【完結】色づく想ひ    作:ワンダーS

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どうも、作者です。
評価くれた人ありがとうございます。

以上。


問答(上)

 いつも通りの朝。いつも通りの日常。

 

 イズモ神社から帰還してはや一か月。シラカミ神社と周辺の山は白く覆われていた。

 

 今もなお降り続ける雪が風に舞っている。

 それと同時に、肌を刺すような寒さに襲われる。

 

 今や習慣となったランニング中、変化していく季節を感じた。

 

 この一か月、カクリヨの異変に関する情報は一つたりとも見つかっていない。

 これは手がかりが見つかっていないのもそうだが、異変そのものが発生していないことに起因している。

 

 何も起こらないから、新しい情報が生まれない。

 別に悪いことではない。異変が起こらないのならそれに越したことはない。

 

 このまま上手く収束してくれれば良いのだが。

 

 そんなことを考えていれば、シラカミ神社へが見えてきた。

 

 いつもなら、丁度よい疲労感を感じるが今はそうではない。

 イワレの流れが改善してから反動か、それとも防衛本能でも働いたのか身体能力が依然と比べ上昇していた。

 

 それはありがたいが、現状に合わせてトレーニング内容を調整しないといけないな。

 

 屋内に入る前に裏に回り、水場へと向かう。

 本来なら温泉に行きたいところだが、現在まだ太陽も昇っていない早朝だ。流石にこの時間帯はまだ開いていない。

 

 服を脱ぎ、意を決して水の中へと入る。

 

 「うおっ、冷たいな。」

 

 流れがあるため氷は張っていないが、それでも体が動かなくなってしまうのではないかと思うほどに冷たい。

 小さな滝の下に行き、手早く汗を流し水の中から上がる。

 

 温まっていた体は、既にその面影すらなく冷え切っていた。

 大神か百鬼にでも火を扱えるようなワザを教わっておいた方が良いのかもしれない。

 

 水気を取り、用意しておいた服に着替え屋内へと向かう。

 

 玄関を抜け居間に到着すれば、楽園はそこにある。

 意識せず、早足になる。

 

 すぐに今に到着する。

 そこにはテーブルに布団を被せ、中で熱を発する文明の利器、炬燵が置いてる。

 

 原理はともかく、冷えた体には打ってつけのそれには予想外の先客がいた。

 

 白い髪に獣耳を頭に生やした少女、白上フブキがぬくぬくと炬燵に入り表情ををふにゃりと崩している。

 

 「あ、透さん、おかえりなさい。」

 

 白上はこちらに気が付くと、緩い笑顔をこちらに向ける。

 心なしか普段に比べて、声にも力が入っていない。

 

 「おう、ただいま。今日は早いんだな。」

 

 基本的に白上は日が昇るまでは起きてこないのだが、今日はやけに早い。

 ここまで早くに起きてくるとということは、今日は何かイベントごとでもあっただろうか。

 

 「いえ、早起きしたわけではなく。さっきまで世界を救う戦いをしていたんです。」

 

 世界を…あぁ、なるほど。

 どうやらゲームを一晩中していたようだ。

 

 通りで顔に覇気がないわけだ。リラックスしているだけかと思えば、それだけでなく今さら眠気に襲われているのだろう。

 

 疑問も解消したところで、冷えた体を温めるべく白上に倣い炬燵へと足を入れる。

 

 「あ~、やっぱり良いな、炬燵は。」

 

 「開発した方は称えられてしかるべきですね~。」

 

 二人そろって炬燵に溶かされる。

 一度入ってしまえば、もう出たくなくなってしまう。

 

 芯まで冷えていた体が、じんわりと温まっていく。

 

 「みかん食べますか?」

 

 「ありがとう、貰うよ。」

 

 白神からみかんを受け取り、皮をむいて一つ口に放り込む。

 少し酸味が強いか、だがそれも最初だけで徐々に甘みが顔を出してくる。

 

 炬燵とみかん。

 ここまで合うとはもはや運命なのではないか。出会うべくして出会った、そんな気すらしてくる。

 

 「それで、白上はもう寝るのか?」

 

 今日は特に予定などはなかったはずだ。

 それを見越しての徹夜だろう。

 

 「そうですね、そうしたい所なんですけど炬燵から出られる気がしないんですよね。」

 

 そう言うと、白上はテーブルの上に顎を置き突っ伏してしまう。

 まさかここで寝るつもりかと思うが、まだ尻尾がゆらゆら動いている。

 

 しかし、その意見には同感だ。そろそろ大神が朝食の準備を始める頃合いだ。手伝いに行きたいのだが、一度覚えてしまったこの暖かさを手放すのはなんとも惜しい。

 

 「ん、透さん、耳がかゆいので掻いてもらえませんか。」

 

 「それくらい自分でやれよ…。」

 

