【完結】色づく想ひ    作:ワンダーS

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 ゆっくりと意識が浮上していき、微睡の中目を覚ませば真っ先に木造の天井が目に入った。見覚えのない天井に首を動かして部屋の様子を見回してみる。

 「…何処だ、ここ。」

 畳に襖と、如何にも和風といった部屋。しっかりと感覚のある身体でのそりと起き上がれば、窓から差し込んでくる日光が顔を照らした。窓の外に広がっているのは、紅い葉をちらつかせる木々の群らがり。

 山奥にある家の一室だろうかと何となく辺りを付けていると、不意に部屋の襖が外からノックされる。

 「こんこーん、入りますよー。」

 返事をする間も無く開けられた入り口から入ってきた、柔らかな白い長髪を携えた可憐な少女を目にして思わず体を硬直させる。浮世離れした彼女の容姿に見入ったわけでは無い、それよりも俺の意識を引いたのは彼女の頭の上でぴょこりと動く白い獣耳と、後ろに揺れるふわりとした尻尾であった。

 衝撃のあまり何も言えないでいると、彼女は起き上がっている俺の姿を見て目を丸くしてこちらに駆け寄って来る。

 「良かったー、目が覚めたんですね。気分が悪かったりしませんか?」

 「あ、あぁ、大丈夫。」

 声を掛けてくる彼女にそう返しながらも、俺の視線は彼女の頭の上へと注がれていた。獣耳は彼女が話している間にもぴょこぴょこと動いている。

 流石にここまでじっと見られれば気が付いたようで、彼女はくすくすと笑いながら口を開いた。

 「これ、気になりますか?ちゃんと自前ですよ。」

 ほら、と言いながら彼女は自らの獣耳を指さしてさらに大きく動かして見せる。ここまでされては目の前の現実を受け入れざるを得ない。

 「そうみたいだな…。あ、悪い、不躾に見過ぎた。」

 「いえいえ、お気になさらないで下さい。珍しい事は自覚してますので。」

 慌てて頭を下げると、彼女は変わらぬ調子で笑いかけてくれる。その様子から彼女が善人であることは明白であった。

 「いやー、それにしても災難でしたね。」

 にやりと笑う彼女に言われて、ふと意識を失う前の事を思い出す。やはりあれは悪夢などではなく、実際に起こったことだったのだ。

 「まったくだ、もうあんな目に合うのは御免こうむりたい。」

 苦笑いでそう返しながら肩をすくめる。自分の身体が消えかけるなど、体験しないに越したことは無い。

 「改めて、助けてくれてありがとう。おかげでこうして生きていられる。」

 「大げさですよ。でも、どういたしまして。」

 感謝を伝えれば、彼女は素直にそれを受け止めてくれる。そう言えば、記憶の限りでは彼女の他にもう一人黒い少女が居たはずだ。

 「もう一人一緒に居たよな。出来ればその人にもお礼をしておきたいんだが…。」

 「あぁ、ミオですね。ミオなら今は出かけていまして。」

 「そっか、なら帰ってきたらその時にでも。」

 あの黒い少女の名前はミオというらしい。彼女も同様に恩人だ、礼の一つくらいは言っておかねばなるまい。

 「ところで、その右腕の宝石は何なんですか?」

 「宝石?」

 白い少女に唐突に言われてるが、何の事やらピンとこず疑問の声を上げながら自らの右腕へと目を落とす。

 「…なんだ、これ。」

 右腕、正確には右手の甲だ。その部分に人体にはおよそ似つかわしくない宝石が埋め込まれていた。宝石の色合いは無色に近く、何処か濁っている様に見える。こんなもの見た記憶も無いし、ましてや埋め込んだ記憶など当然無かった。

 取ろうにも最早身体の一部と言える程に強く癒着していて、これでは抉りとる他方法は無いが、流石にそこまでしようとは思えなかった。

 「白上もその宝石は見たことが無いですね。その宝石の埋め込まれた右手だけが残っていたので、ぎりぎり助けられたんです。何か特別な能力が有ったりとかは…。」

 少女は右手の宝石を覗き込むと、そのままこちらに視線を向けて問いかけてくる。しかし、心当たりは微塵も無いため、正直に首を横に振る。

 「宝石に関しては分からないが、少なくとも俺は特別な力とかは使えたりしない。」

 「なるほど…なら、考えても仕方ないですね。害も特になさそうですし、今のところはそれでよしとしましょう!」

 場の空気を入れ替える様に手を叩くと、彼女は軽くそう纏めた。確かに分からない事を考えても答えなどでないのだから、他の事に目を向けた方がまだ建設的だ。

 「なぁ、今更ではあるんだが、ここは君の家であってるか?」

 「はい、そうですよ。…そう言えば自己紹介もまだでしたね。

  私はここ、シラカミ神社の神主こと白上フブキです。」

 少女、もとい白上はそんな自己紹介と共に「よろしくお願いしますね。」と中指と薬指を親指にくっ付けて両手でそれぞれ狐を形作る。

 「シラカミ神社に白上か。ありがとう、俺の名前は…、名前は…。」

 今度はこちらの番だと名前を伝えようとして口を開くが、けれどいざ口に出そうとしたところで自分の名前が出てこない事に気づく。

 「…もしかして、名前が分からなかったりしますか?」

 そんな俺の様子を見て何か察したのか若干その顔を青くして問いかけてくる彼女に、無言のまま首肯する。

 「あー…、えっと…大丈夫です、そんな事も偶にはありますよ!…ちなみに、元居た場所とかは流石に…。」

 恐る恐ると聞いてくる白上。必死にフォローしてくれようとしている彼女の目を見ていられず思わず視線を外す。

 「…分かりません。」

 「…。」

 ついには白上も表情を凍り付かせて固まってしまう。非常に居たたまれない気分を感じながら、沈黙に部屋を包まれた部屋で二人向かい合う。

 やがて気を取り直すように白上はこほんと咳ばらいをした。

 「つまり纏めますと…。貴方は何処から来たのか見当もつかず一旦消えかけた上に右腕に謎の宝石を埋め込まれて挙句の果てに自分の名前すら思い出せなくなったと。」

 改めて聞いてみると、俺はかなり危機的な状況にあるらしい。何処か他人事の様に感じるのは、脳が現実を受け入れたくないという精一杯の抵抗なのだろう。

 「…まぁ、そうなる。」

 けれど、何処まで行ってもこれが現実である事に変わりは無い。一言、それだけ返せば、白上はふっと息をつき、立ち上がって窓へと向かう。そして勢いよく窓を開けると、彼女は目いっぱい息を吸い、解き放った。

 「なぁんじゃそりゃぁぁ!!!!」

 




 
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