【完結】色づく想ひ    作:ワンダーS

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True:Another 4

 

 がやがやとした喧噪が辺りを埋め尽くしている。

 街のいたるところに張り巡らされた大きな通りの端では様々な露店が出展されていて、その通りを行きかう人々は各々が目的をもって行動しているにも関わらず、しかしその中で俺は一人目的も無くぽつんと立ち尽くしていた。

 辺りに見覚えのある白の獣耳も黒の獣耳は見えず、それと同時に自分が現在どこに居るのか皆目見当がつかない。これが意味するところはつまり、彼女らと完全にはぐれてしまったという事だ。

 「…そんな、二日続けて迷わなくてもいいだろ…」

 迷子である。紛れもなく、言い訳のしようのない迷子である。

 逃れられない現実を前に思わずぽつりとため息交じりに声を漏らす。こうなった経緯として、数刻ほど前に時間は遡る。

 

 

 

 

 「透さん、こちらがヤマトで最大の規模を誇る都市キョウノミヤコです!」

 麒麟が着陸して荷台から降りた後、開口一番に元気溌剌といった様子で言うのは白上さんだった。彼女の手の指す先にはぐるりと壁で覆われた傍目から見ても大きな都市がある。

 都市相応の規模の入り口には多くの人々が中へ入っていき、同じだけの人々が出て来ていてこの都市が栄えている事は一目瞭然であった。

 「…白上さん、何でそんなにテンションが高いんですか?」

 しかし、それ以上に今気になるのは目の前の少女のその高揚ぶりであった。目を爛々と輝かせる彼女は今にも飛び出していってしまいそうで、このキョウノミヤコに向かっている最中も近づくにつれて見るからにウキウキとしていた。

 「それはもう、ここには様々な屋台が揃っていますから。白上の夢はこのキョウノミヤコの屋台を一日の内に全制覇する事なんですよ!」

 テンションもそのままに尻尾をぶんぶんと震わせる白上さんに、さしもの大神さんも薄く苦笑いを浮かべていた。

 「あはは、ミヤコはフブキのお気に入りだからね。ウチも一緒に来ることは有るけど、基本的にいつもこんな感じだよ」

 「へぇ…でも、確かに良い所みたいですね」

 話しながらふと辺りへと視線を向ける。先程からすれ違う人々は誰もその顔に笑みを浮かべていて、それだけでもここがどんな場所なのか分かるというものだ。

 「あ、透さん。今日は案内優先ですけど、今度透さんが良ければ一緒に屋台巡りをしてみませんか?」

 と、不意に白上さんに誘い掛けられて思わず瞠目する。

 「え、俺もですか」

 「はい!色んな地域から人が集まって露店を開いてるので色んな料理がありますし、きっと楽しいですよ?」

 大きく頷いて手を取りながら白上さんは言ってくるが、しかしそんな彼女には心苦しさを感じつつも、俺は首を横に振った。

 「お誘いはありがたいんですけど、俺は今無一文なので…」

 恐らく大都市の露店という事も有りそれなりに値の張るものも多いだろうし、そもそもカクリヨに迷い込んだ際には何も荷物を持っていなかった為現在の所持金はゼロである。

 それを手短に伝えたのだが、それを聞いた白上さんはキョトンと目を丸くした。

 「無一文…あ、お金を持ってないって事ですか?」

 「え?あぁ、はい」

 確認するように問いかけてくる白上さんに、まさかそんな反応が返って来るとは思っておらず面食らいながら首肯する。

 すると、白上さんは「なんだ、そういう事ですか」とあっけらかんと答えるとほっと息を吐いた。

 「お金の事なら心配しなくても大丈夫ですよ。ウツシヨでは必要かもしれませんけど、カクリヨの特にこのヤマトではお金は必要ありませんから」

 「必要無いって…じゃあ、カクリヨの人達はどうやって生活を?」

 続けられた言葉にそう質問を投げかければ、説明を引き継ぐように今度は大神さんが口を開いた。

 「カクリヨだと基本的に対価は請求しなくて、みんなそれぞれの助け合いってことでその辺りは成立してるの。だからお金は必要にないってこと」

 「まぁ、助け合いと言っても各々がやりたい事をやってるだけなので、そこまで気にする必要もないんですけどね」

 「…」

 二人から説明を受けて思わず言葉を失ってしまった。そしてそれと同時に目の前の彼女らの人の良さ、その一端にはこのカクリヨという世界そのものの特色が少なからず関与しているのだと納得に似た感情を抱いた。

