最高の幸せとはなんだろうと、あの日からずっと、考え続けていた。
辺り一面に広がる銀世界。月明かりの無い厚い雲に覆われた空の下、森の中にぽっかりと開けた汚れを知らぬ純白の雪原、重々しい雪化粧を施された針葉樹に周囲を囲まれるこの場所は、かつて彼女らが袂を分かち、そして彼女が新たな一歩を踏み出した土地、イヅモ神社。その跡地だ。
神狐の力で構成されていた街並みは跡形もないこの場所に、しかし、一つだけ以前とは異なる点がある。
開けた大きな空き地の中央に建つ、一軒家程度の本殿。その外観は、かつてのイヅモ神社にあったものと遜色は無い。流石に内部の装飾までは一致しないが、それでも記憶を呼び起こすに不足はない。
隣には、純白の世界に溶け込んでしまいそうで、けれど一際輝いて見える、白無垢に身を包んだミオの姿。腕に添えられた手に彼女の存在をしかと感じながら、浮かぶ焔に照らされた本殿までの一本道を行く。
これまで、随分と遠回りをしていた割に、たどり着いた末がこの真っ直ぐな道なのだと思うと、我ながら情けなけなく感じつつ、けれど胸の内はそれ以上の充足感に満たされている。
宙に漂う白い息を追って空を見上げれば、薄く雪をちらつかせる暗い雲が視界に映る。その向こう側に浮かんでいるだろう月を想いながら、俺はふと、事の始まりである先日の出来事を思い返した。
吹きすさぶ北風に枯れ葉が舞い始める頃の事。それは、誓って何と無しに呟いた一言から始まった。
「なぁ、結婚って、どうすれば良いんだ?」
特段他意があったわけでは無い、ただふと興味が湧いただけの一言。そんな思考が漏れ出たような短い言葉が、まさかその場の空気を凍り付かせようとは、思いもよらなかった。
先ほどまでワイワイと例の如く騒がしかったシラカミ神社の室内が、途端にしんと静まり返る。その様に、常であれば何かしら答えが返って来る所とで違和感を覚えて、内心首を傾げながら、頬杖をついていた頭を持ち上げる。
「…なんだよ、全員揃っていきなり黙って」
周囲を見回してみれば、まず目についたのは、横の和室で炬燵に入って果物を片手に嬉々とした表情で口を開けている白上。その向かい側の、炬燵から上半身だけ覗かせてうつ伏せに伸びて寝転がっている百鬼。そして、温和な笑みを浮かべてそんな百鬼の頭を撫でていたミオが、揃いも揃ってその体制のまま微動だにせず硬直していた。
理由は分からずとも、何かしらやらかしてしまったと気付くことはよくある。正に、今がそれだ。こういう時は、大抵非難の的になるのが通例となっている。
数秒か、もしかするとたっぷり数分と流れたその気まずい静寂は、徐に両手でばしん!と強く机を叩いた白上によって破られた。
「…やっとですかっ!!」
そうして放たれた彼女の言葉に、てっきり説教が始まるとばかり考えていた俺は、何の事だと思わず目を白黒させる。
「やっとって何がだよ。俺はただ、カクリヨだと結婚する時は何をするのか聞いただけだろ?」
別にまだ誰と結婚するとも言っていない。にも拘らず何を慌てているんだと、つい視線を逸らしながらそう言えば、白上は焦れたようにうめき声を上げて頭を抱えた。
「今更しらを切っても意味は無いんですよ!はい、透さんの恋人は誰ですか?」
「そりゃ…ミオだな」
「将来結婚を考えているのは?」
「ミオだな」
「答え出てるじゃないですかこのバカップルめ!」
白上の振るったハリセンが脳天に直撃し軽快な音を立てる。何やら理不尽に叩かれた気もするが、そこに囚われては話が進まぬと判断して、取り合えずは気にしない事にする。
とはいえ、不満なものは不満だ。それを伝えるために視線で訴えてみるも、寧ろこちらよりも不満そうな白上の瞳と目が合って、浮かぶ疑問に思わず毒気を抜かれた。
「全く、ここまで言っても分からないとは…。とにかく、透さんとミオは結婚を見据えた恋人同士なんです。さて、ここで問題です」
