【完結】色づく想ひ    作:ワンダーS

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どうも、作者です。

以上


クラウン(下)

 

 まず、先に動いたのは百鬼だった。

 先ほどのリベンジとばかりに、その瞳は爛々と輝いている。

 

 いや、先ほどの件だけではない、百鬼は、クラウンの話を聞いてからここまでずっと切りかかるのを耐えていたのだ。

 

 今回はシキガミを纏った状態での一撃。

 そのひと振りは俺が見た中でも、一段と鋭い。

 

 クラウンはそれを前にして、表情一つ動かさず待ち構えている。

 

 「なんでっ…」

 

 しかし、その斬撃はクラウンに届くことはなかった。

 受け止められたわけでもない、避けられたわけでもない。

 

 通り抜けた。

 

 ただ空を切っただけのその斬撃はは、前方の壁へとその跡を刻むのみであった。

 

 「幻覚…?みんな気を付けて!」

 

 瞬時に状況を把握した百鬼が警告を発すると同時、視界の端で何かが動いた。

 

 「くそっ!」

 

 反射的に体を動かす。

 いつかの時と同じ。意識外から突然猛威を振るう斬撃。

 

 視線を向けた先、クラウンが突如として現れ、左手に持った曲刀を振るう。

 

 衝撃が腕を通して伝わる。

 それだけにとどまらず、全身が後方へと引っ張られるように跳ね飛ばされた。

 

 床に足を押し付けるようにブレーキをかけるも一向に速度は緩まず、勢いをそのままにあえなく壁へと激突する。

 

 瞼の裏で白い火花が散る。

 飛びそうになる意識を何とか繋ぎ止める。

 

 「透さん!」

 

 白上の声が聞こえる。

 まずいな、このままでは完璧にお荷物だ。

 

 震える足に活を入れ、立ち上がる。それと同時に、今一度鬼纏いで身体能力を強化。もう、消耗がどうとか気にしているわけにもいかない。

 特有の高揚感で意識をはっきりとさせ、改めてクラウンへと向き直る。

 

 「これは返していただきますね。」

 

 そう言うクラウンの右手には先ほど封じたトウヤさんのケガレがあった。

 左手にはめた指輪の宝石の部分を近づけると、中身の黒い靄が少しずつ、宝石の中へと吸い込まれていく。

 「ケガレを吸い取る宝石?そんなもの聞いたことないよ、いったいどこで…」

 

 「人間を百人ほど犠牲すれば作れますよ。」

 

 大神の問いにさらりと答えられたその言葉に、ぞっとするとともに、納得もできた。

 

 このままでは、組織全体の今までの行動が露見するのにもかかわらず、クラウン以外誰も対処に当たらせないというのは、どう考えても理にかなっていない。

 相手が複数なのだ、それ以上の人数で袋叩きにした方がよっぽどマシのはずなのに。

 

 「仲間を犠牲にしたのか。どこまで人でなしなんだよ、お前。」

 

 「まぁ、人ではありませんし。どう思われても構いませんよ。」

 

 大して取り合う様子もなく、淡々と話しているクラウンに、鋭い銀色の光が迫る。

 出所を見てみれば、白上が刀を振るっていた。

 

 いや、正確には刀ではなく、鞭と呼んだ方が良い。

 形状変化によるモノだろう。

 

 「パワーアップ演出なんてさせませんよ!」

 

 白上の振るったそれは凄まじい勢いでクラウンへと襲い掛かった。

 しかし、百鬼の時と同様に刀はその体をすり抜ける。

 

 その結果に白上は悔しそうに顔を歪める。

 

 また幻覚なのだとしたら本体はあそこにはいない。恐らく、姿を消して隠れ潜んでいるのだろう。

 

 どこから現れても良いように辺りを警戒する。

 今度は誰の前に現れるのか…。

 

 「透!」

 

 警戒していると、明人が声を上げる。

 

 「そいつの体がイワレで構成されてる、幻覚じゃねぇ!」

 

 その言葉に、クラウンの表情が消えた。

 どうやら、図星のようだ。

 

 明人のワザはイワレの動きを捉える事ができる。信憑性は高いだろう。

 

 なるほど、そういうことなら。

 

 クラウンの手に持っている、ケガレの塊は、俺のワザによって覆われている。

 そこを起点にする。

 

 「『結』」

 

