【完結】色づく想ひ    作:ワンダーS

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True:Another 7

 

 「透さん、ゲームしたこと無いんですか?」

 キョトンとした顔で言うのは隣に座る白上さんだ。目の前にある大きめのモニターには厳格そうなキャラクターが次々に移り変わるタイトル画面が映し出されていて、モニターの前にはいくつかのゲームのソフトが積み重なっている。

 二人でゲームでもしようと誘われ、俺は白上さんの部屋へと赴いていた。

 「はい、コントローラーを持ったことも無いですね」

 握りなれない感触に新鮮さを覚える。街中で偶に見かけることはあったが、実際にプレイすると言うのは無かった。

 「はへー、そうだったんですか。なら対戦系のゲームよりは協力系のゲームの方が良さそうですね。透さん、少し前を失礼します」

 それを聞いた白上さんは驚いたように目を丸くしつつ、断りを入れてから身を乗り出してゲーム機のカセットを別のモノへと交換する。すると画面が切り替わり、先ほどとは異なってコミカルなキャラクター達の平和なタイトル画面が映し出された。

 「これでしたら多分初心者の方でも楽しめると思いますよ。白上も最近は一人でゲームばかりしてたので丁度良かったです」

 「一人でって、大神さんとは?」

 見た限り二人の仲は良好に見えた。二人で一緒にゲームをしていてもおかしくはないのにと不思議に思い問いかけてみれば、白上さんは明らかに言いづらそうに口を開く。

 「ミオとは…、ちょっと諸事情で一緒にゲームするのを控えてまして…」

 「…なる程、諸事情ですか」

 ぼかした言い方。彼女にとってあまり突っ込まれたくはない話題なのだろう。そこまで気になると言う訳でも無いため踏み込むことも、無く目の前の画面へと目を向ける。

 「…それで、これはどうやって操作を?」

 「ボタン配置はですね…」

 軽く操作方法とゲーム性を教えて貰う。思っていたよりも割と単純なようですぐに覚えることが出来た。

 「それでは、始めますね」

 それから白上さんの操作で遂にタイトル画面から先へと進んだ。いくつかの選択画面を経てから、ムービーが流れてゲームがスタートする。

 立体的に動くキャラクター。試しに先ほど教えて貰ったジャンプボタンを押してみれば、ぴょんと割り当てられたキャラクターがその場で跳ねる。今までゲームをしてこなかった為か、ただジャンプをしただけでも感動にも似た感情が仄かに胸に灯った。

 「さてと、それでは進んでみましょうか」

 「分かりました」

 一通り動いてみた後、白上さんの操作するキャラに続く形で俺達は移動を開始した。序盤という事も有り、そこまで詰まる要素も無く順当に先へと進んで行く。

 「あ、敵が出てきましたね。透さん、そのスコップで応戦を」

 「スコップで…、…結構思い切り行きますね」

 ぐちゃりという効果音も相まってファンシーな見た目には似合わない光景が画面に映し出された。予想外の事態に驚きながらもゲームは進んで行く。

 そうしてどれだけ時間が経過しただろうか、続けていく内に徐々に操作にも慣れて来て、それにつれて白上さんと会話をする余裕も出来てきた。

 「透さん、シラカミ神社での生活にはもう慣れましたか?」

 ピコピコとコントローラーを動かして画面へと目を向けたままで白上さんが問いかけてくる。

 「…もしかして、それを聞くためにゲームを?」

 「いえいえ、本命は勿論ゲームですよ。あくまでこの質問はついでです」

 急にゲームをしようと言ったのはその為かと同じように画面に目を向けたまま問い返すも、しかし白上さんはくすくすと笑いながらそれを否定した。

 「…それで、どうですか?」

 その言葉と共にチラリと今度は白上さんの視線がこちらへ向けられ、思わず言葉に迷う。

 このカクリヨという世界に迷い込んで、シラカミ神社に居候することになってから早三日。これまでの日々を思い返してみて、言葉で表すとするならば。

 「いえ、未知との遭遇ばかりで驚いてばかりです。色々と常識が塗り替えられてる感じで」

 「あー、まぁそうなりますよね。自分で言うのもなんですけど、白上達はカクリヨでも割と異質な存在ですし…」

 予想はしていたようで、白上さんは苦笑いを浮かべながら頬をかく。白上さんの言葉に、つい先日のキョウノミヤコでの出来事を思い返す。

 人に抱えられて街中を飛び回った。百鬼さんは軽々とこなしていたが、他に同じような移動手段を取る住民は一人も居なかったのを覚えている。それだけでも百鬼さんが並々ならぬ存在であることは想像できた。

