どうも、作者です。
評価、感想、感謝。
個別:百鬼ルート最終話です。
はらはらと桜の花弁が舞い落ちる。
宙に舞うそれらは一枚一枚が踊る小さな妖精の様で、その中心に周りが霞む程可憐な鬼の少女が一人立ち尽くしていた。
想い焦がれたその姿を前にどう言葉を発していいものかと、思わず二の足を踏むも、けれどようやく相まみえたと喜びから笑みが浮んだ。
「なき…」
名を呼びかけようと一歩前へ進んで口を開いた瞬間、目の前の彼女の腕が一瞬ぶれ、それを認識するのと同時に凄まじい音を立てて足先の地面が爆ぜた。
「近づかないで」
聞こえてきた突き放すような百鬼の声にぴたりと足が止まる。そこに親しみは無く、今まで築いた関係性が無かったものであるかのように冷たい声音。
視線を戻せば、振りぬいた刀の切っ先がこちらへ向けられる。
「なんで…来たの」
距離にしてはまだ数十歩分離れているにも関わらず、まるで刀が目の前に突きつけられているのかと思う程の威圧感に思わず体が強張った。
「…お前を、連れ戻しに来た。一緒にシラカミ神社に帰ろう」
それを上塗りするように自らを鼓舞しながら目の前の彼女へ呼びかけるが、百鬼は首を横に振ってそれを拒絶する。
「余はもう、あの場所には帰らない」
言い切る百鬼の表情は前髪の影に隠れて伺えない。けれど顔なんて見えなくとも、彼女がどんな表情を浮かべているかの察しはついていた。
「…それは、俺がただのアヤカシだからか」
神社を出発する前に、神狐から鬼について話を聞いて自分なりに考えた。
悠久の時を過ごすカミに寿命という限界のあるアヤカシ。今までは有耶無耶にしてきたその関係を、その差を、キョウノミヤコで俺が一度死にかけるという最悪の形で浮き彫りにしてしまった。
「…」
「何も答えないって事は、図星なんだな」
白上や大神だけだったのならこうはならなかった。彼女と同じカミ同士、悠久の時を共に過ごすことが出来た。けれど、アヤカシの身ではそうすることが出来ない。
「百鬼、俺は…」
「…っ!」
言いながら彼女へと一歩踏み出せば、百鬼は刀を振り、その軌跡をなぞって俺の横の地面が抉れる。
牽制、警告。これ以上近寄るなという彼女の言外のメッセージに、けれど今度は立ち止まらずに俺は尚も進んだ。
「…止まって」
もう一度百鬼が刀を振り、先ほどとは反対側の地面が抉れる。凄まじい力だ、当たれば恐らくただでは済まない。
だが、この足が止まることは無い。百鬼に当てる気が無いと分かっているから。
「進んでこないで!」
そう荒げられた彼女の声は、こちらに向けられる刀の切っ先と同様に震えていた。
あぁ本当に、彼女はどこまでも…。
「もう、余に関わってこないで!」
どこまでも、優しいのだ。
振り絞るように歯を食いしばって叫ぶ百鬼。そんな彼女に向けてハッキリと否定を口にする。
「断る。どうしても帰らないって言うなら、引っ張ってでもお前を連れて帰る」
例えどれだけ拒絶されようと、その結果百鬼に嫌われたとしてもせめて神社には必ず連れて帰る。もう彼女を独りになどさせはしない。その覚悟を決めて、俺は今ここに立っている。
それを聞いて俺が折れることは無いと判断したのか、チラリと見えた百鬼の瞳に決意の火が灯った。
「なら、もう容赦しないから」
カチャリと百鬼の握る刀が鳴り、彼女の纏う雰囲気に剣呑さが混じる。真っ直ぐとこちらを射抜く瞳を見て、彼女の言う通り、警告は終了したことを理解する。
自然と腰に差す二刀の内の一刀を抜いて構えるのと、目の前の鬼の少女の姿がかき消えるのは同時だった。
次にその姿を捉えた時には肉薄した百鬼が死角に潜り込み刀を振るう一歩手前で、咄嗟にその軌道上に刀を移動させた。
轟音と共に、同じ刀と刀でぶつかり合ったにも関わらず、一方的に吹き飛ばされる。
前方に横の景色が流れる中、地面へ足を突き立てる様にブレーキをかけ何とか静止するが、追い打ちをかけるように百鬼は地を蹴り、再び肉薄してくる。
(仕方ないか…!)
