どうも作者です
UA20000あざます。
以上
赤いタキシードに身を包んだ、ピエロの化粧をした男、クラウンが暗闇に満ちた通路からその姿を現した。
一体何のために現れたのか、こいつの目的は何なのか。
疑問は尽きないが、この事件にクラウンが関わっていたことは確かだ。
全員クラウンの登場に驚くが、すぐに戦闘に備える。
しかし、タイミングが悪すぎる。
先ほどのワザの行使で俺は戦闘などできそうにない。
白上達は、まだ余力があるだろうが、それでもある程度は消耗している。
何より、今はトウヤさんの身柄がこちらにある。クラウンがトウヤさんを狙ってしまえば、こちらは守りに回るしかない。
いや、だからこそこのタイミングで出てきたのか。
「ふふッ…」
クラウンは立ち止まり、その相貌をクシャリとゆがめるとおもむろに手を叩きだした。
「ハハハッ、素晴らしい、実に素晴らしい!」
不気味な笑い声と拍手の音が食うかに響き渡る。
「何がおかしいの。」
鋭い目つきで、百鬼が問いかける。
クラウンはぴたりと制止し、視線をこちらに向ける。
その瞳には明らかに狂気が浮かんでいる。
前にあったときも、確かにおかしな言動だとは感じたが、少なくとも前はもっと理性的な目をしていた。
「そんなもの、私のシナリオを見事に打ち砕いたことに決まっているじゃありませんか。
それも完璧に、万全に。
途中までは順調だったのに…やはり、あなたが現れたことが最大の誤算でしたね。」
クラウンはその視線を俺へと移す。
しかし、言葉の割にはその声には負の感情は見られない。むしろ、さも愉快なことであるように語っている。
何が起きたんだ。
「まぁ、それ以上の収穫があったのでどうでも良いんですけどね。」
「そうかい、ならお前は何でこんな所に来たんだ。聞く限りじゃ俺達に関わる理由は無いんじゃねぇのか?」
明人の挑発的な物言いに、クラウンは明人へと視線を向ける。
目を少し見開くと、すぐにその顔を歪めた。
「おや、初めてお会いする方もいらしたのですね。改めまして、私、クラウンと申します。以後よしなに。」
「質問に答えろ、お前は何故ここにいる。」
膝をおり、優雅に礼をするクラウンに対して、明人は怒気のはらんだ声で低く、唸るように言い放つ。
それを受けて、クラウンは残念とばかりに首を振る。
「いえ、ただ番人の反応が消えたので様子を見にきたんですよ。」
「それで、お仲間と一緒にうち達を袋叩きにするつもり?それなら抵抗はさせて貰うけど。」
そうだった、相手はクラウンだけでは無い。
元々は組織に対して乗り込もうとしていたのだ。組織というのは人の集まりだ、それなら1人だけでこの場に来る訳がない。
クラウンがあること自体が不確定要素だっただけ。先ほどの戦闘が前哨戦に過ぎないのだと思うと、少し気が落ち込む。
「ご安心を、彼らがここに来る事はありません。いくら時間が経てども、私以外がそこから出てくる事はないでしょう。」
そんな予想に反するクラウンの言葉に、思わず目を丸くする。
何だ、仲間が侵入者への対処に向かうのに随分と薄情だな。
心配いらないと考えられているのか、それとも…。
どうにせよ、増援によって数で押されるという事が無いならそれに越した事はない。
もちろん、それが真実であると確定したわけではない。警戒はしておくべきだろう。
「質問に答えたのです。こちらも質問をさせていただきましょうか。
そうですね…、ミスター透。
…母親ができた感想はいかがでしたか?」
「は?一体何を…」
言って、とそこまで言って言葉が止まる。その質問の意図を瞬時に把握できなかった。
恐らく母親とはヨウコさんのことだ。なぜ、そんな質問をする。関係がないだろう。そもそも、遭遇したのはヨウコさんと別れた後で…。
そう、遭遇した。俺達を狙って奇襲を仕掛けてきたクラウンと。
それは良い、だがタイミングが良すぎる。偶然にしては出来過ぎている。
クラウンは俺達があの場所にいる事が分かっていた。ヨウコさんの家を、知っていた。むしろ、俺達がヨウコさんの家に行ったから奇襲にあった。
他にもおかしい点はある。
