どうも、作者です。
以上
数日が経過した昼下がり、聖夜ももうすぐに迫っている頃。
聖夜にウツシヨとカクリヨを繋ぐ穴が開くという情報を得た俺たちは、それに向けて今から行動を開始して…。
「透くん、こっちの飾りを運んでくれる?」
「あぁ、分かった。」
いなかった。
現在、俺達は揃ってキョウノミヤコまで来ている。
というのも、時は数日前までさかのぼる。
「セイヤ祭?」
不意に告げられた言葉を繰り返す。
「はい、そうです。キョウノミヤコで毎年開催されているお祭りですよ。」
「あ、それ余も知ってる!」
そんなものがあるらしい。
白上の説明に、食いつくように身を乗り出す百鬼。
そういえば、百鬼は元々この辺りに住んでいたわけではないのだったか。それでも知っているということはそれなりに有名な祭りのだろう。
「そのセイヤ祭なのですが、シラカミ神社は毎年そのお手伝いをしてるんです。いつも参拝やお供え物を頂いているので、これも大切なお勤めなんですよ。」
「へぇ、そうだったのか。」
そういえば、ヨウコさんも白上達のことは知っていたな。
キョウノミヤコで白上達の顔が利くのもそういったことの成果もあるのかもしれない。
俺もシラカミ神社で世話になっている以上、力になるべきだろう。
「ウツシヨへのトンネルの方も正直打つ手はないしね。うち達はこっちに集中しよっか。」
ということで、現在はキョウノミヤコの祭りの準備にいそしんでいる。
「兄ちゃん、次はこっちも頼む!」
「はいっ!」
飾りの配達を終えると、すぐに他の住人に声を掛けられる。
どのくらいの規模で行うのか疑問だったが、キョウノミヤコ全体で行うらしく、その作業量は途方もないものであった。
手伝い始めてから今まで、ずっと移動の連続で、北へ西へと屋根図体に駆け回っていた。
「これを設置したいんだが、身体強化無しだときつくてな。アヤカシの連中は他に行っちまって困ってたんだ。」
そう言って巨大な看板をこんこんと叩いて見せる。
軽く道を横断できるほどの大きさで、確かにこれを素の膂力だけで上にあげるのは困難だろう。
早速、身体強化をして持ち上げてみる。
予想以上に重たい、木製ではあるがかなりしっかりとした素材で作られている。
「大丈夫かい兄ちゃん。」
「大丈夫です。…よっと。」
手こずってしまい心配をかけてしまった。
ぎりぎりなため、身体強化に続いて鬼纏いも発動すれば、軽々と持ち上がる。
周りに注意して上へと飛び上がり、位置を確認して取り付ける。
「えっと、ここで合ってますか?」
「あぁ、完璧だ!ありがとうよ!…っと、兄ちゃん。」
問題も解決したところで立ち去ろうとすれば、呼び止められて手招きされる。
下に降りれば、彼は走って近づいてくる。
「あんたシラカミ神社のとこのだろう?若いのに大したもんだな。」
「どうも…って、ご存じだったんですか?」
俺は一度もそんなことは言っていない。
なのにこの人は何故俺のことをしているのだろう。
「おう、最近有名でな。何でもシラカミ神社に人が増えて一緒に事件を解決してるって。」
意外だった。
だが考えてみれば噂にでもなるか。
なんといっても、崇拝の対象である神社に見知らぬ人間が現れたのだ。誰だって気にもなる。
特に二回、キョウノミヤコに来た時も白上達と行動することも多かった。そうすれば、嫌でも噂の一つくらいたつだろう。
「正直、あんまり実感はないですけどね。」
実際、成り行きに身を任せた結果でもある。
そもそも基本的に解決といった時には意識を失っているため、実感が湧いてこないのだ。
「はははっ、謙虚なこった。ほれ、これ持っていきな。」
そう言って投げて渡されたのは手のひら大の赤い果実。
「良いんですか?ありがとうございます。」
「おう、兄ちゃんも頑張れよ!」
豪快に笑う住人に大きく手を振られてその場を後にする。
屋根伝いに移動する途中、貰った果実を一口食べてみる。
瑞々しいそれは、かじれば口いっぱいにさわやかな味わいが広がる。
それ以上にこれを貰ったことが自分を認めてもらえた証のような気がして、無性に嬉しく感じた。
「あ、おかえりなさい、透さん。」
戻ってくると出る前までいたはずの大神の姿はなく、代わりに他の場所にいていた白上がいた。
「ただいま、白上も戻ってたのか。」
「はい…透さん、何かいいことありました?」
「え?」
図星を疲れて、つい顔に手を当てる。
もしかして、今までにやけてでもいたのだろうか。
しかし、口角を触っても上がっている様子はない。
「いえ、何だか嬉しそうな雰囲気が出てたので。」
