どうも、作者です。
「あれ、神狐。どこに行ってたんだよ。」
いつの間にやら現れた金色の少女へと問いかける。
今日会ったばかりだが、奔放な性格をしていることは確かだ。
「ちょっとした野暮用じゃよ。それよりどうじゃ?」
持ちかけられたのは、シキガミ講座。
ある程度、イワレの流れも改善したことだし、これなら無理をしなければ問題はない筈。
何より、神狐はその辺りも詳しいみたいだし、その当人が誘ってるのだからなおさらだ。
一応、大神に確認をとるように視線を送る。
「大丈夫だよ、今の段階でもうほとんど治ってきてるし、もう一日同じ処方をすれば完治するから。
それに、シキガミってどちらかというとあんまり負担はかからない技術だし。」
「そっか、なら神狐、よろしく頼む。」
そういうことなら、と神狐に返事をする。
「うむ。白上よ、お主もどうじゃ?どうせ教えるなら一人も二人も変わらんが。」
「いいんですか?そういうことなら、お願いします。」
ということで、二人で神狐からシキガミに付いて学ぶこととなった。
大神は百鬼が起きたときに誰もいないのはとのことで、部屋の方でゆっくりとするらしい。
神狐に案内されるがままについて行くと、イズモ神社の入り口にあった本堂へと通される。
こんなところ使っても良いのかとも気になったが、特に信仰などはないらしく今ではただの広い居間程度の扱いとなっているらしい。
それでいいのかイズモ神社。
「よし、では始めるとする。準備はよいかの?」
「「はい!」」
正座をして、神狐の問いに元気よく答える。
それに満足するように一つ頷くと、神狐は説明を始めた。
「まずはシキガミについて話そうかの。
一般的にシキガミとは、アヤカシの扱うワザとはまた違った手法で用いられる使い魔のようなものじゃ。ワザではない故に体力やイワレなどの使用は極めて少なくて済む。
用途も様々じゃ、妾のように家事などの雑事に使うこともあれば、戦闘でのサポートに使うものもおる。」
「白上のエンチャントもシキガミに手伝ってもらってるんですよ。」
そう言う白上の肩に、光と共に小さな白い狐が現れる。
なるほど、白上が武器を変化させるとき発光していたのはこれが原因だったのか。
「シンキなどの武器に憑依させておるのじゃな。戦闘での使用法としての最適解とも言えるじゃろう。」
白上のシキガミは、こちらをじっと見ると、すぐに顔を逸らしてしまう。
「あ、もう、すみません。この子人見知りでして。」
「気にすんな、今まで姿を見たことがなかったのってそれが原因か?」
「はい…。」
もー。と抗議するように白上はシキガミを指でつつくが、当のシキガミは遊んでもらっているとでも思ったのか、じゃれついている。
「シキガミは基本的に動物の形を取ることが多い、そうでなくともそれに準じた姿となる。
妾のシキガミも顔が狐であったじゃろう?あのように、どこかしらに特徴が出てくるのじゃよ。」
確かに、白上のシキガミも、神狐のシキガミも狐だ。
どちらも使用者の特徴と一致しているが、やはりこの辺りも関係してくるのだろう。
イメージの問題か、イワレの問題か。どちらにせよそう言うことなら今の時点で俺がシキガミを使用した場合の特徴は予想がつかないな。
「そういえば、さっき一般的な使い方って言ってたけど、他にも使い方はあるのか?」
ぱっと思いつく使い方はそれこそ、家事、戦闘くらいだ。それ以外というと、大神が伝言を預けていたが、あれが例外的なモノとは思えない。
「そうじゃの。先にシキガミとはワザとは違う、消費の少ないモノと説明したじゃろう。
逆に、消費をすればその性能や実現可能なことの幅を広げることが出来るのじゃ。
通常、シキガミを扱える数に限りがあるがそれを突破したり、憑依の対象を変えて自らの強化を行ったりの。かくいう妾のシキガミもこの前者に当たる。
つまるところ、シキガミと己がワザを利用し、新たなワザを自分のものとする事ができるのじゃよ。」
新たなワザ。
俺のワザは結界に封じ込めた対象物を封じ込めるものだ。
それを、シキガミと組み合わせるのか。
…だめだ。まだ見ぬ自分のシキガミが結界の中から悲し気にこちらを見つめる場面しか思い浮かばない。
「組み合わせによっては、現時点でのワザの弱点の克服にもつながるからの。じゃが、問題点もある。」
「問題点ですか?」
神狐の言葉に白上は疑問符を浮かべる。
それは俺も同じだ。
