どうも作者です。
準備を終えた俺達は、昨日の内に決めておいた捜索地点に向けて歩いていた。大神の話は気にかかるが、今は何よりもトウヤさんの身の安全を確保する方が先だ。
しばらく進んでいると、今までの同じような景色から、見慣れないどこか暗い雰囲気のある路地裏へと景色が変化していく。霧も少しかかっていることが、その雰囲気を助長している。
「ミオちゃん、後どの位かかりそう?」
「…そうだね、あと10分かな。一応、クラウンの事もあるからみんなも警戒はしておいてね。」
百鬼の問いに、少し間を置いて大神は答える。
その大神の呼びかけに、皆頷き、気を引き締め直す。昨日真っ先に狙われたからこそ、警戒心は俺たちの中で最も強くなっているのだろう。
実際、いつも以上に周りに注意を配っている印象がある。
大神だけではない、百鬼や白上も人通りが少なくなってきたあたりから、見るからに雰囲気が変わった。百鬼はいつでも刀を抜けるように刀の柄に手をかけている。白上は耳をぴんと立て少しの物音も聞き逃さないようにしている。
クラウンの奇襲性能は昨日の結果を見れば一番警戒しないといけない要素であることだと分かる。
特にあの偽装と脱出手段は、噛み合いが良すぎる。仮に奇襲に失敗したとしても、あれがあれば安全に追っ手を振り切って見つからない、なんてこともできそうだ。
しかし、不可解な点も多い。
もしかすると、あの奇襲自体あまり意味のないモノであったのかもしれない。そんな考えが頭をよぎってしまう。そして、この考え自体がクラウンの目的である可能性もある。考え出せばきりがないが、今は俺も気を抜いている場合ではない。
自身に活を入れ、大神に付いて歩き続ける。
そろそろ到着するかという頃、急に百鬼が足を止める。
自然全員の足も止まる。
「どうしたの、あやめ。」
「静かに、誰かいる。」
大神の言葉を遮るように、百鬼が警告する。
その視線は、真っ直ぐ向けられている。
確かに誰かが壁を背に立っている。しかし、俺の目ではまだシルエットがぼんやり浮かぶくらいで、その顔までは見えない。
身構えてゆっくりと進んでいくと、徐々にその姿がはっきりとしてくる。その姿には見覚えがあった。
「…明人か?」
「よう、透と…それにちゃんと他の娘達もいるな。
待ってたぜ。」
軽く手を挙げ、こちらに歩いてくる明人。
しかし、それに反応したのは俺ではなかった。
「止まって。」
そう言い、百鬼はいつの間にか抜いていた刀を明人へと突きつける。
その目にはありありと警戒浮かんでいる。
明人は、少し目を開くも、黙って言われた通りこちらに向かっていた足を止めた。
「透くんからは聞いてるけど、本人であるかは分からない。
だから、まだ動かないで。」
慌てて止めようとするが、その言葉で百鬼の考えを理解する。
まだクラウンの擬態能力については詳しく分かってはいない。仮に、姿まで変える事ができるとして、ここで無警戒に近づいて昨日の二の舞に、なんて事にもなりかねない。
ようは今、目の前にいる明人がクラウンの変装ではない事が証明されれば良い。
その為には、明人本人と俺達の誰か以外答えを知り得ない質問をするのが手っ取り早い。
「明人一つだけ答えてくれ。
この中で俺と出会った後、最初に知り合ったのは誰だ。」
答えは大神だ。
これなら、俺と明人と大神しか知らないし、そもそも、白上と百鬼は面識がなかったはず。
出会った場所も、人通りが少なかったからクラウンが偶然その場面に出くわすなんて可能性も低い。
「そこの黒髪の娘だな。それ以外はまだ話した事も無い。」
即答する明人に、百鬼が確認するようにこちらに視線だけ向ける。
頷いて見せると、百鬼はゆっくりと刀を下す。
「えと、いきなり刀を向けてごめんなさい。」
「理由があったんなら構わねぇよ。それより何があったのか聞かせてくれよ。」
刀を鞘に戻すと、百鬼は明人へと頭を下げた。
