【完結】色づく想ひ    作:ワンダーS

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 どうも、作者です。

 



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 「うわぁ!?」

 窓の外に向けて白上が叫ぶのと同時に、外で驚いたような女性の悲鳴が上がった。

 声の聞こえからして、どうやら此処は二階辺りに位置するらしい。そんな場違いな事を考えていると、再び先ほどの悲鳴を上げた女性の声が聞こえてくる。

 「ちょっとフブキ、声大きすぎ!」

 「え?あ、ミオ、おかえりなさーい」

 その声に反応するように白上は窓から下を覗き込んで手を振った。白上がミオと呼んでいてことから、出かけていたというもう一人の恩人が返ってきたようだ。

 やがて階段を上がって来る音が部屋の外から襖越しに聞こえて来て、ノックの後襖が開けば、白上とは対照的な漆黒の長髪に一部赤いメッシュを入れ、髪と同じ黒の獣耳を携えた少女が姿を現した。

 彼女はそのままこちらへと視線を向けるとぱっとその顔を輝かせる。

 「良かった、起きてたんだね。体調は悪くない?」

 気遣うように聞いてくる少女。何処かおっとりとした雰囲気を漂わせる彼女に心なしか緊張も薄れた。

 「あぁ、お陰様で。その事でずっと礼を言いたかったんだ、助けてくれてありがとう」

 「ううん、どういたしまして」

 言いながら頭を下げれば、黒の少女こと大神は柔らかな笑みを浮かべてそう返す。

 「そうだ、自己紹介まだだったよね。ウチの名前は大神ミオだよ」

 「大神な、俺は…っと」

 自己紹介をされてこちらもと考えるが、すぐに自分が名無しの権兵衛であることを思いだして言葉に詰まった。

 「ミオ、彼なんですけど記憶が曖昧みたいで、自分の名前も分からないんです」

 代わりに白上がそう説明すると、大神はぱちくりと目を瞬かせてこちらを見る。

 「そうだったの?んー、一回消えかけちゃったのが原因なのかな…」

 そうして少しの間思案する大神だったが、やはり判断材料の少なさから簡単に答えは出ない様だ。

 「さて、ではミオも帰ってきたことですし、ひとまずはこの世界について説明しましょうか」

 「あぁ、頼む」

 ぱんと一つ柏手を打って白上が話題を切り替える。

 ここがシラカミ神社と呼ばれる建物であるとは先ほど白上から聞いたが、それ以外に関してはさっぱりな為正直助かる。

 恩人に対して借りを作ってばかりになるが、それでもここで見捨てられると首も回らなくなってしまう。いつか何らかの形で恩を返すことを心に誓い、彼女らの話に耳を傾ける。

 「じゃあまずはウチから説明するね。ここはヤマトのシラカミ神社。ここに住んでるのはウチとフブキの二人だけで、近くにキョウノミヤコっていう多分ヤマトの中でも一番大きな街があるんだけど…この中で聞き覚えのある単語は有る?」

 確認するように大神に問われて今出てきた単語を頭の中で繰り返す。

 シラカミ神社、キョウノミヤコの二つは初耳だ。けれどヤマト、この単語を頭に思い浮かべると、ぱっと記憶が刺激された。

 「ヤマト…日本?」

 「日本というと、多分地名ですよね。もしかして以前はそちらに?」

 ぽつりとしたその呟きに白上が顔を明るくして聞いてくる。

 「いや、そこまでは…」

 ただ思いついた言葉がそれだっただけで、具体的に自分がそこに居たのかまでは思い出せない。しかし何やら理解したのか大神はそんな俺の様子を見て頷いて見せた。

 「うん、見た感じ全部忘れてるって訳じゃなくて部分的には覚えてる事も有るみたいだね。それなら、もしかすると時間が経ったら思い出す事もあるかも」

 「…そっか、そうだよな」

 噛み締める様に答えながら、大神の話を聞いてホッとしてる自分が居る事に気が付く。

 やはり知らず知らずの内に現在の状況に不安を感じていたのだろう。記憶も曖昧で見知らぬ土地に一人投げ出されて、そんな最中、こうしてこの二人に出会うことが出来て良かったと改めて実感した。

 話がひと段落したところで、今度は白上が口を開く。

 「では続けますね。今現在白上達が居るこの世界はカクリヨと呼ばれています。そして対の存在としてウツシヨという別の世界が存在していまして、恐らく貴方はそのウツシヨからこのカクリヨに迷い込んだんだと思います」 

 「ウツシヨから…」

 白上の説明を受けて口の中でそう繰り返す。

 ウツシヨとカクリヨ。なる程、世界が違うのなら先ほどの地名に彼女らがピンとこないのも頷ける。しかし、そうなるとまた新たな疑問が浮かび上がってきた。

 「…なぁ、ウツシヨから人が迷い込むのはカクリヨではよくある事なのか?」

 「「…」」

 もしかすると同じような境遇の人が居るのではと問いかけるが、先ほどまで流暢に答えていた二人は口を閉ざしてしまう。そんな二人の反応だけで何となく前例は無いのだと察することは出来た。 

 「一応ウツシヨから色んなものが流れて来る事は有るんだけど…、人がって言う話は聞いたこと無いかも」

 「はい、白上も同じです」

 予想通りの返答に、けれど落胆は感じなかった。

 「じゃあ、二人からしても現状は異常なんだな」

 「うん、ウツシヨからものが流れてくるときは基本的に二つの世界を繋ぐ穴が何処かに開いてそこを通って来るんだけど少し前からその穴に異変が起こってるみたいで、ウチとフブキはその調査をしてる所で君を見つけたの」

