【完結】色づく想ひ    作:ワンダーS

19 / 162

どうも作者です。

以上


予兆

 「悪い、待たせた。」

 

 身支度を整えて食堂に急ぐとすでに三人は席についていた。

 朝食も食べずに待ってくれていたのだと思うと申し訳ない気分になる。

 

 「おはようございます、疲れは取れましたか?」

 

 「あー、まあ、ばっちりだ。いくらでもこき使ってくれ。」

 

 しかし、そんなことは微塵も考えていないような笑顔で、そう返してくれる白上。

 

 先ほどの百鬼との一幕を思い出し、どこか気まずく感じながら答える。

 だが、そのおかげで今までで一番心が軽い。

 

 今日はいくらでも調査を行えそうだ。

 

 今にして思えば、全員で行う調査というのも初めてだ。

 しかも、今回は手がかりへと向かうわけで、何が起こるか予測が立たない。

 

 「ほら、透君も席について。しっかり食べて今日は頑張らないと。」

 

 相変わらずおかんのような大神に促されて席に座ると全員そろって手を合わせる。

 この光景にもだいぶ馴染んだな、と心の片隅で思う。

 

 程よく食べ進んだところで、大神はおもむろに口を開く。

 

 「みんな、食べながらでいいから聞いてね。

  今日の流れのおさらいだけど、まず、透君は昨日の明人君でいいのかな、と合流して。

  うちとフブキ、あやめは先に行って、占術で場所を絞り込んで、特定出来たらそろい次第、そこに向かう。

 

  ここまでは大丈夫?」

 

 俺達は揃って頷く。

 ある程度の場所は覚えているから、少し遅れても合流までは問題なさそうだ。

 

 それを確認すると大神は続ける。

 

 「あやめとフブキが見た不審人物は気になるけど、いったん今日はこの調査に集中。

  理想としては、解決まで行きたいけど…それは高望みだね。

 

  とにかくそういうことで、何か質問はある?」

 

 その言葉に、白上が手を上げる。

 

 「あの、質問というか確認なんですけど。…ミオ、今朝占術の精度が戻ってませんでしたか?」

 

 占術の精度が戻る。

 

 自然と大神へと視線が集まる。 

 そもそも、落ちていた原因が分からないが、それが本当だとするとこれからの進捗に大きく関わってくる。

 

 これはうれしいニュースだと、喜ぶところかと思ったがあまり大神の顔は晴れない。

 むしろ、困ったように眉をひそめている。

 

 「…もう、気づいてほしくなかったのに。そういうところだよフブキ。」

 

 白上へジト目を向けながら言う大神。

 当の白上は引きつったように笑っているが、どこかわざとらしさを感じる。

 

 大神もそれを見て観念したように一つ息をつくと話始める。

 

 「確かに、今朝の一瞬だけ戻ったみたい。

  まぁ、一つだけ結果を出すとまた元通りになったんだけど。

 

  それで、ここまで来たから話すけど、これがその結果。」

 

 そう言って大神がテーブルに置いたのは一枚のタロットカード。

 

 絵柄は…。

 

 「…死神?」

 

 ローブを身にまとい、大きな鎌を持った骸骨が描かれている。

 

 しかし、タロットではよい意味にもとらえられるはずだ。ならばそこまで重く受け止める必要もないはず。

 そんな、甘い考えは次の大神の一言で一蹴される。

 

 「うちの占術にも種類があってね、こういう突発的な時は、周りにあるモノで示してくるの。

  だから、これはそのまま死神そのもの。

 

  みんな、このことを念頭に置いておいて。」

 

 大神の説明を聞き、今朝見た夢がフラッシュバックする。 

 

 深紅に染まった道。

 転がっていた骸は4つ、そして俺を除くと明人を含めて4人。

 

 まだ、決まったわけではないが冷たいものが背中を伝う。

 

 ただの偶然だと思いたい。

 

 ふと、百鬼が視線を向けていることに気が付く。

 その眼は心配に満ちていた。

 

 何故、ここまで気をかけてくれるのか分からないが、先ほどのこともある。

 せっかく百鬼が慰めてくれたのだ。このくらいでへこたれてどうする。

 

 百鬼に大丈夫と目で伝える。

 

 とにかく、今はできることをやろう。

 

 その後は、各自食事を済ませる。

 食事中にするような話題でもなかったか。

 

 しかし、白上があの時指摘していなければ、大神はこの問題を一人抱えたままになっていた。

 結果的に、ベストな形で落ち着いている。

 

 やはり、よく周りに目を向けている。とても真似はできそうにない。

  

 そうこうしているうちに、準備が完了する。

 明人と合流するために一足早く出ることにした。

 

 先ほどの話はこれからともに行動する明人にも無関係ではない。

 説明に時間もかかるため、急遽そう決めた。

 

 三人に断りを入れてから宿を出る。

 

 そういえば、キョウノミヤコの街並みは基本的にどこも似たような作りになっている。

 夢で見た景色も丁度こんな感じだった。これでは、夢の光景がどこでのものなのか分からないな。

 などと、大神のように占術ができるわけでもなしに、考えている。

 

 まだ、尾を引いているらしい。

 頭を切り替えながら、待ち合わせの場所へと向かおうとすると視界の端に見覚えの姿をとらえる。

 

 「…ん?あれは…明人?」

  

 目を向けると、少し離れた路地裏への入り口に明人が静かにたたずんでいる。

 明人もこちらに来ていたらしい。

 

