気が付けば、風の吹き抜ける山の平地に一人立ちすくんでいた。
ぽっかりと森の中に穴が開いてしまったかのようなこの場所は、少し離れた先に木々が立ち並んでいくばかりで、周辺には建物はおろか草花すら存在しない。
「ここは…」
何でまたこんな所に居るのだろう、そんな疑問に首を傾げながら辺りを見渡している最中、ふと自らの右手に目が留まる。少し掲げた右手の甲に埋め込まれた宝石をじっと見ていると、不意に宝石が熱を発し始めた。
最初はじんわりと温まる程度であったそれは、次第に炎が灯ったかの如く骨身を焼かんとばかりの熱となり、宝石を起点として身体中を駆け巡る。
それと同時に、宝石から情報として流れ込んでくる記憶。
自分が何者であったのか、何のためにここに居るのか、これまでに何があったのか。自らのものでは無い筈のそれを、しかし不自然な程に受け入れられる。
カクリヨに迷い込み出会った少女たち、彼女達と紡いだ日常、そして…。
(そうだ、俺は過去に飛んだんだ)
紅の記憶と共に募る焦燥感。俺は神狐に連れられてイヅモ神社に訪れ、三人を救うために過去へと遡った。ならばここがその過去なのかと言われれば、しかしそれは否と断言出来た。
(三人はどうなった?俺は成功したのか?そもそも何でこんな記憶が)
疑問は募るばかりで、一向に纏まる気配を見せない。混乱する思考の中、とにかく現状を把握しようと必死に心を落ち着ける。
今何よりも考えるべきは、この記憶についてだ。神狐は俺の記憶を代償に術者となるシキガミを作ると言っていた。現に記憶が途切れる前、最後の部分には確かに過去に飛んだという感覚があった。
ならば、過去に飛ぶこと自体は成功したはずだ。
「なのに、どうして俺は今ここに居る」
成功した結果がこれなのか。だとしたら、俺は三人を救うことが出来たのか。
薄く今にも切れてしまいそうな細い希望の糸を手繰り寄せる様に、現状を自分なりに噛み砕いて推論を出す。けれど、何かがおかしい。そんな一縷の不安にも似た感情が、決めつける事を躊躇わせていた。
(せめて、三人の安否だけでも確認できれば)
それだけが全てだ。例え現状がどうであれ、三人が無事にいるのであればそれで良い。
とにかく、このまま此処でじっとしていても仕方がないと、すぐに行動に移そうとするが、しかしこの時、未知の事態へと戸惑いから、俺はすっかりある事を失念していた。
『…透よ』
突如として脳内に響いてきた声に心臓が跳ねる。慌てて周囲を見渡すが、当然誰の姿も見えない。そして、ようやく気が付いた。
神狐だ。共に過去に飛んだはずの彼女はこの神命石に宿っており、今も尚そこに居るのだ。
「神狐、何が起きたんだ、この状況は?」
矢継ぎ早に疑問が口を突いて出た。
彼女であれば事情を知っている筈だと、そしてその考えは正しく、神狐は一拍を置いてから言葉を続けた。しかし、その答えに俺はがんと頭を殴られるような衝撃を覚える事となる。
『失敗じゃ、妾達は三人を救えなかった』
何を言っているのか、理解できなかった。いや、正確には理解をしたくなかった。
救えなかった、それは間違いだ。俺達は過去に飛んだはずだ、何が起こるのか、誰が実行に移したのか、全てを知った上で。確かに俺は記憶を失っていたが、神狐がフォローしてくれる手はずだった。
「…もしかして、過去に飛べなかったのか?」
考えられる可能性はそれだ。そもそものスタート地点に立てなかったのではないかと、しかし、その考えはすぐに神狐に否定された。
『否じゃ、過去に飛ぶこと自体は成功した。過去に戻った主は世界の修正力に邪魔をされながらも、ミオと白上の二人の助力を受け、カクリヨに降り立った。降り立ってしまったのじゃ』
