【完結】色づく想ひ    作:ワンダーS

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以上


息子(中)

 「それで、あんた、どこほっつき歩いてるのかと思えば。」

 

 ヨウコさんの入れてくれたお茶を飲んでいると、唐突にそう切り出された。

 その言葉に、俺と百鬼は揃って首をかしげる。

 

 どうしたのだろうか。

 

 「まさか、こんな可愛い娘を捕まえてくるなんて。子供の成長は早いわね。」

 

 飲んでいたお茶を吹きかける。

 

 そうか、俺を息子と思っているのなら、息子が恋人を連れて帰ってきたように映るのか。

 こんなことなら、白上もつれてきた方がよかったか。

 

 一瞬そんなことを考えるも、一人ならいざ知らず、二人も女性を連れて帰る息子というのもどうなのだろうか。

 

 実際のところ全く違うのだ、俺は息子として否定しよう。

 

 「違うよ、ヨウっ!?」

 

 また名前で呼びそうになり、隣の百鬼に再び脇腹を突かれ、思わず声が変に途切れた。

 幸いにも、ヨウコさんは突然の奇声にも動じず、ただニコニコとしている。

 

 本当に幸せそうに笑うな。

 

 しかし、中々呼び方が定着しない。

 記憶の欠落で、そう呼んだことが記憶にないのが原因なのか、馴染みのない言葉を使っている気分だ。

 

 とにかく気を取り直して。

 

 「えっと、母さん」

 

 「私たち、結婚を前提にお付き合いさせてもらってます。」

 

 俺の言葉に続けるようにして、百鬼が言葉を紡ぐ。

 その背筋はピンと伸びていて、まるで、重要な話でもするみたいで…

 

 今なんて言った?

 そこまで考えたところで、何が起こったのか理解できなかった。。

 

 百鬼の一人称って余じゃなかったっけ。それ以前に結婚、お付き合い。ここは否定するところではないのか。

 突拍子がなさ過ぎて、脳がバグを起こしそうだ。

 

 様々なことが頭をよぎり、最終的にフリーズする。

 

 「まぁ、そうだったの!こんなに可愛い娘ができるなんて夢みたい…」

 

 うっとりとした様子のヨウコさんとは対照的に、俺の心境はすでに困惑の極みへと達していた。

 

 流石にこれはやりすぎなのではないだろうか。

 ヨウコさんも疑っている様子はないが、どうして百鬼はこんなことを。

 

 今すぐ問いただしたいところではあるが、ヨウコさんの手前そうするわけにもいかない。

 とにかく、今は流れに乗るしかない。

 

 いったん思考を整理すると、ゆっくり口を開く。

 

 「ごめん、少しお手洗いに…」

 

 全然整理がついていなかった。

 この場から一度離脱するために席を立つ。

 

 このままこの場にとどまっていたら、下手なことを口走りそうだ。

 

 百鬼に少しこの場を任せると目くばせをして、居間を出る。

 まだ話し始めて少しだが、その間に想像の一つ二つ上を超えていかれた。

 

 後で百鬼に何故こんなことをしたのか聞いておかないと。

 

 一応ポーズだけではあるが、手洗いへと向かう。

 その道中、ふと小さな部屋のドアが開いていることに気が付く。

 

 他人の家ではあるし、勝手に入るのもどうかと思うが、何故か異様に興味を惹かれる。

 この部屋に入っておくべきだと、強く感じる。

 

 何かに突き動かされるように入る。

 その部屋には掃除道具や、古めの書類などが置いてある。

 

 どうやら、ここは物置のようだ。

 

 ふと、目の前に小さな机が一つ置いてあり、その上に一つロケットが置かれているのを見つける。

 チャームが開けられているそれは、中に入れられた写真が見えている。

 

 「…これは」

 

 その写真に写っているのは若い女性と小さな子供。

 子供の方は分からないが、その女性にはどこかヨウコさんの面影がある。それから察するに、10年ほど前の写真のようだ。

 