 手を振ってみると、あちらも気が付いたのか驚いた顔をして、こちらへと走ってくる。

 

 「おう、透。なんだよ、早いじゃねぇか。」

 

 「説明することが出来てな、早めに出ることにしたんだよ。」

 

 そして、先ほどの話し合いの概要をかいつまんで説明する。

  

 「なるほど、あの黒髪の娘はあれで本調子じゃないのか。末恐ろしいな。」

 

 恐れおののいたように言う明人に同感する。

 

 確かに、現時点でもかなり有益なワザなのに、あれより上があるのだ。

 もはや、情報戦において右に出るものはいないだろう。

 

 「それで、明人はなんでこんな時間からここに?」

 

 一通り説明も終わった所でずっと気になっていたことを聞く。

 こんなに早く来る必要はなかったはずだが。

 

 「あー、そうそう、今日も同行が出来なさそうだから、それを伝えに来たんだよ。

  誰かが出てくるまで待つつもりだったから、助かった。」

 

 「昨日言ってた用事か。」

 

 肯定するように頷く明人。

 

 今朝のこともある。

 出来れば、一緒に行動したかったが、どうやらそれは無理なようだ。

 しかし、考え方を変えれば、あの夢は実現しないと分かったのだから精神衛生上は結果オーライなのだろうか。

 

 明人は珍しく申し訳なさそうな表情で説明を続ける。

 

 「今日中には目的が達成できそうなんだ。多分、今回の件でも重要な情報が得られるかもしれねぇから、もう少しだけ待ってくれ。」

 

 そういわれては、引き留めるものも引き留められない。

 一人の方が探しやすいこともあるだろう。

 

 「分かった、こっちも今日が山場みたいだから。明日、情報を交換しよう。」

 

 「おう…あ、そうだった、透。」

 

 話がまりかけたところで、明人が声を上げる。

 なんだ、と続きを促す。

 

 「一応、昨日分かったことがあるんだが、今回の件、予想以上に大きい問題だ。

  組織だった動きもあるみたいだから、そっちも気を付けろよ。」

 

 「……は?」

 

 唐突なことに思考が止まる。

 

 それだけまくしたてると、そんな俺を置いて、明人はさっさと行ってしまう。

 最後の最後に爆弾だけ落としていきやがった。

 

 組織だった動き。

 

 つまり、今回は現象ではなく、人為的な事件であるということか?

 仮にそうだとすると、いったい何のためにこんなことを。

 

 人が消える、組織。

 情報が出るたびに問題が増えるな。

 

 どれだけ根深いのか予想すらつかない。

 

 「あれ、透さんどうしたんですか?」

 

 宿から出てきた白上が俺を見つけると声をかけてくる。

 

 少し話し込んでしまっていたな。

 だが、合流する手間が省けたと思えばいいか。

 

 「明人とそこで話してたんだ。

  今日も単独で動くみたいだから、俺もみんなと一緒に行くよ。」

 

 「なるほど、了解しました。

  あやめちゃんとミオもすぐに出てくると思いますよ。」

 

 どうやら、一人だけ先に外に出てきていたらしい。

 周りはよく見ているようだが、落ち着きはあまりないのかもしれない。

 

 改めて、白上を見てみる。

 

 今朝、大神の隠していたことをさらっと言ってのけたのもそうだが、本当に周りの機微に聡い。

 普段は大神がしっかりしているが、こういう時はしっかり支えるあたり、良いコンビなんだな。

 

 流石に見られていることに気が付いたのか、白上が警戒するように後退りをする。

 

 「…何ですか、また変なことを言うつもりですか。」

 

 「変なことって…、人聞きが悪いな。」

 

 まだ、昨日の朝のことを引きずっているらしい。

 思ったことをそのまま言葉にしただけなんだが。

 

 ただ人の往来の中、周りからの視線の温度が下がった感覚がある。

 これはまずいな。どうにかして白上からの信頼は取り戻しておきたい。

 

 「あー、…そうだな、さっきのことだけど、白上って優しいよな。」

 

 「?…はぁ。」

 

 怪訝そうに首をかしげる白上。

 しかし、そんなことはお構いなしに続ける。

 

 「ほら、大神が一人で抱え込まないようにしたんだろ?

  そういう気づかいができるのは素直に尊敬する。」

 

 言うと白上はなぜかこちらにジト目を向けている。

 何故こうなった。どこで失敗したのか分からない。

 

 「透さん、そういうことは気が付いても言わない方が良いですよ。」

 

 言って、そっぽを向いてしまう。

 本格的に機嫌を損ねてしまったか?

 

 後悔が頭をよぎったところで気が付く。 

 よく見ると、白上の横顔がかすかに赤くなっている。

 

 なんだ、そういうことか。

 

 「照れてただけか。」

 

 言った後で失敗に気が付く。

 思わず、考えていたことが口をついて出た。

 

 すぐに口を押えるも後の祭り。

 白上は顔を下げたままプルプルと震え始める。

 

 「…白上…さん?」

 

 恐る恐るといった風に声をかけると、白上は顔を上げてこちらを睨みつける。

 

 「だから、そういうところですよ!」

 

 昨日に引きつづき、通算二度目の尻尾攻撃が目を襲う。

 

 これからどんな困難が待ち受けているのか分からない中、こんなこと考えるのもなんだが、ずっと、こういった日常が続いて欲しいと、ただ願った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  





気に入ってくれた人はシーユーネクストタイム
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。