明人は気にした様子もなく、笑ってその謝罪を受け入れると、そう尋ねてくる。
隠し立てするような事でもない、むしろ、こうやって話している事でクラウンの標的に入っているかもしれないのだ、話しておくべきだろう。
「実はな…」
掻い摘んで昨日のクラウンとの騒動を説明すると、明人は露骨に顔を顰めた。
「…うわ、そんな奴いるのかよ。よく無事だったな。」
「いや、無事では無かったけどな。」
なんだかんだでバッサリと腕を切られていた。血が足りないなんて、聞いた事はあるが実際になったのは記憶にある限りあれが初めてだった。
クラウンが今回の件に絡んでいない事を願わずにはいられない。そう思うほどに、得体の知れない人物だ。
「それで、明人はなんでこんな所に?」
こちらの状況も話し終えたところで、こちらも気になっていた事を尋ねる。
確か、まだ調べ物があると言っていた。ここで待っていたという事はもうやりたい事は終わったのだろうか。それとも、断念して合流を優先したのか。
明人は少し不甲斐なさそうに頭をかく。
「あぁ、それっぽい場所を見つけて、潜入しようとしてたんだが、少し厄介な事になっててな。
俺1人じゃ、どうにもなりそうにないんだ。」
「それで、うち達もここに来ると踏んで待ってたんだね。」
その通り、と大神の言葉に明人が頷く。
なるほど、調べ物というのはそういう事だったのか。
明人は、イワレの動きを察知する事ができる。大神と出会ったのもそれが働いたからであった。
それを利用して、怪しげな場所をしらみ潰しに調べていたらしい。
「ここからは俺も同行するが構わないか?
勿論、俺が調べた限りの情報は全て提供する。」
そういう事なら、こちらも断る理由はない。元々協力しようと話していたのもある。
何より人手が増えるのは、トウヤさんの捜索において効率アップに繋がる。
「俺はそれが良いと思う。みんなはどうだ?」
特に問題はないと思うが、一応確認は取っておく。
集団行動で独断専行はもっての外、相談する事は大切だ。
3人は特に考える素振りもなく、すぐに頷いてみせた。
「決まりだな。それじゃあ、改めて俺は茨明人だ。
短い間だが、よろしく。」
「私は白上フブキです。よろしくお願いします。」
「余の名前は百鬼あやめだよ、よろしくね。」
一通り初対面だった3人の自己紹介も済んだところで、大神は未だ場所が絞りきれていないことから、今度は明人の案内で目的地へと歩き出す。一応、大神には占星術で周りに他の道順はないかだけ探ってもらっている正解が一つだけども限らないからな。
しかし、その大神の表情が先程からやけに硬い。
これから敵地に乗り込もうというのだから緊張しているといえばそこまでなのだが、特に根拠はないがそれだけだとは思えなかった。
明人の背中を追って二つほど曲がり角を曲がって行くと、意外にもすぐに明人は足を止めた。
ここまで来て、道を忘れたなんてこともないだろう。
「もう着いたのか?」
「あぁ、その通りだ。入り口はそこだぜ。」
そう言って、明人が指差したのは路地の横に積まれている木箱の内一つだけ少しだけ離れて置いてある木箱だ。
一応周りを見渡してみるが、それ以外には特に変哲も無いただの通りだ。
まさか冗談ではないだろうな。
そう思い、明人へ確認をしようとするが、それよりも先に百鬼が口を開いた。
「この木箱、実体がないね。幻覚か何かで出来てる?」
「あれ、そうなんですか?私にはただの木箱にしか見えませんけど。」
どうやら白上も俺と同じ状態らしく、首を傾げて疑問符を浮かべている。
「鬼っ娘の正解だ。俺も最初は目を疑ったぜ。なんたって、他の木箱は触ってもちゃんと感触があるんだからな。
だが、このままじゃ視覚で捉えられないからな。」
説明しながら、明人は懐に右手を入れて指輪のようなものを取り出すと、一人、その木箱へと近づいていった。