やはり成功はしていたのではないかと怪訝に思うと共に、神狐のその言い回しに何処か引っかかりを覚える。
「なんだよ、まるで、カクリヨに降り立ったのが、間違いだったみたいな言い方して」
そんな俺の問いかけに無言を返したまま、神狐はぽつりぽつりと話し始める。
『過去に戻るという事は、一度は決まった世界の流れを変えるに等しい。故に、世界はそれを阻止しようとその原因を排除しようとするのじゃ。それが修正力、そして今回の原因と見なされたのが透よ、主であった』
修正力については、過去に戻る前に聞いていた。だからこそ、過去に戻るためにウツシヨとカクリヨの狭間に居たカクリヨに迷い込むその時を狙ったのだ。
『そして、主がカクリヨに足を踏み入れた際に想定外の事態が起きたのじゃ。主という異物を排除しようとしたカクリヨは、世界の流れを分岐させた、丁度川を二つに分けるようにの。そして、元の流れに統合することで二度目の世界を上書きし、異物を排除しようとした』
上書き、つまり元の世界へと流れを戻そうとしたという事だ。二つにした世界を一つにまとめて、二つ目の世界を無かったことにしようとした。
「分岐って…じゃあ、その世界の違いは…」
『うむ、過去へと戻ったか否かじゃ。一度目と二度目の違いじゃな。主は一度目の正解では藺月透として、二度目の世界ではただの『透』として過ごした。この間、妾は統合しようとする世界を固定し、何とか保たせようとしたが、それにも限界があった』
そう話す神狐の声は、まるで殆ど力を使い果たしてしまったかの如く、弱々しいものであった。
『神命石と一体化したことで、妾は過去の自分とは別物となっておっての。まぁ、同じ人間が二人存在するようなものじゃ。要するに、妾は過去の自分の力を起点として世界を固定化する事が出来たのじゃ、しかし、その時点で妾の力はかなり損耗しておった、過去の神狐セツカが消えると共に、世界を固定化することが出来なくなり、こうして世界は元の世界へと統合されてしまったのじゃよ』
「…待てよ、それならこの世界で三人は…」
聞きたくなかった、もう想像がついてしまったから、理解してしまったから。けれど、聞かなければならない。嫌な汗が背筋を伝う最中、神狐はゆっくりと口を開く。
『主は、よくやってくれたのじゃ。妾の助けも無しに、自らの手で三人を救って見せた。じゃが、根本的に方法が間違っておった』
そこで一瞬だけ、言い難く口を開きかねる神狐は、やがて覚悟を決める様に重すぎる現実を受け止める様に言葉にして紡ぐ。
『この方法では、妾達は三人を救えなかったのじゃよ』
ようやく見つけた筈の希望は、いとも簡単に絶望へと塗り替えられた。
なにもかもが無駄に終わった。
救えなかった、この世界に三人はもういない。叩きつけられたその現実は、受け止めるにはあまりにも重く、ふらりと力が抜けてその場に腰を下ろす。
恩を返せると思った、また幸せな日常が戻ると、そう信じ切っていた。その為なら全てを投げ出せた。記憶だろうと何だろうと、なのに、こんな結果になるなんて、あんまりじゃないか。
『…すまぬ、妾の責任じゃ。世界の修正力を甘く見ておった、まさかここまでとは…』
「言わないでくれ。俺だって、これが最善だと思ってた」
どちらかの責任ではない、そんなものもう関係すら無い、考える必要も無い。俺達が目的を果たせなかったことに、変わりは無い。
「…どうすれば、良かったんだろうな」
『…』
ふと零したその言葉に、神狐からの返事は無い。
