【完結】色づく想ひ    作:ワンダーS

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どうも、作者です。

評価、感想くれた人ありがとうございます。

以上。


完治

 イズモ神社を軽く五周ほど走り、宿へと帰還する。

 身体強化こそしていないモノの、イワレ自体の補助は復活していたらしく、予想よりも早く目標を達成してしまった。

 

 これでは何か物足りない、ということで、百鬼といつものように鍛錬をしようと刀を持ち出したところを運悪く大神に見つかってしまう。

 

 「まだ治りかけ何だから安静にしなさい。」と軽くお説教を受け、やむを得ず汗を流すべく温泉に入ることとなった。

 

 温泉旅行ということもあり、もっと温泉を楽しみたいようで白上や大神もついでに百鬼と入るらしい。

 また眠ってしまうのではないかとも考えたが、大神曰く一度入れば疲労はすべて取れるため、もうその心配はないようだ。

 

 三人とは入口で別れて、脱衣所へと向かう。

 手早く着物を脱ぎ、浴場へと入り汗を流して温泉へと浸かる。

 

 昨日と同じく体がほぐれていく感覚を楽しみながら、ぼんやりと雲に覆われた空を見上げた。

 頭の中では、先ほどの神狐のこと、右腕の宝石。そして、カクリヨの異変についてぐるぐると思考が回っている。

 

 だが、考えども実のあるモノは浮かんでこない。

 

 「はぁ…、ヒントを貰ったところでなぁ。」

 

 知らない概念にヒントを与えられても何も刺激されやしない。

 神狐は意外とアバウトな性格なのだろうか。

 

 魂を操作して瞬間移動。

 互換性が無さ過ぎて もはや無い方が纏まりが良いまである。

 

 「…やっぱり、神狐は教えてくれないかな。」

 

 「何がじゃ?」

 

 頭の上から神狐の声が聞こえる。

 

 「何って、色々と…うん?」

 

 流れで答えようとするが、途中違和感に気が付き言葉を止める。

 ここは男湯なのだが、何故神狐の声が聞こえる?

 

 体制をそのままに、上を向いていた顔を仰け反るようにしてもう少し上げて声の出所へと顔を向ける。

 

 「…」

 

 「…」

 

 金色の瞳と視線がかち合う。

 早くも見慣れてきた神狐の顔がそこにはあった。

 

 脳の処理が追い付かず、無言で見つめ合う。

 

 「…なんでいるの?」

 

 「ん?なに、背中でも流してやろうかと思っての。」

 

 神狐は得意げに笑みを向けてくる。

 

 そうか、だから男湯にいるのか。

 確かに、背中を流すのなら浴場に入ってくるのも仕方ないか。

 

 ふむ…。

 

 「いや…いやいや仕方なくないだろ!」

 

 働かない脳みそが勝手に納得しようとするのを直前で全力で否定する。

 危うく、状況をそのまま受け入れそうになった。

 

 「そんなに恥ずかしがらずとも良いぞ?」

 

 「恥ずかしがっているわけでは断じてない。」

 

 抗議の視線を送るが、からからと笑い飛ばされてしまう。

 思考が読めない。一体何を考えているのだか。

 

 唯一の救いといえば、神狐がまだ服を着ている事くらいだ。

 紐か何かで着物の袖を上げており、何故か鉢巻を額に巻いている。

 

 「昨日は危うく大神とこじれかけたんだ、勘弁してくれ。」

 

 尻尾を触ろうとしてあれなのだ、流石に背を流させでもしたらようやく元に戻った関係がまたこじれることは確実だろう。

 

 「なんじゃ、ノリが悪いのう。」

 

 「ノリに乗ったら俺のカクリヨ生活が終わりかねないんだよ。」

 

 まだ大神だけだったから何とかなったものの、今回は白上や百鬼にまで話がいく可能性がある。

 そうなれば、数の力も相まって張られたレッテルを撤回するのは不可能だ。

 

 神狐は一応は納得してくれたのかそれ以上反論してくることはなかった。

 しかし、浴場から出ていく様子も同時になかった。

 

 「あの…そこに居られると出られないんだけど。」

 

 「勿論、知っておるのじゃ。」

 

 悪戯気なその表情を見るに、確信犯であるらしい。

 

 とにかく、今は出ていく気はないのだろう。

 無理やり外に連れ出そうにも、それを目撃されれば本末転倒となるだろうし。しばらく、神狐の気が済むまで我慢比べに付き合うしかなさそうだ。

 

 「はぁ、…のぼせる前には出て行ってくれよ。」

 

 まだ一日の半分も経っていないのに湯あたりでダウンはしたくない。

 

 それを聞くと神狐は黙り込んでしまう。

 不思議に思い振り返れば、神狐はあっけにとられたようにこちらを見つめている。

 

 「どうした?」

 