自らのイワレの流れ意識を向けて身体強化を施し、振るわれた刀を受け止める。
「づっ…!?」
今度は先ほどの様に吹き飛ぶことはなかったが、しかし未だ不安定なイワレは肉体を蝕み、身体を駆け巡る激痛に顔が一瞬歪む。
「何で…」
そんな俺の様子を見て、刀を合わせた状態の百鬼が瞠目して呆然と声を上げた。
「何で、そこまでするの?透くんがそこまでする理由なんて、何もないのに…」
震える声でそう口にする百鬼の顔には未だ迷いが浮かんでおり、本当はこんな事したくないという彼女の意思は明白であった。
「理由ならある。それに、俺だって何も考えずにここに来たわけじゃない」
「え…?」
ずっと考えていた。百鬼が白上神社を離れた理由、その解決策を、あの日からずっと。
気が付いてしまえば簡単な事だった。今のままでは同じ時間を生きられないというのなら、同じ時間を生きられるようになれば良い。
「俺は、カミになるよ。例えどれだけ時間がかかったとしても、絶対に。素質についても神狐に確認してある」
神社を出発する前、俺は神狐にカミに至れるか、至るにはどうすれば良いのかを聞いていた。
結論から言ってしまえば、カミに至る事は可能のようだ。それを聞いた時の白上や大神の驚きようも凄まじかったが、比べて俺は之で百鬼と同じ時間を生きることが出来ると、心の底から安堵していた。
「透くんが、カミに…?」
ぽつりと繰り返し、百鬼は驚いたように目を見開く。彼女らの一貫した反応にそれだけこれが異例な事であると実感させられる。
だが異例だろうが何だろうが、それが可能であるのならなんだっていい。
「あぁ、だからもう心配するような事は…」
「ふざけないで!!」
初めて聞いた百鬼のその怒号と共に凄まじい力で刀が振り切られた。その衝撃で合わせていた刀が宙へ舞い、俺も後ろへと飛ばされて彼女との間に再び距離が生まれる。
そうして視界に映った彼女の顔は、今にも泣きだしてしまいそうな程の悲痛に歪んでいた。
「百鬼?」
刀を失いながら思わずといった形で呼びかけるが、百鬼は涙に潤む瞳を鋭くこちらへと向ける。
「余だって気づいてた!透くんが、成ろうと思えばカミに成れることくらい、気づいてた!」
泣き叫ぶように言葉を紡ぐ百鬼に、俺はただ困惑して呆然と彼女を見る事しかできない。そんな俺を置いて、百鬼は言葉を続ける。
「知ってたから、分かってたから、余は神社を離れたの!優しいから、透くんはそうすることを選ぶって、分かってたから…!」
そう話している間にも彼女の瞳には涙があふれていき、遂には雫となって彼女の頬を伝った。
「余だって本当はみんなと一緒に居たい、透くんと一緒に生きてたい!…余はそう願っちゃうの…だから、そうする前に透くんの傍から離れたのに…どうして…!」
嗚咽に吞まれるように百鬼の声はだんだんと擦り切れて、小さく消えていく。そんな彼女の姿に、どうしようもないやるせなさが胸にこみ上げて、思わず歯を食いしばる。
「それで良いだろう!百鬼が望んでくれるのなら、俺はカミだろうと何だろうと…!」
「言えるわけないっ!!」
俺の声に被せる様に百鬼が叫ぶ。
ぽろぽろと涙を零し続ける彼女は、独り路頭に迷う幼子の様な痛ましさに満ちていた。
「…今まで余は何人も見送ってきた、何回も置いて行かれてきた」
静寂の中ぽつりぽつりと零すように独白する百鬼は、今まで見たことが無い程に弱々しく見える。
「ずっとずっと苦しかった、辛かった…!何度も逃げ出したいって思っても逃げ出せなくて、どれだけ終わりたいって思っても終われない。こんな苦しみが、これからもずっと続いてる…、なのに…!」
語気を強めると百鬼はそこで言葉を区切るが、尚も必死に言葉を紡ぐ。
「同じように苦しめだなんて、言えるわけない…!」
これは彼女が誰にも見せてこなかった、心の奥底に秘め続けてきた弱音だ。どうしようもないものとして諦めて、ただ受け入れる事しか出来なかった現実だ。
