どうも作者です。
以上!
大神の部屋を後にして、言われた通り水浴びをするべくシラカミ神社内を歩く。
肌をなでるような冷気にそっと身震いをする。
そろそろ水浴びだけでは厳しいものがあるのではないか。
この白上神社には風呂はない。
基本的に近くの村の銭湯に行くか、水浴びをするかの二択となる。
今はまだ問題はないが、流石に真冬に水浴びでは全身が凍り付いてしまう。
しかし、近くの村といっても山を降りてまた昇らないといけない。
身体強化を使えば、別に汗をかくほどではないがシンプルに面倒くさい。
白上達はちょくちょく行っているらしいが、俺は最初の一度を最後に、水浴びとなってしまった。
石鹸もあるし、湯があるかないかの問題だと考えていたが、これは銭湯に再デビューする日も近そうだ。
そんなことを考えながら歩いていると、曲がり角から白い狐耳を携えた一人の少女、白上が出てくる。
「あ、透さん。凄い声でしたけど、いったい何してたん…、にゃああああ!?」
「うわ、びっくりした!どうした、白上。」
白上の視線が俺の顔をとらえたかと思うと、徐々にその視線が下がっていき、唐突に奇声、もとい鳴き声を上げた。
何事かと、思わず身構えるが、特に何か起こる様子もない。
一応辺りを見回してみるが、こちらも特に何もない。
うん?じゃあ、何に対して白上は驚いているんだ?
「どうした白上、じゃありませんよ!
なんで上半身裸なんですか!」
そういわれて、ようやく自分の体を見返す。
確かに、何も着ていない。最近鍛えたせいかそれなりに筋肉の付いた自分の上半身が丸出しとなっていた。
なるほど、通りで寒いわけだ。
「悪い、なんかこの格好に抵抗がなくなってた。」
「なんでそうなるんですか。もう、ほら早く着なおして下さい。」
目を逸らしながら顔を赤くする白上に驚きながらも、ささっと着物の袖を通す。
しかし、百鬼に続いて白上まで顔を赤くするとは、意外だった。
あれだな、住まわせてもらっている以上、汗などもそうだが、もっと色々と気にした方がよさそうだ。
「全くもう、それで。不審者さんはどうして服を脱いでたんですか。もしかして、全員に見せて回るおつもりだったんですか?」
「白上、言い方の意地が悪いぞ。つもりも何も全員にもう見られたよ。」
ジト目でこちらを見ながらからかうように言ってくる白上。
しかし、こればかりは一概に俺の責任であるとは言い切れないはずだ。
まさか、コンプリートすることになるとは思わなかった。いや、白上以外の二人はもはや必然であったが。
「本当に何してたんですか。特殊な性癖にでも目覚めたんじゃないですよね。」
「違うって、なんかイワレの流れが滞ってるらしくて、ワザが上手く使えなかったんだ。
それで大神に応急処置をして貰う時に脱がされたんだよ。」
その後のマッサージの激痛で、服を脱いでいることなど完全に頭から離れていた。
人間適応する生き物だと痛感した。
それを聞いた白上は、目を丸くしている。
「ミオが透さんの服を脱がせたんですか?」
「そうそう、こう、襟をつかんでがばっと一気に行かれた。最初に何が起こったのか分からなかったよ。」
笑いながら言うも、白上は丸くした目を瞬かせている。
大神がその行動をとったことが心底以外に思っているようだ。
確かに、普段の大神からは想像がつかないな。それだけ緊急性が高かったのだろうか。
「なるほど、透さんも隅に置けませんねぇ。」
「なんだよ、その顔は。」
ニヤニヤとこちらを見て笑う白上に顔をしかめて聞くも、『いえいえ、べつに~。』とかわされて、白上はどこかへと行ってしまう。
相変わらず、怒ったり笑ったりと感情表現が豊かな奴だ。
しかし、隅に置けないとは、ただ服を脱がされただけで何故そこまで行くのだ。
そこだけ腑に落ちないまま、水浴びをするため、水場まで急いだ。
「ミーオっ、入りますよー。」
「フブキ、どうしたのいきなり。」
突然部屋に入ってくる白上に、大神は驚きながらもそう返した。
その顔は先ほどまでのそれとは異なり、普段の表情に戻っている。
しかし、付き合いの長い白上には隠し通せないようで。
