【完結】色づく想ひ    作:ワンダーS

25 / 162

 どうも、作者です。

 誤字報告ありがとうございます。
 評価くれた人、ありがとうございます。

 以上

 


原因

 朝、窓から差し込んでくる日差しで目を覚ます。

 

 昨日は眠れないかとも思ったが、白上と話した後は自分でも驚くほどすんなりと眠りにつけた。

 驚いた事もいくつかあったが、どうせ全て後の祭りだ。それらがあったからこその今の俺がある。それに変わりはない。

 

 昨日と違い変な夢も見なかった。もしかすると、あれも大神と同じような予知なのかもしれない。検証をしようにも、生憎と今朝は目覚めるまでぐっすりと熟睡していたから、確かめようがないが、そう言う可能性があると考えておこう。

 

 身体を起こしながら欠伸混じりに目を擦る。

 何はともあれ、今日から本格的な捜索だ。

 

 寝起きだからかぼんやりとしている脳に、頬を叩いて気合いを入れ、ベッドから降りようと顔を横に向ける。

 

 突然、目の前に赤い宝石が現れた。

 いや、これは宝石ではない、瞳だ。

 

 「うおっ!?」

 

 反射的に仰け反って距離を取る。

 見ると、その瞳の持ち主は百鬼だった。どうやら、すぐそこにいた百鬼と至近距離で顔を突き合わせていたらしい。

 

 驚きで完全に目が覚めた。

 

 「おはよう、怖い夢みなかった?」

 

 「え、あ、うん、おはよう。大丈夫だけど…」

 

 何でいるの?何してた?何があった?

 

 目は覚めたが、困惑はしている。

 意表をつかれる形となり、色々と疑問符が頭に浮かびながら返事をする。

 緊急事態かとも考えたが、それなら夢の内容は聞かないだろう。

 

 「うん、それなら良かった。余は先に食堂に行くから、透くんも早くきてね!」

 

 百鬼はそれだけ言い残すして小走りで扉の前まで移動する。

 そのまま出て行くかと思いきや、こちらに振り返ると小さく笑いながら手を振ってくる。

 

 はて、こんなキャラだったか?

 疑問に思いながらも、取り敢えず手を振り返しておく。それを見て満足気にしながら百鬼は今度こそ部屋から出ていった。

 

 「…なんだ、あれ。」

 

 見送りながら、手をそのままに一人呟く。

 どこか雰囲気が軽いというか、距離感が近くなった気がする。特に良い意味でも悪い意味でもなく。

 

 別に距離が近くなるのは良い。問題なのはその詰め方だ。

 例えるなら、今までは少し遠くにいたのが、瞬きの間に目の前に立っているような。

 百鬼なら物理的にできると思うが、それとこれは話が別。理由もなくそんな事されては、こちらとしても嬉しさよりも戸惑いが勝る。

 

 「…」

 

 考えても分からないものは分からない。

 思考を切り替えて、身支度を整えると食堂へと向かう。

 

 「あ、おはようございます、透さん。」

 

 「おはよう、白上」

 

 食堂に到着して、百鬼と白上と合流する。

 白上と、昨晩と同じような挨拶をする。

 珍しい事に、今日は大神はまだ来ていないようだ。

 

 「大神はどうしたんだ。」

 

 「ミオでしたらお部屋です。少しやりたい事があるみたいで、朝食は先に食べて良いらしいですよ。」

 

 そうか、ならお言葉に甘えるとしよう。

 3人で席に座り、それぞれ注文を済ませる。

 

 落ち着いたところで、ふと、百鬼へと視線を向けてみる。

 先程のように様子の変わったところがないか、気になってしまう。

 今のところ、あまり目立った行動も見受けられない。ただ白上と楽しそうに会話をしているだけだ。

 

 …もしかすると、あれは深夜テンションならぬ早朝テンションだったのかもしれない。

 朝早く起きると無性に散歩に行きたくなったり、謎の高揚感を覚える現象だ。

 

 百鬼は、基本的に朝早く起きる事は少ない。少なくとも、朝に強いタイプには見えない。

 だからこそ、少しテンションが上がりすぎたのだろう。

 そうだ、そうに違いない。

 

 少々強引ながらもそう結論づける。

 

 その後は特に何も起きず、平和な食事の時間が流れる。

 この時点ではそう思っていた。

 

 「…あ、透くん。ドレッシングあるよ。はい、これ」

 

 「悪い、ありがとう。」

 

 

 「透くん、おかわりするよね。余がとってくるよ!」

 

 「え、いいのか?サンキュ」

 

 

 「透くん、喉乾いてない?お水注いであげるね。」

 

 「…おう、助かる。」

 

 

 

 透くん、透くん、

 

 一体、このやり取りがたった十数分の間で何度繰り返された事だろうか。

 塩でも取ろうと思えば、先んじて百鬼は塩の容器をとり手渡してくる。水が少なくなればすぐに注ぎ足してくれて、米が無くなれば率先して取りに行ってくれる。

 

 「…あの、透さん。」

 

 「…なんだ、白上。」

 

 容器の水が無くなってしまい、百鬼が替えのものを取りに席を立つと同時に白上が耐え切れなくなったのか話しかけてくる。

 その声が、いやに冷たく感じるのは俺の気の所為だと思いたい。

 

 「あやめちゃんに何したんですか?」

 

 「やめろ、人聞きの悪い言い方をするんじゃない。」

 

 朝方とはいえ、ちらほらと他の席に人が座っているのが見える。

 事実無根とはいえども、変なレッテルを貼られるのは勘弁願いたい。

 

 「あんなに甲斐甲斐しく世話を焼いてるあやめちゃん初めてみましたよ!

