いていた。花が枯れるたびに、何度も、何度も彼女は泣いて、嘆いて。ただ独り、花を抱え続けていた。

 そんな彼女の姿を見ていられなくて、その場から引きはがそうと手を伸ばすも、その手は届くことは無い。無力な俺は、ただ、泣いている彼女を眺め続ける事しか出来なかった。

 

 

 

  





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