どうも、作者です。
以上
意識を失った俺が目を覚ましたのは、翌日の太陽が空の頂点に上ったころだった。
どうにも、体力の限界を超えたワザの行使に体が耐えきれなかったらしい。
白上によると、割と危険なことであったらしく目を覚ましてすぐ、三人からは説教を食らった。
基本的に、ワザを扱う際、現在進行形で体力やイワレを使用する。
その為、意識を失うまで使用するということはあまり起こらないらしい。
しかし、俺の場合ワザを使用した後に、その対象に応じて体力が消費される。
これによって限界を超えてしまったようだ。
だが、あそこでクラウンを逃がすわけにはいかなかった。
だから、自分の行動に後悔は一切ない。
そう言うと、更なる説教と共に、二度とやるなと念押しされてしまった。
俺自身、またぶっ倒れて迷惑をかけるのは気が引けるし、やるつもりもない。
あの後の事の顛末は大神が話してくれた。
俺が倒れた後、クラウンを封印した結界と、残されたあの指輪を回収し宿まで帰ってきたのだという。
ここまでは明人が運んでくれたそうだ。
「途中、トウヤくんも目を覚ましたから透君を宿まで運んだあとで、フブキとあやめがヨウコさんのところまで送ったの。
トウヤくんだけど、どこにも後遺症は無かったよ。」
トウヤさんの現状を聞けて息を吐く。実は、トウヤさんが目を覚ました後記憶が消えているのではないかと考えていた。
イワレとは世界からの経験値という考え方もある。
それをケガレとしてすべて封印してしまった。仮に元に戻れても中身がないなんてことになったらそれこそヨウコさんに申し訳が立たない。
大丈夫だとは分かっていたが、やはり気にはなる。
「そっか、それを聞いて一安心だ。
…ところで明人は?」
目が覚めてから明人の姿が見えないでいた。
運んでもらったなら一言礼ぐらい言いたい。
「明人さんなんですけど、実は…」
「それじゃ、俺はこの辺で。」
透を下ろした明人は部屋の出口へと向かう。
「もう行くんですか?」
「あぁ、これ以上いる理由もないし。
それに、邪魔する気もねぇしな。」
「邪魔?何の…」
意味深な視線を向ける明人の言葉に大神が聞き返す。
声には出していないが、白上と百鬼も同じように首をかしげる。
「いやこっちの話。これは時間かかりそうだな。
透が起きたら伝言頼めるか。」
「と、言うことでして。」
変なところで遠慮するやつだ。
だが、明人が普段どのような生活をしているのかも分からないし、変に引き留めるわけにもいかないか。案外こちらで家族が出来ていたりもするかもしれない。
「なるほど、それで伝言って。」
「えッとですね、『決めるときはしっかり決めろよ。』だそうです。」
それを聞いて思わずむせる。
決めるときってつまりそういうことだよな。
最後の最後まで下世話な事考えやがって。
幸いなことに、これの意味を三人は理解していないようだ。
いや、理解しないからこそ、この言葉を残したのかもしれない。
どちらにせよ、余計な一言に変わりはない。
「大丈夫?透くん。」
「あぁ、大丈夫。気にしないでくれ。
ところで、これからの予定とか決まってる?」
これで変に言及でもされると言い訳に苦しみそうなため、すぐに話題を変える。
「後は神社に帰るだけだし、特に決まってないよ。」
少し考えて大神が応えてくれる。
予定がないなら、大丈夫か。
「良かった、なら行っておきたい所があるんだけど行ってきてもいいか?」
「いいけど…無理はしないようにね。」
「気を付けるよ。ありがとう。」
心配そうにする大神に礼を言うと、軽く身支度だけして、宿を出た。
ああいうところがオカンっぽいんだよな。
などと目的地へと足を動かしながら考えていると、後ろから足音が聞こえる。
誰かと疑問に思い振り向く。
「あれ、百鬼?どうしたんだ。」
後ろにいたのは百鬼だった。おれに続いて宿を出てきたらしい。
声をかけると百鬼は横まで走ってきた。
「一緒に行こうと思って。ミオちゃんも心配そうにしてたし。
それに、どこに行くかは検討が付くから。」」
そういうことなら仕方ないか。
といっても遊びに行くわけではないし、連れて行くのもどうかとも考えたが。百鬼も一応当事者だしな。
「百鬼はヨウコさんとは?」
トウヤさんを送っていったということは、ヨウコさんにも会っているのだろう。
「昨日会ったよ。透くんが思うほど気にしてなかったけど。それでも行く?」
「当然、筋は通す。」
しばらく、二人無言で歩く。
やがて、目的地である、ヨウコさんの家に到着した。
「おう、あんた達か。今日は二人かい?」
一回の花屋からジュウゾウさんが声をかけてくる。
その顔は先日見たものと比べて明るくなっていた。
「どうも、ジュウゾウさん。ヨウコさんはいらっしゃいますか。」
「上にいるはずだ。…君…透君だったか。」
