どうも、作者です。
評価くれた人、ありがとうございます。
以上
「温泉旅行に行きます!」
そう告げられた翌日。
早朝に旅支度を終えると、早速出発することとなった。
そもそも、イズモノオオヤシロが何処にあるのかすら知らされないままシラカミ神社を発つ。
しかし、白上や百鬼がうきうきと準備していたところを見るに、特に悪い場所ではないのだろうことはうかがえた。
温泉旅行というからには、温泉があって宿があってと、観光などが盛んな場所なのかもしれない。
少なくとも、血なまぐさい展開とは無縁な場所のようだ。
そう、どういう場所かまでは後回しでいい。
どうせむかってるのだ、実際に見てみればすぐにわかるものだ。
今問題なのはそこに辿り着くための過程だ。
カクリヨに来て以来、俺はキョウノミヤコとシラカミ神社、ミゾレ食堂くらいにしか足を運んだことはない。
一応、近辺の情報はある程度聞いているが、その中にイズモノオオヤシロなどという名前は出てこなかった。白上達の反応から、近辺にあるのなら、説明の際にも話題にくらいは出るだろう。
つまるところ、近辺にはないのだ。
だからこそ、耳にすることもなかった。
しかし、そうなるとどうやってそこに向かうのかということになる。
このカクリヨで生活してきて見聞きした基本的な移動手段は徒歩のみである。
これは、イワレによる身体強化が普及しているせいで、平均的な身体能力が上がっていることも関与している。
この世界では、イワレを持たない人物の方が少ない。
多かれ少なかれ、誰だってイワレは持っている。それが一定量を超えたとき、アヤカシやカミとなるが、どうやら、持っているだけでもその量に応じて身体能力は上がるらしい。
もちろん、イワレを能動的に使った身体強化とは比べ物にならない程微細なものだが、カミの基礎的な身体能力が高いのはこのためでもある。
そして、今現在、俺のイワレは澱んでいて使い物にはならない。いや、無理をすれば使えないこともないが、大神からは昨日のうちになるべくワザなどは使わないように釘を刺されている。
そういうことなので、今の俺はただの一般人と変わりない。寧ろ、イワレによる恩得すら薄くなっているため、平均から見ると下寄りだ。
キョウノミヤコですら、歩きでもだいぶ時間がかかった。
それ以上となると、少し厳しいものがある。
それを昨日大神に伝えたのだが…
「そのことなら大丈夫、理由は明日になれば分かるから。」
ただそう笑顔で言われた。
しかし、出発してからも何ら音沙汰はない。
まさか、根性論ではないだろうな。
気合があれば何でもできる。などと言われても無理なものは無理だ。
若干不安を感じながら歩き続ける。
「透君、何考えてるの?」
黙り込んでいることを不思議に思ったのか大神が話しかけてくる。
「あー、いやどうやって行くの考えてた。正直歩きだとキョウノミヤコくらいが限界だから。」
「昨日の件だね。それなら、そろそろ見えてくると思うよ。」
見えてくる?
生じた疑問はすぐに目の前の光景に塗りつぶされた。
まず感じたのは熱。
ゆらゆらと揺れる炎を足、胴にそれぞれ纏ったその生物がそこにはいた。
四足歩行の龍。この表現がしっくりと来るだろうか。
鋭い眼光がこちらへと向けられる。
「大神、この生き物は。」
「麒麟っていってね、ごく一部の人たちが移動用に使ってて、今回は特別に手配してもらえたの。」
ごく一部ということは、それこそ身分の高いか、強大な力を持つカミが使っているのだろうが、そんなところにまで顔がきくのか。
ある程度、分かってきたつもりでいたが、まだまだ俺の知らない面は多そうだ。
見てみれば、確かにその後方に車輪のついた小さめの小屋があり、そこに繋がれている。あれが乗り込む用の荷台だろう。
だが、荷台というにはあまりにも厳か。麒麟を含めて別世界のものであるような印象を受ける。
なるほど、これならイワレが使えなくても大丈夫そうだ。
これには白上や百鬼も驚いたようで、目を丸くしてぽかんと見つめている。
「…可愛い!」
「触っていいですか?いえ、触ります!」
かと思えば、すぐに麒麟へと駆けよっていくと、その頭をなで始めた。
怖いものなしか。
「二人共ー、すぐに出発するから早く乗って。」
「「はーい」」
その呼びかけに応じて、一人一人荷台へと乗り込んでいく。
三人が乗り込んだところで、俺も荷台へと乗り込むべく、麒麟の横を通る。
ここでふと興味がわいた。麒麟とはどんな触り心地なのだろうか。
白上達もなでていたし、と少しだけ撫でてみようと手を伸ばす。
「…」
ぎろりと先ほどこちらを見たものよりも鋭い目つきで睨まれた。
すっと伸ばしていた手を引っ込める。
なるほど、駄目ですか。そうですか。
