どうも作者です。
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以上
ヨウコさんに見送られ、俺達は宿へと帰路についていた。
今回の事件の被害者に直に遭遇してみて、一時はどうなることかとも思ったが、トウヤさんも生きているようだし、見つける目途もついている。
大神の占術も、関連づいたものがあればあるほど精度も上がるようだ。
他に被害者がいないとは言い切れないが、明人の言うことが真実であれば一つの組織が関与しているらしいし、トウヤさんに辿り着けば、芋づる式で真相が明らかになるだろう。
そうなれば、一件落着だ。
謎に包まれていた当初の調査と比べて、いささか気が楽になる。
そういえば、明人の調べものとやらはどうなったのだろうか、明日には終えておくと言ってはいたが。
「透君、聞いてる?」
ふと、大神に話しかけられる。
「ん、すまん聞いてなかった。どうした?」
少し考え込みすぎたか、何やら聞き逃してしまったようだ。
申し訳なく思いつつ聞き返す。
「お昼の後キッチンに行ってから、帰ってくるのが遅かったからどうしたのかなって。」
「…あぁ、そのことか」
キッチンから帰った後も聞かれたが気恥ずかしくてはぐらかしていたのだ。
改めて思い返しても、これを話せるかといわれると疑問が残る。
しかし、はぐらかしようがないのも事実なわけで。
幸い、少し前を歩いていて白上と百鬼は聞いていない。
「あー…なんだ、母親ってあんな感じなんだなって。
そこの記憶が欠けてるから、いるかどうかすら分からないけど。母親に限らず、家族が温かいことが分かって、少しセンチメンタルになってた。」
説明するとしたらこんな感じ。
そこまで大した理由ではないし、何より自分の弱さをさらけ出すようで。
目線を逸らし大神の顔を見ないようにする。
そうして、この羞恥からも目を逸らす。
最近、というか今日は妙に弱みを見せてしまう日だ。厄日か何かだろうか。
「…寂しい?」
「寂しくなんてないさ。毎日賑やかだし、調査の手伝いとかやることもできたし。」
どこか不安げに聞いてくる大神に本心を語る。
正直恵まれすぎているのではないかと思うほどだ。
「その実はね…」
大神は言いにくそうに口を開く。
「透君は助けられることを望んでなかったんじゃないかって、時々そう思うの。」
「俺が?」
なんでまたそんな考えに至ったのか。
むしろこちらとしては、助けてもらった上に色々と面倒を見てもらえて感謝しかない。
しかし、大神はそうは思っていないらしい。
「透君が本当はあのまま消えてしまいたかったって思ってるんじゃないかなって。
それで、透君が見つかったのだってうちが原因だし。」
「…そういうことか。」
助けたことへの責任、そういうことだろうか。
例えば、親からはぐれた子猫が腹を空かせて息絶えようとしていたところに、気まぐれでほんの少しの餌を与える。
餌を食べた子猫はその分だけ長生きはできるだろう。
餌を与えた本人も子猫を助けてやったと達成感に浸れるだろう。
だが、親もおらず、自分で餌も取れない中放置された猫はやがて息絶える。
それは根本的な救済ではなく、ただ、子猫が苦し時間を伸ばしただけだ。
つまり中途半端に助けるということは、ただの善意の押し付けに他ならない。
助けるのであれば、最後までその責任は取らなければならない。そうでないのならば、最初から助けようとするべきではない。
大神が感じているのはそういう責任。助けたことによりむしろ不幸になっているのではないかという不安。
助けられたこちら側としては見当違いに思えるが、大神の様子を見るに本気で気にしているようだ。
「んー、そもそもウツシヨでの俺がどうだったかは知らないから、その観点では何とも言えない。
でもさ、少なくとも今の俺は生きててよかったって思ってる。
白上とゲームしたり、百鬼と稽古をしたり、大神の料理の手伝いをしたり、他にもあのまま消えてたら経験できなかったことばっかりだ。もちろん、ウツシヨにいたとしても。
カクリヨに来たからこそのモノがたくさんある。