 「それで、どうですか?勿論透さんが白上と一緒は嫌だと仰るようでしたら、白上も仕方ないと泣く泣く諦めますけど…」

 「その言い方はずるくないですかね…。…機会があれば」

 ぺたりと耳を垂れさせながらしゅんとした表情で行ってくる彼女を拒むことなど出来ずに折れれば打って変わってぱっと白上さんの表情が明るくなる。

 「本当ですか!いやー、楽しみが増えちゃいましたね」

 「もう…透君、あんまりフブキの事甘やかさないようにね?」 

 白々しい様子で言ってのける白上さんに呆れたように息を吐いた大神さんからそう釘を刺され、曖昧な笑みを浮かべる。

 とはいえ今のはどう抗っても断れる気がしないし、白上さんもそれを分かった上での行動だろう。

 「さて、それではそろそろ今日の本題に…」

 話もひと段落したところで白上さんがそう切り出すと同時、キョウノミヤコの方から急に大きな歓声が響いてきて三人揃って視線をそちらへ向ける。

 壁に遮られて中の様子は見えないが、何やら盛り上がっているらしい。 

 「…本当に賑わってる都市なんですね」

 「流石にここまで盛り上がってるのは珍しいかも…、何かあったのかな」

 「取り合えず見に行ってみましょうか」

 入り口付近という事も有り、一旦歓声の出所へと向かってみることに決まる。大きな入り口を通り、キョウノミヤコへ足を踏み入れてみれば、少し先にある大きな広場に人だかりが出来ているのが見えてきた。かなりの人数がいるようで、広場に留まらず通りの方にまで人手埋め尽くされている。

 『皆さまこの素敵な夫婦に今一度大きな拍手と歓声を!!』

 人混みの傍まで近づいて行くと徐々にそんな声が聞こえて来て、呼応するように再び盛大な拍手と歓声が上がる。それを見て、白上さんと大神さんは納得したように声を上げた。

 「あー、あれは多分結婚式だよ。ほら、見えづらいけどあっちの方に花婿さんと花嫁さんがいる」

 「花嫁さんの衣装、綺麗ですね…、やっぱり一度は憧れちゃいます」

 そう口々に言う二人だが、しかしこちらからはそれらしい姿は見当たらない。周りを見るにどうやらかなり奥の方に居るらしく、視力は悪くない筈が、到底肉眼で見える距離にはいない様だった。

 にも関わらず何故周囲の人々は見えるのだろうと不思議に思いつつ、何とか見えないものかとふらりと空いているスペースへと横に移動する。

 「透君、そっちは…!」

 『それでは皆様、新たな夫婦のご退場です!中央を開けて二人の新たな門出を祝う道の用意をお願いします!』

 同時に大神さんが何やら声を上げるが、それをかき消すようにアナウンスの声が響いてくる。すると、丁度白上さんと大神さんのいる辺りと俺のいる位置の中央を分かつように人が流れ始めた。

 膨大な人の流れにあらがうことも出来ずにそのまま二人との距離はどんどん離れて行き、やがて俺達は通りの左右へと完全に分断されてしまった。

 こうなった以上、あの新郎新婦が通りすぎるまで合流は出来ないだろう。そう思いそのまま周りに合わせてその時を待つも、けれど事はそれで終わりはしなかった。

 新郎新婦が通り過ぎた後、解散の雰囲気となるも別れた二つに人混みはしかし合流することは無く、左右そのままでその場から離れる様に移動を開始してしまった。

 「透さーん!」

 「透君!」

 微かに聞こえてきた二人の声に振り返れば、離れた人混みの中に白と黒の獣耳が見える。しかし彼女らも同様に人込みに流されているようで、どんどんと互いの距離は離れて行き、やがて完全に見えなくなった。