「なんだ、そういうことか。」
屋根を飛にやけ顔で飛び回っているという認識を持たれでもしたらしばらくキョウノミヤコには近づけなくなる所だった。
安心して、ほっと息を吐く。
「それで、百鬼と大神は?」
「さぁ、白上も先ほど戻ってきたばかりなので。」
耳をへにょっりと曲げて首をかしげる白上。
確か百鬼もまた様々な場所への運搬をしていたはず、大神はどこかで問題でも起きてその対処にでも回っているのか。
「キョウノミヤコはどうですか?透さん、今まで調査だったりでゆっくりと見て回れていませんでしたよね。」
「ま、今もゆっくり見て回れてるわけじゃないんだけどな。
それでも、やっぱり良いところだな。街だけじゃなくて住人一人一人がいい人で、親しみやすい。」
思った本心をそのまま伝えれば、何故か白上が嬉しそうに笑顔を浮かべている。
「…なんで白上が嬉しそうなんだよ。」
「ふふっ、だって白上もこの町のことが好きなので。好きなものを褒められると何だか嬉しくなりません?」
だとしても、そこまで喜ぶようなことでは…、まぁ、でもその気持ちが理解できる程度には俺もこの街のことが気に入ってきている。
視線の先でも、アヤカシから普通の人までが揃ってせわしなく動いている。
こうして一つの事に力を合わせられる。それだけで、この街の良さが現れている。
これは…負けてられないな。
体を伸ばして動く準備を始める。
「もう行くんですか?」
「あぁ、もっと貢献したくなってな。」
心が躍っている。
この高揚感は何だろう。
居ても立っても居られない。
丁度、人手が必要そうな場所がある。すぐに声を掛けるべく足を前に踏み出した。
白上フブキはそんな透の姿を見守る。
その顔には先ほどとはまた違う、慈愛を含んだ笑みが浮かんでいる。
「良かったですね、透さん。」
受け入れてもらえて。
分かってはいた。彼ならすぐにこの街になじむことが出来ると、上手くやれると。
しかし、実際に目にすると感慨深く感じる。
「白上さーん、こっちを手伝って貰えないか!」
「はーい、すぐに!」
呼ばれた白狐の少女は駆け出す。
その心には嬉しさの反面、少しの寂寥感があった。
「いやー、悪いねこき使っちゃって。」
「気にしないでください、好きでやっているので。」
そう答える俺の両手には数えきれないほどたくさんの荷物が山となっていた。
屋台やその他装飾だったりと何かとものは必要になるようで、行く先行く先で手伝いを申し出れば、気づけば山のような荷物を抱えることとなっていた。
今一緒に歩いているのは、道案内を買って出てくれた老婆。
どうやらこれらは一か所に運ぶものも多いらしく、それもあってこうなったのだ。
「さっきから気になってたんですけど、これは何に使われるんですか?」
行く先はキョウノミヤコの中央、大神木のある広間。
普段は閉じられているはずの場所がセイヤ祭の期間だけ解放されるようだ。
「貴方は最近この辺りに来たばかりだったね。それはね、祭りの最後の後夜祭とでも言えばいいかね、その時のための準備に使われるんだよ。」
「後夜祭?」
道中、頼まれていた荷物を渡しながら聞き返す。
「そうさ、祭りの最後には住人全員で踊るんだよ。
誰かとペアになって踊るもよし、一人で思うままに踊るもよし。
誰かペアになってくれそうな子はいるのかい?」
聞かれてふと顔が思い浮かぶ。
頼めば恐らく両省はしてもらえるだろうが、とそこまで考えて思考を止める。
そもそも後夜祭まで参加できるか定かではない。考えるだけ無駄だろう。
「いえ、特には。」
「そうかい、なら頑張らないとね。
後夜祭にはね、とある言い伝えがあるんだよ。」
「言い伝え…ですか。」
声のトーンを落として言う老婆にごくりとのどが鳴る。
「えぇ、後夜祭で踊ったペアは必ず結ばれるのさ。実際、私もそれで旦那を捕まえたから間違いはないよ。」
なるほど、その方向か。
てっきり重大な秘密につながるのではないかと身構えたが、ありきたりなもので安心したような、落胆したような。
まぁ、元々後夜祭という場でペアを組むほどの中ならそういう関係にも至りやすいというだけだろう。
「去年なんか男の子同士のペアですら結ばれたのよ。」
そんな考えはその一言で易々と打ち砕かれた。
「え、男同士ですか?でも、元々そういう関係だったんじゃ。」
同性であろうとなかろうと、本人たちが望むならそれは普通にあり得る話だ。
しかし、予想外にも老婆は首を横に振った 。
「いいえ?いたって普通の男友達だったらしいんだけど。ノリで後夜祭で踊ったらそうなったらしくてね。凄いわよねぇ」