 何もする気きになれないようで、同じ体制のままぺたりと耳が垂れる。

 これほどまでに人を堕落させるとは、炬燵、恐ろしい子。

 

 言いながらも、ゆっくりと白上の頭に手を伸ばす。

 

 「この辺か?」

 

 取り合えず耳の裏側をかいてみる。

 触れてみれば髪とはまた違う、柔らかい感触。以前大神の尻尾を触ったがそれに負け劣らずの素晴らしい毛並みだ。

 

 ひそかに役得に思う。

 

 「あ、そこです。透さん上手ですね~。」

 

 お気に召したようだ。

 感情が現れているのか、尻尾が先ほどよりも激しく左右に動いている。

 

 「…すぅ…。」

 

 しばらく、白上のお願いを聞くという名目で獣耳の触り心地を堪能していると、手の下から微かな寝息が聞こえてくる。

 

 世界を救った歴戦の戦士は迫りくる疲労に抗えず眠りに落ちてしまったようだ。

 結果は聞いていなかったが、この満足げな顔を見るに乗り切ったのだろう。

 

 しかし、このまま寝かせておくというわけにもいかない。

 せめてと、ブランケットを持ってきて白上にかける。

 

 よほど眠気が強かったのだろう、クッションをテーブルとの間に挟んでみたがそれでも起きる気配はなかった。

 

 話し相手がいなくなり、ついでに炬燵の魅力から逃れられたところで台所へ向かう。

 

 「おはよう、透君。」

 

 見事な黒髪と獣耳を携えた少女、大神ミオは既に台所に立ち、調理を始めていた。

 

 「相変わらず朝が早いな、大神は」

 

 「まぁね、透君はさっきまでランニング?」

 

 「いや、白上がいたから少し話してた。その白上は今頃夢の中だ。」

 

 これだけで何かを察したらしい。

 大神は小さく息をつき、苦笑する。

 

 「もう、夜更かしはやめなっていつも言ってるのに…。…透君、そこの魚取ってもらってもいい?」

 

 「分かった。」

 

 魚を人数分トレイに載せ、それごと手渡す。

 大神が魚の下処理をしているうちに、他の品の準備をする。

 

 「大分手馴れてきたね。最初の頃はあんなに手間取ってたのに。」

 

 「言わないでくれ。多分、元々料理なんてしてなかったんだろうから。」

 

 確信が持てないのは、カクリヨにくる以前の記憶が無いからだ。

 自分がどこの誰なのか。どんな人物だったのか。

 

 そんな状態で、白上と大神に助けられて今がある。

 …はて、本当にそうだったか?

 

 いや、確かに覚えている。

 体が消えかけたあの感覚はそう簡単に忘れられるものではない。

 

 「…大神、やっぱり異変の情報は特になしか?」

 

 今朝も考えていたことを聞いてみる。

 

 「うん、キョウノミヤコでの噂以降は特に何も。ウツシヨからものが流れてくること自体はよくあることだったから、偶々のイレギュラーだったのかも。

  それ以外に考えられるとすると、やっぱり…。」

 

 大神は手を止めることなく答えた。

 

 そう、もう一つだけ可能性がある。

 キョウノミヤコでの事件以来、異常な事態は起こっていない。事件自体は異変とは違うものであったが、その首謀者を捉えてから何も起こらなくなった。

 

 それは偶然か否か、確かめる必要はある。

 

 「透君、大丈夫そう?」

 

 大神の手が止まった。

 大丈夫とは、聞くまでもない。封じたままでは会話などできないのだから、当然一度開放することになる。

 

 「一応考えはある。けど、念のために全員そろってからにしよう。」

 

 「そうだね、その方が良いかも。」

 

 これで今日の方針は決まったところで、朝食の準備を片付けてしまう。

 少し気を抜いているとほとんど終わらせてしまうのだから、大神には追いつける気がしない。

 

 皿への盛り付けも終わり、大神は割烹着を外す。

 

 「それじゃあ、うちはあやめを起こしてくるね。」

 

 「おう…ってやっぱりそれは持っていくんだな…。」

 

 対睡魔決戦武器であるお玉とフライパンを装備して台所を後にする大神に、つい顔が引きつる。

 

 今までも、何度かその凄惨な現場を目にしたことがあるが、あれを前に眠りを続けることはまず不可能だ。

 あれを食らわないために俺は朝の鍛錬を続けられているのかもしれない。

 

 今日も犠牲となる百鬼に軽く心の中で合掌する。

 

 取り合えず運ぶ前に、炬燵で寝ているはずの白上を起こしておいてやろう。

 徹夜明けにあの音はキツイだろう、武士の情けというやつだ。

 

 そろそろ大神は百鬼の部屋に着いた頃か、急がないとな。

 そう考え、台所から出ようとすると、死角から何かがこちらに向かってきて衝突する。

 