 そして白上さんの言い方的に、彼女と大神さんも百鬼さんと同様だととらえても良いのだろう。

 どうやら知らず知らずの内にカクリヨでも大分尖った状況の中に身を置いていたようだ。

 「けど…、嫌じゃない。不思議だけど、振り回されてるようなこの状況を迷惑だとは思わないです」

 自分でも良く分かっていないが、少なくともこれは諦観からくるものでは無かった。

 「そうですか…。なら、良かったです」

 俺の答えを聞いた白上さんは何処か安堵したように優しく微笑みを浮かべた。そんな彼女を見て思わず手が止まった。

 彼女は出会った当初から何かとこうして気遣ってくれている。先の質問もそうだ、俺が異なる環境に適応できているか確認を取ったのだ。

 『ウチは、フブキのそういう所が好き』

 不意に先日聞いた大神さんの言葉が脳裏に浮かんだ。勿論大神さんの言ったものとは意味合いは異なるだろうが、けれどその言葉に今はどうしようもない程に共感してしまっていた。

 (白上さんは、こういう人なのか)

 周囲から愛されるのにはちゃんと理由があった。無条件という訳ではない、先に彼女が与えていた。そんな彼女の人柄に誰しも惹かれてしまうのだ。

 「透さん?」

 黙り込んだ俺を不思議に思ったのか白上さんが首を傾げて声を掛けてくる。

 (…待て、それなら俺は…)

 隣の彼女と視線が交差した瞬間、頭の奥で何かに気づきかけた。ぼんやりとしたそれが徐々に輪郭を伴い、やがて鮮明な言葉として形を成すその直前、唐突に部屋の入り口が開き、思考が中断されて霧散していった。

 「フブキー、居る?…って、透君も一緒に居た」

 「二人で何してるの?」

 聞こえてきた声に振り返れば、先ほどまで居間に居た筈の大神さんと百鬼さんが揃って入り口に立っていた。

 「ミオにあやめちゃん、白上達は一緒にゲームをしてたんですよ」

 「…お菓子を食べながら?」

 ほらっとモニタを指し示しながら説明する白上さんだったが、チラリと手元にある開けられたお菓子の袋を見つけた大神さんの言葉に、ぴしりとその身体を硬直させた。

 そう言えば、お菓子の件は大神さんには秘密だったか。大神さんの顔に浮かぶ笑みは変わらない筈なのに、妙な迫力を覚える。

 「あ、ずるい!ね、余にも一つ頂戴?」

 すると、そんな声と共に百鬼さんが大神さんの横を抜けて駆け寄って来る。

 「あやめちゃん…、勿論、良いですよ!」

 呆然と百鬼さんを見ると、白上さんは閃いたようにきらりと目を光らせて嬉々として百鬼さんを招き菓子を差し出してから、大神さんへと勝ち誇った様な笑みを向けた。

 「ありがとうフブキちゃん、これ美味しいー」

 「あ、あやめまで…、…もう、今日だけだからね」

 どうやら白上さんだけならともかく百鬼さんまで巻き込んではそこまで強く出られないようで、大神さんは少しの葛藤の後諦めたように息を吐いた。

 それを見て白上さんがガッツポーズを取り、大神さんは白上さんへと恨みがましい視線を送っていて、でもすぐにくすりと微笑み、百鬼さんはマイペースにお菓子を頬張っている。