こんな時にまであくまで他人の心配をする彼女が、そのせいで余計に苦しみを背負って来た事は想像に難くない。自らが傷つくと分かったうえで、彼女は手を差し伸べてしまう。
何処までも残酷な現実に怒りすら覚える、それ以上に気が付くことが出来なかった自分にふがいなさを感じた。
「だから、余は帰らない。透くんまで同じ目に合うなんて、絶対に許せない!」
「それは違う、百鬼、聞いてくれ…!」
必死に呼びかけるも、しかし、その瞳に決意を固めた百鬼は聞く耳を持たない。力を籠め刀を握り直す彼女の瞳には再び紅の輝き灯る。
「シキガミ降霊『百鬼』!!」
百鬼がそう唱えた瞬間、彼女から凄まじい威圧感が熱波と共に襲い掛かって来る。
同時に彼女の背に顕現した紅と藍の焔は瞬時に融合、膨張し、やがて二刀を携えた巨大な美しい鬼の姿を形どった。それが放つ重圧はまさに圧倒的という他無く、ただ立っているだけで膝が笑いそうになる程だった。
これが正真正銘、百鬼の全力。なる程、彼女が先ほどまでどれだけ力を抑えていたのかがハッキリと理解できるというものだ。
「透くんは余に絶対勝てない、だから早く逃げてよ」
懇願するかのように言ってくる百鬼。
彼女の一挙手一投足で、吹き飛んでしまいそうな程の威圧感を感じる。腰に差すもう一刀へと手を伸ばそうにも、身体が硬直して動かない。
(くそっ…頼むから、動いてくれよ)
心の内で悪態をつきながら懸命に腕に力を込めようと、意思に反して腕はピクリとも反応しない。ここで動かなければ、恐らく百鬼とは二度と会うことが出来なくなるにも拘らずこの体たらくだ。そんな自分自身に絶望しかけたその時だった。
『にぃちゃん、頑張れ!』
とんと背中に軽い衝撃を感じたかと思えば、そんな意思が頭の中に流れ込んでくる。途端に動くようになった体で後ろへと振り返ればちゅん助が滞空していて、こちらへ向けられるそのつぶらな瞳に浮かぶ意思に一瞬目を見開き、思わず小さく笑みが浮かぶ。
(…あぁ、分かってる。ありがとう)
心の中で呟くと、百鬼に向き直りつつ腰に差す自らの刀を抜き、構える。
「悪い、待たせた」
「…怪我しても知らないからね」
最後通告も終わり、互いに刀を向け合う。今なお感じる威圧感は、けれどもう体を硬直させるような事はしない。
桜の舞い散る中、どちらからともなく地を蹴った。互いに迫りながら、その手に持つ一刀を振りかぶる。
(この一合だけ、もってくれよ…)
念じながら自らの身体に『鬼纏い』で更に身体強化を施す。飛躍的に上昇した身体能力を百鬼もその目で捉えたのか軽く目を見開く。まさか無理の利かない体でここまでするとは思わなかったようで、彼女の顔には明らかな動揺が浮かんでいた。
そして遂に三度目の肉薄。ここまでくればもう止められない。
上段から振り下ろされた刀がぶつかり合い、無数の火花が散る。轟音が空気を揺らす最中、けれど互いの刀はその中心で静止して、つばぜり合いへと持ち込むことに成功する。
まるで初邂逅の際の焼き直しのようだ。にやりと笑って見せれば、百鬼もこちらの意図に気づきはっとした表情を浮かべる。
だがここまでくればこちらのモノだ。百鬼が距離を取る暇もなく、刀の能力を開放する呪文を唱える。
「エンチャント!!」
注ぎ込まれたイワレの量に応じて閃光を発するこの刀の真価を、百鬼は以前に一度目前で食らっていた。
「っ!!」
唱えた瞬間、百鬼は咄嗟に閃光を避けようとその目を瞑った。
「…そりゃ、目を瞑るよな。」
しかし、刀が閃光を発することは無い。イワレの制御は全て『鬼纏い』に回している。刀に回す余裕など最初から有りはしない。
そうして生まれた隙を逃さず、彼女の意識の逸れた刀を絡めとり全力を込めて上空へと巻き上げる。百鬼の手から刀が離れると同時に音を立てて自らの刀が折れるが、俺はそれに構わず残った柄を放り投げた。
「あやめっ…!!」