「あ、その子男の人嫌いらしいから、触らせてくれないと思うよ。」
「…そうらしいな、実感した。」
再度トライすることもなく、黙って乗り込む。
正直なところ、本当に触ってみたかった。
なんというか、怖いモノ見たさもあるが、あれは鱗なのか、それとも毛皮なのかそれだけでも確認してみたかった。
意気消沈しながら、荷台へと乗り込む。
荷台の中は、向かい合う形で二つの席が取り付けられており、向かいの壁には円形の窓が取り付けられている。
片方の席は白上と百鬼が二人で座っているし、俺は大神の隣に座ることになる。
全員乗ったことを確認すると、麒麟が一つ鳴き声を上げるのが聞こえるのと同時に荷台がゆっくりと動き出す。
乗り心地は見た目通り、不快感は一切感じない。
「へぇ、凄いな。こんなに揺れないもんなのか。」
道が補装されているわけでもないのに、揺れが来ない。
普通、車輪が石などに乗り上げるなどして衝撃の一つでも来そうなものだが、それすらない。
ここまで乗り心地がいいなら愛用されるのも頷ける。
「うん、揺れることはそうそうないかな。これが麒麟の良いところだよね。」
「それは良いんだけど、余はちょっと苦手。」
そう言う百鬼を見てみれば、極力内側によっているように見える。隣同士で座っている白上にぴったりとくっついている。
白上からくっついているのはよく見るが、その逆とはまた珍しいな。
「?百鬼、何をそんなに避けてるんだ?」
試しに聞いてみれば、百鬼と目が合い、昨日のように再び逸らされる。
「その、窓の外、見てみて。」
百鬼はそう言うと窓を指さした。
昨日と違い会話はできるようになった。これだけでも大きな進歩といえるだろう。
やはり、こういったことは時間が解決してくれそうだ。
一安心して、百鬼の指さす通り窓の外を見てみる。
「何があるん…」
そこまで言って絶句。
何が見えたというわけでもないが、あえて言うなら地面が白かった。
ところどころ、その白い地面よりも下の方に緑が見える。
いや、地面ではない、あれは雲だ。
空を向けば、いつもよりも太陽が近い。
知らぬうちに、俺達は空を飛んでいた。
流石にこれには驚きで声も出ない。
いつも、シラカミ神社から見えているはずのカクリヨの景色だが、こうして空から眺めるのとでは明らかに違う。また異なる良さが見える。
何故か心のどこかで悲しみも生まれていたが、それを踏まえたうえで、この景色に俺は圧倒されていた。
「…綺麗だな。」
「うちも、こうして見る景色は好き。」
零れ落ちるように口を突いて出た言葉に、大神も同調する。
ふと見てみれば、いつの間にか大神の顔が近くにあった。
窓が一つなのだから、身を乗り出すようにしなければ見れない。二人同時に見ようとすればこうなる。
それが妙に気恥ずかしくて、身を引いて離れる。
「あれ、もう良いの?」
「…あぁ、もう十分見たから。」
そっか、と言ったきり、大神は再び外を眺める。
「景色は余も好きだけど、なんか変に宙釣りになってるみたいで苦手なの。」
百鬼は目を伏せながら言う。
言われてみれば、独特の浮遊感だろうか。風で浮いてるのとも違う。
あえて言うなら重力がなくなっているように感じる。それを上から支えられているような。
「そういえばそんな感覚あるな。やっぱり麒麟が関係してるのか?」
「そうだよ、麒麟のワザで荷台と麒麟自身を浮かしてるの。
カクリヨにはイワレが一定量宿ったらアヤカシになるけど、それは人間だけじゃなくて動物も一緒。麒麟は後者の動物がアヤカシになったバージョンだね。
人間みたいにワザの多様性は無くて、動物の種類ごとに統一されてるけど。」
なるほど、モノに宿れば能動的に発動はしないけど、使用されれば発動する。
動物の場合、能動的に発動できるが、種類は統一される。
イワレというのは知性の有無や程度によってその性質が変わるのかもしれないな。
しかし、これで麒麟の機嫌を損ねることがあれば、はるか上空から地面へと真っ逆さまに落ちることになるのか…
(…大人しくしておこう。)
そっと心に留めておく。
男嫌いと言えど、無害であればそこまで邪見にされないだろう、多分。
それからしばらく、誰もしゃべることなく、静かな時間が流れた。
百鬼は朝が早かったせいか、うとうととしていたが、すぐに眠ってしまった。
それにつられるように、白上も寝落ちし、今は二人寄り添って仲良く寝息を立てている。
大神は飽きることなく、ジッと窓の外を眺めている。
朝日に照らされたその姿は一つの絵のようで、つい見入ってしまう。
「大神は、よくこうして景色を見るのか?」
気が付けばそう聞いていた。
まぁ、どうせ気になっていたことだ、構わない。
大神は外から視線を外し、少し考える。
