どうも作者です。
誤字報告、感謝。
イズモ神社に来訪してから一日が経過した。
外は相変わらずの雲に覆われており、朝であるはずなのにも拘らず薄暗い雰囲気を醸し出している。
横のベットを見れば、既に起きたのか大神の姿はない。
あの後、結局俺は大神と同じ部屋で就寝した。
神狐に頼んで、他の部屋を使うことも可能ではあった。
しかし、大神と接しているうちに、変に意識することはなくなっていた。
それなら、わざわざ手間をかける必要もないということで、そのまま二人で部屋を使うこととなった。
ぐぅ、と胃が空腹を訴えてくる。
朝は何を頼もうかと考えながら、手ばやく身支度を整えて部屋の外に出る。
「あ、透くん。おはよー。」
「百鬼、おはよう。ようやく起きたのか。」
丁度同じタイミングで部屋から出てきた百鬼と鉢合わせる。
まだ眠たいのか、眼をこすっている。
「ようやくって?
それより、余お腹すいた。ここってご飯どうしてるのかな。」
一日中寝ていたのだから当然だろう。
寝ぼけているのか、それとももう気にしていないのか普段通り会話ができる。
「神狐のシキガミが作ってくれるぞ。大抵のものは用意できるらしい。」
「え、そうなの?セツカちゃん凄いね、余のシキガミが料理なんてしたら台所なくなっちゃう。」
多分冗談とかの類ではなく、確固たる事実なんだろうなと理解できる。
自分でシキガミを使えるようになって、改めて百鬼の扱うシキガミが強力なものであることを実感した。
ちゅん助を一としたら、確実に百鬼のシキガミは千は越えている。
ここまで差があると、比べるのもかわいそうに思えてくる。
「白上はまだ寝てるのか?」
普段は遅くまでゲームをしていて朝は遅い白上だが、流石に昨夜はすぐに寝ただろうからもう起きて理宇と思うのだが。
「ううん、余が起きたときは部屋にいなかった。
温泉に入った後の記憶ないんだけど、透くん何か知ってる?」
「温泉から上がってからすぐに寝たらしいぞ。
何でも魂の疲れが取れる湯らしくて、それで眠気に耐え切れずにって感じ。
白上も同じでしばらく寝てた。」
それにしても、今さっき起きたということは、百鬼は丸一日眠っていたことになる。
一体どれほどの疲労をため込んでいたのやら。
くぅ~。
不意に小さく子犬の鳴き声のような音が聞こえてきた。
てっきりイズモ神社には他の生物がいないと考えていたため、驚いて辺りを見渡すが、当然どこにも犬の姿は見えない。
そして、百鬼の顔が徐々に赤くなっていることに気づいた。
それはそうだ、先ほどもお腹がすいたと言っていたではないか。
腹が空けば、腹が鳴る。
自然の摂理だ。
「…いやー、そんなことよりお腹空いたな!そろそろ下に降りようぜ!」
「そ、そうだね!余もお腹と背中くっつきそう!」
流石に、ここで突っ込むほど鬼ではない。
武士の情けというやつだ。
謎にハイテンションになりながら、急ぎ足で下の階に降りる。
広間を見れば、既に白上と大神は席について談笑していた。
二人はこちらに気が付くと手を振ってくる。
「おはようございます、透さん、あやめちゃん。あやめちゃんはともかく、透さんは遅かったですね。」
「遅いって言っても、白上と大神が早すぎるだけで、俺はいたって普通だと思うぞ。遅いのは普段の白上だろ?」
雲で見えなかったが、今頃雲の上では太陽が姿を見せ始める頃合いだ。
白上は大抵大神に起こされるまでは寝ているのだが、やはり今日は早かったようだ。
図星を突かれたためか、白上は唸るだけで何も言えなくなってしまう。
全員そろったということで、いつの間にか現れていた割烹着のシキガミに朝食を頼む。
ものの数分で運ばれてくる料理を見て、百鬼は目を輝かせていた。
「本当にシキガミが料理作ってる。…やっぱり余のシキガミも何とかならないかな。」
小声で聞こえてきた言葉に思わず苦笑いが出てしまう。
その試行錯誤の内にいったいどれだけのキッチンが犠牲になるのやら。
「あやめ、シラカミ神社に帰ったら、食べたいものはうちが作ってあげるから。」
「え、良いの?ありがとう、ミオちゃん!」
同じ考えに至ったのか、大神は百鬼の頭をなでてなだめている。
相変わらずこの二人は仲がいいというか、母と娘のように見えてくる。
「透さん、昨日ミオとぎくしゃくしてましたけど、もう大丈夫なんですか?」
ぼんやりと眺めていると、白上が横から話しかけてくる。
気が付いていたのならその時点で言ってほしかった。
とはいえ、解決できたのだから、結果オーライだ。
しかし、昨日の件については話すのは少し抵抗がある。