 

 

 

 

 

 そうして現在に至る。

 あれから何とか少しずつ散ってい行った人の流れからは抜け出せたが、かなりの距離を移動してしまい周りを見る余裕も無かったため何処をどう通って来たのかは見当もつかない。

 (しかし本当に困ったな…)

 あの二人も逆方向に移動してしまって俺を追って来る事は出来ないだろうし、かといって俺も元居た場所に戻る事も出来ない。

 これはいわゆる詰みという奴だろうか。

 他人事のように考えながら、どさりと道の端においてあるベンチへと腰掛ける。

 「「はぁ…」」

 そうして吐いたため息は重なって聞こえた。いや、実際に重なったのだ。一つは俺のため息、そしてもう一つは隣に離れて座る先客のモノ。

 ふと隣へと目を向けて見れば、丁度こちらへ向けられた紅の瞳と視線が交差した。

 その瞳の主は可憐な少女だった。幼さの残る端正な顔立ちに側頭部には鬼のお面を付けていて、何よりその額には二本の角が生えている。

 「…鬼?」

 思わず連想した単語を呟けば、赤を基調とした和服を身に纏う彼女はぱちくりと目を瞬かせた。

 「今、余の事…」

 「あ、すみません。いきなり失礼しました。」

 呆然と口にする少女に、初対面の見ず知らずの相手に言うことでは無かったと慌てて謝罪する。だが、彼女はそれを聞く様子も無く、ぐいとこちらに身を乗り出してくる。 

 「もしかして、鬼の事知ってる?余の事見て驚かないの?」

 「え?いや知ってるって、伝承くらいですけど…」

 続けざまに聞いてくる彼女にそう答えれば、あからさまに少女はしゅんとした様子で「そっか…」と呟く。何やら訳ありなようで、落ち込む彼女は何処か寂し気に見えた。

 しかしすぐに少女は頭を振り、切り替える様にぱちんと両頬を叩いた。

 「余の方こそいきなりごめん、ちょっと気になっちゃって。…初めて見る格好だけど、何処のヒト?」 

 すると少女は物珍しいも物を見る様にジッと俺の着ている服を見て問いかけてくる。確かにウツシヨの服装とカクリヨの服装とでは和服と洋服で差が目立ちやすい。

 「あぁ、俺は…」

 自分がウツシヨからカクリヨに迷い込んだことを少女へ手短に説明する。

 「え、ウツシヨから来たの!?」

 ウツシヨの存在がどれ程浸透しているのかは考えていなかったが、どうやら少女は知っていたようで驚愕に声を上げた。

 「へー…、じゃあ今は何処で生活してるの?この街で暮らしてる?」

 「いえ、今は丁度遭遇したカクリヨの異変?を調査してる二人の所にお世話になってます」

 「カクリヨの異変って…それ、余も一緒!余も調査してる!」

 思わぬ話題に食いつかれて今度はこちらが驚愕に瞠目する。

 「調査してるって、本当ですか?」

 「うん、その手掛かりを探しに余はキョウノミヤコに来たの!来てみて良かった…」

 まさかこんな所で同士に合えるとは夢にも思っていなかったらしく、彼女は心の底から嬉しそうに笑みを浮かべている。

 「それで、その人たちは何処にいるの?」

 「あー…それは…」

 きょろきょろと辺りを見渡しながら聞いてくる少女にけれど俺は言葉を詰まらせる。なにせ、その二人とはつい先ほどはぐれてしまったばかりだ。何処に居るのかなどこちらの方が知りたい。