 ジュウゾウさんからは旦那さんは子供が生まれてすぐに亡くなったと聞いた。

 女手一つで本当に大切に育ててきたんだということが伝わるようだ。

 

 「…」

 

 それだけに今の自分の立ち位置がそれを引き裂いているように思えてならない。

 

 …戻ろう、今は少しでも情報が欲しい。

 先ほどの話も百鬼に合わせておこう、そちらの方が話がスムーズだ。

 

 ロケットをもとの位置に戻して部屋を出る。

 考えがリセットできた。

 

 「それであの子ったら…あら、早かったわね。」

 

 「おかえり、トウヤくん」

 

 戻ると、ヨウコさんと百鬼は談笑していた。なんだかんだで仲良くなっているらしい。

 しかし、トウヤと呼ばれてもあまり違和感がないな。透と似ているからだろうか。

 

 そんなことを考えながらも、百鬼の隣に座る。

 

 「それで、なんの話をしてたんだ?」

 

 尋ねると、百鬼は少し苦笑いを浮かべると答える。

 

 「トウヤくんの小さいころの話。」

 

 本当に何の話をしているのだろうか。定番であるとは思うが何も忠実にそれに従わなくても良いだろうに。

 

 「それにしてもあんなに小さかったのに、こんなに大きくなっちゃって。」

 

 感慨深げに話しているヨウコさんに流石に顔が引きつる。

 

 母親としてのイベントをすべて行うつもりなのだろうか。

 息子の立場としては気まずいことこの上ない。

 

 そんな思いもむなしく、その話題が止まることはなかった。

 少し恥ずかしいような話、頑張っていた話、楽しかった話。

 

 相槌を打つぐらいしかできなかったが、この親子の思い出を知った。

 これからの調査に関係はないものの、話している時のヨウコさんは幸せそうだった。

 

 「ごめんくださーい」

 

 しばらくして、外から白上の声が聞こえてくる。

 ジュウゾウさんとの話は終わったらしい。

 

 「あら、誰かしら。ちょっと出てくるわね。」

 

 ヨウコさんは立ち上がるとパタパタと小走りで玄関の方へと向かっていった。

 二人にもこの状況を説明しておかないといけない、ということで俺と百鬼もそれに続く。

 

 玄関に到着したヨウコさんがドアを開ける。

 

 「はーい、どなたですか?」

 

 「え、あれ、あ、初めまして…」

 

 ドアの前には白上と大神が立っており、こちらを見ると目を丸くする。

 それはそうだ、意気消沈だと聞かされていた人物が何喰わぬ様子でドアを開けたのだ、驚きの一つもする。

 

 しかし、驚いていたのは二人だけではないようで。

 

 「あなた達は、あのシラカミ神社の?なんでまたこんなところに…」

 

 ヨウコさんもそう言いながら指をさしている。

 

 あのシラカミ神社というからにはやはり、この二人は有名なのだろう。

 最初から一緒にいたために、周囲からどう見えているのかというのには興味があるな。

 

 だが、今はそれは置いておいて。認識の齟齬が生まれないように状況を伝えておかねばならない。

 

 ヨウコさんに断りを入れ、二人に手招きをして玄関から離れる。

 二人も上手く状況を理解できないらしく、離れるなり詰め寄るように聞いてくる。

 

 「ちょっと、透君、ヨウコさんって話せるかも怪しかったんじゃないの?」

 

 「最初はそうだったんだけど…端的に説明すると、俺のことを息子のトウヤさんと誤認しているらしくて、ケガレも溜まってたらしいから、とりあえずその設定で通してる。

  だから、二人もヨウコさんの前ではトウヤさんの名前で呼んでくれ。」

 

 ケガレの名前を出した途端、白上と大神の顔が曇る。

 やはり、彼女らもケガレをため込んだ結果は知っているらしい。

 むしろ、俺がカクリヨに来る前はそれの対処もしていたのだろう。

 