内容が内容だけに、勝手に話すわけにもいかないだろう。
「あぁ、ちょっとした行き違いだったから。」
答えれば、それならよかったですとあっさりと引き下がった。
話もほどほどに、食事を進める。
このイズモ神社に来て初めて四人揃っての食事だ。
ふと、イズモ神社にいる筈のもう一人の姿がないことに気づく。
「そういえば神狐はどうしたんだ?昨日の夜は一緒にいたよな。」
小さな金髪の狐娘。
彼女の部屋がどこにあるのかすら知らない。
思えば、基本用事がない時はふらりとどこかへ消えている。
リラックスできるように気を使てくれているのか、あるいは単に他にやることがあるのか。
「せっちゃんならさっき顔出しに来てたよ。今日の夜は期待しておけだって。」
どうやら行き違いになっていたらしい。
そうか、明日には帰るのだから今日がイズモ神社での最後の一日になるのか。
昨日の今日だというのに、この神社の居心地の良さについいつまでも住んでいたくなる。
そうだな、仮にシラカミ神社を追い出されたときは頼らせてもらおう。
「透くん、昨日の夜って?セツカちゃんと出会ったのって今日だよね。」
「へ?」
今日?
記憶が確かなら昨日の朝に神狐と出会ったはずだが…いや、そう言うことか。
「なぁ、百鬼。今日でこの温泉旅行は何日目だ?」
「?一日目。」
聞けば、疑問符を浮かべながらも答える百鬼。
やはり、気が付いていなかったらしい。
「えっと、今日は二日目です。あやめちゃん、丸一日寝てたんですよ。」
それを聞いた百鬼は石化したかのようにぴたりと制止する。
手から箸が零れ落ちるが、すかさずシキガミが拾い、新しいものを置いた。
「え、じゃあ、余の旅行一日無くなったってこと?余まだ温泉に入っただけ?」
「そうなるな。」
後は、今朝食を食べていることが追加されるくらいか。
そう考えると、何とも身のない旅行だ。今回の場合は仕方がないが。
「うぅ、余の旅行今日で終わる…。ミオちゃ~ん。」
「はいはい、今日はいっぱい楽しもうね。」
大神に泣きつく百鬼。
何かフォローでも入れようかと思ったが、大神に抱きしめられて十分に癒された顔をしているので言葉を引っ込める。
「オカンですね。」
「オカンだな。」
代わりに白上に続く形で、目の前の光景に対する感想を口に出しておく。
「二人共、事あるごとにうちのことオカンにしようとするよね。」
そんな俺たちに大神は苦笑いで応じる。
それは違う、俺や白上が大神をオカンにしようとするんじゃない。大神がオカンだから、率直な感想を伝えているだけだ。
順序が違う、順序が。
「余、ミオちゃんの子供になる。」
「ちょっと、あやめまで乗らないでよ。」
満足げにしている百鬼がぽつりと呟けば、大神は裏切られたとでも言うように嘆く。
朝食を食べ終え、各自で自由に過ごす。
取り合えずやることもないので、ランニングがてらイズモ神社を回ることにする。
一応、療養もこの旅行の目的だが、適度に運動するくらいなら問題ないだろう。
宿の外に出てストレッチをしていると誰かが扉を開ける音がした。
「透くん、余も一緒に走っても良い?」
外へと出てきた百鬼は俺の姿を見つけると、そう言いながらこちらへと駆けよってくる。
「良いけど、まだイワレは使わないから百鬼にとっては遅く感じると思うぞ。」
身体強化をするのとしないのとでは雲泥の差がある。
使わないにしても、基礎能力に差があるため、同じ感覚で走るとどうしても差が生まれてしまう。
「大丈夫、ちょっと体動かしたいだけだから。
起きてから体が軽くて落ち着かないんだよね。」
そう言って百鬼は感覚を確認するように手足を動かす。
丸一日寝てしまうほどの疲労が取れたのだ。感覚がいつもと違うのも当然だ。
それなら、身体強化をしないでゆっくり運動した方が今の状態に慣れやすいのだろう。
体がほぐれたところで出発する。
「なぁ、今の俺のイワレの流れって分かるか?」
走りながら、雑談がてら百鬼に確認してみる。
温泉に入った後、百鬼は寝てしまっていたため、現在どのような状態なのか確認することが出来ていなかった。
「ん、ちょっと待ってね。」
後ろに着くように走る百鬼は、そう答えると少しの間無言になる。
「うん、綺麗になってる。」
その言葉に思わずガッツポーズをとる。
今回は嫌な顔はされていなかった、筈。顔見えないから分からないけど。
「なんでガッツポーズ…。」
小さくしたつもりだったが、がっつり見えていたようだ。
不思議そうな百鬼の声が聞こえてくる。
「いや、前回無茶苦茶嫌そうな顔してたろ?