「はい」
答えると、唐突に、ジュウゾウさんは俺へと頭を下げた。
いきなりのことで面食らっていると、ジュウゾウさんはそのまま口を開く。
「話は聞いたよ、ありがとう。君のおかげでトウヤが、ヨウコが救われた。あの二人の日常が戻ってきた。
だから…ありがとう。」
「え…あ、いや、そんな大げさな。
とにかく、頭を上げてください。」
驚きつつも、何とか頭を上げてもらう。
そこまでされてはいたたまれなくなってしまう。
そして何よりも。
今日は礼を言われるために来たわけではない。
ジュウゾウさんに断りを入れて二階の扉の前へと歩を進める。
先日訪れたときと同じようにノックをすれば、すぐに扉が開いた。
「…お兄ちゃん、誰?」
出てきたのは、一人の男の子。
トウヤさんだった。
何だかんだで初対面だ。なんと話そうか。
「トウヤくん、こんにちは。」
「あ、鬼のお姉ちゃん!」
迷っていると、後ろから百鬼が出てきてトウヤさんに声をかける。
昨日のうちに会っていたこともあってか、その姿を見てトウヤさんの表情がぱっと明るくなった。
「トウヤー、誰か来てるの?」
そして、奥の方からヨウコさんの声が聞こえ、足音がこちらへと近づいてくる。
来訪者の姿を見て、ヨウコさんは軽く目を見開いた。
「あら、あなたは。」
「どうも、ヨウコさん。」
急な来訪にもかかわらず、ヨウコさんは快く居間まで通してくれた。
百鬼は空気を察してか、外でトウヤさんと遊んでいる。
「えっと、透さんで合ってるわよね。
ごめんなさいね、その節はご迷惑をおかけしたようで。」
「いえ、こちらこそ。」
昨日、トウヤさんと再会した時点で、ヨウコさんも混乱していたらしいが、事情を説明すると、きちんと理解してくれたようだ。
だが、俺がしたことは消えない。
「その、すみませんでした。騙すようなことをして。」
そう言い、頭を下げる。
例え理由があろうと、俺はこの人に対して嘘をつき、騙したのだ。
しかも、自分よりも大切であろう、息子を騙ったのだ。
あまりいい気分にはならないだろう。
だからこそ、こうして謝罪に来たかった。
「気にしないで、元はといえば私が言い出したことですし。
それに、こうやってトウヤを、息子を連れ帰ってくれた。
そんな恩人に対して、感謝以外ありませんよ。」
ヨウコさんの視線を追って、窓から外で遊んでいるトウヤさんと百鬼。そして意外だがジュウゾウさんの三人を眺める。
確かに、あれは尊いモノ、平和の象徴のような光景だ。
「そっか、良かった。それなら…、うん、安心です。」
ヨウコさんが気にしていないと言ってくれるのなら、これ以上気にするのは逆に失礼というものだ。
しかし、これで心の引っかかりが取れた。そんな気分になった。
これ以上話すこともないし、あまり長居するのもあれだ。このあたりでお暇しよう。
「それじゃあ、俺はそろそろ。今日は時間をとっていただいてありがとうございます。」
言いながら立ち上がる。
お昼も近くなってきた。白上達と合流することも考えると丁度よい。。
「…そうですか。もう少しおもてなしが出来ればよかったのだけれど。」
「いえ、十分です。お茶も出してもらいましたし。」
見送ってくれるそうで、ヨウコさんも後ろに続いて家を出る。
下へと降りれば百鬼たちもこちらに気が付く。
「もう、お話は終わったの?」
「あぁ、そっちは遊んでたみたいだけどいいのか?」
「うん、トウヤ君もそろそろ遊び疲れてきたみたいだし、休憩中だったから。」
見れば、確かにちょくちょく目をこすっている。
今はジュウゾウさんと手をつないで、今にも眠りそうだ。
「この度は本当にありがとうございました。」
最後、ヨウコさんはそういって俺たちを見送った。
こちらに手を振るトウヤさんに、そのトウヤさんを抱っこするジュウゾウさん。
その三人の姿を見て、少しだけ胸に寂寥感が残った。
百鬼と二人、宿へと歩を進める。
「知ってた、透くん。ジュウゾウさんってトウヤくんのおじいちゃんなんだって。」
「え、そうなの?じゃあ、ヨウコさんのお父さんってこと?」
「そうそう。」
なるほど、やけに気をかけていると思ったら父親だったからか。
ということは、あの三人は血のつながった家族ということになる。
先ほどの光景が頭によぎる。
あの光景を見て、百鬼も少し寂しそうな顔をしていた。
理由は聞けない。そこまで踏み込めるほど、俺は百鬼にとって内側の存在ではない。
確かに、仲は良くなった。冗談くらいは言い合える。
だけど、誰でも踏み込んでほしくはない領域は存在するだろう。
「最近思うんだけどさ。」
「うん?」
会話も途切れ、二人静かに歩いていると百鬼が声をかけてくる。
「余と透くんって、似た者同士なところあるよね。」
「似てるか…、ちなみにどの辺が?俺そこまでポンコツじゃない自信はあるんだけど。」
