【完結】色づく想ひ    作:ワンダーS

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どうも作者です。



イズモ神社(上)

 イズモ神社へと到着した俺たちは、その本堂を抜けて、さらに奥へと通された。

 流石に本堂で雑魚寝するわけにもいかないか。

 

 本堂の奥、その先の光景を見て、驚きのあまり一瞬呼吸が止まった。

 

 これが神社?

 いやそんなはずはない、これは神社なんて言葉で収まるモノではない。

 

 これは一つの小さな街の一角だ。。

 広さこそ、キョウノミヤコとは比べるべくもないが、和式の建物が数棟、数軒か、まるで選ばれた建物だけがこの空間にあるかのように、そこに存在している。

 

 少し離れた場所からは湯気が立ち上っているのが見える。あれが恐らく温泉だろう。

 

 同じ神社と言えども、ここまで違うのか。白上や百鬼へと目を向けてみれば、その顔は驚愕に満ちている。

 

 「どうやら、気に入ってらえたようじゃの。」

 

 ちらりとこちらを向くセツカさんに俺たちは揃って頷きを返す。

 確かに、最初の驚愕を乗り越えてしまえば、ここはあまりにも整えられた綺麗な街だ。

 

 「けど、やっぱり広いな。手入れとか大変そうだ。」

 

 聞く限り、セツカさんはここに一人で住んでいるそうだし、流石に放っておいて汚れが溜まらないわけでもないだろう。

 本堂だけでもかなりの広さだ、それ以外の場所もとなると現実味はない。。

 

 これを一人でとなると、それだけで数日はつぶれてしまいそうだ。

 

 「あぁ、そのことじゃな。そこは心配いらん、ほれ。」

 

 セツカさんが指を鳴らすのと、三つ音を立てて煙が立つ。

 

 目を向ければ、煙が晴れ、そこに人型の何かが立っている。

 人型といっても顔は狐のそれだし、体は半透明でうっすらと奥が透けて見える。

 

 「妾のシキガミじゃ、今おるのはほんの一部じゃが、基本的に掃除、料理、洗濯はこやつらに一任しておる。

  滞在中は主らの世話もこやつらがする故、何かあれば申し付けると良い。」

 

 セツカさんが紹介を済ませれば、シキガミはぺこりと一礼をするとふとどこかへと消えていく。

 恐らく、中断していた作業に戻ったのだろう。

 

 しかし、なるほど。

 シキガミか、確かにそれなら手が足りないということもなく、ここで暮らしていける。

 

 真にこの神社は単体で完結しているのだ。

 

 「あれ、私のシキガミよりも性能高いですね。セツカさんってもしかして見た目と違ってかなり年期入ってたりします?」

 

 シキガミを見て、白上が目を丸くしている。

 俺にはシキガミの性能云々はまるで分からないが、彼女もカミである。そう言った違いも目に付くのだろう。

 

 「見た目と違っては余計じゃ。これでも、ミオよりも早くにカミに至っておる。このくらい当然じゃ。」

 

 胸を張り、どやっと効果音が付きそうなほど誇らしげにセツカさんは宣言する。

 

 このカクリヨにおいて力の指針となるのはイワレの総量。そのイワレは自分を認める者に少しずつ溜まっていく。自発的に溜めることが出来ないため、その総量は一重にその人物の歩んできた歴史に依存する。

 長い時間を歩んでいれば、その分イワレに対する理解も進み、その総量も増えるだろう。

 

 もしかすると、セツカさんは俺たちの中の誰よりも、イワレを理解しているのかもしれないな。

 

 そういえば、シキガミと言えば。

 

 「百鬼もシキガミ使えたよな。あの、シキガミ降霊ってやつ。」

 

 「うん、余のシキガミは完全に戦闘用だから、他のシキガミみたいに掃除とかはできないけどね。」

 

 まぁ、あの鎧武者が掃除をしていたらそれはそれで違和感はあるが。

 そうか、シキガミも用途によって色々と存在するのか。

 

 少しだけ、シキガミに興味が出てきた。

 現状、ワザもまともに使えないが、いつかシキガミについて学んでみるのも面白そうだ。

 

 「何じゃ、透はシキガミに興味があるのか。それなら、妾が教えてやらんこともないが。」

 

 「え、良いのか?」

 

 思わぬ申し出に、つい食い気味に聞き返してしまう。

 

 「ほ、本当じゃ。もし透が望むのなら教えてやる。」

 

 セツカさんも不意を突かれたようで、若干後退りながら肯定する。

 

 これは幸運だ。

 独学よりも、知識のある人に教えてもらう方がよっぽど効率的。ましてや、相手はカミになるほどの人物。

 

 いや、割と周りにありふれているが、これは異例中の異例だ。

 

 そんな人から学べるのはかなり嬉しい。

 

 「ありがとうございます、セツカさん。あと、先ほどはすみませんでした。」

 

