【完結】色づく想ひ    作:ワンダーS

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どうも、作者です。

評価くれた人、ありがとうございます。

以上。


イズモ神社(下)

 

 「長い年月を経たカミはそれに比例した疲労を、魂にため込んでおる。

  だからこそ、それが取れればこうして眠りこんでも、不思議はないのじゃよ。」

 

 説明を終えると、神狐はその尾をゆらりと揺らしながら、白上へと近づく。

 

 しかし、それが分かっていたのなら、事前に知らせてくれていても良かったのではないか。そうすれば、先ほども変に動揺しなくても良かった。

 

 いや、違うか。それこそ先ほどと一緒だ。

 俺はまんまと神狐に化かされたのだろう。

 

 神狐は、白上のすぐそばで立ち止まると、おもむろにその手を白上へとかざした。

 

 「何をするつもりなんだ?」

 

 「なに、少しばかり確認するだけじゃよ。」

 

 言い切ると同時に、白上へとかざされた神狐の右手が、青い光を宿す。

 右手だけではない、尻尾や獣耳の先に至るまでが薄く光っている。

 

 この光景には見覚えがある。

 

、イズモ神社へと来る道中にも、神狐は同じようにしてワザを使用していた。

 これは、神狐がワザを使用する際に起こる規程の現象なのだろうか。

 

 黙ってその光景を見ていれば、その光は伝播するように、白上の全身を淡く覆った。

 

 十秒ほど経過しただろうか、二人を包んでいたその光は少しずつ収まっていく。

 

 「それで、何を確認してたんだよ。」

 

 完全に光が収まったのを見計らい、声をかける。

 

 「この娘の魂じゃよ。疲労が取れておるかくらいならすぐにできるからの。」

 

 「魂って…、そんなことまで出来るのか。」

 

 シキガミを操ったり、雪をどかしたり、今度は魂だ。 

 底が知れない、というのは大袈裟かもしれないが、それでも、そう思わずにはいられない。

 

 「うむ、一応イズモ神社の神主だからの。相応の力を持っておかんと示しがつかぬ。」

 

 ドヤ顔で胸を張る神狐に、思わずぱちぱちと拍手を送る。

 それに気を良くしたのか、満面の笑みを浮かべている。

 

 確かに、能力などの面では底知れない凄みを感じるが、この絵だけはどう見ても、子供が褒められて喜んでいるようにしか見えない。

 

 端的に言えば、やっている事は凄いが威厳は感じない。というやつだ。

 

 「あー、やっぱり。」

 

 心がほっこりとするのを感じていると、後方からそんな声が聞こえてくる。

 振り返ってみれば、大神がこちらを見て、苦笑いを浮かべている。

 

 「大丈夫って言ってたからもしかしたらって思ってたけど…、流石に無理があるよね。」

 

 そう言う大神の背には、百鬼が背負われている。

 どうやら、白上と同じように、百鬼もまた眠ってしまったようだ。安心しきっているようで、あどけない寝顔をさらしている。

 

 どちらも神狐から貰ったであろう浴衣を着ており、それを見て、神狐も満足そうにしている。

 

 「二人は寝てるけど、大神は大丈夫なのか。」

 

 白上と百鬼は眠っているが、大神は眠気を感じているようには見えない。同じカミであるのならば、大神も疲労を残していそうなものだが。

 

 大神はそれを聞くと、少し目を丸くして、納得したように声を出す。

 

 「うん、大丈夫だよ。フブキと出会ってからは入ってなかったから、久しぶりに体の疲れが取れたみたいな、すっきりした気分。」

 

 「もっと入りに来てもよいのじゃがな。こやつときたら、中々帰ってこようとしないのじゃ。」

 

 じとりとした視線を向けられた大神は、肩身が狭そうに視線をそらしている。

 

 そんな二人の会話を聞いていて一つ疑問が湧く。

 

 確か、大神はこのイズモ神社にいたことがあると聞いていた。

 しかし、この言い方では、来たことがあるのは事実であるのだろうが、まるで。

 

 「そうだよ。

  うちね、昔はここに住んでたんだ。」

 

 「え…あぁ、また顔に出てたか。」

 

 そろそろ、思考を読み取られることにも慣れてきた。

 

 だが、やはりそうか。

 数度来たことがあるにしては、大神のここまでの立ち振る舞いはあまりにも自然体であった。

 

 しかし、住んでいたともなればそれにも納得がいく。

 

 さらりと言ってのけた辺り、大神にとっては別段隠し立てすることでもないのだろう。

 いや、ここに連れてきた時点で既にそうであるか。

 

 「ん…」

 

 突然、大神の背の百鬼が身じろぎをする。

 起きる様子はないが、いくら眠かろうと、人の背に背負われたままではん眠りにくいか。

 

 「おっと…、透君、詳しい話はまた後でね。取り合えず、あやめとフブキを布団に入れてあげないと。

  悪いんだけど、フブキのこと運んで貰ってもいいかな。」

 

 「分かった、任せてくれ。」

 

 大神に答えてから、白上の元へと向かう。

 