 目の前の彼女達はそれぞれが自分を持っていて、何よりも幸せそうに見えた。

 「折角ですしミオとあやめちゃんも一緒にやりませんか?」

 「うん、余もやる!」

 コントローラーを片手に掲げて言う白上さんに百鬼さんは真っ先に食いついた。しかし、それとは対照的に大神さんは何処か渋るように言葉に迷っている。

 「でもフブキ、ウチはどうしよっか」

 「良いじゃないですか。あくまで禁止されたのは二人でゲームをすることですし、今は四人いますから」

 「それもそうだね」

 白上さんがにこやかに言えば、それに釣られるように大神さんも笑みを浮かべて了承した。

 「じゃあ、余は透君の隣ね」

 「あ、はい、どうぞ」

 「ならウチはフブキの横に行こうかな」

 「クッションもまだありますよ」

 二人が俺と白上さんを挟み込むように座り、コントローラを握る。その間に白上さんは四人で遊べるようなパーティゲームへとソフトを切り替えていて、すぐに楽し気な音楽が流れてタイトル画面が映し出される。

 「ミオ、最近全然やってませんけど腕は鈍ってませんか?」

 「それちょっと不安…。けど、フブキだって対人は久しぶりでしょ」

 「百鬼さんはゲームはどのくらい?」

 「余は…、あれ、最後にやったのいつだったかな」

 ワイワイと各々が好きに話しながらゲームに興じる。幸運なことが起これば歓喜し、逆に不幸な事が起これば悲鳴が上がる。

 そんな輪の中に自分が居るという事が未だに信じられなくて、自分自身が不思議でならなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「結局、夕方までゲーム三昧になっちゃったね」

 シラカミ神社のキッチンにて、トントンとリズミカルに包丁で音を立てながら大神さんは苦笑交じりに言う。既に窓の外では夕焼けに空は赤く色づいており、夕日は山の向こうへと沈もうとしていた。

 「えぇ、昼も忘れてよく全員お腹も空かなかったですよね」

 「それがお菓子の怖い所だよ。気が付いたらすぐお腹いっぱいになっちゃうんだから。それで何度フブキが夕飯の時に悲鳴を上げた事か…」

 当時の事を思い出したのか大神さんは大きくため息をついた。やけに準備が手慣れていると思っていたが、どうやら常習犯であったようだ。

 「昨日大神さんが言っていた事、少し分かった気がします」

 言いながらふと先ほどのゲーム大会を思い返した。

 「昨日?…あぁ、フブキの」

 大神さんは一瞬首を傾げるが、すぐにピンときたようで穏やかな声音で呟く。

 「フブキと一緒に居ると楽しいことがたくさんあるの。もう長い付き合いだけど、つくづくそう思う」

 そう話す大神さんの声音には感慨深さがありありと混じっていて、彼女と白上さんの中の深さを感じさせられた。

 「確かに、さっきは大神さんも百鬼さんも楽しそうでした」

 ミニゲームに勝って歓声を上げていた百鬼さん、あまりに悲惨だった白上さんに笑い声を上げた大神さん、そのどちらもが終始笑顔が絶えずにいた。

 しかし、それを聞いた大神さんは何故か俺を見てくすくすと小さく笑みを浮かべる。

 「あの、大神さん?」

 「あ、ごめんごめん…。ウチ達だけじゃなくて、透君だってちゃんと楽しそうにしてたよ?」

 「…俺が?」

 笑いを抑えつつ大神さんに言われるもそれがいつなのか思い当たらずに聞き返せば、大神さんはこくりと確かに頷いた。

 「うん、ほら、透君がフブキを通せんぼして炎で燃やした時。フブキが悲鳴を上げる横で透君の口角が上がったの、ウチは見逃さなかったよ?」

 完全に無意識、というよりは無自覚な自分の行動を教えられてぽかんと口が開く。

 「上がって…ましたか?」

 「上がってた。それはもう意地悪に」

 揶揄うような大神さんの口調に思わず口元に手を当てる。

 気が付かなかった。いつの間にか場の空気にでも呑まれていたのか、俺も彼女らと同じように共にゲームを楽しんでいたのか。

 「表情に出にくいだけで透君って結構感情豊かなんだね。今日のウチの一番の発見はこれかな」

 「感情豊かって、…そう、なんですかね」

 「ウチはそう思うよ」

 戸惑いつつ聞き返せば、大神さんは笑みを浮かべて肯定してくる。そんな彼女の反応に妙な気恥ずかしさを感じて、俺はそれを振り払うように料理の下ごしらえへと意識を集中させるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (…最近、自分が変だ)