そして今では恋人同士と…。
感心したように言っているが、俺はそれどころではなかった。
「…それ言い伝えとかジンクスというよりも、もはや呪いかなんかじゃないんですかね。」
何かしらの精神操作のワザが関連していても別段驚かないぞ。
カクリヨ自体何かとイワレによって様々な事象が起こりえる環境なだけに、一概に否定できないのが怖いところだ。
ただ踊っただけでこうなるとは、仮にそれが集まるイワレによるものだとすればそれを利用するべく、ウツシヨへの穴をあけるには絶好のタイミングだ。
もしかすると、時期が被ったのは偶然ではなく必然であったのかもしれないな。
大きな鳥居をくぐり、キョウノミヤコの中心部である神木の見える大きな広間に到着する。
ここでも既に多くの人が集まっており作業が進められている。
「それじゃあ、私は戻るからね。」
「はい、ありがとうございました。」
そう言ってここまで案内をしてくれた老婆は帰っていった。
それを見送ると早速、持ってきた荷物をそれぞれの届け先に届ける。
同じ広間と言えどもそれなりに大きく、全てを届け終えるのにはかなりの時間を要した。
それでも地道にやっていけば終わりも見えてくる。
「…えっと、最後はこれか。」
ついに最後の一つとなった荷物に達成感を覚えた。
伝えられていた場所の周辺を歩いて回る。
それにしても、これは何なのだろうか。
腕の中には、これは鉢だろうか。焼き物のような大きな鉢。
これをこの祭りで何に使うのだろう。
まさか玉入れの籠にするわけでもないだろうし、使い道が見えない。
考え込んでいると、不意に横から足に衝撃が走る。
痛みがあるような強い衝撃ではなく、何かが軽くぶつかったような衝撃。
「すみませんっ!うちの子がご迷惑を…。」
どうやら子供がぶつかったらしい、抱えた鉢で姿が見えないが怪我がなければいいのだが。
駆け寄ってきたのはその子の母親だろうと、その顔を見て驚愕する。
「…ヨウコさん?」
「え?…もしかして、透さんですか?」
ひと月前、キョウノミヤコで事件に巻き込まれた子供の母親であるヨウコさんがそこにいる。
じゃあ、足にぶつかってきたのは。
鉢を横にずらして下を見ればこちらを見上げている少年と目が合う。
「あ、お兄ちゃんだ!」
「やっぱりトウヤさ…君か。怪我はなかったか?」
聞けばトウヤさんはうん、と元気よく返事をする。
「お二人共、その後は特に変わったことはありませんか?」
ヨウコさんに視線を戻して問いかける。
一応目視でざっと確認するが見たところ後遺症のようなものはなさそうだが、万が一がある。
というのも、この親子は一度ケガレに飲まれるもしくは飲まれかけていた。
特にトウヤさんは完全にケガレによって姿形すらも変わっていた。
クラウンを退けてからケガレは取り除けたものの、また再発する可能性もある。
「はい、大丈夫ですよ。
あの角の生えた女の子、百鬼さんが偶に確認に来てくれていますし。」
「百鬼が?」
そんなことをしていたのか。
よくどこかへ出かけている事があったが、キョウノミヤコに行っていたようだ。
百鬼は相手のイワレの状態を見ることが出来る。
それで二人の様子を見てくれていたらしい。
「本当トウヤの遊び相手にもなってくれて、いつも助かってます。」
「そうだったんですか、本人にも伝えておきます。」
以前も思ったが、ああ見えて意外と面倒見の良い一面がある。
何故それが普段の生活に反映されていないのかは謎だが。
「あ、その鉢運んできてくださったんですね。」
俺の抱えている荷物を見たヨウコさんが言う。
「これ、ヨウコさんの所の荷物だったんですか。」
そういえば前はヨウコさんの父であるジュウゾウさんが店番をしていたが、元々あの花屋はヨウコさんのお店だったか。
なるほど、花を鉢に植え替えて飾るのか。
大きさ的に様々な花が植えられそうだ。
「ねぇ、お兄ちゃんはセイヤ祭に参加するの?」
「ん、多分な。」
参加しようとは考えているが、そんな余裕があるかはまだ分からない。
仮に何事もなく終わったとしても、俺がまだカクリヨにいるかどうかすら定かではないのだから。
「それなら、うちのお花絶対見てね!
僕も手伝うんだよ。」
しかし、純粋なその瞳を見て拒否などできる筈もない。
「…分かった、絶対見に行く。約束するよ。」
指切りをすれば、トウヤさんの顔には満面の笑み。
ここまで喜ばれるとは、この約束は何が何でも守らないとな。
気にいてくれた人は、シーユーネクストタイム。