「まだ続くのかよ」
「黙って答えて下さい。良いですか、透さん?貴方がミオと恋人同士になったのは何時の事ですか?」
有無を言わさぬ雰囲気を発する白上に戸惑いつつ、言われるがままに質問の内容に思考を巡らせる。
「あー…、俺がカクリヨに来て直ぐだったからな…。丁度百年前くらいか。おぉ、改めて考えるといつの間にか俺も年齢が三桁か。あんまり見た目に変化が無いって言っても、なんか感慨深…」
ふと気が付いた事実に心を浮足立たせながら、それを共有しようと話しかけようとするも、再び鳴り響いた白上が机を叩く音に、言葉を途切ってぴたりと口を真一文字に結ぶ。
チラリと白上を見てみれば、彼女の顔は俯いて伺い知れないが、その肩は激情を堪える様に震えていた。
「そう、その通りなんですよ。白上達もですね、お二人が結婚するのを今か今かと待ち望んでいた訳ですよ…。なのに…!」
更に三度、毛を逆立たせた白上の両手が机に叩きつけられる。そろそろ机が割れないか心配になって来た。
「待てども暮らせどもプロポーズの兆しを見せない透さん!時間を経るごとに増えていくミオからの相談!白上達が…いえ、この際白上達はどうだって良いんです!ミオがどんな気持ちで待っていたと思ってるんですか!ほら、見て下さい!当人なんてあまりにも驚きすぎて未だに固まってるじゃないですか!」
勢いよく指された白上の指を辿って横を向いて見れば、そこには先ほどの体制から微動だにしないで時を止めているミオの姿がある。彼女の手の下では、床に顔を埋める形となった百鬼もまた、空気を読んでか動きを止めているが、俺の関心はとにかくミオと先ほどの白上の言葉に向けられていた。
「相談してた、か…」
薄々、そうではないかとは考えていた。もしかして不安にさせてしまっているのではないか、それを分かっていながらも、それでも尚押し進めなければならない事情があったのだ。
だが、それでミオに負担を強いてしまっていたのでは本末転倒だった。遅まきながらに気が付いて、自分の迂闊さを呪いつつ、立ち上がって彼女の前に場所を移す。
「ミオ…、その、悪かった。長い事、不安にさせて」
片膝をついて詫びるも、ミオからの返答はない。代わりに、大きく見開かれた彼女の目元からぽろぽろと雫が零れ落ちて、その頬を濡らした。
「…ウチ、透君を疑ってた訳じゃないの。でも、透君、何の素振りも無くて、占っても何も見えなくて。本当は、ウチと一緒になりたくないんじゃないかって、そんな事ばっかり、考えちゃって」
「あぁ、うん、そうだよな。普通こんだけ待たされたらそう思うよな」
カミの時間間隔と言うのは、その寿命の長さゆえに、大抵普通の人間と比べてずれている。だから、カミであるミオも、このくらいなら大丈夫だと錯覚してしまった。ずれてしまっていたのは、こちらの方だった。
「今更信じられないかもしれないけどさ、元々はもっと早く伝えるつもりだったんだ。ただ、少し想定外が重なって、準備に手間取った。だから…いや、言い訳だな、これは」
久しぶりに目にしたミオの涙に、胸の内に焦りが生じて言葉が纏まらない。
本当は、もっと場所や状況を整えてから伝えるつもりだったが、こうなってはそんな欲を優先している場合でも無い。心を落ち着けようと、大きく息を吸って吐き出してから、俺はミオの目元からあふれ出す雫を指で拭って、真っ直ぐにその琥珀色の瞳を見据えた。
「遅くなったけど、改めて言わせてくれ。俺は、透は、ミオを愛してる。まだ、幸せの形が何なのか、見つけられてないけど。これからも、ミオの一番近くに居たいし、居て欲しい。一緒に、未来永劫、幸せの形を探し続けたい。だからミオ、結婚しよう」
言い切ってから、全身を熱い血液が駆け巡った。
これまでも、恋人として気恥ずかしさを覚えるような事はあった。けれど、これはそのどれもと一味も二味も違う、一世一代の告白。遠い未来までを含んだとしても、これ以上の緊張と羞恥を覚えることは無いだろう。