 無防備に眠っているところに手を出すのは気が引けるが、しかし、いつまでもベンチの上に寝かせるわけにもいかない。

 

 意を決して、先ほどと同様にして横抱きで抱え上げる。

 

 「あ、そうだった。」

 

 部屋に向かうため、階段を上がろうとした時、大神がふと立ち止まった。

 どうかしたのか、と俺と神狐も足を止める。

  

 「ねぇ、せっちゃん、部屋の件なんだけど。」

 

 「あーっと、急用を思い出したのじゃ。今すぐ行かねば…そう、凄いことにってしまうのじゃ!」

 

 振り返り告げられた大神の言葉に、神狐はサッと顔を青くすると、白々しい演技でまくしたて、脱兎のごとく駆けて行ってしまう。

 

 言伝を受け取っていたはずなのだが、なぜのこのこと出てきてしまったのか。

 

 「もう、また逃げる。別にひどいことするつもりなんてないのに…。」

 

 心外だと言わんばかりに頬を膨らませる大神。

 

 「ちなみに、言伝にはなんて書いてたんだよ。」

 

 仕返しとは言っていたが、具体的に何をするとまでは聞いていなかった。

 あそこまで急いで逃げるほどの

 

 大神は歩きながら、虚空を見上げ考えると答える。

 

 「お尻百叩きと正座二時間どっちがいい?って。」

 

 「…いや、それは逃げるだろ。」

 

 神狐でなくても、逃げたくなるのも分かる。

 今回は、事情が事情だからあまり擁護もできないが。

 

 未だ起きる様子のない二人を部屋に寝かせると、俺と大神は自分たちの部屋へと戻る。

 

 椅子も置いてあるのだが、今回はそれに座ることもなく、それぞれのベットに腰掛け、特に会話もなく、静かな時間が流れる。

 

 つい折れてしまったが、やはり同室というのは早まった気がする。

 

 別に、普段のように二人で茶を飲みながら話をするくらいならどうってことはない。だが、一緒の部屋で寝るともなれば話が別だ。

 

 一言でいえば、気まずい。

 

 それだけではない、要因は他にもある。

 

 ちらりと大神へと目を向けてみるが、部屋の向かい側の窓から外でも見ているようで、こちらからはその背中しか見ることが出来ない。

 

 いつもなら、ほんわかと軽く話を振ってくる大神が、今日ばかりは部屋に入って以来一言も喋っていない。 

 

 おかしい、先ほどまでは普通に話せていたはずなのに、この部屋に入ってからはこうなってしまった。

 

 だが、いつまでもこのままというのはお互いの精神衛生上よろしくない。

 

 「あの、おおか…」

 

 「…よしっ!」

 

 勢いよく両頬をぱちんと叩くと、大神はようやくこちらへと振り返る。

 

 その顔は紛れもなく、いつも通りの大神だ。

 少し頬が赤いが、これは今叩いたことが原因だろう。

 

 「透君…。」

 

 「あ、はい!」

 

 大神の鋭い視線に、思わず背筋を正して堅苦しい返事をして、何事かと身構える。

 

 「脱がすね。」

 

 「はい!…ん?脱がす?」

 

 反射的に返事をしたものの、すぐに違和感に気が付く。

 

 いや、まぁ服を脱げというのは分かる。

 あれだろう、例のマッサージをするのだろう。

 

 その為には上半身裸になり直接肌に触れる必要がある。

 割と唐突ではあるが、うん、ここまでは理解できる。

 

 だが、脱がす。

 

 自分でするのであれば、脱ぐ。自分から他人へとその旨を伝える場合、脱いで。

 こうなるはずだ。

 

 脱がす、つまり自分から相手への行動。

 

 何故大神が俺の服を脱がす。

 そういえば、先日も脱がされた。もしかして、そうしなければならない理由が?

 

 あってたまるかそんなもの。

 

 そうこうしているうちに、がっと肩を掴まれる。

 

 「落ち着こう、大神。常に冷静にだ。

  そう、だからまずはその手を離してだな。」

 

 説得を試みるが、がっちりと掴んでいてその力が弱まる様子は無い。

 このままでは本当に脱がされる。

 

 そう判断した俺は、大神の下がろうとする手を掴み抵抗を試みる。

 しかし、残念なことに、現在の俺はイワレによる身体強化は以ての外、普通の身体能力すら下がっており、全力で力を込めても恐らくまだ全力ではない大神にギリ拮抗するのが限界だ。

 

 「大丈夫だよ、透君。痛くしないから、ほんの一瞬だから。」

 

 「俺の精神的な問題なんだよ!…そうだ、自分で脱ぐ、自分で脱がせてくれ。」

 

 そこでふと気づく、大神の顔がやけに近い。

 

 それはそうだ、俺の浴衣の衿を掴んで下げようとしているのだ。腕は曲げなければ下へと力を加ずらい。そうすると、自然と肩から手までの距離は短くなり、当然顔も前へと出てくる。

 

 近づくことで、大神から白上とはまた違った甘い香りがすることに気づく。しかも、地味に乗り上げてきてくるせいで、下手に動けば、それこそ一大事となってしまう。

 