過去に戻り、三人を助ける。その目的は修正力によって阻まれた。新たな問題が降って湧いてきたのだ、二つを同時に突破しなければ、こうして元の世界に戻される。
カクリヨに足を踏み入れた瞬間、世界は分岐する。けれど、カクリヨに入らなければ三人を救えない。
これでは、どうしようも…。
「あ…」
一つだけ、方法があった。あまりにも簡単でシンプルな解決策が。
思いついたそれに、思わず声が漏れる。何でこんな簡単な事に気が付かなかったのだろう、いや、あえて考えないようにしていたのか、とにかくこれならば。
「神狐、まだ打つ手は残ってた」
『…』
そう呼びかけるも、しかし神狐は変わらず無言を貫いている。消えてしまった訳ではない、確かに神狐の存在をパスの通う神命石から感じる。
「…お前も、気づいてたんだろ?」
『…うむ』
無言の理由を言い当てれば、微かな声が返って来る。普段とは明らかに異なるそんな彼女に、思わず苦笑が顔に浮かんだ。
多分、当初から気づいていたのだろう。どうすれば三人を救えるのか、その方法に。
『しかし、それでは透よ、主が…』
彼女を躊躇させていたのが、自分だという事に正直驚いてはいる。だが、それも今は不要なものだ。
「俺は良いんだよ、優先するべきはあの三人だ。…それに、俺がこの方法を取ることくらい、神狐だってよく知ってる筈だ」
『…そうじゃな、主はそんな人間じゃ。故にこそ、妾は迷ったのじゃからな』
顔は見えないが、そう言う神狐は力のない笑みを浮かべているのだろう。本当に良く分かっている、この辺り同じ目的を共にした同士だと思えた。
目的を果たせる手段が見つかったのなら、後は実行するほかない。だから…。
「俺は、ウツシヨに帰るよ」
真の意味で、俺はこのカクリヨにとっての異物だったのだ。
すっかりと冷たくなってしまった風を受けながら宙を見上げる。そこに在るのは、いつか見たような真っ赤な夕焼け。もし叶うのならば、この景色をあの三人とも共有したかった。
そんな事を考えながら、一つ息を吐いて視線を落とす。
『透よ、準備は良いかの?』
「あぁ、大丈夫だ」
神狐に声を掛けられ、それだけ返しながら俺は右手の甲へと意識を集中させる。
『主が覚悟を決めたのであれば、妾も全てを捧げよう。しかし、良いか。幾ら三人分に妾の残っていた力を加えたとはいえ、過去への逆行は今回で限界じゃ。ウツシヨへと穴をつなげることを考えると、それ以上の力は無い故、しかと心得よ』
「分かってる、絶対に失敗はしない」
今回で限界、つまり次は無い。一度きりのチャンス、これを逃すわけにはいかない。
「…っ」
緊張から心臓が大きくなっている。すべてがこれに掛かっていると考えると、思わず手が震えた。それを収める様にぐっと手を握りしめ、震えを抑え込み、俺は改めて神命石へと意識を向ける。
「…行こう」
体を駆け巡るイワレを感じ術を行使すれば、世界はぐにゃりと曲がり、やがて光に包まれる。そうして、俺は再び過去へと遡った。
今度こそ、三人を救うために。
次に目を開けた時、周囲はその様を一転させていた。
暗くも明るくも無くただ何もない空間、丁度俺を挟む形で何処かに繋がっているらしき光が二つそれぞれ前後に見える。
ここが世界の狭間。
「神狐、聞こえるか。…神狐?」
確信を胸に呼びかけるが、しかし彼女からの返事は無い。いや、それどころか先ほどまで感じていた存在が、確かにあった筈の繋がりが、既に消えてしまっている。
『妾も全てを捧げよう』
先ほど聞いた彼女の言葉が脳裏に浮かぶ。あぁ、そうだ、これが最期という程に時間の逆行には力が必要となる、なればこそ力を消費した今こうなるのも道理であった。
