どうも、作者です。
ここから新章。
感想くれた人ありがとうございます。
以上。
キョウノミヤコでの事件を解決してから、二日が経過した。
未だに、あの事件に関わってから一週間しかたっていないのだとは信じられない。
それほどにあの五日間の密度は濃かった。
クラウンを封印したあの結界は、神社の最重要保管物として、奥で封をされている。
これで、仮にクラウンの協力者がいたとしてもそう簡単には手出しすることはできない。
シラカミ神社に帰ってきてからは、元の生活に逆戻り。
大神の家事の手伝いをして、白上とゲームをしたり、百鬼と稽古をしたり。
カクリヨの異変自体は解決していないものの、直近でやるべき対処も限られている。
それも相まって、ここに来てからの日常を謳歌していた。
だが、そんな日常の中で一つ問題も発生していた。
「…透くん、なんか弱くなった?」
「はっきりと言いすぎだろ。」
地面に突っ伏し、荒い息を吐きながら、心を砕く剛速球を放つ百鬼に抗議する。
しかし、百鬼の言う通り、戦闘能力が明らかに落ちている自覚はある。
ここ最近、といってもシラカミ神社に帰ってきてからだが、どうにも以前と同じような動きが出来なくなっていた。
日常生活には特に影響は出ていないが、特に稽古のような戦闘を行うとその影響がもろに出る。
具体的には、身体強化が上手くできなくなっていた。
そのため 、受け止められた斬撃で吹き飛んだり、持久力がなくなったりと、散々な目にあっていた。
「んー?透くん、ちょっとそこに真っ直ぐ立ってみて。」
「?分かった。」
休憩して少しは体力が戻ったところで、百鬼が首をかしげながら言ってくるので、言われた通りぴしりと気を付けの姿勢をとる。
すると、こちらを見る百鬼の瞳が赤く光る。
「…うわっ」
「え、何その反応。」
次の瞬間、露骨に顔をしかめ、まるで汚物でも見たかのように目を細めるその様子に、思わず自分の体を見返す。
見たところ、いつもの運動用の服装なのだ、特にほつれているわけでもない。
「何が見えたんだよ、なんか体についてるのか?」
聞いてみると、百鬼は少し迷うそぶりを見せる。
これは教えた方が良いのだろうが、でもどうやって伝えようか。
そう悩んでいることが、ありありと伝わってくる。
本当に何が見えたんだ。
「えっと、今透くんのイワレを見てみたんだけど…」
「だけど?」
百鬼は、ぽつりぽつりと口にして、言い淀んでしまう。
変に溜められると、不安になってくる。
やがて、百鬼は意を決したように口を開いた。
「その、澱んでるっていうか、ドロドロしてて。
なんかヘドロみたいになってる。」
「ヘドロって…。」
思っていたよりも酷い言われようだった。
恐らく、今の不調はそこから来ているのだろうが、何でまたそんなことになっているんだか見当がつかない。
百鬼の様子を見るに、一般的なイワレの特性というわけでもなさそうだ。
「前の俺のイワレって見たことあるか?」
「うん、普通のアヤカシが持つようなイワレだったのに、何で急にこうなっちゃったんだろ。」
百鬼は顎に手を当てて首をかしげる。
一難去ってまた一難とはよく言うが、まさかこんなところで直面するとは思わなかった。
「ちなみに、似たようなことになった人を知ってたりは…」
「ううん、知らない。こんなイワレを見るのも初めて。」
試しに聞いてみるが、やはり、百鬼もこの件に関しては手詰まりのようだ。
しばらく二人で少し考えてみるも、これといって原因が思い当たらない。
「とにかく、一旦ミオちゃんに相談してみよっか。」
「そうだな。」
大神は占術関係で知識も豊富に持っているし、もしかすると解決できるかもしれない。
元々出来ていたことが出来なくなるのは不安ではある。だが、それ以上に、これからのカクリヨの調査へ影響が出てしまう。
出来れば元に戻るとまではいかないまでも改善位はしておきたい。
話が決まると、揃って大神の部屋へと向かう。
この時間帯は、家事も終わっていることだし、占いでもしているだろう。
「どうぞー」
襖をノックすれば、中から大神の声が帰ってくる。
了承を経てから部屋に入ると、そこにはタロットを並べている大神の姿があった。
「あれ、透君にあやめ。二人してどうしたの?」
「実は相談したいことがあって…」
ぱちくりと目を丸くする大神に、そう切り出して事情を説明する。
「なるほどね、イワレが澱んで上手く身体強化が使えないと。」