木箱の側まで来ると、徐に右の掌でそれを触れた。
ガラスが割れるような音が鳴り響く。
それと同時に、木箱の輪郭が急激に朧げになっていき、やがてそこには木箱ではなく、地下へと続く梯子が現れた。
「謎の組織の拠点が地下なんざ、定番中の定番だけどな。これで見えやすくなっただろ。」
薄く笑いながら、明人は手に持っていた指輪を仕舞う。
「指輪、レイグですか?見たところワザを無効化してたようでしたけど」
「そんなところだ、詳細は企業秘密。」
白上の質問にあっけらかんとして明人は答えた。
なるほど、なんらかのワザでこの入口を隠していたと言うことか。それが明人によって無効化されたからこうして目視出来るようになった。
そして、幻覚、それに準じたワザを使う人物にも1人心当たりがあるのが辛いところだ。
「…うん、この下は安全みたい、降りてみよう。」
念には念を入れて大神に下の様子を調べてもらい、一人一人梯子を降りて行く。
「わ、ちょっと寒いですね。少し着込んでくれば良かった。」
「余の鬼火だと、あんまり先までは照らさないから気を付けてね。」
梯子の先はトンネルになっていた。しかし、明かりとなるランタンもない為、暗闇だけが広がっている。
白上の言うように、気温も低くなっており、周りから水音が聞こえることから、何処かから水が流れているようだ。
「なぁ、番人はここにはいないのか?」
ふと疑問に思い、明人に聞いてみる。
先程の梯子が入口だとしたら、そろそろ遭遇してもおかしくは無いはずだ。それとも巡回路のような物があり、それを把握しているのか。
「番人はこの先だ。
心配しなくても、そこの暗がりからいきなり襲ってきたりはしねぇよ。なんてったって、刺激しない限り、あれは寝たきりだからな。」
「寝たきり?」
百鬼が怪訝そうに繰り返す。
明人は見れば分かる、と言わんばかりに明かりを手にし、歩き出す。
それを追うと、すぐに開けた空間へと出る。
「…ほら、見えるか。あれが番人だ。」
明かりが照らす先。
大きな何かが蠢いている。
暗くてよく見えないと思ったが、違う。
黒いのだ。
周囲の闇と同化するように、真っ黒な肌を持ったそれはその大きな巨体を丸める様にして、寝息を立てている。
「…あれって。」
百鬼が何かに気付いた様に目を見開くと、息を呑んだ。
見覚えがあるのか、あれが何なのか分かるのかと聞こうとした、その時だった。
「…ガッ、ガァガァ、ガガッ」
突然、巨体が動き出し謎の奇声を上げながら目を開いた。
その大きな目は安眠を邪魔されたからか、はたまた侵入者を見つけたからか、負の感情が渦巻いていた。
俺たちをその両目で捉えたまま、番人はその太い手足を使い立ち上がる。
大きさにして4メートルほどだろうか。ヒト型ではあるが、その風貌は化け物と呼ぶにふさわしい。
「ち、もう起きたのかよ。あいつの膂力は尋常じゃない、気を付けろよ。」
舌打ちを一つ入れて、明人は刀を抜く。
その言葉に、俺達は戦闘体制をとる。
いや、違う。正確には百鬼以外の全員だ。当の百鬼は呆然として、番人を見つめている。
「百鬼?どうし…」
言い切る前に、大神が単身で番人へと駆け出した。
通常であれば、味方のサポートに徹することの多い大神からは考えられない行動。
「南無八幡大菩薩、我が腕に粛清の灯火を。」
前と違った詠唱を唱えた大神の両手に紫色の炎が灯る。その熱は離れたこちら側にも届くほど。
だが、どこかおかしい。
確かに相手の力量は未知のまま。しかし、これでは確実に相手の命に届きうる。
これまで、大神の戦闘らしい戦闘は無かったが、こんなに荒々しいものだったか。普段の穏やかな雰囲気とは似ても似つかないその様子に、焦燥感が募る。
迷いの中、気が付いた時には、身体を鬼纏いで強化をして、大神の番人に向けて放たれたその一撃を受け止めていた。
気に入ってくれた人は、シーユーネクストタイム。