 「とりあえず、分かりました。…しかし、それでは私たちはどういう立ち位置にしましょうか。

  …婚約者とか?」

 

 「あ、それは余がもうやったよ。」

 

 「なんで最初にその案が出てくるんだ…」

 

 もっと他に友人とか協力者でいいだろう。よりにもよってそこが選ばれるのはどうなのか。

 ことの発端でもある百鬼にも問い詰めたくなるが、いまさらだと諦めるしかない。

 

 「うーん、それなら協力者ってことはそのままで良いんじゃないかな。

  一か月の空いた時間の理由にもなるし、これからも行動しやすいし。その間にトウヤさんの捜索をする感じで。」

 

 そうだ、本物のトウヤさんは今も行方不明なのだ。一か月消息がつかめない以上、最悪の場合も想定しておかないといけない。

 

 そう考えると、今のこれも気休めにしかならないな。ずっと、このまま続けるわけにもいかない。

 しかし、それではヨウコさんはまたケガレを溜めこんでしまうのではないか。

 

 「大丈夫だよ」

 

 そんなことを考えていると大神がふと声をかけてくる。

 大神へと視線を向けると、笑みを浮かべている。

 

 「さっき占術で調べたんだけど、ちゃんと元気にしてるみたい。ただ、どこかに捕えられているみたいだけど、多分数日のうちには見つかると思う。」

 

 その言葉に、思わず膝から崩れ落ちそうになるほどに心の底から安堵する。

 

 「ミオちゃん、それ本当!」

 

 百鬼も声を上げて喜んでいる。

 ここにきて、一番の吉報だ。

 まだ、誰に囚われているのかは分からないが、生きてくれている、それが分かるだけでも十分すぎるほどだ。

 

 「うん、ただ今日はもう占術は使えないの。

  朝の占いでかなり消費しちゃってるみたいで、本格的に捜査できるのは明日からになりそうかな。」

 

 ごめんね、と謝りながら言う大神。

 その言葉に、各々が首を横に振る。

 

 「一番の功労者がそんなこと言わないでくれよ、こっちの立つ瀬がなくなるだろ?」

 

 そもそも大神がいなければここまで来れていなかったのだ、こちらが感謝することはあれどもあちらから謝罪されるのはおかしな話だ。

 大神が捜索に有利なワザを持っていることもあり、本人がそれを発揮できないことを気にしてしまうこともあるだろうが、自分にできないことを強制するような人間ではないつもりだ。

 頼りきりになるというのもよくはない、元々、ここには 

 

 「あの、透さん。そろそろ」

 

 白上に袖を引かれて、指をさす方向を見やればヨウコさんがポカンとした顔でこちらを見ている。

 そうだった、二人には説明したが、ヨウコさんには何も伝えていないんだった。

 

 失念していたと、反省する。

 ヨウコさんに説明するため、そばまで駆け寄る。

 

 「トウヤ?あんた、なんでシラカミ神社の方と…」

 

 まだ状況が理解できていないらしく目を白黒させている。

 

 「実はあの二人はある事件の調査をしてて、俺はそれに協力してたんだ。

  百鬼ともその道中で出会ったんだ。」

 

 嘘は言っていない。すべて起こったことそのままに語っただけだ。

 あからさまに嘘ついてもどこかでほころびが生じるものだ。なら、本当のことを織り交ぜた方が何倍もいい。

 

 「事件…危ないことはやってない?」

 

 純粋に心配なまなざしを向けられる。

 少し硬直するが、すぐに頷く。

 

 「大丈夫ですよ、やっていることは聞き込みなどの情報を集めることだけですから。」

 

 後ろから白上も援護をしてくれる。

 そのかいもあってか、ヨウコさんも納得してくれたようで、ほっとしたような顔でそう、と呟いた。

 

 「あんたは昔から正義感は強かったもんね。…でもケガはしないように気を付けなさいよ?」

 

 「あぁ、分かってる。」

 

 母からの優しさを感じながら笑顔でそう返した。

 

 





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