目の前の彼女にまで聞こえてしまっているのではないか、と思える程うるさく鳴る鼓動を耳に、ジッと見つめたまま返事を待つ。
「…やっと、言ってくれたぁ…!!」
そうして、来たるミオからの返事は、はいともいいえともなく、更なる滂沱の涙という形で返された。
「あーあ、泣かせちゃいましたね。これを見たセツカさんが何と言うやら…、白上が告げ口しておきましょうか」
「やめろ、呪われる…!」
横合いから洒落にならない茶々を入れてくる白上を切実な思いで制止しつつ、子供の様に泣きじゃくるミオを目にして、普段は落ち着いているだけに、それだけの心労を彼女に強いていた後悔が重くのしかかる。
「本当に、遅くなって悪かった。反省してる」
手を取って、改めて謝罪を口にすれば、ミオは大きく首を横に振った。
「ううん…、もう、良い…!透君、ちゃんと、言ってくれたから。凄く、嬉しい…」
そう言うミオの頬にはまだ涙が流れている。けれど、その表情は喜びと幸せに満ちていた。こんな顔が見れるのなら、もっと早く伝えておけば良かったと、内心に零す。
「そっか。なら、良かった。返事、聞かせてもらってもいいか」
反応から見てもその答えは明白で、形式ばったやり取りだと、自覚はしている。けれど、大切なことだ。なにせ、一生に一度なのだ。茶番だと分かっていても、この瞬間を記憶に残す事が重要だ。
目元を拭ったミオが俺の手を取る。その細い指先からは、火傷をしてしまいそうな熱が伝わって来た。
「…はい。ウチも同じくらい、貴方を愛してます。これからもずっと、一緒に居て下さい」
そう言って、ミオは花が開くような笑みを浮かべた。
どっと押し寄せて来る解放感に、身体中の力が抜けそうになる。安堵だったり達成感だったり、自分の中の感情がごちゃ混ぜになって、重ねた手が震えているのも、恐らく気のせいでは無いのだろう。
無論、その震えは彼女にも伝わっている。バツの悪い笑みを返しながら、どちらからともなく近い距離を縮め合って、互いを確かめ会うように、そっと口づけを交わした。
「わお、これはあれですね、白上達の存在を完璧に忘れているやつですね」
「あの、余そろそろ顔上げても良い?この体制息がし辛いんですけど」
そんな形で後悔や涙を織り交ぜながらも、無事に終幕を迎えた一世一代のプロポーズは、横と下から聞こえてくる、思いがけない観客の声がどうにも印象的だった。
プロポーズを終えた後、余計な気を利かせた二人が席を外してから暫し。徐々に赤らんでいく空を眺めて、俺はやけに現実味の無い心地を抱えながら、傍に座るミオと共に過ぎていく時の流れに身を任せていた。
達成感はある。随分と前から、いつか想いを伝えたいと考えていたのも相まって、先ほどから全身の血が燃え上がったような感覚が続いていた。ただ、あまりにも強く大きなそれを受け止めきれず、放心気味になっているだけだ。
ぼうっと、緩やかに様相を変えていく空を見ていると、肩に頭を乗せたままのミオが徐に口を開いた。
「それで、透君。結局今までウチに隠れて何をしてたの?」
詰問をするでもない、穏やかなその声に核心を突かれ、ひやりと冷たい何かが心臓を撫でた。横目に心地よさそうに目を瞑る隣の彼女の様子を伺いつつ、俺は後ろ手に頭をかいた。
「あー…、そうだな、何て言えば良いか」
「言い難い事?もしかして、浮気?」
「いや、そうじゃなくてだな!ただ今話すのは早計と言うか…、って、揶揄ってるだろ」
隣からくすくすと聞こえてくる笑い声に、心底安堵して大きく溜まっていた息を吐きだす。胸を撫で下ろすついでに視線で訴えかけてみれば、ミオははにかむ口元に手を当てながら視線を上げた。
「ごめんごめん、ちょっとした意趣返しのつもりだったんだけど、思ったよりも透君の反応が良かったから」
「勘弁してくれ…、まぁ、言い返せない立場ではあるんだが」