 「実は道に迷ってしまいまして、二人の場所は分からないんです。せめて元居た入り口辺りに戻れば合流できると思うんですけど、良ければ案内をお願いできませんか」

 こうして目の前のと巡り合うことが出来たのは不幸中の幸いだった。これで訳も分からず動き回らずに済む。

 しかし、想定外にも少女は首を横に振った。

 「そうなんだ…それならちょっと無理かも…」

 「え?どうして…」

 そんな彼女へとつい聞き返すが、この時点で既に嫌な予感はしていた。そしてその予感は続けられた少女の言葉で確信へと変えられた。

 「だって、余も迷子だし」

 迷子だし…迷子だ…迷子…。

 彼女の言葉が脳内でぐるぐると繰り返される。

 「すみません、今何と…」

 「余も迷子」

 聞き間違いではないのだろうかと、そんな一縷の望みに掛けて問い返すが、少女はのほほんとした笑みを浮かべてハッキリと現実を叩きつけてくる。

 「…ははは、奇遇ですね、俺も迷子なんですよ」

 「うん、余も。お揃いだね」 

 彼女も迷子、俺も迷子。暫くそうして少女と気の抜けた笑い声を響かせ合う。周囲からは奇異の視線が送られるが、今はさしてそれも気にならなかった。

 そうして、気のすむまで笑い合ってから続けて大きく息を吐きだす。

 「…どうしましょうか」

 「どうしよっか」

 結果的に言ってしまえば迷子が二人に増えた。状況は何も変わっていない、いやむしろ悪化しているまである。

 口々に言い合った俺達は揃って空を見上げる。雲一つない快晴だが、今は無性に嘲笑されている気がしてならなかった。

 

 

 

 

 

 

 透と鬼の少女が空を空を見上げている頃、逆側へと流されていった二人は同じくベンチへと腰掛けていた。

 「ミオー、大丈夫ですかー?」

 「駄目かも…」

 顔を青ざめさせるミオの背中をフブキは優しく摩りながら声を掛ける。

 透と同様に人波に流された彼女らだが、一つ違いがあったとすればその移動距離である。距離にしては透の倍程の距離を人込みに流された二人、特にミオはあまりのヒトの量と割と三半規管を狂わされてしまったことにより完全にダウンしてしまっていた。

 「透さんも行方知れずになってしまいましたし、早く探しに行かないとですね…」

 「うん、そうだね…フブキはどうして平気なの…」

 「それはもう鍛えてますから」

 同じ経験をした筈なのに、打って変わってけろりとしているフブキへとミオは若干恨みがまし視線を送る。ミオの脳内には「鍛えてるって何…」と浮かんでいるのだが、それを口に出す余裕は残念ながら今の彼女には無かった。 

 「とはいえ、今はミオの介抱が優先ですからね。何か飲み物でも貰ってきましょうか?」

 「お願い…」

 ミオの答えを聞いたフブキは立ち上がり、近くの屋台へと足を向ける。

 「すみませーん、これを二つお願いします!」

 「はいよっ!」

 フブキが声を掛けると元気の良い返事と共に、さほど時間も掛からずに二つのカップが手渡される。その出来にフブキは目を輝かせながらミオの下へとるんるんと戻っていった。

 「ミオー飲み物ですよー」

 「ありが…、なにこれ?」

 聞こえてきたフブキの声に助かったと顔を上げるミオだったが、すぐにその表情は怪訝なモノへと変えられた。

 「さあ?けど冷たくて美味しそうだったので。しかも抹茶ですよ、抹茶!」

 「美味しそうなのは分かるけど…、これ生クリームが…」

 フブキが両手にそれぞれ持つカップには、これでもかという程の生クリームが空へ向かって渦を巻いていた。

 飲み物を所望したはずが、これは確実に飲み物に分類されない。これを今から攻略するのかと、ミオは顔を引きつらせた。

 「まぁまぁ、甘いものは三半規管の酔いに良いと聞きますし。ささ、ぐいっと」

 「…そうだね。ありがとう、いただきます」

 そう言ってフブキから手渡されたカップを礼を言って受け取り、ミオは覚悟を決めて同時に受け取ったスプーンを構えた。

 確かに、この系統の酔いに甘いものは効果的だ。それによって血糖値が上がり症状を抑えることが出来るが、ただしそれは甘いものを接種できればの話である。

 「…あ、やっぱり無理かも…」

 「え、ミオ?ミオー!?」

 丁度限界を迎えた黒い狼の少女はそっとカップを横に置き、白い狐の少女の猫の様な悲鳴がキョウノミヤコの空に響き渡った。

 

 

 

 

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