「おや、やっぱり平気なんかじゃなさそうですね。聞きましたよ、透さんの服をはいだって。」
「ち、違うよ、マッサージするためにちょっと脱いでもらっただけ。」
意地悪そうに笑う白上に、大神はたじたじになりながらも反論をする。
だが、そんな様子を面白そうに見てくる白上を前に、すぐに反抗心はなりを潜め、代わりに先ほどまでの羞恥が顔に戻る。
白上はそれを見て、満足げに頬を緩める。
白上も驚いていた。まさか、大神がそのような行動をとる程に、彼に気を許すようになっていたことに。
「…もう、透君には言わないでよ。」
「言いませんよ、こんなに可愛いミオは白上が独り占めです。」
顔を赤くする大神を抱きしめる白上。
大神もまんざらではないようで、されるがままに白上の胸に顔をうずめる。
彼女らの付き合いは長い。
ある程度のことは通じ合える程度には。
互いの心情の変化には、特に。
「透さんに会えてよかったですね。」
「…うん、本当に。」
これ以上言葉はいらなかった。
ただ、この変化が悪いものではないことは確かだ。
「あー、さっぱりした。」
水浴びを終えて、カミを拭きながら白上神社へと戻る。
やはり、既に水が冷たい。
そのうち、氷が張ってもおかしくなさそうだ。
「…そういえば、百鬼はどこに行ったんだ?」
出かけるとは言っていたが、それ自体、百鬼にとっては珍しいことだった。
基本的に、白上や大神に付いて行くとき以外は、白上神社にいることが多い。
もしかすると、出かけるというのはただの建前で、案外その辺にいたりするのかもしれない。
などと、考えながら歩いていると、ふと違和感を覚えた。
視線を感じる。
場所は特定できないが、ひしひしとこちらに向けられる視線。
確かに誰かに見られている。
白上なら、用があればこんな事せず直接話しかけてくるだろうし。大神も同じく、わざわざ隠れようとはしないはず。
そうなると考えられるのは…
「…ッ!」
背後に気配を感じ、瞬時に後ろを振り向く。
が、そこには誰もいない廊下が伸びているだけ。
遅かったか。
再び、背後に気配。
「…そこだ!」
先ほどよりも素早く背後へと振り返る。
が、またしても逃してしまう。
しかし、今回は視界の端にちらりと白っぽい髪が映った。
なるほど、徹底的に隠れ通すつもりか。
ならば、こちらにも考えがある。
ワザは使えないが、感覚自体は残っている。
最大限に知覚を広げ、その瞬間を待つ。
恐らく、一度失敗してしまえば、それを織り込んだうえで対策がされる。
最初で最後のチャンスだ、逃すわけにはいかない。
シンと静寂が訪れる。
そして、ついにその時が訪れた。
再び背後に迫る気配。
「そこ、と見せかけてこっち!!」
振り向くその瞬間、全力をもってフェイントをかけ、可能な限りの速度で反対を向く。
流石にこれには反応できなかったらしい、俺の目の前に映るのは誰もいない廊下でなかった。
しかし、その人物の顔は認識できない。
というのも、今俺の視界いっぱいに映るのは赤い綺麗な瞳のみだ。
この瞳には見覚えがある。先ほどの思考の中心にいたのだ、見間違えるはずがない。
一つ疑問なのは、ほとんどゼロ距離で百鬼の眼が目の前にあることだろうか。
何故こんなに近いんだ。
あちらも、唐突のことに呆然としているようで、何も反応を見せない。
しばらく、そのままジッと見つめ合うという、謎の時間が続く。
百鬼の顔が上下逆に見えると思えば、どうやら天井からぶら下がっているらしい。
なるほど、それで素早く背後に回れたのか。上側の死角をうまく使われたようだ。
だが、ずっとこのままというわけにもいかない。
「何してるんだ、百鬼。」
「…はっ、わわわ!」
声をかけられて、ようやく現状を理解したのか百鬼は、驚いて天井から降りようと身をよじった。
それが仇となった。
こう、天井から足を下にして降りようとすると、回転をしないといけない。
しかも、今回は俺がいる側に足をもってくるわけにもいかない。
そうすると、必然、足を俺から見て前方方向に持っていくことになる。回転というのは一方が向こうに行けば、もう片方はこちら側に来るわけで。
つまるところ、俺の額と百鬼の額が衝突した。