散々不安がらせた手前この程度は甘んじて受け入れるべきだと、気まずさから目を逸らす俺に、ぽすりと胸に軽く拳をあててくるミオが「本当だよ」と続ける。
「ウチの占いから隠れてまで何かしてるんだもん。でも、それだけ重要な事だったんでしょ?」
「…あぁ、半ば自分勝手な理由ではあるんだが、どうしてもプロポーズする前に完成させたかったんだ」
長い時間を掛けて慎重に事を進めてきた。ここまで来たなら、洗いざらい話してしまおうかとも考えたが、しかし伝えるのならば実物を見せてからの方が良いと思いなおす。
一人葛藤していると、ふと横からじっと視線を感じる。彼女の目の届かない場所ならともかく、目の前にするとどうも隠し事が出来る気がしない。見透かすようなその視線から逃れるように顔を背けていれば、程なくしてミオが息を吐く音が聞こえた。
「ふーん、まぁ、良いけどね。透君の隠し事が何でも、ウチは待つのに慣れてるし」
穏やかながら、何処か皮肉めいたその言い回しに良心が痛んだ。本当、彼女には負担を強いてばかりだ。
「悪い、これは俺の我儘だ。多分、意地も混ざってる」
改めて謝罪を口にする。それを受けたミオは無言のまま腕を取ってこちらに体を預けて、肩に感じる重みが少し増した。
「うん、分かってるから。プロポーズもしてくれて、透君がウチの事をちゃんと考えてくれてるって」
「あぁ、それだけは何があっても違わない」
会話が途切れ、訪れる静寂に黄金色に照らされる木々の騒めきが寄り添う。眩しい夕日を二人眺めるこの瞬間が、何よりも心地よかった。
「…なぁ、ミオ」
「なに、透君」
ふと呼びかければ答えが返って来る。愛しい彼女の手に指を絡めながら、俺は一言だけ、彼女に伝えた。
「式は、神狐とミオが過ごした場所、イヅモノオオヤシロで挙げよう」
そうして、慌ただしくしながらも迎えた式の夜。浮かぶ焔に照らされたイズモ神社の本殿を目にしたミオは、息を呑んで歩む足を止めた。
「…あれが、透君の隠し事?」
絞り出すように零された驚嘆混じりの問いかけに、同じく足を止める。
「あぁ、ずっと式を挙げるならここしかないと思ってたんだ。余計だったか?」
この式の参列者は少数で、それこそ、声を掛けたのはシラカミ神社の面々くらいのものだ。けれど、もう一人だけ。九尾のカミ、神狐セツカ。彼女を差し置いて式を挙げるとは、どうしても考えられなかった。
とはいえ、神狐はもう居ない。あくまでこれは俺の我儘だ。勿論ミオにとっても重要だとは思ったが、彼女がこれを喜んでくれるか確証はなかった。だが、それも彼女の反応を見れば杞憂だったと気付かされる。
「そんなことない。また見られるなんて思ってなくて、凄く、嬉しい。それに、せっちゃんには、この姿を見せてあげられてなかったから」
そう言ってミオは身に纏う白無垢を見下ろし、そして僅かに口惜しそうに雲に覆われて空へと目をやった。
式の日付は、直近に諸々の用事もあったが、ミオの占いで決めた。結果として、この日が絶好と出た日になったのだが、ふたを開けて見れば生憎の天候で、あの日と同様に浮かんでいる筈の満月は見えない。
ミオは気を取り直すように目を伏せてから、再度俺達は本殿へと歩みを進めた。
「それにしても、あれ透君が建てたの?イヅモ神社にあった本殿そのままだったから、びっくりしちゃった」
「そうだな。建てるのも大変だったが、どちらかと言うとミオに気付かれないように作業するのが一番大変だった」
なにせ、隠匿の術を身に着けるのに随分と時間を要した。ついでに、この雪の所為で建てても崩れるが多発したのだが、そちらは完成度を上げる一因になったので相殺だ。
幾度の失敗を積み重ねて今の形に落ち着いた本殿の前では、一足先に立ち位置についていた白い狐の少女と赤の鬼の少女が、感極まったような笑みを浮かべながら、拍手で迎えてくれていた。