 「予想外の反応じゃったからの、驚いておった。少しくらい怒ると思ったのじゃが。」

 

 まさかとは思うが、怒られようとしてこんなことをしていたのだろうか。

 ますます神狐の意図がつかめなくなる。

 

 「まぁ、別に怒るようなことでもないし。」

 

 こう、倫理観的にマズイ状況から焦りはするが、意味が分からないことをしているなくらいにしか思わない。

 見られる羞恥心は、既に大神の奇行によってそこまで気にならなくなってきたし。何より相手は見た目完全に子供の神狐だ、そもそも気にするようなことはない。

 

 「ふむ、それならあっちに行ってみるのはどうじゃ?」

 

 そう言って神狐は横側の柵を指さす。

 あちらと言われても、特別何か置いてあるわけでもない。

 

 「?何があるんだよ。」

 

 「あっちが女湯じゃ。」

 

 つい神狐の顔を見る。

 こいつ本気で言っているのか?そんなことして見ろ、物理的に俺の首が飛んで燃やされるに決まっているだろう。

 

 「…お前、実は俺のこと嫌いだろ。」

 

 「くくっ、冗談じゃよ、本気にするでないぞ。」

 

 するわけがない。俺が気にしないだけで、あちらは違うに決まっている。

 それより気になるのは神狐だ、先日に比べて明らかに距離が近くなってる気がする。やはり、この宝石について何も知らないと分かったからだろうか。

 

 「ひとしきり楽しんだことじゃし、そろそろ妾は出ていくとしようかの。」

 

 そう言うと、神狐は出口へと歩きだす。

 これで一安心だと考えていたところで、神狐はすぐにぴたりと立ち止まってしまう。

 

 「あっと、透。一度向う側を見ておれ。」

 

 「?いいけど、今度はなんだ?」

 

 「良いから良いから。」

 

 何をするつもりなのか不思議に思いながらも、言われるがままに神狐がいる方向とは反対側をみる。 

 

 「がっ…!?」

 

 だが、神狐の声が聞こえることはなかった。

 代わりに凄まじい衝撃が背中に伝わる。

 

 物理的なものではない。まるで魂そのものが痺れるような感覚。

 その衝撃は背中から伝播して体の末端まで広がる。

 

 気持ち悪い。まるで神経を直接触れられているような気分だ。

 

 「いきなり何する…、って、あれ。」

 

 ようやく落ち着いたところで振り返るも、既にその場から神狐はいなくなっていた。

 後ろ手に背中を触ってみるが、特に変わった様子はない。

 

 それどころか重りが外れたように体が軽くなっている。

 試しに身体強化を使ってみるが、以前のモノよりもスムーズに移行できた。

 

 「治った…。」

 

 そんな確信がある。

 唐突に治るモノなのか、否、理由は明確である。

 

 「…このためだったのかよ。」

 

 ようやく神狐の目的を理解した。

 しかし、それならそれで言ってくれればいいものの、意外と素直ではないところもあるようだ。 

 

 温泉から上がり、広間に戻る。

 大神たちは先に上がっていたようで、白上と百鬼が卓球をしており、大神はそれを眺めている。

 

 「あ、おかえり。透君もやる?」

 

 「いや、遠慮しとく。それより、神狐は?」

 

 一応ざっと見渡してみるが姿はどこにもない。

 聞いてみれば、大神は首を横に振る。またどこぞへと消えてしまったようだ。

 

 「せっちゃんに何か用でもあった?…まさか、また。」

 

 カッと瞳が見開かれる。

 

 「違うから、大神の想像している理由ではないから!」

 

 これでは昨日の二の舞になると必死に説得する。

 しかし、予想以上にすんなりと大神はその眼を普段ものに戻す。

 

 「あははっ、ごめんごめん、冗談だよ冗談。昨日のはうちがおかしかっただけだから、そんなに焦らなくても大丈夫だよ。」

 

 揶揄われていただけのようだ。心臓に悪いからほどほどにしてほしい。

 しかし、先ほどの神狐といい、冗談の内容が妙に俺に効果的な内容なのはなぜだろうか。

  

 まぁ、そういった内容だからこそからかう材料にされるのだろうが。

 

 「やったー、勝った!」

 

 「うぅ、なんでそんな正確に打ち返せるんですかー。」

 

 卓球台の方から、百鬼の歓声が聞こえてくる。

 一方白上は悔しいのか突っ伏してしまっている。

 

 ただラリーをしているのかと思えば、勝負ごとになっていたようだ。 

 

 「二人共、汗はかかないのか?」

 

 見たところ激しいラリーが続いていたようだが、白上や百鬼は涼しい顔をしている。

 

 「うん、このくらいなら平気。」

 

 「お風呂上りに汗はかきたくないのである程度セーブしてますよ。」

 

 その割には本気で悔しがっているように見えたのは気のせいか。

 まぁ、普段あれだけ動き回っても疲れた顔一つ見せないのだ。素の身体能力が違う。

 