「昔にね。嫌なことを忘れたい時とか何も考えたくないときは、無理言って乗せてもらってた。」
確かに、この景色を見れば大抵のことは忘れられそうだ。
しかし、この言い分だと、これを借りた人物とは古い仲のようだ。
てっきり、白上とずっと一緒にいたのだと考えていたが、人に歴史ありとはよく言ったものだ。
「これを貸してくれたのも、今回の温泉の宿の経営者なんだよね。透君のそのイワレもそこなら完治できるとはず。」
なんとなく、勘づいてはいた。
どう考えても、今回の温泉旅行は急すぎる。
俺のイワレを直すために、今回の温泉旅行を企画してくれたのだろう。
「悪いな、俺のためにここまでして貰って。」
ただでさえ返しきれない恩がさらに重なってしまった。そろそろ返しきれないのではないか。
「気にしないで、うちも透君には助けられてるからお互い様だよ。」
「いや、確かに家事の手伝いはしてるけど、それは住まわせてもらってることで軽く相殺されてるから。」
そもそも家事も軽い手伝い程度で、あまり役に立っている気はしない。
「そうじゃなくて…、もう、本当に気にしなくていいのに…。うちが勝手にやってることだよ?」
言いかけて、あきらめるように息をつくと大神はむくれたような物言いでそんなことを言ってくる。
本当に、お人よしというかなんというか。
「そうか、それなら俺も勝手に恩を感じてるだけだからな、自分なりに勝手に恩を返させてもらうよ。」
言い返せば、大神は目を丸くしてこちらを見つめる。
かと思えば、すぐに噴き出した。
「あははっ、何それ、それじゃあ鼬ごっこだよ!」
あまりにもおかしそうに笑うもので、つられて俺も笑い出す。
「そうだな、返し終わらないとウツシヨにも帰れないからな。」
「それでずっとカクリヨにいるの?透君恩に縛られすぎ!」
変なツボに入ったのか、二人そろって笑い続ける。
こうして大神と二人で笑いあうのは、そういえば初めてかもしれない。
白上や百鬼と一緒の時はそういうこともあったが、二人きりでとなるとあまり記憶にはない。
そのせいか少しだけ、大神との距離が近づいた気がした。
それは別として、こちらはそろそろ頃合いだろうか。
「それで、そこの二人はいつまで狸寝入りをするつもりなんだ?」
「「…!?」」
声をかけてみれば、ピクリと白神と百鬼が反応する。
流石にあれだけ騒げば感覚の鋭い二人だ、起きていてもおかしくはない。
今の反応を見るに、それでも黙って聞いていたということか。
大神と一緒に前方の二人をじっと見つめてみる。
最初は耐えていたようだが、やがてそれも限界に来たのかゆっくりと目が開かれた。
「ふ、ふわぁー、よく眠りましたー。」
「あ、あれー、二人共そんなにこっち見てどうしたの?」
棒読みのセリフと共に伸びをして白上、百鬼は姿勢を直した。
ここまで白々しいといっそ清々しく感じる。
「起きたなら会話に混ざってくればいいのに…何で二人共寝たふりなんてしてたの?」
大神の言う通り、別に聞かれてまずいような話題でもなかった。
白上は言いにくそうに口をまごつかせ、目を逸らし、百鬼は少し顔を赤くしている。
「いえ、寝たふりというか…。いい雰囲気だったので邪魔すると悪いかなーって。」
「なんか、大人っぽかった。」
そんな二人のコメントに、つい大神と顔を見合わせる。
楽しそうだったのは認める、実際笑い合ってた。だが、それだけだし、いい雰囲気と呼ばれるほどのものは無かったと思うが。
大人っぽいは本当に分からない。
大神も同じ思考なのかきょとんとしている。
「会話をするのに邪魔も何もないだろう。なぁ、大神。」
「そうだよ、遠慮するなんて今さら感凄いし。」
先ほどは大神と笑いあうことが新鮮だったからまた違うが、大勢で話して笑いあうのも楽しい。
それに折角四人で来ているのに、話すのが二人だけというのも寂しい。どうせならみんなで話したい。
「そういうとこなんですけどねぇ。まぁ、二人が仲良くなるのは白上としても嬉しいですけど。」
思うところがあるのか複雑そうにしている。
それとは対照的に、百鬼は納得したらしく、普段通りの表情に戻った。
しばらく、談笑していると、唐突に麒麟が鳴き声を上げる。
「あ、そろそろ到着みたい。みんな降りる準備して。」
なるほど、先ほどの鳴き声で知らせてくれていたのか。
体感的にはそこまで経っていないが、もう着いたらしい。
大体出発してから30分ほどだろうか、空を飛んでいたためか速度は体感できなかったし、シラカミ神社からどの程度離れているかは全く分からなかったな。
イズモノオオヤシロ、一体どのような場所なのか、少し期待に胸が膨らんだ。
気に入ってくれた人は、シーユーネクストタイム。