【完結】色づく想ひ    作:ワンダーS

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どうも、作者です。

評価くれた人ありがとうございます。

以上。


散歩

 「これでよし、終わったよ透君。お疲れ様。」

 

 「あ、ありがとうございました。」

 

 マッサージを終えた大神の手が背から離れる。

 

 二回目とはいえ、痛いものは痛い。途中雑談くらいはできるようになったが、それでも最後の方には精神的に疲労がたまった。

 

 とはいえ、痛みの分効果も如実に表れている。

 温泉の効能も相まってか、自分でも実感できる程にイワレの流れが良くなっている。

 

 これなら、百鬼に見せてもヘドロのようだとは言われないだろう。

 

 イワレの流れが改善してきたことにより、心なしか体が軽い。

 

 「透君、これから用事はある?」

 

 「ん?いや、特にないけど。」

 

 浴衣を着なおしていると大神が声をかけてくる。

 

 確か神狐にシキガミについて教えてもらうことになっていたが、何時かは決めてなかったし、そもそも肝心の神狐がどこかへと行ってしまった。

 

 適当にくつろぐか、その辺りの探索でもしようかと考えていたところだ。

 

 「それじゃあ、うちとちょっとお散歩しない?良かったら案内できるけど。」

 

 「散歩か…いいな、よろしく頼む。」

 

 何をするか決まったところで、早速部屋を出る。

 一応、白上と百鬼が起きているか確認したが、今もぐっすりと眠っていた。

 

 外に出て、改めてイズモ神社の街並みを見渡す。

 

 こんなにも大きな街とも呼べるほど建造物があるということは、かつてこの神社は人で賑わっていたのだろう。

 

 それが、今は神狐が一人住むのみ。

 そう考えると、どうしても称賛よりも先に、寂寥感が湧いてくる。

 

 「どうしたの、置いて行っちゃうよ。」

 

 「っと、悪い。」

 

 声をかけられて、自分が立ち止まっていたことに気づく。

 すぐに追いつき、二人そろってゆっくりと歩く。

 

 少し冷えるが、歩いていれば適度に暖かくなるだろう。

 

 それからしばらく、大神の案内に従い、イズモ神社を巡った。

 いくら広いと言えど、そこまで寄る場所は無いと思っていたが、それは間違いであった。

 

 ここから見る景色は綺麗だ。

 

 ここにはこんなものがある。

 

 あれはこういう建物だ。

 

 聞けば聞くほど、イズモ神社の魅力が出てくる。

 

 一人で歩けばどうってことのない場所でも、大神の説明によって途端につい足を止めてしまうような場所になる。

 

 「それでね、この庭園は…」

 

 説明をする大神はとても楽しそうで、いきいきとしている。

 いつもは皆の世話ばかり焼いている彼女だが、こうしてみるとただの一人の少女のようだ。

 

 「…て、透君、聞いてる?」

 

 「えっ…あぁ、もちろんだ。」

 

 嘘である。

 大神を見ていて、ほとんど耳に入っていなかった。 

 

 「じゃあ、今さっき言ったことを復唱してみて。」

 

 きらりと大神の瞳が獲物を捕らえた肉食獣のそれに代わる。

 これは、完璧にばれてるな。

 

 逃げようは…なさそうだ。

 

 「ごめん、聞いてなかった。もう一回頼む。」

 

 「もう、変な嘘つかなくても怒ったりしないのに。」

 

 そう言うと、再び大神は説明を始める。

 

 どうやらこの庭園の池では昔、大神が魚を飼っていたらしい。

 それを、神狐と共にここで見ていたとのこと。

 

 しかし、今はそんな面影は一切ない。

 池の中を覗き込むが、そこに生物がいた名残は一切ない。

 

 そもそも、こんな環境なのだ。普通の生物が生息できるとは思えない。

 

 「だけど、意外というか新鮮だな。」

 

 「?何が?」

 

 大神は不思議に顔をこちらに向ける。

 

 「大神に限らず、皆の昔話って聞いたことなかったからさ。あっても割と最近のことだし。」

 

 こうして昔話をしてくれるようになったのは、ある程度気を許されたからなのか、それとも気が緩んでいるからなのか。

 

 どちらにせよ、何処か嬉しく感じる自分がいる。

 

 「確かに、隠してるわけじゃないんだけど、あんまり話さないかも。ちょっと恥ずかしいし。」

 

 大神は照れたように頬を掻く。

 

 どんな人物にせよ子供時代は存在する。

 基本的には未熟ゆえの過ちなどもあり、話すことに抵抗があってもおかしくない。

 

 しかし、今の彼女らしか知らないことからも、どうしても興味を抱いてしまう。

 

 「ほら、透君だって子供の頃は…て、ごめん今の無し。」

 

 突然にしまったという顔をすると、申し訳なさそうにこちらを見つめる。

 