ここに来て、トウヤさんが子供である事がわかった。ならば、ヨウコさんが俺を息子と間違うのは理に適っていない。
それほど体感時間が長かったからか、願望が溢れ出た結果だとも考えた。
しかし、クラウンの含みのある物言い。そして、今、クラウンは番人の異変に気がついていた。
「…まさか。」
「えぇ、そのまさかですよ。」
やはり、一連の事件に関与していた。それどころではない、こいつが主犯だった。
笑いかけてくるクラウンに、身体の疲労も忘れ刀を抜き斬りかかろうとする。
だが、それよりも早く誰かが飛び出す。
百鬼だ。
百鬼も同じ場所にいた。ヨウコさんとは俺よりも話して、楽しそうに笑っていた。
俺と同じ結論に至ったのだろう。
その瞳は激情によるものか、赤く光っている。。
腰の刀を素早く抜き、振りかぶる。
一閃。
加減の見られない、恐らく全力で叩き切るつもりで振るわれたそれは確実にクラウンを捉えた。
凄まじい衝撃音が、空洞に鳴り響く。
それに続いて衝撃波がこちらまで届いてきた。
「嘘…」
誰かがそう呟く。
言葉には出していないが、俺も同じ心境だ。
今、目の前にある光景が信じられなかった。
百鬼の振るったそれは、標的に届くことなく静止している。
その間にあるのは一本の曲刀。
クラウンは片手で持った、いつか見た曲刀で百鬼の刀を受け止めていた。
「このっ…」
百鬼はそれを察知すると、すぐにもう片方の刀で斬りつけ、その反動でこちらへ後退する。
それすらクラウンは易々と防ぐ
その姿に一切の傷は見られない、平然とした様子でクラウンはこちらを見ている。
有り得ない。以前、俺も百鬼に同じように斬りかかられた際には一度は吹き飛ばされ、二度目で手加減された状態でようやく受け止める事ができた。
しかも百鬼の話ではその時鬼纏いが発動していたらしい。
普通の身体強化のさらに上の強化を使ってようやく手加減された一撃を受け止めたのだ。
それを片手で容易く。
しかし、クラウンが百鬼と同等以上の実力者であるようにはとてもではないが見えない。
これは遭遇した後に大神から聞いている。
「なぁ、大神。クラウンはカミなのか?」
先日、夕食後に大神に確認をとっていた。
仮にクラウンがカミであるなら、俺では相手にならない。可能な限り対峙しないように立ち回る必要がある。
大神は俺の問いかけにすぐに首を横に振った。
「クラウンはまず、カミじゃなくて普通のアヤカシだね。」
「分かるもんなのか、そういうのって。」
躊躇なく言い切ったからには、それ相応の理由があるはずだ。
ここまで断言できるということは、カミには何かしら特徴のようなものがあるのだろうか。逆に、アヤカシに特徴があるのか。
「うん、カミの総数自体が少ないのもあるんだけど。割と明確に分かれてる点があってね。
カミにはね普通の人間の姿をしてる人はいないんだよ。うちにも尻尾と耳があるでしょ?理由は他にもあるんだけど、やっぱり決定打はこれかな。」
カミに至るには途方もないほどの時間がかかるそうだ、数年どころではない、数十年、時には数百年も。
それ故に、普通の人間ではカミになることは不可能と言ってもいい。だからこそ、イワレはその持ち主の体を変える。その過程として、普通の人間にはない特徴が現れる。
白上や大神は獣耳、尻尾。百鬼は鬼特有の角。
鬼に関してはまた事情が変わるらしいが、それこそ目に見えるレベルでの変化が起こる。
しかし、クラウンにはそれは見られない。
顔はただのメイクであり、それ以外はただの人間そのものだ。
それも加味すると、クラウンはカミではなく、アヤカシに分類される。
そしてカミとアヤカシではその基礎能力には大きな差が存在する、ましてや、アヤカシがカミを上回ることは不可能とされている。
だが、実際に起こった。それが事実だ。
「おや、不可解な顔をしていますね。ただのアヤカシがカミの一撃を防いだことがそんなにおかしいですか?」
クラウンはこみ上げる興奮から、こらえきれないように笑う。まるで、おもちゃを手に入れた子どおのように、無邪気に。
「それよも、質問に答えていただけませんか?