だから、俺は助けられたことに感謝こそすれ、恨んだり、後悔するなんてことは絶対にないよ。」
嘘偽りのない本心を語る。
恐らく大神がこのように感じた原因は他にもあるのだと思う。
だが、それが何なのか、どうすれば解消できるのかは分からない。
それでも、少しでも大神の心が軽くなるのならと、そう思った。
「…そっか、良かった。」
大神は小さくはにかむ。
まだ影は残るが、先ほどに比べれば断然こちらの方が良い。
「にしても、大神って意外と心配性だな。」
「む、なぁに唐突に。」
からかうように言ってみると、少しむくれたように大神は表情を変える。
そうだ、こんなしんみりとしたような話より、日常的にするような話の方がずっといい。
「さすがはシラカミ神社のオカンだ。」
「ちょっと待って、そんなあだ名初めて聞いたんだけど。うちっていつもそう呼ばれてるの!?」
びっくり仰天、そんな言葉ピッタリ当てはまるようなそのリアクションに吹き出すと、大神も次第につられるように笑いだす。
割とツボの浅い大神は少し誰かが笑うだけでそれにつられることがある。時々耳にダメージが来る声量を出す時があるが、そこには目をつむる形となっている。
「二人共楽しそうですね、どうしたんですか?」
二人してくすくす笑いあっていると、後ろから白上の声が聞こえてくる。
どうしたといわれても、しょうもないことで笑っているだけなので説明のしようがない。
何でもない
そう振り向いて説明しようとしたところで気が付く。
(あれ、おかしくないか)
何故後ろから白上の声が聞こえてくるんだ。
白上は百鬼と一緒に、俺と大神の前を今も歩いているのに。前にも同じようなことはあったが、あの時は大神がワザを使っていた。
しかし、今はそんな様子もない。
ふと、周りの景色に既視感を覚えた。
(確かに見たことがある、そこには)
どこだったか、この夕暮れ時の茜色の都が…
(深紅の血にまみれた四つの骸が転がっていた。)
今朝見た夢の中での景色と一致した。
「大神っ!!」
「きゃっ!?」
脳が警鐘を鳴らすと同時に、鬼纏いで全力の身体強化を施し、大神を抱き寄せて飛び退る。
何が起こるのか分からないが、行動をしろと、そこから離れろと何かが頭の中で訴えていた。
後方から光を反射させながら振り下ろされたそれは、左腕をかすめ、鋭い痛みが走る。
「ミオ!透さん!」
今度は本物だ、異変に気が付いた白上と百鬼が何者かとの間に割って入る。
「大神、無事か」
腕の中の大神に怪我はないか確認する。
見た限りでは無事なようだが万が一がある。
「うん、でも透君、その腕…」
大神の視線を追って自分の左腕を見ると、袖が切り裂かれて腕は深く斬られている。
傷口からは、とめどなく血が流れ、袖が赤く染まっている。
確かにかすめはしたがここまで深く切られてはいないはず。
ということは、何かしらのワザかシンキか。
いくつかあたりを付け、元居た場所に視線を向ける。
「おや、これはおかしい。」
何者かがこちらには一瞥もくれず立っている。
赤いタキシードを身に纏い、頭にはシルクハット。顔にはまるでピエロのような化粧をしたその人物は、視線が集まる中、気にするそぶりも見せずただその手に持つ曲刀を見つめる。
「確実にとれるタイミングでしたが、失敗ですか。
予定が狂いました。」
淡々と呟くその姿に気味悪く感じる。
得体は知れないが、少なくとも友好的な関係になるつもりはなさそうだ。
いつでも動けるように、大神を離し、立ち上がる。
「気を付けて、前に話したのがこの人だよ」
「はい、間違いありません。今度は逃がしませんよ。」
白上と百鬼は、視線をそのままに警告してくる。
その言葉で、先日の宿でのやり取りを思い返す。
確か、この二人係でも逃げ切る程の人物だ、ただ逃走技術に特化しているだけとは思えない。二人に近い実力者であると考えるのが自然か。
緊張が場に走る中、こちらに視線を移すとその人物はゆったりとした動作で大仰に手を広げ、満面の笑みを浮かべる。
「どうも皆さま、初めまして。私、道化師を生業としております、どうぞお気軽にクラウンとお呼びください。」