それはもう、綺麗にでこが当たり、鈍い音が鳴った。
さらに、追撃とばかりにあおむけに倒れたところに、百鬼が背中から落ちてくる。
腹への衝撃と共に、二人、同じ体制で額を抑え悶える。
腹部へのダメージはそこまで無いが、額の方は中々に効いた。
瞼の裏がチカチカする痛みに耐えながら、なんとか体を起こそうとするが、百鬼が乗っていて起こさないことに気づく。
しかし、なんでまた百鬼は天井にいたんだ。新しい遊びか、それとも恒例の悪戯か。なんにせよ、今は上から退いていただきたい。
「いてて…、おい、百鬼。これはどういうことなんだ。」
「…っ!」
声をかければ、びくりと百鬼の体が動く。
ようやく現状を把握したらしく、急いで上から降りようするも、焦っているのか若干もたついている。
百鬼の意図が読めないまま、体を起こし、視線を向ける。
が、一向に目が合わない。
というのも、百鬼の視線が俺ではなく、俺の斜め後ろに向けられている。
視線をたどるも、特にこれといったものは見受けられない、
試しに、百鬼の視界に入るように移動し、視線を合わそうとしてみる。
しかし、百鬼は俺の動きに合わせて顔をそむけるようにして視線を逸し、頑なに顔を合わせようととしない。
「あの、百鬼さん?」
「えっと、その、あの…。ごめぇーん!!」
問いかけると百鬼はあたふたと目を回してしまい、最終的には引き留める間もなく、叫びがら再び走って行ってしまった。
予想外の展開に、呆然とその背中を見送る。
ふむ、これはつまり。
(俺が避けられてるってことだよな。)
何かしただろうかと考えると、すぐに原因が思い浮かぶ。
先ほども理由を付けて逃げ出していたし。そういうことだろう。
原因は分かった。しかし、これはどうしたものか。
こればっかりは、フォローのしようがない。下手なことをすればこれから先、口すらきけなくなるかもしれない。
…まぁ、所詮は上半身程度。
飯を食べれば頭の中から吹いて消えるだろう。
そう考えていたのが間違いだった。
その後、皆で揃って昼食となったのだが、相変わらず、百鬼とは目が合わないまま。
時折視線がぶつかることはあっても、すぐにそらされてしまう。
「あの、透さん。あやめちゃんにどんな裸体の見せ方したんですか。」
その様子を見かねてか、白上が小声で聞いてくる。
「裸体って…。ただ大神にはぎとられたとき居合わせただけだよ。」
その答えに少し胡乱気な視線を向けられるが、事実それ以外のことは断じてしていない。
まさか、ここまで純粋な反応をされるとは思いもしなかった。
「どんな生活してたらあんなに純粋に育つんだ。」
「…んー、まぁカミになったから、というのもあるんでしょうけど。あやめちゃんの場合は少し状況が違うので何とも言えませんね。」
その言葉を聞いてつい、箸が止まった。
カミになったらどうして純粋になる。
何の因果関係があってそうなるというのだ。
口ぶりからして、そうなるのが必然のような物言い。
「おい、白上。それってそういう…」
「こーら、二人共。喋るのもいいけど、今は食事中でしょ。」
少し喋りこんでしまっていたらしい。大神から叱責を受けて、それからは黙々と箸を進める。
結局肝心なことは聞けずじまいだったが、仕方がない。また時間が出来たときにでも聞いてみることにしよう。
「みんな、話があるからちょっと待って。」
昼食後、各々が部屋を出ようとしたところで大神に呼び止められた。
こういう時は大抵何か手がかりをつかんだか、事件が発生している。
前回のクラウンのこともある、あれも一歩間違えば最悪な結果になっていた。
次だって上手くいく保証もない。
そう考えれば自然と気が引き締まる。
「…えー、では次の目的が決定したので発表します。
日時は明日。目的地はイズモノオオヤシロ」
イズモノオオヤシロ、知らない地名だ。
しかし、その言葉を聞いて、きらりと白上と百鬼の目が光った。
カクリヨでは有名な場所なのだろう。
そんな場所で、一体なにが起こったのか。
心臓が早鐘を打つ。
そして、遂に大神が目的を口にした。
「温泉旅行に行きます!」
気に入ってくれた人は、シーユーネクストタイム