今回は大丈夫そうだから。ちょっとした達成感みたいな。」
「それは、透くんのイワレが酷すぎたの。あんな状態なのに普通に稽古しようとするんだもん。
普通、しばらく休もうとするはずだよ。」
視線が背中に刺さる。
いや、動きにくいような自覚はあったし、身体強化が上手くできないなって感覚はあった。
だけど、ただそれだけで休むのも何だか勿体なく感じたのだ。
まさか、素の身体能力まで落ちているとは思わなかった。
「反省してるって。でも仕方ないだろ、まだその辺りの感覚に慣れてないんだ。」
普通にワザを使う分には問題はない程度ではあると思うが、まだ違和感は残っている。
カクリヨの住人にとっては生まれたときからの概念の一つではあるが、俺は後付けだ。随分慣れてきたつもりだったが、やはりずれはまだある。
「あー、そういえば、透くんウツシヨから来たんだっけ。
それはそれでおかしいよね。透くん、結構最近なんでしょ?」
「最近って、カクリヨに来たのはそうだな。」
おかしいとは何のことだろうか。
確かにカクリヨに来たこと自体はイレギュラーではあるらしいが、百鬼が言いたいのはそういうことではないだろう。
「アヤカシになるためには、カミになるものに比べると少ないけど、やっぱり時間がかかるの。
なのに、透くんは身体強化も、余の一族にしか使えない鬼纏いも使える。
あの骸骨霊をその宝石で吸収したことに関係あるんだよね。」
…そのことか。
どう答えたものか迷い、少しの間沈黙が流れる。
「…多分、そうなんだとは思う。」
状況としては、あれがきっかけになっていることには間違いない。
吸収した直後に百鬼と出会い、イワレの力を使って何とか生還したのだ。
だが、これがどういう原理でこうなっているのか、という点については予想もつかない。
「一応、神狐は何か知ってるらしいんだけど。
悪影響になるからって、教えてもらえなかったんだよな。」
「セツカちゃんが?」
振り返れば、百鬼の視線は俺の右腕、手の甲にある宝石へと向けられていた。
相変わらず濁った色をしているそれは、宝石ではなくただの石にしか見えない。
そういえば神狐にはこの宝石がどう見えるか聞いてなかった。
次に会った時に聞いてみるか。
噂をすれば、という奴だろうか。
不意に視界の端に金色が映った。
「…神狐?」
見間違いではない、確かにそれは神狐セツカ本人だ。
離れた場所にいて何をしているのか分からないが、丁度よかった、
声をかけようとしたその瞬間、神狐の姿が、まるで幻のように掻き消えた。
「…は?」
目を疑った。
この両目は確かに神狐を捉えていた。
なのにも関わらず、右にも左にも、上下、奥に手前、どの方向に動くこともなく、神狐は俺の視界から消えた。
「…悪影響って何なんだろ…わぷ!?」
思わず足を止めると、後ろを走っていた百鬼が背中へと突っ込んでくる。
どうやら、考え事をしていて反応が遅れたらしい。
「あいたた…もー、いきなり止まらないでよ。」
「百鬼、今あそこに神狐がいなかったか。」
額を抑えながら抗議してくる百鬼に問いかける。
指さして見せると、怪訝そうにしながらも、百鬼はそれを追って先ほど神狐がいた場所を見た。
「…誰もいないよ?多分あの位置だったら、誰かいたら余気が付くと思う。」
そう言うことなら、隠れているというわけでもないか。
なら、俺の気のせいだったのか?
いや、それはあり得ない。
確かに、あれは神狐だった。
だが、今誰もいないのも事実で…。
「?それよりランニングの続きしようよ、透くん。」
「…そうだな、多分何かの見間違いだろ。」
百鬼の言葉で再び走り始める。
今ここで話してもきっと答えは出ない。
色々と理解してきたつもりだったが、まだ重要な部分の答えは出ないままだ。
そしてもう一つ、謎が生まれた。
いつになれば、この答えを知ることが出来るのだろうか。
気に入ってくれた人は、シーユーネクストタイム。