 ワザを発動させる。

 それに反応してケガレを覆っていた決壊が開き、クラウンの右腕を包み込もうとする。

 

 それを目にして、クラウンの顔に焦りが生まれた。

 

 だが、やはり速度が遅い。

 遠隔操作に加え、トウヤさんを相手にした時のように、行動を制限できる程内部ではなく、末端に近い場所なのがあだとなった。

 

 クラウンはすぐに、手放そうとするが、速度は遅くとも指先から手の甲までは覆われている。この状態では、空間に固定される結界からは逃げることは不可能。

 それを確認すると、クラウンは躊躇もせず左手の曲刀を右の手首目掛けて振り下ろした。

 

 今回は通り抜けることなく、クラウンの手首を両断する。

 だが、やはりというべきか、その手首から血が流れる様子はない。

 

 確定だ。これで、クラウンの攻略の糸口が見えた。

 

 「余計なことを言ってくれますね。」

 

 憎々し気に明人を睨むクラウン。

 当の明人は額に冷や汗を流しながら、トウヤさんを背に刀を抜く。

 

 「…まぁ、良いでしょう。とにかく、今は…」

 

 こちらへと視線を向けると、そのまま、曲刀を左手に構え、飛び掛かってくる。

 トウヤさんのいる明人の方へ向かわなかっただけましだと考えるべきか、それとも。

 

 どうであれ、向かってくるのであれば、迎え撃つほかにない。

 

 振るわれる曲刀に、最大の強化をもって刀を合わせる。

 

 轟音を立て、二つの刀が静止する。

 その間には無数の火花が散り、二人の顔を照らす。

 

 「そう、何度も吹き飛ばされてたまるか」

 

 「そうでしたね、あなたもそのワザが使えるのでした。」

 

 意趣返しに発した俺の軽口に、クラウンは吐き捨てる。

 しかし、言葉とは裏腹に俺には余裕がなかった。

 

 いくら鬼纏いがあるとはいえ、ギリギリの体力に無理をして発動しているのだ。ワザが強力だとしても、それを十全に扱う体力が残っていないのでは戦闘など話にならない。

 

 この拮抗状態も、そう長く続けることはできない。

 

 そう判断すると、渾身の力を籠めクラウンの曲刀を横へとずらす。

 そして、がら空きの横腹に蹴りを叩きこみ距離をとる。

 

 効き目はないだろうが、それでも距離をとれば次の対策もできる。

 

 「ぐっ…」

 

 だが予想に反して聞こえたのはクラウンのうめき声。

 見れば、蹴られた個所を抑え、体制を崩している。

 

 乱れた息を整えながら思考を巡らせる。

 

 透過をしなかったのか?

 いや、しなかったのではない、出来なかったのだ。

 攻撃の一瞬だけは透過できない。当然だ、通り抜ける状態でどうして人に触れられる。この時点で矛盾が生まれる。

 こればかりは克服のしようのない透過の弱点なのだろう。

 

 そういうことなら、やりようはある。

 

 相手はイワレ。例え、致命的なダメージを与えたとしても、逃げようと思えば何時でも逃げられる。ならば何が必要か。

 当然逃げられることのない空間。逃げることのできない結界。

 

 片膝をつき、地面へと手を当てる。

 

 「おや、もう限界ですか。なら、これで終わらせてあげますよ!」

 

 ここまで隙をさらしていて、クラウンが見逃すはずもない。

 

 こちらへ駆けてくるクラウンを前に、俺は動けない。受け止めようにも、もう一度実行するだけの余力など残ってはいない。

 先ほどのあれが、正真正銘全力だった。

 

 だから、今度は頼らせてもらうことにしよう。

 

 「余のことも忘れないでよね。」

 

 声が聞こえると共に、間に割って入った百鬼がクラウンの曲刀を止める。

 

 思い通りにいかない結果にか、ただ頭に血が上ったのか、ついにクラウンの表情が憤怒によって歪んだ。

 

 「いいでしょう、そのまま叩き折って…!!」

 

 「させないよ、『鳳仙花』!!」

 

 叫ぶクラウンの横合いから、大神の拳がクラウンへと叩きこまれた。

 人間大の炎の塊がクラウンを包み込み、爆発を起こす。

 

 負傷のせいか、透過もできていない。

 まともに食らったクラウンは、爆発により吹っ飛ばされる。

 

 「『エンチャント』『大狐鳴槌』」

 