だが、それならば、最後に一言くらいあっても良いのではないか。
「…大丈夫だ、任せてくれ」
恨み言の代わりに、そんな決意を送って、俺は改めて神命石の力を使う。
光から光へと、二つのそれらを繋ぐように一本の道を形成していく。明人は命石を使いウツシヨと繋がる穴をカクリヨに開けた。しかし、それでは不十分だった。この空間はいわば一方通行で、ウツシヨからカクリヨへと海流のように流れが存在する。その中を進むためにはこうして道を形成し流れとはまた異なる移動手段を確保しなければならない。
「…これなら帰れるだろ、明人」
三人を救う手段、それは別にあの日に拘る必要はない。原因が無くなれば、結果も起こらない。ウツシヨに帰るために、明人が実行するのであれば、その前に彼をウツシヨへと返せば、それで解決する。
道を維持していると、やがて 何かが横を通り過ぎてウツシヨに繋がる光に呑まれた。間違いない、明人がウツシヨに帰ったのだ。
「…これで、もう悲劇は起こらない」
あっけない終わりだった。当然だ、ただ人を送るだけなのだから、劇的な展開などある筈も無い。
思わず苦笑を浮かべながら、俺はカクリヨへと続く光に背を向けて、ウツシヨへと続く道を目の当たりにする。
カクリヨへと入れば、再び世界は分岐して同じ結末を辿るだろう。過去に戻ってから行った改変が無かったことになる、明人がウツシヨに帰った事実も含めて、帰れなかった世界に戻ってしまう。
だから、ウツシヨへと帰る。このまま力が尽きれば、強制的にカクリヨに送られてしまうから。俺がウツシヨに帰ることで、初めて三人を救うことが出来る。
「…色々な事があったな」
ぽつりと零して、俺は光へ向かい歩き出す。
カクリヨに迷い込んでからは、本当に色々な事があった。獣耳を生やした少女たちと出会って、一緒に暮らすようになって。
キョウノミヤコで鬼の少女に出会った時などは、彼女の移動方法について行けずにグロッキーになって、妙に狼の少女と通じ合って。
作った料理を美味しいと言って貰えた。よく狐の少女とはゲームをして、そこに他の二人が加わったりして、時にはピクニックに行ったりして、ワイワイと騒がしい毎日だった。
「楽しかった…」
瞼を閉じれば、つい昨日の事のように思い出せる。当たり前のように続くと思っていた、あの日常が、今も脳裏に浮かんでいる。
永遠に続けばよいと思っていた一時が、何よりも愛おしかった。
自分の表情が和らぐのを感じる、途方も無い恩を、これでようやく返すことが出来るのだ。これ以上ない喜びだ、自分で満足のいくこれ以上ない恩返しだ。
もし足りないと言われればどうしようかと考えたが、そんな事を言う彼女達ではない事を、この記憶が証明している。
少しづつ、けれど着実にウツシヨへと続く光は近づいてきていた。短いようで遠い道のりを、思い出に浸りながら歩み続ける。
彼女たちのおかげで、俺は多分これからも前向きに生きていけるのだろう。
「だから、ありがとう、カクリヨ。さよう…」
『透さん』
別離の言葉を紡ごうとした所で、不意に聞こえてきた声に思わず言葉は途切れ俺は足を止める。勢いよく振り返った先には何もなく、唯カクリヨへと続く光が瞬いているのみ。
多分、幻聴だった。思い返した記憶から、そんな一幕が実際に聞こえているかのように錯覚しただけだ。
「白上」
その名を口にすれば、白い狐の少女の柔らかな笑みが脳裏に浮かぶ。
違う…。
「大神」
黒い狼の少女の落ち着いた雰囲気は、帰る場所を示してくれてるようで。
違う…!
「百鬼」
赤い鬼の少女は天真爛漫で、そんな彼女の明るさに何度も救われた。
違う…!!