話を聞き終えた大神はそう呟くとしばらくの間、黙り込んでしまう。
流石に大神でも、イワレが澱むという事態への対処法は知らないのかもしれない。
しかし、そうすると困ったな。
せっかく恩を返せる機会だったのだが。仕方ない、戦闘が出来なくても、他に聞き込みだったりなんなりで、大神たちの助けになってみせる。
そうだ、鬼纏いや結界のようなワザを使えるようになったから忘れていたが、最初はどれも出来なかった。
それでも、俺は恩を返すと決めていた。
これはいわば初心に帰っただけ。どんな事でもこの身一つでやって見せよう。
「透くん、なんでガッツポーズしてるの?」
「いや、なんというか自分を見つめなおすちょうどいい機会だなって。
ワザが使えなくても、できることを探していこうと、気合入れただけ。」
挙動不審に思われたようだ、気を付けよう。
そうだな、まずは素の体力を上げるために走り込みを増やそう。
あとは、雑用関係の細かいスキルなんかも身に着けるのもいいな。
ほら、少し考えればいくらでもやることはある。
これから忙しくなりそうだ。
「ねぇ、ミオちゃん。透くんのイワレ、直すことってできないの?」
百鬼が心配そうに大神に尋ねる。
その気持ちはうれしいが、心配はいらない。
俺は俺なりの新しい役割を見つけて見せる。
そう伝えようと、口を開き…
「できるよ?今のは、ちょっと別のこと考えてたの。」
…できるらしい。やっぱり頼りになる我らが大神さんだ。
喜ばしいことだが、先ほどの決意が丸々無駄になった気がして、何故だか釈然としない気分だ。
「とりあえず、応急処置だけしちゃおっか。透君、こっちに来てもらえる?」
「分かった、よろしく頼む。」
大神は部屋に置いてあった机をどけて、スペースを作ると大きめのシーツを敷いてその上へと誘導する。
何をするつもりなのか疑問に思いながら言われるがまま移動すると、大神が正面に立った。
その顔は真剣そのもので集中力を高めるためか目を閉じ、深く呼吸をしている。
そして、次の瞬間その眼がかっと開かれた。
「そいっ!」
その掛け声とともに、大神は俺の来ている着物の衿をがしりと掴むと、それを横に広げながら勢いよく下へと引き下ろした。
「ちょ、ミオちゃん!?」
百鬼が慌てたように声を荒げる。
その顔は見たことがないほど赤く染まっている。
しかし、冷静に分析はしているが、俺自身現状何が起きたのか理解できていない。
有体に言えば思考がフリーズしていた。
いくら室内とはいえ、そろそろ寒さが増してくる季節だ。
妙に肌寒く感じる、自分の体を身を見下ろせば、上半身がもろに露出していた。
なるほど、これを見て百鬼はこんな反応をしているのか。
他人事のように考えるも、現実は現実である。
そもそも、言われれば自分で脱ぐのに何故俺は脱がされたのだろうか。この手順が果たして必要だったのだろうか。
思考がぐるぐるとループする。
「うー、余ちょっと出かけてくる!」
耐えきれなくなったのか、そう言い残して、百鬼は足音を立てながら足早にどこかへと走って行ってしまった。
こうして俺と大神は二人残される形となった。
「あの、大神さん。これは一体どういう…」
「あはは、ごめんごめん。一言声かけてからの方が良かったよね。
イワレの流れが滞ってるから、それを解消するのにマッサージが必要なの。服着たままだとやりづらいでしょ?」
大神は頬を掻きながら苦笑する。
そりゃ、いきなり脱がされれば誰だって困惑する。
大神は思っていたよりも天然が入っているのかもしれない。
それにしても、イワレが滞っている。
つまり、これは肩こりとかそう言った部類の問題だったりするのだろうか。血流が何とかのように。
イワレは神秘的なものだと考えていたところに急に現実味がわいてきて複雑な気分になる。
「それじゃ、そこにうつぶせで横になって。」
思考を中断して、言われた通り、畳の上でうつぶせになる。
「ところで、今の俺のイワレってどういう状況なんだ?」
少し間が空いたので、先ほどから気になっていたことを聞いてみる。
大神は、俺の背中へと手を置き、触診をしながら口を開いた。
「えっとね、普通イワレが一定以上宿ったアヤカシやカミは無意識でイワレを循環させてるの。循環させてないと、どういう原理かイワレって固まりだしちゃうんだよ。
だけど、それができないって人もたまにいるんだよね。
透君はイワレの存在しないウツシヨから来たでしょ?