『ねぇ、トウヤ。どうだったの?』」
「っ…!」
「待って、落ち着いて透君。」
ヨウコさんの声を使い、煽るように質問を投げかけるクラウンに再度刀に手が伸びる。
しかし、それを大神が止めた。
奇しくも先ほどとは逆の立場になった。
百鬼が止められたのだ。これで俺が向かっても無意味だろう。今は、そのカラクリを探る方が先決だ、
「…残念。この程度では崩れませんか。そうでしょう、だからこそ、ここまで大掛かりな舞台を仕立て上げたのですから。」
「大掛かりな舞台とは?」
肩をすくめるクラウンに今度は白上が聞き返す。
「もちろん。そこの子供とその母親ですよ。」
クラウンは、トウヤさんへと視線を向け、芝居がかった口調で続ける。
「あぁ、引き裂かれた親子。それを救うために正義の味方が敵地へと突入する。
ありきたりな物語ですが、そこにスパイスを加えるのもまた一興。
突入した先で倒した敵が、目的の子供だった。それを知った正義の味方は動揺し、隙を見せる。
後は、言わなくてもお分かりですよね?」
初対面でのヨウコさんのやつれた顔が脳裏に浮かぶ。
流石に何度もあからさまな挑発に乗りはしない。乗りはしないが、それでも内心腸は煮えくり返っている。
俺だけではない、他の皆もそろって険しい顔をクラウンに向けている。
やはり、その場でクラウンと遭遇したのは偶然ではなく、必然であった。
「本当は、あの場でそこの黒髪のカミを排除しておきたかったんですよ。ほら、予め知られていては効果も半減というものでしょう?
思えばあそこから予定が狂って…」
「見つけた。」
嬉々として話し続けるクラウンの声尾を遮ったのは大神だ。
その手には俺の背に隠すようにして水晶玉が握られている。
「隠し持ってるその指輪。
レイグ…いや、シンキに近しいものだね。それで身体能力を大幅に上げてる。それ以外の使い道は今のところなさそう。そうでしょ?」
「…えぇ、その通りです。それで、それが分かったからどうしたんですか?」
クラウンは狼狽した様子もなく、懐から赤い宝石のはまった指輪を取り出す。
その指輪を見た途端、凄まじい悪寒が全身を駆け抜けた。
存在感にではない、圧倒的に美しいわけでもない。ただ、その指輪は存在してはいけない。怨念が目られているように感じた。
一瞬周りに目を向けるが、そう感じているのは俺だけのようだ。
「これで警戒する要素が消えただけ。こうやって、お話しする意味ももうないでしょ?」
そう言う大神の両こぶしに、ぼっ、と音を立てて炎が灯った。
それに続いて、白上も刀を抜き、百鬼の背にシキガミが宿る。
ただ話を聞いていただけでなく、状況を把握するところを見るに、やはり、この三人は場慣れしている。
遅れて、刀を抜き。戦闘に備える。
まだ、腕が重たい。体中のだるさが残っている。
当然だ、先ほどから対して時間もたっていない。寧ろ時間が経つ毎に疲労は蓄積されるだけだろう。
「明人、お前戦闘は?」
思えば、明人はあまり戦闘に参加していない。刀を腰に差してはいるが、それを扱う姿は見たことがない。
「残念ながら、ワザがほとんど役に立たねぇからな。身体強化くらいだ。」
「そうか」
なら、今回はトウヤさんの護衛に回ろう。この状態で参戦しても足を引っ張るだけになりそうだ。
少しの間、にらみ合いが続く。
そして、どちらからとも無く、地を蹴り、戦いの火ぶたが落とされた。
気に入ってくれた人は、シーユーネクストタイム。