 夕食後、隣村の温泉で入浴を済ませて帰ってからぐるぐると思考を巡らせながら神社の廊下を歩く。最近とはこのカクリヨに来てからの事だ。

 以前までの自分からは考えられないような感情を抱いている。少なくともゲームを楽しむなんてことは無かった、感情が豊かだなんて言われるような事も無かった。

 「段々と、自分が分からなくなってくるな…」

 ぼやくように呟く。考えれば考える程どつぼに嵌っている様な気がする。こういうのはあまり考え込まない方が良いのだが、ふとした瞬間に考えてしまうのだから困りものだ。

 「…ん?」

 自室へ向かい廊下を進んでいると、不意に視界の端にゆらりとした光を捉えた。何かと思い見てみれば、小さな火の玉のようなものが廊下の端にふよふよと浮いている。

 「なんだ、これ」

 不思議に思いつい近づいてまじまじとそれを見つめる。蝋燭の火のような大きさのそれは、吹けば消えてしまいそうな程に弱々しい。

 と、その火が揺らめいて消えるかと思われた、その時だった。

 『悪い子はいねかー!!!』

 「うおっ!?」

 突如火が膨張しその中から鬼の面をかぶった何かが現れ大声を上げると、炎と共にそのまま何処へともなく消えていった。

 「…は?」

 あまりに唐突に始まり、リアクションを取る間も無くまた唐突に終わった。訳が分からずに声を上げるのと同時、後ろから足音が聞こえてくる。

 「ドッキリ大成功ー!」

 それと共に背後から上がる元気一杯な声に振り返ると、そこにはしたり顔で笑顔を浮かべる百鬼さんの姿があった。

 「…百鬼さん、一体何を?」

 「ドッキリ。で、どうだった?透くんびっくりした?」

 キラキラと目を輝かせて顔を近づけながら百鬼さんは聞いてくる。

 「いやまぁ、驚くには驚きましたけど…。どちらかというと何が起こったのか分からなくて戸惑いました」

 「そっか、じゃあ失敗かなー…でも、驚いてたし?」

 ドッキリの成功か失敗かで自問自答する百鬼さんを見つつ、先ほどまで感じていたもやもやが衝撃で全部飛んでいったことを自覚する。

 変に考え込まなくて済んだことを喜ぶべきなのだろうが、しかしもう少しくらいは考えておいた方が良かったのではないかと失った後の後悔も同時に感じる。

 「ちなみに、何でまたドッキリを?」

 「え?何でって…そこにドッキリのチャンスがあったから」

 「そんな登山家みたいな」

 そこに山があるからのテンションで答えられてつい困惑が前面に浮き出る。白上さんだけではない、こうして接している内に百鬼さんについても何となくつかめてきた気がする。

 「先に言っておきますけど、大神さんへのドッキリは勘弁してあげてくださいね。さっきのゲームでも割とコミカルなお化けに怖がってましたし」

 先のゲーム大会でかなり印象的だったのがそれだった。落ち着いている大神さんにも弱点はあったようで、画面に映ったお化けに白上さんに抱き着いて震えていたのだ。

 「…」

 それを思い出して釘を刺したのだが、しかし百鬼さんは無言のまま視線を横に逸らした。

 「…まさか既に?」

 「うん、ミオちゃん腰ぬかしちゃって、今日は一緒に寝る約束した」

 「それでよく次にトライできましたね」

 どうやら後の祭りだったようだ。一緒に寝る約束まで取り付けるとなるとかなり尾を引いていそうで、犠牲となった大神さんには同情心が尽きない。

 すると、不意に百鬼さんは閃いたようにポンと手を打って口を開く。

 「あ、透くんも一緒に寝る?」

 「勘弁してください」

 邪気の無い瞳で問いかけてくる百鬼さんに思わず顔が引きつらせて首を横に振った。

 

 

  

 

 

 

 

 

 

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