とても先ほど斬りかかってきたとは思えない明るい自己紹介。
その手にもつ血のついた曲刀さえなければ、サーカスの始まりにも思えるが、そんな緩んだ空気からは程遠い。
「目的は何。」
警戒心をあらわに百鬼が普段とは違う、初対面の時のような冷たい声で言い放つ。
今にも斬りかかりそうなその雰囲気にも動じず、その人物、クラウンはにこやかに笑っている。
「目的だなんて、そんな大層なものは何も。ただ、私は材料を取りに来ただけですので。」
「材料?何の。」
聞き返すも、答える気はないらしい、ただ、不気味な笑みを張り付けたままだ。
大神を攻撃したのはそのついでなのか、それともそれ自体が目的か。
どちらにせよ、ここで逃がすという手は存在しない。
全員がジリッと一歩前に出る。
クラウンはそんな空気を感じ取ったのか、わざとらしく慌て始める。
「おっと、万全なカミ三人にそれに近しいアヤカシ一人を相手では分が悪い。自己紹介も済ませたことですし、そろそろお暇させていただきます。」
その物言いにふと違和感を覚える。
白上達がカミであることは、まだ、このカクリヨに住んでいれば知る機会もあるだろう。
だが、俺はまだここに来てせいぜいひと月程しか経過していない。
それを知る人物は限られているはず。
「逃がさないと、言ったはずですよ!」
白上はいつかのように指を刀に添える。
『エンチャント』そう唱え、刀を振ると金属製であるはずの刀はその形を変え、鞭のようにクラウンへと襲い掛かる。
それを前にして、クラウンは避けるそぶりすら見せない。
白上の形を変えた刀はそのまま巻き付いていき、完全に身動きを封じる。
「捕縛完了です。」
そう、簀巻きにされて動くことなど叶わないはずなのだ。
だが、クラウンの笑みは崩れない。
次の瞬間、クラウンの体が透けたように見えたかと思うと、巻き付いていたはずの白上の刀が音を立てて地面へと落ちる。
「そんな、どうして。」
何事もなかったかのように立つクラウンに次は百鬼が、その体がぶれて見えるほどの凄まじい勢いで距離を詰め、刀を振るう。
流石にこれは受けきれないのか、クラウンは最小限の動きで回避すると、羽織っていたマントに手をかけた。
「それでは皆様、御機嫌好う」
そういうが早いか、手に持ったマントを翻す。
一瞬、それに姿が隠れたかと思うと、マントが地に落ちる頃には影も形もなくなっていた。
周囲を見渡すも、それらしき人影はない。
どうやらしてやられたみたいだ。
しかし、姿は見えないが、まだ安全と確定したわけではない。
一応まだ周囲には気を配る。
ふと、少しふらつき咄嗟に踏ん張りなおす。
予想以上に血が流れている、応急手当にもならないが紐で腕の根元でも縛るか。
「透君、腕見せて。」
紐を取り出そうとしたところで、大神が待ったをかける。すると、俺の左腕に手を当て何やら呟きだす。
途端に、触れた個所に熱が灯り、みるみるうちに傷がふさがっていく。
「…うん、これでオッケー。違和感はある?」
完全に傷がふさがり、大神が手を離す。
確認でいくらか腕を動かしてみるが痒みすらない。
「いや、無い。凄いなこれ、ありがとう。」
「お礼を言うのはうちの方だよ。
透君、助けてくれてありがとう。」
「どういたしまして。」
礼を言われなれておらず、少し照れながらもそう返す。
しかし、クラウンには逃げられてしまった。あの人物が何者なのか、材料とは何のことか気になることが多い。
何はともあれ、皆無事でいれた。今はその結果だけでいい。
「また逃げられましたー、自信無くしそうです。」
「余もまた何もできなかった。」
俺は納得したが、そういうわけにもいかない二人が道端にも関わらず盛大に落ち込んでいる。
一回目の時も相当悔しがっていたことから、今回逃したことはひとしおであろうことが伺える。
大神と二人、苦笑いを浮かべてそれを見守る。
トウヤさんを監禁しているという組織に、得体のしれない道化師のクラウン。
それらの関係性とその所業を俺たちはまだ知る余地もなかった。
気に入ってくれた人はシーユーネクストタイム