今のところそれ自体にはメリットしか感じない。
「まず、これは習得するには膨大な経験が必要となる。それこそ、カミに至る程のモノでない限り、身に着けることは難しい。
そして、それだけ難易度も高い。
カミでも扱いきれないものもおるし、ワザの相性もある。
白上の言う、エンチャントとやらは、ただ武器の形状を変えるのみであろう。それ以降の効果はまた別のワザが発動しておるのじゃよ。」
その言葉に、白上がワザを使用した時のことを思い出す。
確かにエンチャントの他にもワザを続ける形で使用している。てっきり、あれもシキガミと組み合わさったものだと考えたが、どうやら違うらしい。
それならば、大神はどうか。
いや、大神がシキガミを使用しているところを見たことはない。
他に…
そうだ、百鬼のシキガミ降霊。
百鬼はあれは戦闘用のシキガミだと言っていた。
それを体に憑依させて、爆発的に身体能力を上げるワザとしていたのか。
実際には本人に聞くしかないだろうが、今の話を聞く限りそういう解釈もできる。
「ちなみに、神狐はどんなワザと組み合わせてるんだ?」
恐らく、シキガミの数の限界を拡張しているのだろうが、何と組み合わせたらそれが可能となるのか。
純粋に気になってしまう。
「妾か?そうじゃな…、答えてもよいのじゃが…いや、しかし。」
「いや、答えにくいのなら無理に答えなくてもいいぞ。」
何やら、悩ませてしまったらしい、顎に手を当てうんうんと唸る神狐に言う。
だが、それでもなお、神狐は何事か考え込んでいる。
しまったな、もう少し考えてから聞くべきだったか。
「…うむ、ではヒントだけ答えよう。
妾のシキガミは、魂のワザに関係しておる。これ以上は自分で考えると良い。」
「魂か…、分かった考えてみるよ。」
とは言ったものの、それがどうシキガミに関与しているのかはさっぱりだ。
基礎的な説明が終わった所で、本格的にシキガミを扱ってみることとなった。
「透はシキガミを持っておらぬのじゃろう。なら、まずは自身のシキガミを生み出すところからじゃな。…ほれ。」
「?なんだこれ。」
手渡されたのは一枚の紙。裏返して見てみれば、何やら文字が書いてある。
「シキガミを生み出すためのお札じゃ。それを使って自分に合ったシキガミを呼び出せる。
使い方はワザを使う要領でイワレを込めるだけでよい。」
「分かった、やってみる。」
言われた通りに、手に持ったお札へとイワレを流す。
温泉とマッサージの効果か、以前に比べてスムーズに扱える。
これでまだ完治ではないというのだから末恐ろしい効能だ。
アヤカシである俺でこれなのだから、カミである他の三人はこの比ではないだろう。
…百鬼との鍛錬が今から不安になってくる。
イワレを流し続けると、お札にかかれれた文字に光が宿ってくる。
それは段々と強く、大きくなっていき、球体を形作る。
目を焼くほどの光ではない。ただその光景をじっと見つめる。
掌を軽く超えるほどの大きさになったところで、少しずつその光は収束を始めた。
凝縮されるように、小さく小さく。
やがて、光の中から一つの動物の形が見え始める。
輪郭がそのまま出てきて、完璧に光が収まったところで詳細なその姿が現れる。
つぶらな瞳。
茶色い羽。
触れ心地の良さそうな羽毛。
これは
「鳥かの?」
「鳥ですね。」
二人の言う通り、俺の手のひらには一匹の小鳥がちょこんと乗っていた。
物珍しそうにあたりを見回したり、その場で羽を動かしてみたりしているそれは、正に鳥そのもので…。
「えッと…、神狐、シキガミの使い方をもう一回教えてもらってもいいか。」
「うむ、簡潔にまとめると戦闘と家事じゃ。」
恐る恐る聞けば、神狐はあっさりと答えてくれる。
戦闘。どう見ても一撃で撃沈しそうな姿だ。出来て撹乱程度だ。
ならば、家事はどうだ。
この大きさでどうやって家事をする?むしろ自ら食材になりかねない。
ここまで考えて、思考を放棄する。
どうあらがっても、両方共に活用できる気はしなかった。
「その、良かったの、透。このシキガミ、伝令に特化しておるぞ。」
「…そうか、ちなみに普通のシキガミと比べるとどれくらい優れてるんだ?」
特化しているのなら、使い方がはっきりしていて助かるな。
しかし、気になるのが神狐が若干言い淀んでいる点だが。
「…ちょっとだけ早く届け先に到着するくらいじゃな。」