 「わ、ごめん大丈夫?」

 

 「いや、こっちこそ悪かった。…って百鬼?」

 

 目の前には先ほど大神が呼びに行った筈の綺麗な角を額に生やした鬼の少女、百鬼あやめがいた。

 しかし、件の大神の姿は近くに見当たらない。

 

 「あれ、百鬼、大神とは会わなかったのか?」

 

 「?うん、ミオちゃんとは会ってないよ。」

 

 きょとんとした顔で応える百鬼。

 どうやら行き違いになったようだ。今頃、大神は空っぽの布団を見て驚いているだろう。

 

 と考えていると、百鬼がきょろきょろと台所の中を見渡す。

 

 「朝ごはん作るの手伝おっかなて思ったんだけど…。もう出来てる?」

 

 百鬼の視線の先には、盆に乗った朝食の品々。

 それを見て首をかしげる百鬼にもしやと思いつく。

 

 「もしかして、そのために自分で早めに起きたのか?」 

  

 聞けば、百鬼はこくりと首を縦に振る。

 

 なるほどそう言うことだったのか。

 しかし、現在は朝食を作る時間帯ではなく出来上がっている時間帯だ。

 

 「…百鬼、一応訂正しとくと準備をしてるのはもっと前だぞ。」

 

 「…え、そうなの?」

 

 真実を教えてみると、そんな間の抜けた声が帰ってきた。

 やはり、何やら勘違いをしていたらしい。

 

 折角起きたのに無駄足となったのが応えたようで、百鬼はしょんぼりとしてしまう。

 

 「うぅ、余もミオちゃんのお手伝いできると思ったのに…。」

 

 大神が聞けば狂喜乱舞してもおかしくなさそうな台詞だ。

 また明日にすればよいと思うが、これ以上に早く起きる自信が無いのだろう。

 

 戦闘面ではしっかりしているのに、意外とこういったところで少しばかり抜けた面が見える。

 

 「それならこれ運ぶの手伝ってくれよ。それだけでも大神なら喜んでくれると思うぞ。」

 

 別に朝食を作るだけが全てなわけではない。

 もし作りたいというのならまた違ってくるが、何かしたいなら他にもやれることはいくらでもある。

 

 「本当?分かった!」

 

 先ほどまでの表情が嘘のように明るくなる。

 幸いなことにこの提案に納得できたようだ。

 

 そんなわけで、二人で四人分の朝食を居間まで運ぶ。

 手伝いが出来ているためか、やけに百鬼は機嫌がよさげにしていた。今にも鼻歌を歌いだしそうだ。

 

 …それにしても、何かを忘れているような気がする。

 そもそも、俺は何も持たずに今に戻ろうと…。

 

 「あっ。」

 

 思い出した。

 そうだ、俺は白上を起こそうとして。

 

 それと同時に、居間の方からけたたましい音が聞こえてくる。

 

 「にゃあああっ!?」

 

 そして後から響く白上の悲鳴。

 百鬼がいないのなら大神が寝ているもう一人の方に行くのは当然の摂理だ。

 

 居間に入ってみる。

 案の定というべきか、そこにはお玉とフライパンを構えた大神と、驚いた拍子に足をぶつけたらしい白上がうずくまっていた。

 

 この惨状を未然に防げたのだと思うと少しだけ、罪悪感を感じた。

 

 

 

 その後、朝食をとる中で先ほどの話を二人にもする。

 

 「…というわけでね、二人にも付き合ってもらう形になるけど良いかな。」

 

 大神の説明を受けた白上と百鬼は首を縦に振り、快諾してくれた。

 話を聞いた当初は不安に思う意見もあったが、そこは考えがあると言うとそれなら大丈夫と言ってくれた。

 

 この数か月でそれなりに信頼を得ることが出来ていたことを嬉しく思う反面、裏切れないという思いもまた同時に強くなった。

 

 朝食後、準備を整えてシラカミ神社の最奥へと向かう。

 

 動機が速くなる。

 このカクリヨにおいて真の意味で敵対した者とまた相対することに、緊張からか一筋の汗が頬を伝った。

 

 大丈夫だ、やれるはずだ。

 最悪、無理やりにでも封印をし直せばいい。

 

 やがて、目的の場所へと到着する。

 そこには、台の上に置かれた透明な丸い球体が鎮座している。

 

 キョウノミヤコで捕えた謎の人物。いや、人物ですらないのかもしれない。

 

 「『解』」

 

 ひと月前に発動したワザ。それを今解除した。

 球体は中から膨れ上がるように消滅し、やがてその場所には代わりに人の姿が現れる。

 

 あの時と恰好も、姿も変わっていない。

 

 道化師クラウンはこちらに気が付くと、顔を向け、ピエロの化粧をしたその顔を笑顔に歪めた。

 

 

 





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