 落下地点で待ち構えるのは、白上。

 その手には、いつもの刀ではなく大きな槌が握られている。白上はそれを大きく振りかぶる。

 

 「狐っ端微塵!」

 

 空中にいるクラウンは、それを避けることも叶わない。

 クラウンの胴体へと吸い込まれるように直撃する。

 

 その一撃は、クラウンの体を凄まじい初速をもって地面へと叩きつけた。

 

 「がっ…!」

 

 叩きつけられたクラウンの肺から空気が漏れる。

 いくら強化しているとはいえ、それでも水準としてはカミである三人にとって少し高い程度。本気の攻撃を前にしてはそのダメージは計り知れない。

 

 「諦めてくれ、クラウン。これ以上は無駄だって分かってるんだろ。」

 

 倒れ伏すクラウンに話しかける。

 勝敗は既に決した。

 

 万全の状態で俺一人を仕留めきれず、透過もタネが割れた。そこに、ここまでダメージを追って、五人を相手取るのは不可能だ。

 だから、ここで終わるなら。それが最良のはずだ。

 

 このまま投降してくれるのなら、それが。

 

 「…えぇ、そうですね。ここらが潮時でしょう。」

 

 「なら…」

 

 「ここで、引かせてもらいます。」

 

 その言葉をきっかけに、クラウンの体が透けていく。

 なるほど、壁や地面を通って逃げるつもりか。

 

 なら、仕方がない。

 

 「『結』」

 

 その言葉と共にクラウンの周りを結界が覆った。

 前触れもなく、結界の中へと入れられたクラウンの眼が驚きに見開かれる。

 

 結界の中からは出ることはできない、内側からは何物も通さない。それがイワレであるのならば特に。

 

 「何故、こんなに早く展開はできなかったはず。」

 

 「あぁ、まだまだ練度が足りないからな。だから、用意しておいたんだ。」

 

 準備は整っていた。

 

 地面に手を突いた瞬間から、まず地面に結界を浸透させた。このワザの特徴として、結界を広げる速度は遅いとまではいかないが、それでも実戦で動き回る相手に対して瞬時に覆えるほど早くもない。

 だから、必要な分の結界を床にシートのように設置した。

 

 後は、相手の動きが止まった地点で結界の形を変え、対象を覆いこむだけ。

 形を変えることは、先ほどの一回で試せた。

 

 まさか、地面に叩きつけるとは考えていなかったから、内心結界が破壊されないか冷や冷やとしたものだ。

 

 「なるほど…、これは完敗ですね。」

 

 倒れたまま何度か触れて、出られないことを察したクラウンは、力を抜く。

 

 「それで、私は封印されるので?」

 

 「…その前に、一つだけ聞きたい。」

 

 何なりと、と返すクラウンに、ずっと気になっていたことを尋ねる。

 

 「お前、何が目的だったんだ。仲間を捨てて、無関係な人間を巻き込んで。

  何がしたかったんだよ。」

 

 その問いに、クラウンは即答しなかった。

 ただ、少し宙を見つめ何かを考える。

 

 「目的…。…この指輪を作ることが私の使命だった。

  教えられるのはこの程度ですね。後はお好きに考えてください。」

 

 「そうか」

 

 つまるところ、話すつもりはないようだ。

 聞きたいことは聞けた。

 

 一応、四人の顔を伺うが、特に言いたいこともなさそうだ。

 

 「『封』」

 

 その言葉で結界が圧縮される。

 物理的に押しつぶすわけではない。ただ、イワレとして内部に封印するだけだ。

 

 クラウンの体が分解されていく。実態ではなくイワレとなっていく。

 

 ふと、最後まで、ただ虚空を見つめるだけだったクラウンの視線が一瞬だけ別の方向を向いた。

 

 しかし、その行先を確認する前に封印は完了し、後には手のひらより少し小さい結界と、クラウンの持っていた指輪だけがその場に残された。

 

 終わった。

 

 そう認識した途端、一気に今までの疲労が押し寄せてくる。

 

 まだ、トウヤさんを家に帰せていない。

 迫りくる眠気に抗うも、すぐに負けを悟る。

 

 (また、最後の最後でこうなるのか)

 

 お疲れ様

 

 意識が途切れる前に誰かの声が聞こえる。

 その相手を考える間もなく、俺は意識を手放した。

 

 





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