必死に名を呼び、何が起こったのかと目を丸くする彼女を思い切り抱き寄せる。
一時は呆然と為すがままになっていた彼女だが、けれどすぐに意識を取り戻したのか抜け出そうと体に力が籠められる。
「離して…!」
「離さない、絶対に…!」
刀も持たずその身一つの二人。必死に彼女を抱き留めているが先ほどの鬼纏いの影響で全身を痛みが苛み、抜け出すことは可能であったがそうはならず、やがてあやめは諦めたように脱力した。
「…透くんずるい、ずるい…」
「悪い、あれしか方法が無かったんだ」
そう罵って来る百鬼の声には嗚咽が混じっていた。
正攻法で敵わないのだから仕方がない、このくらいの罵倒は受け入れて然るべきだ。
「聞いてくれ、あやめ。さっきの話、同じなんかじゃないんだ」
「なんで…カミに成ったら余と同じで、絶対苦しむことになる…」
「あぁ、確かに苦しいだろうな。俺の想像を軽く超えるくらい」
その言葉に偽りはない。世界に取り残される事がどれ程の事なのか、想像することしか出来ない。けれど、一つだけ言えることがあった。
「でも、俺にはあやめが居てくれるだろ。あやめが居てくれれば俺はどんなに辛くても、苦しくてもちゃんと向き合える。乗り越えられる。」
一人では耐えられなくても、二人なら分かち合える。寄り添い合って互いを支えることが出来る。
「だからお願いだ、あやめ。これから先もずっと、俺をお前の傍に居させてくれ」
「…っ!」
心の底から懇願すると、あやめが息を呑む音が聞こえた。
言ってしまったという後悔も有れば、言ってやったという達成感もある複雑な心地を抱えつつ、百鬼の返事を待つ。
「…透くん、ずるい」
「さっきも聞いたな、それ」
繰り返される罵倒に思わず苦笑いが浮かんだ。ずるくたって良い。彼女と一緒に居られるのならどんな泥でも喜んで被って見せよう。
「…きっと、辛い事いっぱいあるよ」
「あぁ、その分楽しい事だってあるさ」
「余の嫌な所、一杯見つかるかも」
「なら、良い所をそれ以上に見つける」
「余、たくさん悪戯する」
「あやめの悪戯ならどんとこい」
「透くん、М?」
「そこは否定しとく」
ぽつりぽつりと言葉を交わし続ける。不安なんて感じさせないくらい、それ以上の肯定を返し続けた。やがて、段々と嗚咽で言葉が途切れ途切れになって、あやめは強く胸に額を押し付けてくる。
「じゃあ…余と一緒に、ずっと、余と一緒に居てくれる…?」
「あぁ、一緒に居る。俺が、あやめと一緒に居たいんだ」
それを皮切りに、堰を切ったようにあやめは涙を流した。
長年の孤独で積もったそれはちょっとやそっとでは枯れることは無く、暫くそうして二人寄り添い合う俺達の姿を、舞い散る桜吹雪が覆い隠した。
シラカミ神社へと向かい鬼の集落を百鬼と二人で後にしてから四日が経過した。現在はシラカミ神社へと続く道を百鬼と共に歩いている。
当初は百鬼のシキガミで移動しようという話も出たのだが、どうせならと揃って歩いて帰る事になったのだ。
チラリと隣へと目を向ければ、百鬼がにこりと笑みを返してくれる。それだけの事実がどうしようもなく嬉しかった。
「透くん、身体大丈夫?」
「大丈夫、と言っても百鬼の刀ありきなんだけどな」
一転して気遣い気に聞いてくる百鬼に力強く答えたいところではあるのだが、彼女の刀無しでは恐らく集落から後一週間は出られなかった為、どうにも決まらない。
けれど、百鬼は気にならないようであからさまにほっと息を付く。
「なら、良かった。…それよりなんだけど」
「ん?」
他に気になる事でもあっただろうかと首を傾げれば、百鬼は不服そうにこちらを見上げる。
「余の事、百鬼って呼んでる」
そう指摘されて、ぽかんと自らの発言を振り返れば、確かに百鬼に戻っていた。
「え?…あ、悪い、あやめ。」
呼び方を戻すと、あやめは見るからに上機嫌になって満足そうに頷いた。