言いにくそうに、苦笑いをして言う神狐に思わず自らの手の中にいるシキガミを見つめる。
どうやら、シキガミの中でもできることの少ない子を引き当ててしまったらしい。
当のシキガミはジッと見つめるこちらを不思議そうに見上げている。
その仕草が少し、可愛いと感じた。
そうだ、この子はまだ生まれたばかりなんだ。
出来ないことがあるのは仕方ない。寧ろ当然だ。
伝令しかできない?違う伝令ができるんだ。
それだけで十分すぎるほどだ。高望みをしても仕方ない。
「あの、透さん変な思考になってませんか?」
「楽しそうじゃし、放っておいた方が面白そうじゃ。」
横で二人が何か言っているが、特に気にならない。
それよりも、この子を見ることに夢中になっていた。
それから、白上も交えてシキガミの応用方法や効率的な扱い方など、白上でも知りえなかった技術、知識を神狐から学んでいった。
それを受けて、改めて神狐が大神よりも早くカミになったということを実感した。大神が博識であるのも占星術によるものかとも考えていたが、神狐と暮らしていたのなら、確かに博識であることにも頷ける。
「こんなところじゃな、今話したのはあくまでも基礎じゃからな。これより先は自分なりに考えてみると良い。」
「「はい、ありがとうございました!」」
そうこうしているうちに、今回のシキガミ講座は終了した。
外を見てみれば、少し空が赤くなっている。
かなり長い時間が経過していたようだ。
だが、その分成果もあった。
シキガミでの遠隔通信。
身に着けることが出来たのはこれのみであったが、これから調査をしていく上で扱いやすく、効率的なモノにできるだろう。
「夕餉も近い、そろそろ戻らねばな。」
「そうですね、あやめちゃん起きてますかね。」
「どうだろうな、流石に起きてるんじゃないか?」
そう言って本堂を後にしようとしたところで、不意に神狐が足を止めた。
「白上、少しばかり透と話したいことがあってな。先に戻っていてくれぬか。」
「?はい、構いませんけど、早く帰ってきてくださいね。」
白上は足早に本堂を出て行ってしまう。
そして、神狐と二人きりとなった。
「それで、話したいことってなんだ?」
白上を先に帰らせたということは、聞かせたくない話か。
だが、俺の方からは特に心当たりはない。
神狐は一つ息をつくとこちらへと視線を向ける。
その眼は、今までで見た者の中で、一段鋭いモノであった。
「主、その宝石についてどこまで知っておる。」
「宝石?」
一瞬何のことかと考えたが、すぐに右腕の宝石に行き当たり視線を落とす。
相変わらず濁った色をしている。
この宝石に付いて今分かっていることなどほとんどない。
「いや、正直何も分からない。…けど。」
神狐は黙って俺の話を聞いている。
偽りは許さないと剣呑な雰囲気を纏っているように見えるのは俺の気のせいか。
「最近は、この宝石が俺のことを助けてくれているんじゃないかって、そう考えてる。」
キョウノミヤコでもこの宝石があったから、トウヤさんを助けることが出来た。
それより以前、百鬼に吹き飛ばされたり、骸骨の霊に襲われたときもだ。
「それだけか?あの三人と共にいるのも他意はないと?」
「あぁ、そうだよ。あの三人には世話になってる。その恩を俺は返したい。それだけだ。」
じっとこちらを見つめる神狐の眼力は衰えない。
ただ、何かを見通すようにこちらを見続けている。
「…嘘では、ないようじゃの。」
その言葉と共に、先ほどまで感じていた雰囲気は霧散した。
俺は今試されていたのか。
気づけば、冷や汗をかいている、それほどまでに、神狐のはなっていた雰囲気は、重圧感は凄まじいモノだった。
「それで、神狐はこれについて何か知っているのか?」
大神ですら知らなかったこの宝石。
何かあるのは間違いないのに何も見えてこない、この宝石について。
神狐なら知っているのではないかと思えた。
神狐は、少し考えるそぶりを見せると、顔を上げ、口を開く。
「知らないといえば嘘になる。じゃがな、これは主にとって悪影響でしかない。故に話すことはできないのじゃ。」
「…そう言うことなら、無理には聞かないが。」
気にはなる。だが話せないと言うのなら無理には聞き出せないか。
その理由が何であれ、あまり良い話ではないのかもしれない。
ただ意地悪で話さない、というわけでもないだろう。
本当に、この宝石は何なのだろう。
気に入ってくれた人は、シーユーネクストタイム。