だから、カクリヨだと生まれてから徐々に身に付いて行くそれが無いから、イワレが固まりだして、扱える総量が実質的に減ったんだよ。」
なるほど、それで身体強化の出力が落ちたのか。
そういうことなら、恐らく結界の方も上手くできなさそうだ。
幸いなことに、既に発動した結界は俺が持続させる必要ないため、クラウンが出てくることはない。
しかし、先ほどから大神の手が背中に振れているが、少し力を入れれば折れてしまいそうなほどに細い。
今にして思えば、こうやって触れ合うことは今まで無かったな。
そう考えると、この状況がやけに気恥ずかしく感じてくる。
「それじゃあ、始めるね。」
触診が終わったのか、そう宣言すると改めて大神は態勢を整える。
マッサージを受けるのは初めてだ。
気恥ずかしさもあるが、少し楽しみな自分もいる。
背中に大神の指が当てられる。
そして…。
「…って、いだだだだっ!!」
この世のモノとは思えない激痛が背中に走る。
まるで、背中を直接針で縫われながら、その糸を思い切り引っ張られるような感覚。
腕をバッサリ斬られた時も大概だったが、今のこれはそれをはるかに上回っている。
おかしくないか、痛覚神経に直接信号を送りこんでもここまで痛みは感じないだろう。
何をどう圧迫したらこうなるんだ。
「あ、この施術かなり痛いらしいから、頑張れ男の子。」
「いや、頑張るとそういう問題じゃなく…あだだだだ!!」
継続的に背中を押されるため、同じく継続的に痛みが走る。
もはや拷問か何かとしか思えない。
俺、何か悪いことしたかな。
あまりの痛みで目がチカチカとする。
そして、この拷問のようなマッサージはたっぷり一時間もの間続けられた。
「はい、これでおしまい。」
「…ありがとう…ございました。」
息も絶え絶えになりながら、何とか大神に返す。
終わった、ようやく、終わってくれた。
幾度となく意識を飛ばしそうになりながらも、何とか耐えきった。
まさか、ここまで大事になるとは予想だにしなかった。
しかし、これですべては解決したはず。
「ちなみにただの応急処置だから、まだ解決してないよ。」
「へ?」
今何と言った。
この激痛を耐えきってなお、足りないというのか。
というか、何故俺の考えが…
「透君は分かりやすいからね。嫌なら別の方法を探してみるけど…」
大神はこういうが、実際は他の方法などないのだろう。
それでもこう言ってくれるのは、俺に配慮してくれているのか。
そうだ、大神だって好きでこの方法をとっているわけではない。
必要だからこそ、こうしてやってくれているのだ。
それに対して、感謝以外抱くのは失礼というものだ。
「いや、大丈夫だ。これを続けてくれ。」
「…分かった、それじゃあ、明日からも続けるね。
さて、そろそろお昼ご飯の準備しないと。あ、透君は一回水浴びしてきてね。冷や汗凄いよ?」
「それは…いや、了解。ありがとな、大神。」
「どういたしまして。」
申し訳ないと思うと思うとともに、それでも嫌な顔一つせず施術してくれた大神には頭が上がらない。
せめて、部屋の片づけ位は手伝おうとするが、後はうちがしとくから、と背中を押されるようにして部屋を追い出されてしまった。
そんなに汗臭かったりしただろうか。
自分では分かりにくいが、大神たちからすれば気になるモノだったのかもしれない。
…これからはいつも以上に匂いにも気を付けよう。
そう心に誓ったのであった。
透を部屋から出した後、へたりと大神は座り込んでしまう。
その表情からは嫌悪の感情は見られない。
代わりに、その頬にはわずかに朱がさしている。
「はー、恥ずかしかった。」
その脳裏には、先ほどの透の上半身が映る。
透の前では平静を装ったものの、一人になって一気に羞恥が襲ってきたのだ。
「…明日からも頑張らないと。」
透と同時刻、こちらでも心への誓いが行われていた。
気に入ってくれた人は、シーユーネクストタイム。