それからもしばらく雑談をしながらのんびりと歩いていれば、見慣れた山々が見えてくる。それはシラカミ神社の周辺までたどり着いた証拠であった。
ここまで来るとようやく返って来たという実感も湧いてくるもので、この道を二人で歩けることに感慨深さすら覚える。
「帰って来たなー…」
「うん…ミオちゃんとフブキちゃん、怒ってないかな…」
そう言うあやめは少し顔を青くさせている。どうやら勝手に神社を離れた事を気にしているようだ。
「ま、二人とも心配してたしその辺りでなら怒られるだろうな。とはいえ喜ぶのも間違いないだろ。」
「うぅ、怒られる…」
しゅんと意気消沈しているあやめの味方をしたいところだが、流石にこればかりはあの二人も言いたいことはあるだろうし、そちらを尊重するべきなのだろう。
「…ね、透くん」
ぼーっと、そんな事を考えながら二人の反応を想像していると、不意にあやめに呼びかけられて隣を向く。
「透くんは、余のこと好き?」
「…それ、答えないと駄目か?」
何の脈絡も無いその問いに思わず後回しが出来ないか確認するも、じっとこちらを見つめるあやめの真剣な目を見ればそれが不可能な事を理解する。
思えば直接伝えた事も無かった、いざ口にするとなるとどうにも緊張する。
「あー…大好きだよ。」
「ん…余も透くんの事大好き」
改めて想いを伝えあい、互いに顔を赤く染める。想いを伝えられるのは嬉しいが、流石に互いにとなるとどうも照れが出る。
「何で今聞くんだ?」
特有の気恥ずかしさを誤魔化すように理由を問うてみる。そんな意識するような話題でも無かったはずなのだが、何故なのだろう。
すると百鬼はこちらを流し見つつ口を開いた。
「だって神社に帰ったらフブキちゃんとミオちゃんも居るし…透くん尻尾に弱いから…」
「…待て、俺が浮気すると思ってるのか。そんな事しないって」
予想の斜め上を行く理由に思わず否定する。
互いに一緒に生きると決めてから四日と経過していないのにそんな事するはずが無いし、そもそも俺にそんなつもりが無い。
しかしあやめはそうは思わないようで、悩む様に考え込んでいる。
「んー…あの二人だったら別に良いけど…、…余の事捨てないでね」
「捨てない捨てない、浮気もしない。俺はあやめ一筋だ」
「えへへ、なら良かった。」
笑って言うあやめに、こちらもどっと安堵して息を付く。まさか神社に帰る前からこんな話が出てくるとは夢にも思わなかった。
「…っと、そろそろ神社の下だな。」
気が付けばシラカミ神社のある山の麓まで来ていた。ここまで来れば慣れたもので、上へと続く道へ足を踏み出そうとしたその時だった。
「透さーん、あやめちゃーん!」
「透くん、あやめー!」
上の方からこちらへ手を振りながら駆け下りてくる白上と大神の姿が遠目に見える。どうやら迎えにわざわざ降りて来てくれたようだ。
あの二人の姿を見ると、一気に日常感が戻ってくるのだから不思議なものだ。
「帰って来たって感じだな…」
「うん…、透くん、これ見てみて?」
「ん?」
何を見ろと言うのか、疑問に思いつつあやめの方へ顔を向けるのと同時にあやめの顔が近づき唇に柔らかい感触を覚える。
「…は?」
「「あー!?」」
素っ頓狂な声を上げると、上の方からも二人分のそんな悲鳴が聞こえてくる。今何が起こったのか把握して、自らの顔に熱が籠るのが分かった。
「あやめ…?」
呆然としつつ呼びかければ、あやめはその顔に悪戯な笑みを咲かせた。
「もう絶対に離さないから、覚悟してよね!」
三つ目の想いが、色づいた。
という訳で、百鬼ルート終了でございます。
これで個別は白上、大神、百鬼と一通り終了という事で、達成感が凄い。
ここまでご愛読いただいた皆様、誠にありがとうございました。
これからひと月ほどは共通ルートの加筆修正をしつつ、次の話をまとめる予定。2023年の五月初旬までには投稿します。
気に入ってくれた人は、シーユーネクストタイム。