  何が起こったらああなるんですか!」

 

 「こっちが聞きたいくらいだよ!本当に俺何したんだよ…」 

 

 白上は先ほどとは打って変わって、感情的に声を荒げる。連動するように尻尾が左右に激しく揺れている。

 

 頭を抱えたくなるとはこういう事か、と嬉しくもない経験を積んでしまった。

 まず、今朝に始まり、百鬼の様子がおかしい。これは確定だ。おかしくないにしてもどこかしら変化が起きている。白上には普通にしているから、対象は俺になっているらしい。

 

 現状は分かった、次に原因だ。

 寝起きでは軽く流してしまったが、流石にこれはスルーできない。

 

 今朝からおかしくなったのなら、それよりも前に何かが起きたはずだ。

 一昨日は基本調査ばかりで、特別何か起こった記憶はない。

 つまり、昨日の出来事が起因している可能性が高い。

 

 そして、昨日百鬼との間で起こった事といえば…

 

 「そういえば、昨日はあやめちゃんと恋人になってませんでしたか?」

 

 「あー、あれな。でも、あれは違うんじゃないかな。」

 

 確かに、状況が状況だっただけに、そういう設定になっていた。

 しかし、あれは百鬼から言い出していたし、説明からしても変に意識するような素振りは見られなかった。

 必要だったからそうしただけで、そこから今の現状に繋がるかと言われると疑問が残る。

 

 「まぁ、そうですよねー。どう見ても恋愛感情0ですし。」

 

 白上も答えを分かって聞いたみたいで、あっけらかんと答える。

 それは良いのだが、こう、ハッキリと恋愛感情が無いと言われるのも少し寂しさを感じる。

 別に良いんだけど。

 

 だが、これでまた振り出しだ。

 他に何か原因になりそうな事があったか。

 

 「…あ」

 

 「何が思い出しました?」

 

 「いや、これは…まぁ、うん。」

 

 いきなり慌てだす俺に、白上は訝し気な視線を送る。

 一応、一つ思いついた。というか、今朝百鬼自身も言っていたでは無いか。

 結果の一つだと考えていたが、これが原因になるのか。

 

 「それで、何があったんですか?」

 

 「…」

 

 …正直、話しづらい。

 悪夢を見て、百鬼が慰めてくれた。

 

 言ってしまえばこの程度。

 しかし、年頃の男として、少女の胸の中で頭を撫でられたと話すのはプライド的な観点でも、体裁的な観点でも避けて通りたい。

 

 「もしもーし、透さん?」

 

 黙り込んだ俺に再度白上から声がかかる。

いつまで経っても口を開かない俺に痺れを切らしたようだ。

 

 そんな白上の声に、顔を上げ、確固たる決意を持って言い放つ。

 

 「…黙秘で。」

 

 「ちょっ!?」

 

 予想だにしていなかったその言葉に、白上は驚きの声をあげる。

 

 そうだ、そもそもこれが原因であると確定したわけでは無い。

 仮に件の出来事を白上に話したとして、それが違っていたらどうなる。

 俺はただ恥ずかしエピソードを赤裸々に語っただけ、恥の上塗りだ。

 

 何でですかー!、と抗議の声を上げる白上を宥めつつ、しかし、これでは埒があかないのも確か。

 

 「もう百鬼に直接聞かないか。」

 

 「…そうですね。さっきは衝撃が強すぎて失念してましたが、それが一番手っ取り早そうです。

  …それとは別に先程の話もお聞きしたいんですけど。」

 

 その提案に白上も頷いてくれる。

 しかし、俺の態度を見て興味を抱いてしまったらしく、食いついてくる。

 

 「黙秘。」

 

 「えー、けちー!」

 

 無論、話すつもりはない。

 わちゃわちゃと言い合っていると、百鬼が戻ってくる。

 

 「お待たせー、…二人ともどうしたの?」

 

 挙動のおかしくなっている、俺と白上に百鬼がきょとんとした顔で問いかけてくる。

 

 「いや、何でもないぞ。」

 

 「ちょっと世間話をしてただけだよー。」

 

 雑な誤魔化しであったが、「そっか」と納得する百鬼に安堵する。

 白上も同じ心境のようで、二人揃ってほっと息をつく。

 

 「透くん、お水注ぐからコップ取って。」

 

 「すまん」

 