 意識的ではないとはいえ、驚かせてしまったことに謝罪する。

 それと、言葉遣いも悪かったな。いくら相手が友好的に接してくれているとはいえ、これから世話になるのだ。そのことに礼儀を忘れてはいけない。

 

 「む。」

 

 だが、予想に反してセツカさんの顔色は優れない。

 どこか不満気にも見えるその表情。

 

 だんだんと膨らんでいく頬に、何をしてしまったのか鑑みる。

 

 先ほど気安く話しかけすぎたことだろうか、だが、それ以外に原因は見受けられない。

 

 どう謝ろうか考えていると、セツカさんの頬が最高潮のふくらみを見せる。つついたら爆発しそうだ。

 

 「えっと、セツカさん?」

 

 「それじゃ!」

 

 たまらず声をかけるとそんな声と共に指を指される。

 どうすればいいかもわからず、助けを乞うように大神を見てみると、当の大神は面白そうにこちらを見るばかりで助太刀に入ってくる気配はない。

  

 「それとは…」

 

 「その口調をやめんか!それと、セツカさんではなく、えと、その…、透、主は皆のことを白上、大神、百鬼といった風に呼んでいるのであろう、ならば、妾のことも同じように呼ぶのじゃ!」

 

 怒ったり、赤くなったりと忙しそうにセツカさんは表情を変える。何とも感情表現が激しいらしい。コロコロと変化する様は見ていてほほえましく感じる部分もある。

 

 しかし、敬語ではなく普通の口調で。しかも同じように呼べと。

 つまり…。

 

 「普通に喋れってことで良いのか、神狐?」

 

 試しに普段通りの口調で話しかけてみる。

 これでだめだったら、完璧にお手上げだ。もっと詳細に聞いてみるしかないな。

 

 だが、そんな必要はないことを、すぐに理解した。

 話しかけた瞬間、神狐の顔がぱっと明るくなる。どうやら。これが正解であったらしい。

 

 「うむうむ、最初からそうすればよいのじゃ。…と、案内の途中じゃったな、こっちじゃ。」

 

 神狐は満足げに頷きながら、止めていた歩みを再開する。

 

 それに追従しながらも、俺の思考は困惑にまみれていた。

 そんなに気にするようなことでもないだろうに、神狐は呼び方と口調にこだわっているようだ。ならば、先ほどの対応は正解であるはず。

 

 だが、その理由までは分からない。神狐の好みというか拘りがあるのならそれまでだろうが。 

 …大神ならば何か知っているのではないかと、呼び止める。

 

 「大神、神狐って呼び方に拘りでもあるのか?」

 

 「ん、ないはずだよ?うちもせっちゃんって呼んでるし。

  さっきのはただ距離を感じたからじゃないかな。ほら、せっちゃんってここにずっと一人でいるから。」

 

 「そっか、ならよかった。」

 

 そういうことなら、あまり気にしないでよさそうだ。

 

 しかし、ここにずっと一人でいるのか。

 

 目を上げて、周りの一人で暮らすにはあまりにも大きな境内、イズモ神社を見回す。

 

 こんな場所に、誰とも会うことなく、ただ一人で。

 彼女は何を思って暮らしているのか。何のために、ここにいるのだろう。

 

 「何をしておるのじゃ、置いて行ってしまうぞ!」

 

 見れば、思ったよりも遠くに神狐達の姿があった。

 

 大神は大丈夫だろうが、置いて行かれてはおそらく一人で合流するのは不可能だ。

 慌ててその背を追う。

 

 

 

 

 

 やがて、途中神狐の案内を聞きながら、先ほどから見えていた宿のような施設へとたどり着く。

 まるで、それは屋敷のようで、恐らく、この中でも二番目に大きな建物だ。

 

 こんなものが神社の中にあるということが信じられない。

 いや、街として見れば普通なのか?

 

 未だにどう受け止めれば良いのか分からず混乱する。

 

 宿の中に入ってみれば、正面に階段があり、左右に広めのスペースがある。

 卓球台などもおいてあり、奥の方には男、女と書かれた暖簾が見える。

 

 「主らの部屋は二階に用意させておる。妾は少し用事を済ませてくる故少し失礼するのじゃ。」

 

 「分かった、ありがとう神狐。」

 

 「うむ!」

 

 宿を出てどこかへと向かおうとする神狐。

 その背に向けて礼を言えば、神狐はうれしそうな顔でこちらへと振り向くと大きく頷く。

 

 その様子を見て、大神が小さく笑っている。

 

 「透君、気に入られたみたいだね。せっちゃん凄く楽しそうにしてる。」

 

 「それは嬉しいんだけど。気に入られるようなことしたかな。」

 

 思い返しても、特にこれといったものは見受けられない。寧ろ印象を下げそうなことの方が多い気がするのだが。

 