 「今の所はあまり分かってる事も無いので、異変の詳細については絶賛調査中です」

 そうして、二人は説明を終えた。話を纏めるとここはカクリヨという世界で、俺は異変とやらに巻き込まれて世界を渡って来たという事になる。 なってしまった以上、とやかく考えるのも無意味だろう。それより、今はこれからへと目を向けるべきだ。

 「…もし良かったら俺にもその調査の手伝いをさせてくれないか。雑用でもなんでもやる。だから、頼む」

 少し間をおいて、二人に頭を下げてそう懇願する。

 前例がない以上ウツシヨへ帰る方法は確立していないだろうし、そもそも帰ったところで路頭に迷うのも確実だ。それに仕方がない事とは言え、二人の調査の邪魔をしてしまった。ただでさえ助けて貰った恩もあるのだ、何かしらの形でその恩には報いたい。

 とはいえ、身元も知れない記憶喪失の男にいきなりこんな事を言われても困るだけだろう。撤回しようかと思いなおすが、しかしそれも次の二人の反応で杞憂に終わった。

 「良いの!?」

 「良いんですか!?」

 殆ど同時に聞こえてきた大声に驚きぱっと顔を上げれば、二人が目を輝かせながら食い気味に寄って来て思わず軽く後ろへ仰け反る。

 「あ、あぁ…」

 そんな二人の鬼気迫る様子に困惑しつつ頷くと、ぱっと白上と大神の顔がほころんだ。

 「ありがとう、超助かるよー!」 

 「人手不足ですから願ったり叶ったりですよ!」

 調査が難航でもしていたのか理由は知れないが、取り合えずは受け入れて貰えたようで一安心する。

 「そっか、ありがとう、二人とも」

 「いえいえ、こちらこそ。…しかしそうなるといつまでも貴方呼びと言うのも不便ですね」

 ぽつりと白上の零したその言葉にそう言えばと三人が俺に名前がない事を思い出す。

 「あー…、確かに呼び分けも出来ないな」

 名前が無い状態など、人生の中でも中々稀有な出来事ではなかろうか。適当に名乗ろうとふと考えるも、意外と良い名前が出てこない。

 「…ねぇ、その右手についてるのって宝石だよね」

 すると、じっとこちらを見ていた大神が不意に口を開いた。

 「あぁ、多分だけどな」

 答えつつ見やすいように胸の前あたりまで腕を上げる。相変わらず濁ったままの宝石は手の甲で異様な存在感を放っていた。

 大神はその宝石へ視線を向けると、少しの間考え込んでから顔を上げた。

 「んー、じゃあ名前は『透』なんてどうかな。透き通った綺麗な宝石だし」

 「良いですね、白上も最初見た時から綺麗だなって思ってたんですよ!」

 「…え?」

 大神に同調するように白上が続けるが、しかしそれを聞いた俺は思わず首を傾げる。透き通った、綺麗、どちらも目の前の宝石には到底似つかわしくない言葉だった。

 「あれ、気に入らなかった?」 

 「あ、いや名前は透で良い。ありがとう、良い名前だ」

 紛らわしいその反応に誤解したようで大神はしゅんと頭の上の耳を垂れさせてしまい、そんな彼女の姿に罪悪感が湧き慌てて訂正する。

 すると誤解はすぐに解けたようで、大神の顔に笑顔が戻る。

 「良かったー、じゃあ改めてよろしくね、透君」

 「よろしくお願いします、透さん」

 「よろしく、白上、大神」

 名前も決まり改めて挨拶を終えてから、忘れないうちにと二人に向き直る。

 「一つ気になる事が出来たんだけど良いか?さっき二人はこの宝石が透き通ってるって言ったよな。俺にはこの宝石は濁っているように見えるんだ」

 事情を説明すると、目を丸くした二人はしげしげと宝石を眺めだす。

 「そうなんですか?白上には水晶みたいに見えますけど…」

 「ウチもフブキと同じ。もしかして人によって見え方が変わるのかな」

 三人揃って首を傾げるが、当然考えた所で何が分かるわけでも無い。けれどこの宝石によって俺は消滅せずに済んだのだから、何かしらの手掛かりであることは間違いないだろう。

 それについても聞いてみると、やはり大神や白上も意見は同じ様だった。

 方向性も定まったところでその後も二人から事情を聴いている内に、いつの間にか窓の外の空は焼けるような茜色に色づいていた。

 「そろそろ良い時間ですし、夕食にしませんか?」

 「そうだね。じゃあ、今日はいつもの所に行こっか」

 ふと窓の外を見た白上はそう言うと軽やかに立ち上がり大神も頷いてそれに続く。大神の返事を聞いた白上は「席を確保してきます!」とそれだけ言い残し、すさまじい勢いで部屋を出て行ってしまった。

 「…いつもあんな感じなのか?」

 そんな彼女の背をぽかんと見送りつつ問いかけると、大神は乾いた笑い声を上げる。

 「まぁ、今から行く場所はフブキのお気に入りだからね。勿論、ウチも一推しだよ」

 「それは楽しみだ」

 何となく二人の関係性が垣間見えた気がして小さく笑みを浮かんだ。

 随分と軽いような気のする身体に若干の違和感を覚えつつ立ち上がると、俺は白上を追って大神と共に部屋を出た。




 

 そんな感じで。
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