 「と、丁度よかった。百鬼、またイワレを見てもらっても良いか。」

 

 「?いいけど、何かあったの?」

 

 先ほど神狐によってイワレの流れが体感良くなったことを手短に説明する。

 もちろん、神狐が乱入してきたことまでは話していない。あくまで、原因となるモノのみを三人に伝えた。

 

 「へぇ、せっちゃんそんなこともできたんだ。」

 

 「あれ、知らなかったのか。」

 

 それを聞いた大神が驚きの声を上げる。

 これは意外だった、てっきり織り込み済みでここに来たのだと考えていたが、違うようだ。

 

 「うん、せっちゃん秘密主義なところあるんだよね。だから知らない事も多いの。」

 

 言われて、シキガミについてもヒントだけ出してはぐらかしていたことを思い出す。

 宝石については話せない事情があるにしても、それ以外の面では割とその性分が働いているのかもしれない。

 

 「とにかくそういう訳なんだ。頼む、百鬼。」

 

 「任せて。」

 

 こちらを見る百鬼の目が赤く光る

 それからすぐに、イワレの流れを見た百鬼の目が驚きによって大きく開かれた。

 

 「…本当だ、もう完璧に元通り…ううん、元より良くなってる。」

 

 「良かった、確認ありがとな」

 

 やはり、間違いなかったようだ。

 これで問題は解決した。ようやく普段通りだ。

 

 「完治おめでとうございます、透さん。」

 

 「おう、おかげさまで。」

 

 白上が手を高く上げたのでそれに倣いハイタッチをする。

 しかし一人、大神だけは気になることでもあるのか首をかしげている。

 

 「…透君、一応最後にもう一度イワレの流れを促進してきたいんだけど良いかな。」

 

 先ほどとは打って変わって、にこやかに言ってくる大神。

 

 その様子に若干不安を覚えるが、そう言うことなら御言葉に甘えることにする。

 百鬼を信用してないわけではないが、念には念をというやつだ。

 

 「分かった、よろしく頼む。」

 

 二人には断りを入れて、部屋に向かう。

 流石に、広間でというわけにもいかない。

 

 部屋に入り、上だけ着物を脱いでベットに横になる。

 

 「結局大神には世話になりっぱなしだな。悪いな、折角の温泉旅行なのに大神に頼りきりで。」

 

 「いいよ、うちが好きでやってるんだから。

  …それより透君。」

 

 「ん?」

 

 三回目の慣れと、イワレが改善したことによって若干和らいでいる痛みに耐えていると、大神は急にその手を止めて呼びかけてくる。

 

 もしや先ほど気にしていたことか。

 それなら、俺にできる範囲なら力になろう。

 

 一人決心していると、大神はその内容を口にする。

 

 「せっちゃんと温泉に入ったの?」

 

 「…」

 

 冷や汗が頬を伝う。

 おかしい、俺は話していないはずだ。なのに何故大神はその考えに至った。

 

 しかし、正確には違う。

 あれは神狐が乱入してきただけで、一緒に温泉に入ったわけではない。それだけでも訂正しないと。

 

 「あ、本当にそうなんだ。」

 

 「って、カマかけたのかよ!」

 

 それにまんまと乗ってしまったのは俺だ。

 

 「別に一緒に入ったわけじゃないんだ、ただ神狐がいつの間にか後ろにいてだな。」

 

 焦って早口で弁明する。

 それを聞いた大神は、予想外にもくすくすと笑う。

 

 「そんなに焦らなくても大丈夫だよ。別に怒ってるわけじゃないから安心して。」

 

 「あれ、そうなのか?」

 

 てっきり昨日のように土下座の一つでもするべきかと考えたが、その必要はないらしい。

 それなら安心だ。早まっていた鼓動が落ち着くのを感じる。 

 

 「うん、繰り返しになるけど昨日のはうちがおかしかっただけだから。透君がせっちゃんと温泉に入っても気になんかしないよ。」

 

 「…あの大神さん、その割には背中の手に力が入ってませんか。」

 

 いつの間にか再開していたマッサージ。 

 しかし、先ほどと比べて明らかに痛みが増している。その内背骨が折れそうだ。

 

 「んー?気のせいじゃないかな?」

 

 白々しく答える大神。

 駄目だ、これはやはり土下座案件だった。

 

 しかし、動こうにも背中を抑えられているため当然ながら動けない。

 

 「いだだだっ、大神!?ギブ、ギブアップ、うごっ!」

 

 次第に増していく痛みについに限界を迎えた。

 情けない声を上げながら降参を宣言するも、当然終わるはずもない。

 

 「…透君のバカ。」

 

 小さく呟かれたその言葉を聞き取ることすらできず、この地獄のようなマッサージは一時間たっぷり続いた。

 

 





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