 「せっちゃんとはちょくちょく連絡とってたんだけど、透君には会う前から割と興味津々だったよ。特にウツシヨ出身なところとか、理由はほかにもあると思うけど。

  最近はキョウノミヤコの件もあって、それで皆のことも伝えてたの。」

 

 「あ、それで余達の名前も知ってたんだ。」

 

 百鬼が納得したように手を打つ。

 何を伝えていたのか気になるところではあるが、取り合えず悪い印象がないのならそれでいいか。

 

 「それはそうと、そろそろ二階に上がりませんか?」 

 

 シラカミの言葉で、話もほどほどに、荷物を持ち二階へと上がる。

 二階は下の回とは違い、主に客間が広がっているようだ。

 

 「あ、シキガミ。」

 

 階段を上がったすぐそばに、先ほど見せられた神狐のシキガミが二体立っている。

 俺たちが上がったことを確認すると、二体並んでゆっくりと廊下を移動し始める。

 

 どうやら、部屋まで案内してくれるようだ。

 

 それに付いて行くと、奥側にある二つの隣り合わせの部屋の前にそれぞれが停止し、襖を開ける。

 

 「あれ、二部屋だけ?」

 

 大神の言葉に、シキガミが呼応するように首を縦に振った。

 それを見た大神の顔が凍り付く。

 

 割と意思疎通が取れてるみたいだな。ただ命令通り動くだけではないということか。

 

 一応部屋を覗いてみるが、ベットと椅子がそれぞれ二つ置いてある。。

 なるほど、四人を二人一組で換算して二部屋用意したのか。

 

 まぁ、確かに折角の旅行だ、一人一部屋よりも何人かで分けた方が楽しみやすいと考えるのは自然なことだ。

 

 だが、一つ屋根の下で暮らしているとはいえ、流石に同室はまずいのではなかろうか。

 幸い、部屋の大きさには余裕がある、最悪毛布だけ持っていくか、もしくは布団があるならそれを借りて、もう一部屋使わせてもらおう。

 

 「えっと、こっちの部屋も開けてみて良いか?」

 

 せっかく用意してもらったところに申し訳ないが、致し方ない。

 シキガミは先ほどと同じように了承するように頷く。

 

 許可も取ったところで、もう一つ隣の部屋の襖へと手をかけ、あけ放つ。

 

 しかし、そこには予想していた光景ではなく、何もないがらんとした部屋がそこにあるのみであった。

 

 「多分、どこの部屋もここと同じだと思う。」

 

 頭痛をこらえるように、頭を押さえる大神。

 あまりに衝撃的過ぎて、つい呆然と突っ立ってしまう。

 

 わざわざ、こんな状態から準備をしてくれていたのだろうか。

 だとしたら、もう一部屋用意するのは難しいか。

 

 「透君、勘違いしてそうだから一応補足しておくね、さっきの二部屋が普通の状態で、こっちが異常なだけだよ。

  あー、もう、せっちゃん余計な気を回しすぎだよ。…シキガミさん、伝言お願いしてもいい?」

 

 声に出していないはずなのだが、さらりと心の内を読まれた気がする。

 なんで分かるんだよ。

 

 こくりと肯定を確認すると、大神は荷物の中から紙を取り出すと、何事か手早く書き留めると、それをシキガミへと渡す。

 

 それを受け取ると同時にシキガミの姿が消える。

 

 「ミオ、セツカちゃんに何を送ったんですか?」

 

 「…うーん、簡単に言うと仕返しかな?それより、部屋分けだけど。」

 

 そうだった、何も解決などしていなかった。

 しかし、大神も何度かここに来たことがあるのだ、何か考えがあるのだろう。

 

 俺と白上、百鬼は黙って大神の言葉を待つ。

 

 「フブキとあやめが一部屋、そして、うちと透君でもう一部屋ね。」

 

 「…へ?」

 

 てっきり、別の場所を用意するつもりなのかと考えていたところに、普通に相部屋の提案をされ、つい大神の顔を見る。

 

 その顔は、何やら決意に満ち溢れている。

 

 「え、俺なら適当なところを借りて寝るから気にしないでいいぞ?」

 

 「駄目、そもそも今回は透君の療養も兼ねてるのに、外で寝かせるわけにはいかないでしょ。」

 

 座った眼をして、断固として意思を変えそうにない。

 

 だが、白上の時とは違い、今回は寝落ちなどではない。

 その分意識はするだろうし、大神も特に気にしないというわけでも…

 

 そこまで考えて、ふと思い出す。

 そういえば、昨日。白上や百鬼は俺の上半身を見て過剰な反応を見せていたが、大神はいたって平然としていたな。

 

 いや、だからと言って…

 

 「…それとも、うちと一緒の部屋は嫌、かな。」

 

 悲し気な目つきでこちらを見つめる大神に、今までの思考を飛ばされる。

 ここまでされては、断れることも断れない。

 

 「…分かった、それで行こう。」

 

 そう言って、ただ頷く。

 

 それが今の俺にできるすべてであった。 

  

 

 

 





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