そうでは無い、そうでは無かったはずだ。考えないようにしてきた、一度考えてしまえば迷いが生じるから、ずっと目を逸らし続けていた。なのに…。
器に亀裂が入り、今まで押さえつけていた筈の感情がそこから滴るように零れ落ちた。一度溢れ出てしまったそれは、留まる所を知らず、やがて激流となって心に流れ込んでくる。
四人でイヅモ神社に行った、セイヤ祭の準備をして、後夜祭では一緒に踊って…。
「…フブキ」
意外と寂しがり屋な彼女に、ずっと傍に居て欲しいと願った。
「ミオ…」
苦しい過去を乗り越えた彼女と、共に幸せを探そうと約束した。
「あやめ…」
彼女の途方も無く続いて行く未来を、共に歩んで行こうと誓い合った。
「覚えてる…、全部、覚えてる…!」
一度止まってしまった足は、根が張ってしまったかのように動かない。
カクリヨで過ごした日常、止めどなく溢れ出てくる思い出の奔流は、いとも簡単に固めた決意を揺らがせた。
「好きだ、大好きなんだ…愛してる、愛してる…!」
思いの丈を、言葉では言い表せないその想いを、届くことの無いそれを何度も繰り返す。
「ずっと、一緒にいたかった…!これからもずっと、続いて行くはずだった…!」
ようやく、見つけることが出来たんだ。幸せの形を、これからも続いて行く未来を。一生傍にいて欲しかった、共に幸せになりたかった、共に歩んでいたかった。
こうしたかった、ああしたかった、そんな願望が次から次に浮かんでは消えて行く。
「どうして、こうなるんだよ…。なんで、俺だけ…」
どうにもならないやるせなさが、胸の奥を強く締め付ける。
こんなにも何かに執着する様になるなど、思いもしなかった。だが、こんなにも苦しいのなら、こんなにも切ないのなら、知りたくも無かった。
「帰りたくなんか、無い…」
あまりにも心地よかったから、あまりにも暖かかったから、カクリヨという世界を、俺はいつの間にかどうしようもない程に好きになっていた。
心に浮かぶ本音と共に、ぼやけた視界の中、微かに浮かぶ光に手を伸ばす。
すぐそこなんだ、俺の幸せはあそこにある。何で捨てないといけないんだ、折角見つけたそれに、どうして背を向けなければならない。
考える程に無情な現実が立ちはだかって、どうしようもない現在を突きつけてくる。
こんなにも鮮やかに色づいた想いが、幸せを教えてくれたこの想いが、今度はさび付いたナイフのように心を切り刻んで来る。
「ふざけるな…」
止めどなく溢れてくる涙を乱暴に拭いながら、唸るように口にする。
何を泣き言を言っている。今何の為にこの場にいるのか思い出せ。今はただ自分の事は二の次に、彼女達を最優先にするべきだ。
「抱え切れないくらいの恩を貰っただろ。だから今度は俺の番だ。恩返しをするんだって、決めたんだろ…!絶対に救うんだって、誓ったはずだろ…!」
分かっている筈だ、自分が何をするべきか、明確に。
幸せだった、これ以上ない程に俺は幸せだったのだ。それを、嘘にしたくないのなら、胸を張って誇りたいのなら…。
「それなら…前に進めよ、『透』!!!」
頬を伝う雫をそのままに、声を張り上げる。目先の幸せを取ろうとする自分に喝を入れる様に、どうしようもない程に愛おしく感じるその未練を振り払う様に、俺は止まっていた足を一歩前へと踏み出した。
もう一歩、もう一歩と、今にも振り返りそうになる心を押さえつけて、止まろうとする足を動かし続けて、滂沱の如く溢れ出る涙をそのままに、ただウツシヨに繋がる光に向かって歩き続ける。
今も尚、カクリヨでの思い出が脳裏をめぐっている。もしあのまま彼女達と共に在れたのならばと、考えるだけで胸が押し潰されそうになる。
けれど、それでも俺は進まなければならない。この想いを証明するために。どれだけ辛くても、悲しくても、ただ前に進み続けなければならない。
やがて、白い光が目の前へと近づいてくる。この先に、ウツシヨが待っている。
その光に呑まれる前に、俺はゆっくりと後ろを向いた。まだ言えてなかったから、これだけは言っておかなければならなかった。
嗚咽を抑える様にそっと息を吸って、涙を拭い、ハッキリと別離の言葉を紡ぐ。
「ありがとう、カクリヨ…。さようなら」
それを最後に光へと身を投げ出して、やがて世界は白へと染め上げられた。