もしかすると百鬼から見れば、俺は割とポンコツに映っているのだろうか。
確かに、剣技などはまだまだだろうが、それ以外はいたって普通だと思っていたが。
「違うよ、なんていうか境遇みたいな。色々と似てるなって思ったの。」
「…そっか。」
いつか、百鬼が話しても良いと思えるようになったら、そのあたりのことも聞いてみたいな。
「それはそうと、ポンコツってどういうこと?」
「あ…」
夜、キョウノミヤコからシラカミ神社へと帰ってきた俺たちは、この五日間に及ぶ調査のお疲れ様会ということでミゾレ食堂へとやってきていた。
「そんなことがあったのかい。あんた達、良く面倒事を引き当てるもんだね。」
俺たちの話を聞いたミゾレさんからの一言はそれだった。
この口ぶりだと、白上達は以前にも厄介な事件に巻き込まれているようだ。
その内容を聞いてみたい気持ちはあるが、今はそれどころではない。
「あの、百鬼さん。俺が悪かったです、許してください。」
「つーん」
話しかけるが、つんと顔を逸らされてしまう。
昼からずっとこんな調子で話を聞いてもらえていない。
どうすれば機嫌を直してもらえるのか。
「それで、あの二人は何してんだい?喧嘩中なら仲裁の一つでもしてやりなよ」
「あー、あれは喧嘩というか、透君が余計な事言っちゃったみたいで。」
「あれま、そりゃ透が悪いね。」
聞こえているが、どうやら援護をしてくれる気はないらしい。
確かに昼の件は俺が悪かった。それは分かってる。
だからこそ、こうして平謝りしているのだ。
「なぁ頼むよ、何でもするから。」
「…何でも?」
うかつなことを言ったかもしれない。言葉を並べていたら変なところで百鬼が食いついた。
しかし、俺も男だ。男に二言はないという。何よりも、ようやく見えたチャンス。ここで逃すほかはない。
「あ、あぁ、何でも。俺にできる範囲ならだけど…」
腹をくくり宣言する。
日常系の雑用程度で済めばいいのだが、最悪サンドバックにでも何でもなろう。
「…一回。」
「へ?」
「じゃあ、いつか一回だけ、何でも言うことを聞いて。約束するなら許してあげる。」
横目でこちらをちらりと見る百鬼。
なんというか、すねた子供の相手をしている気分になってきたが、これを言うとただの火に油となるだけなのでそっと胸の中にしまった。
「分かった、約束する。」
「…なら、いいよ。」
そう言うと百鬼は笑いかけてくれる。
良かった、何をお願いされるかは分からないが、そこは未来の自分が何とかするだろう。
「仲直りできましたかー?」
頃合いを見てか、白上がこちらへとよってくる。
「何とかな。これからはうかつなことは言わないと心に決めたよ。」
「そうですよ、いくら本当のこととはいえ言ってはいけないことはありますからね。」
白上?あの、今ようやく許されたところなのになんでまた導火線に火を付けようとするんだ?
心の中でいつものように『余なんも聞いとらんかった』と言ってくれと祈るが、さしもの百鬼もこれには当然気づく。
「フブキちゃん?その言い方だとフブキちゃんも余のことポンコツだって言ってるように聞こえるよ?」
百鬼の言葉に、俺が冷や冷やとしている中、悪びれる様子もなく白上は答えた
「いや、あやめちゃんはポンコツだと思うよ?そこが可愛いんじゃないですか。」
「なっ…!」
それを聞いて驚愕する百鬼は、助けを求めるようにこちらを見てくる。
しかし、ここでどう答えても飛び火してくる予感しかしない。
そう感じた俺は、百鬼の視線から逃げるようにそっと視線を逸らした。
許せ、百鬼。でも、俺もそう思うんだ。
「…うぇぇん!ミオちゃん!フブキちゃんと透君がいじめてくる!」
泣きついてくる百鬼を受け止めると、大神はその包容力を発揮してそっと抱きしめ、頭をなでる。
「うんうん、あやめは可愛いね。」
百鬼は満足そうにしているが、ちなみに否定はしていない。
なんというか百鬼のポンは全員の共通認識のようになっている。
まぁ、丸く収まったようで何よりだ。
「そら、お待ちどうさま。」
ドンッと効果音が付きそうなほど大きな皿には大量の料理が盛り付けられている。
から揚げに、サラダ、ぼんじり。他の器にはきつねうどんもある。
「今日は貸し切りにしてあげるから、どんどん食べな。」
「流石ミゾレさん、太っ腹ですね!」
「ははは!褒めても料理しか出ないよ。」
白上が合いの手を入れると、ミゾレさんは豪快に笑う。
これは、ミゾレさんなりの労いなのだろう。ありがたく厚意に甘えさせてもらう。
テーブルいっぱいの料理を前に、大神がコップをもって立ち上がった。
それを見て、各々コップや杯を手に取る。
「みんな、この五日間本当にお疲れ様!乾杯!」
「「「乾杯!」」」
気に入ってくれた人は、シーユーネクストタイム。