 「大神、この態勢は色々とマズイ!とにかくいったん離れて…」

 

 「でも、これはうちがやらないと。大丈夫だから、うちは大丈夫、大丈夫。」

 

 目をぐるぐると回しながら大丈夫を繰り返す大神。

 駄目だ、話が通じていない。

 

 何が大神をここまで駆り立てるんだ。

 昨日の今日ならぬ、先ほどの今で何が起こったというんだ。 

 

 いくら抵抗をしたところで、相手は万全な状態のカミ。一般人以下の俺がそう長く拮抗できるはずもなかった。

 

 ついに、俺の手もろとも、大神の手が下がる。

 

 「暇なのじゃ!ということで、主らも共に…」

 

 スパンと襖が開き、またもや神狐が登場する。

 何やら誘いに来たらしい、しかし、全てを言い切ることなくこちらを見て固まっている。

 

 それをみて、今一度自らの体制を顧みた。

 

 上半身は案の定何も着ていない。恐らく神狐からは位置合いとして俺の背中が見えているはずだ。

 しかも、タイミングのみならず不幸は重なるもので、恐らく大神の耳が、黒い獣耳が俺の肩越しに見えているだろう。

 

 何故、神狐が言葉を止めたのか。その理由が分かった。

 

 さて、どうしよう。

 一周回って冷静になってきた。

 

 多分、弁明しても無駄なんだろうが、まぁそれ以外に打てる手はないし。

 やることは決まった、あとは実行するのみ。

 

 神狐の方へ振り向く。

 

 「ごゆっくりなのじゃー。」

 

 現実とは時に残酷なものである。

 予想よりも早く、神狐は再起動していた。静かに音を立てて襖が閉まる。

 

 …。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「いだだっ…、それで、何で、ぐっ…、あんなことになったんだ。」

 

 マッサージによる激痛に耐えながら、ベットの横に立ち俺の背に手を当てる大神に問いかける。

 

 「あ、あはは、ちょっと緊張しちゃって。でも、今度こそ大丈夫だから。」

 

 「今度ね、もう服をはぎとられるのは勘弁だぞ。」

 

 気まずそうに笑う大神に軽くジト目を送っておく。

 あの後、神狐を追う気力もなく。大神が正気に戻すことを最優先にした。とはいえ、割とすぐではあったが。

 

 そして、当初の目的であったはずのマッサージへと移行した。

 

 「意外とネジ飛んでるとこあるんだな。いでっ…知らなかった大神の一面が最近よく見える気がするよ。」

 

 いや、むしろこれまでが知らな過ぎただけなんじゃないかとすら思える。

 

 「透君、その言い方すごく意地悪だよ。」

 

 不服そうな大神。

 軽い意趣返しに成功して、笑いがこぼれる。

 

 「大神、ここに住んでたんだって?」

 

 そういえば、部屋に戻る前にそんなことを言っていた。

 そう考えると、大神も慣れ親しんだ場所に帰ってきて、良い意味で気が緩んでいるのかもしれないな。

 

 「うん、そうだよ。正確には少し違うのかもしれないけど、せっちゃんとはその時から色々お世話になってたんだ。」

 

 お世話か。

 どちらかというと、大神が世話を焼いているイメージしかわかないな。

 

 「凄いんだよ、せっちゃん。うちと出会った時にはもうカミだったんだけど、できない事なんてほとんどないくらいでね。皆の憧れの的だったんだ。」

 

 「え、それ本当か?現時点ではあまり想像できないんだが。」

 

 カクリヨの歴史に明るいわけでもないし当時どんな時代だったのかすら分からない。

 

 首をかしげていると、そんな俺を見て大神はくすくすと笑う。

  

 「だよね、ちょっと事情があってね。今のせっちゃんは全盛期に比べて大分力は落ちてるから。」

 

 力云々ではないのだが。いや、言うまい。

 

 しかし、今神狐を語る大神の顔に若干曇りが見えた。

 何かがあったのだろう。神狐が力を失うこととなった何かが。

 

 だが、それも昔のこと。それこそ明確に過去と呼べるほどには。

 既に当人同士で折り合いはついているのだろう。だからこそ、今もこうして二人は遠くからやり取りをしたり、会いに来れているのだ。

 

 それを、藪をつつくような真似はしない方が良い。

 

 「…そっか、ま、俺から見たら神狐も、白上も百鬼も、大神だって。凄いと思うし、憧れだよ。」

 

 追いつける気はしないし、追いつけるとの思っていない。

 それだけ、四人のそれぞれ積み重ねてきたものは大きい。

 

 その教養が、知識が、経験が、時間が、彼女たちを彼女たちたらしめている。

 

 本人を前に言うのも気恥ずかしいが、偽ることのない俺の本心だ。

 

 「…もう、口がお上手ですね、お客さん。」

 

 「いきなりどんな設定だよ。っていだだだ。」

 

 そんな声と共に背中に走る激痛に、顔を伏せて耐える。

 変な口調にツッコむのに精いっぱいだったこともある。

 

 そのほんのり赤く染まった少女の顔を俺は見ることはなかった。

 

 

 

 





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