 どうしたのだろう。

 何か言ってはいけないことを言ったような雰囲気。

 

 今の会話の何処にそんな要素が…。

 そこまで考えて、ようやく気がつく。

 

 「記憶のことなら、そこまで気にしなくても良いぞ。正直不便を感じるような事は一切ないし。」

 

 「それでも、思い出したくても思い出せないのに、昔の話をしちゃって。」

 

 本当に気にしてるのであろう、大神の両耳がぺたりと垂れている。

 どういう原理かは知らないが白上といい、耳と尻尾は感情とリンクしているらしい。

 

 見ていて飽きないからずっと見ていたいが、流石にそろそろフォローを入れよう。

 

 「むしろ、聞きたいと思うくらいだからどんどんしてくれよ、思い出話。

  特に大神って普段しっかりしてるから、どういう子供だったのか結構気になる。」

 

 「…そうなの?それなら、良かった。」

 

 ほっと安心したように、大神は息を吐く。

 心なしか、強張っていた表情も緩やかになっている。

 

 人を気遣うのもいいが、過ぎれば逆効果。良い体験になった。

 

 それにしても、三人から昔話を聞かないのも、俺に気を使ってのことなのだろうか。

 …いや、そうなのか?大神はともかくとして、白上や、百鬼は微妙だ。特に百鬼は何というか他に理由があるような気がするが、まぁ、今は良いか。

 

 「最近は、本来の自分に不安すら覚えてるから、戻りたいかと聞かれると微妙なんだよな。」

 

 「大丈夫、透君は透君だよ。」

 

 そうだと良いな、と池を眺めながらなんとなしに考える。

 

 池の水に反射した自分の顔を見る。

 俺は俺か、はたして記憶を取り戻した際にも同じことが言えるのだろうか。

 

 今の記憶を本来の自分が丸々引き継ぐのか、ただ今の状態に本来の記憶だけ戻るのか。

 それとも、今の俺が消えて、元の俺に置き換わるのか。

 

 今の俺にとって元の俺というのは別人に等しい、そうだとすれば、記憶が戻れば今の居場所に元の俺が付くことになる。

 

 それは…

 

 「それは、嫌だな。」

 

 「透君?」

 

 そんな言葉がつい口をついて出てしまう。

 何故こんなことを思ったのか明確には分からないが、何となく、この想像が気に食わなかった。多分それだけだ。

 

 それに、自分に関する記憶が抜け落ちているだけで、今の俺が本来の自分の可能性すらある。

 

 「いや、何でもない。それより、次のところも案内してくれよ。」

 

 「?…いいよ、じゃあ行こっか。」

 

 若干訝し気にこちらを見るが、それ以上踏み込んでくることもなく、俺達は次の場所へと向かう。

 

 それから、一通りイズモ神社を回ると、宿へと戻った。

 回った場所自体は約十か所ほどではあったが、一つ一つの説明を聞いていると、ぞの分時間もかかった。時間帯的には少し遅めの昼ご飯となりそうだ。

 

 宿の扉を開け、中に入る。

 

 「あー、どこ行ってたんですか?」

 

 「あれ、フブキ。もう起きてたの?ちょっとお散歩に行ってただけだよ。」

 

 二階で寝ていたはずの白上がベンチに座って牛乳を飲んでいた。

 白上はこちらに気が付くと、牛乳を飲み干し、駆け寄ってくる。

 

 それにしても。

 

 「白上、その牛乳どうしたんだ?持ってきてなかったよな。」

 

 流石に飲み物を持ってくるのは、しかも牛乳を持ち運ぶわけがない。そこまで好きなら聞いているはずだし。

 

 だが、この宿にはそう言った飲み物は置いていなかった。

 

 「これですか?そこで座ってたらシキガミさんが持ってきてくれたんですよ。」

 

 あそこにいますよ、と言って指さされた方向を向けば、何故か割烹着を着ているシキガミがいる。

 

 「…神狐のシキガミか、何であんな格好を。」

 

 「補給用のシキガミだよ。あの子が外から色々持ってきてくれるの。服はせっちゃんの趣味らしいよ。」

 

 なるほど、食料事情はどうなっているのかと考えていたが、外からの供給だったか。

 

 しかし、趣味ということは服装は時々で変わってくるのだろうか。

 正直、顔が狐だから違和感が半端でない。

 

 「フブキ、あやめはまだ上?」

 

 「はい、揺すってみたんですけど全く起きる気配が無かったので、白上だけ下に降りてきたんですよ。」

 

 まだ、百鬼は起きていないのか。

 

 この場合魂の疲労に比例してその後の睡眠時間も変わるらしいが、それほど疲労が大きかったのだろうか。

 

 「そっか、なら仕方ないね。透君、フブキ、何か食べたいものある?頼んだら大体のものはあの子が作ってくれるよ。」

 