 相変わらず、世話を焼いてくれる百鬼に、どう話を切り出したものかと迷っていると、白上がチラチラとこちらに視線を飛ばしながら、背中を百鬼から見えないように尻尾で叩いて催促してくる。

 

 分かってるって。

 

 「あー、その、百鬼。」

 

 「どうしたの?」

 

 こちらを見つめる百鬼。

 正面切っては聞きづらいが、そうも言っていられない。

 心の中の抵抗を押し切って、口を開く。

 

 「今朝は色々と世話を焼いてくれるけど。どうして良くしてくれるんだ?」

 

 「…嫌だった?」

 

 それを聞いあ百鬼は悲し気に瞳を伏せる。

 しまった、聞き方を間違えたか。

 

 「違うんだ、ありがたいんだけど、…その、何でなのかなって純粋に気になっただけなんだ。」

 

 「え、そうなの?

  良かったー。」

 

 安心したように息を吐くと、百鬼は言葉を区切り、少し考えるそぶりを見せる。

 

 「なんか、何かしてあげたいっていうか、守ってあげたいみたいな…そんな感じ?」

 

 もしかして、自分でもよく分かっていないというオチではないだろうな。

 一瞬そう考えるが、どうやら杞憂で済んだらしい。

 

 しかし、そうか、守ってあげたくなるか…

 

 「…良かったですね、透さん。あやめちゃんの保護対象に入ってるみたいですよ。」

 

 「そう、みたいだな。」

 

 白上が何とも言えないような表情で、百鬼に聞こえないように言ってくる。

 

 保護対象…、百鬼からしてみれば確かに俺は色々と劣っているし、昨日のあれこれとか全部ひっくるめてそうなったのかもしれない。

 

 別に、それが嫌だとか嬉しいとかは感じない。ただ、複雑な気分になった。

 

 「一応なんですけど、透さんが好きだからとかそういう系は。」

 

 「うん、白上?」

 

 そんな俺の顔を見て、爆弾を放り投げる白上に思わず目を向く。

 何言ってんだこの狐は。

 

 視線を向けると、白上はこちらに向けてサムズアップをしている。

 任せておけと言わんばかりにウインクをしてくるが、何も任せてないし、むしろ余計な事をしてるんじゃないよ、その耳引っ張ってやろうか。

 

 「?透くんの事は好きだよ?」

 

 「…すみません、透さん。私では力不足でした。」

 

 きょとんとした顔で答える百鬼に、項垂れる白上。

 何故だろう、特に何もしていないのに振られた気分になる。

 

 何はともあれ、おかしな事になっていないのなら良いさ。

 

 しばらくして、大神も合流して食事を終えると今日の調査、もとい捜索についてざっと確認を取り、出発となった。

 

 「ねぇ、透君。最近フブキからうちの事で何か聞いたりした?」

 

 食堂から出る間際、大神からそう声をかけられる。

 ドキリと脈打った心臓を気にしないよう努めて、ポーカーフェイスを作る。

 

 最近も何も、つい昨夜聞いたばかりだ。大神のワザ、その影響もしっかりと覚えている。

 

 しかし、それをここで馬鹿正直に話す必要もない。

 大神も知られたいと思っている内容ではないだろうし、白上も悪気があって話したと訳ではない。

 

 「いや、何も聞いてないよ。」

 

 「やっぱり…もう、フブキったら。」

 

 ため息をつく大神。

 

 あれ、会話が成り立っていない気がする。

 具体的には、反対の意味で言葉が伝わっている。

 

 否定しようとするも、寸前で大神に「分かってる」と手で制される。

 

 「気を遣ってくれたんだよね。でも、透君は分かりやすいんだから、もっと頑張らないとね。」

 

 「なんか、すまん。」

 

 どうやら、俺の演技力不足らしい。明人に指摘されてから気を付けているつもりではあるんだが、中々身に付かない。

 

 もはやそれが元来の性格なのではないかと、最近は思い始めている。

 

 「謝らないで、そもそもうちが原因なんだから。それで、その件でお願いがあるんだけど。

 うちのワザのことで、透君はあんまり気にしないでね」

 

 「気にするなって、なんで。」

 

 俺を使えば、大神のワザで確定された未来を回避できる。

 

 道具として使っているみたいで気が乗らないとか、そういう感情的な話なら、一言頼んでくれれば断りはしない。いくらでも力を貸す。

 

 そう伝えてみるも、大神は首を横に振る。

 

 「これはうちの問題だから、うちのことはうちが何とかする。

  ううん、しないといけないの。」

 

 その声から、確固たる決意が伝わってくる。

 例え、俺が何を言ったとしても大神の考えは変わらないのだろう。

 

 「分かったよ。でもどうしようも無くなったら、その時は頼ってくれ。」

 

 「…うん、ありがとうね。」

 

 言葉とは裏腹に、少し浮かない顔をしている大神に不安感を覚えながらも、遅れて白上と百鬼の後を追う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…言えないよ、こんなこと。」

 

 ぽつりと零されたその言葉は、誰に聞こえるでもなく、消えていった。

 

 





 気に入ってくれた人は、シーユーネクストタイム
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。