カクリヨでは、通常こういった式を挙げると言うのは珍しいようだが、それでも形式というのは確立している。とはいえ、簡素なもので。まずはカミを祀る神社の御前で、祝詞を貰う。ここは、白上が買って出てくれた。
「健やかなるときも、病める時も、二人は…」
祝詞を貰った後は、ケガレ無き未来が訪れるよう、二人を祝福する舞が行われる。ここは、百鬼が。
「余、剣舞しかできないけど…」
そうして、最後に参列者に見守られる中で、二人は誓いを交わすのだ。
本殿の前、白無垢に身を纏うミオと向き合う。横から様子を伺う際にも思ったが、こうして向き合ってみると、そのため息を吐きそうになる美麗さに吸い込まれそうになる。
「天気、残念だったな」
本来だったら、参列者として神狐も見えるように、満月の輝く空の下で向き合う予定だった。慰めるように声を掛けるも、ミオはゆっくりとその首を横に振った。
「ううん、フブキもあやめも居て、透君が居て、こんな素敵な式を挙げてくれたんだから、十分すぎるくらい。それに、今この瞬間じゃなくても、これからの未来でウチ達の姿を見せてあげれば良いだけだから」
「…そうだな、そうしよう」
互いの距離を縮める、その時だった。
突然、周囲が明るく照らされて、光に包まれて俺とミオは同時に動きを止める。そして、一瞬の間の後、何事かと、原因を探るべく揃って光の差し込む空を見上げて、映ったその光景にそっとまた揃って視線を下ろした。
「あ、月が出てきましたね」
「ね、でも、何だか目みたいになってる」
白上と百鬼も見上げていたようで、二人の交わすその言葉に、見間違いでなかったことを悟る。
チラリと見上げた先では、不自然に雲が開けた空から満月が丁度顔を覗かせていた。けれど、その形は雲が輪郭、満月が瞳孔のようで。そう、それはさながら何者かが空から片目だけ覗かせて、こちらを覗き込んでいるかのようだった。
ただの現象の組み合わせなのだろうが、けれど、その何者かにどうにも心当たりがあってしまう俺とミオは何とも言えない顔を見合わせた。
「…ねぇ、透君。これ偶然かな」
「偶然だ、と言いたいところなんだが…やりかねないだろ」
「だよね」
かの九尾の無鉄砲さや破天荒さは知るところである。そして、同時に思い出した。あの娘至上主義の偉大なるカミ様が、娘の式という大舞台に参列しない訳が無かった。
同じ考えに至ったのか、ミオも何処か呆れたような、けれど嬉しさを滲ませる表情を浮かべている。そんな彼女と目を見合わせると、どうにもこの状況が可笑しく感じてしまって、俺達はどちらからともなく噴き出した。
肩の力が良い意味で抜けてしまった。ミオも同様のようで、吹っ切れたように笑みを浮かべている。
「何と言うか、これからもこんな予想外だったり、思い通りにいかない事も有るんだろうな。それでも、ミオ、そんなこれからを一緒に歩くのが俺でも良いか?」
弛緩した空気の中確かめるように問いかければ、ミオはしかと頷いてくれる。
「はい、勿論です。ウチは未来にどんなことが待っていたとしても、一緒に歩くのは貴方が良い」
言葉を紡いで、俺達はどちらからともなく距離を縮め合う。そして、友人と空の満月に見守られる中、互いを確かめ合うように、そっと誓いを交わした。
「ひゅーっ!ミオ、透さん、おめでとうございます!」
「二人共おめでとうー!」
白上が指笛を吹き、百鬼が歓声を上げる最中、祝福するように、空からは細かな雪が舞い降りて来る。宙を舞う雪は月光を反射させて、宵の闇に創り出された瞬く光の舞は、あまりにも幻想的だった。
そうして、余韻を感じるこの場で、俺には一つだけ聞いておかなければならない事があった。
「なぁ、ミオは今、幸せか?」
かつてと重なるその問いに、ミオは一瞬目を瞬かせて、そして、煌めく雪景色が霞むくらい、綺麗で華やかな、満面の笑みを浮かべた。
「うん。ウチね、今、この世界の何よりも幸せだよ!」