 「なんでもですか!?」

 

 予想外の食いつきを見せたのは白上。

 その眼は期待の為かきらきらと輝いている。

 

 「なんだ、食いたいものでもあったのか。」

 

 白上の好物といえば、きつねうどんがパッと思い浮かぶが、それならミゾレ食堂でそれこそ飽きるほど食べているだろう。いや、あれだけ食べて飽きている様子は全く見られないが。

 

 テンションが上がっているのか、白上は食い気味にこちらに詰め寄ってくる。

 

 「はい!このカクリヨでもめったにお目にかかれない歩くうどん屋マボロシ。その唯一のメニューである幻のきつねうどんは食べれば普通のきつねうどんが霞んでしまうほど絶品と噂なんです。」

 

 「…きつねうどんからは離れないのな。」

 

 しかし、そこまで熱弁されると一度食べてみたくなるな。

 

 白上は期待の視線をシキガミへと向けると、自然、全員の視線が集まる。

 

 「…」

 

 だが、そんな期待は無言で首を横に振るシキガミによって見事に砕かれた。

 

 「流石にそれは用意できないみたい、普通のきつねうどんなら大丈夫だと思うけど。」

 

 「うぅ、そうですか、そうですよね。普通のでお願いします。」

 

 大神の説明を受けて、白上は涙ながらに頷く。

 

 というか、その上できつねうどんを頼むのか。

 この異常なまでの執着はどこから来るのだろう。

 

 そんな一幕を見ていたら、俺まできつねうどんしか考えられなくなった。

 それは大神も同じようで、三人揃って同じものをシキガミへとお願いする。

 

 「そういえば、神狐は良いのか?」

 

 一応、このイズモ神社にいるのは全員で五人。

 百鬼は寝ているから仕方ないとしても、神狐は寝ているわけでもないだろう。誘えるのなら誘いたいが。

 

 「んー、一回どこか行っちゃうと基本的に見つけられないんだよね。出てこないってことは先に食べても良いってことだよ。」

 

 「不思議な方ですねー。」

 

 しばらく、三人で一階のテーブル席に座り雑談をして時間をつぶす。

 最近調査続きだったせいか、何も考えずにこうして話すのは気が楽だった。

 

 それからそこまで時間も経たず、先ほどのシキガミがお盆に三つの器を載せて現れる。

 

 中には、大きな油揚げの乗ったうどんが湯気を立てている。

 

 外の気温が低かったせいか、やけにそれが美味しそうに見えた。

 

 「おかわりはありですか!?」

 

 白上がすかさず聞くと、シキガミは縦に首を振ってこたえる。

 

 「フブキって普段はそうでもないのに、きつねうどんだけは妙に食い意地張ってるよね。」

 

 「それはもう、神聖な食べ物ですから。いくらでも食べれますよ。」

 

 「きつねうどんとの間に何があったんだよ。何の説明にもなってないし。」

 

 話もほどほどに、手を合わせて箸をとる。

 

 かなりの短時間であったのにも関わらず、出汁もきちんと取られている。

 事前に用意でもしていたのか、特殊な調理法をとったのか。

 

 とはいえ俺がいえるのはただ一言。

 

 超美味い。

 

 つい夢中になって食べ進める。

 

 「お代わりをお願いします。」

 

 「速いな!」

 

 こちらはまだ半分も食べていないのに、白上の器を見ればスープすら残さず、綺麗に空となっていた。

 シキガミは、器を回収するとすぐに新たな器を白上の前に置く。

 

 器の中には、先ほどと同じようにきつねうどんが入っている。

 あっけに取られてそれを眺めていると、白上は食事を再開し見る見るうちにうどんが減っていきまた、器が空になる。

 

 そしてまた、シキガミは新しいうどんを白上の前に置く。

 

 「…わんこそばみたいだ。」

 

 「結構熱いと思うんだけど、何であの速度で食べれるのかうちも分からない。」

 

 結局、俺と大神が一杯を食べ終わるころには、白上は四五杯ほどを完食していた。

 

 前にミゾレ食堂で食べているところを見たことがあるが、未だにどこにあれだけの量が入っているのか想像もつかない。

 

 とはいえ、また言葉を間違えてあらぬ不興を買ってはたまらない。ここは何も言わないでおこう。

 

 「それで、これからどうしよっか。」

 

 シキガミが食後にと持ってきてくれたお茶を飲みながら大神が言う。

 

 イズモ神社は大神とあらかた回ったから、散策という気分でもない。

 かといって、何もしないというのももったいない。

 

 「そうじゃな、丁度よい。シキガミについて学んでみるのはどうじゃ?」

 

 「あ、そうだな、折角だし…」

 

 言葉を途切って、声の出所へを見れば、どこから現れたのか神狐が立っていた。

 

 

 

 

 

  





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