どうも作者です。
全話PVが十万突破と。
嬉しい。
文字数は二十万突破。
評価くれた人ありがとうございます。
以上。
ヨウコさんとトウヤさんと別れた後も様々な手伝いをしていればすぐに日も暮れてきて、夕焼けが辺りを赤く染めた。
流石にこの時間帯になると広間を埋め尽くさんとばかりにいた人々も、今やぽつりぽつりと残っている程度だ。
そんな中を、一人ぶらぶらとあてもなく歩きまわる。
今日はカクリヨに来てから最もこの世界の人々と触れ合った日だった。
言葉を交わし、笑い合い、助け合い、こんな形で関わったのは初めてで、少し複雑な気分が胸の中に残っている。
一言で表せば、楽しかった。
知らない話をしてもらうことも、礼にと果物を貰うこともそれら全てが胸を暖かくさせた。
白上達といる時に感じるモノとはまた違うその感覚に、もっとここに居たい、そう思えた。
しかし、俺は言ってみればこの世界にとっては異物なわけで。
白上は俺の思うように決めて良いと言ってくれた。それを応援するとも。
それでも、考えずにはいられない。いや、考えないわけにはいかない。
俺がこの世界で起こした出来事は本来起こりえなかったことでもある。異物によって様々な事象に変化が起こっている。
今は良い方向に傾いているが、それがこれからも続くとは限らない。
未来は確定していない。
故に、現在の行動全てが未来を形作る要素となる。
元々平和に暮らせていたはずの人たちが、俺がカクリヨにいることで不幸になるなんてことも大げさではなく、十分起こりえることだ。
これを無視してのほほんと暮らしていくわけにもいかないだろう。
そして何より…。
ふと、先ほどの親子の姿が思い浮かぶ。
記憶はないが俺にもウツシヨには家族がいる筈だ。
どんな人たちだったのか、どんな家庭で育ったのか。それすら分からなくなった今、彼らにとって俺は同一人物であるとは言い難いかもしれない。
それでも、帰るべきなのだろうか。
止めどなく浮かんでは消えていく思考に翻弄される。
考えれば考えるほどどつぼにはまっていく。
こんなことでセイヤ祭を迎えても良いのか、決断を下せるのか。
否だ。
それまでに答えを出さなければならない。
「…それで、ここに来たというわけかい。」
「他に行く場所がなくて…。」
恰幅の良い女性、ミゾレ食堂の店主であるミゾレさんは持ってきた湯気の立っている湯呑みをテーブルに置きながら呆れたように息を吐く。
なんとなく、今はシラカミ神社に帰るような気分ではなかった。あの三人とは関わらず、じっくりと考えたいと行先を探した結果、ミゾレ食堂に落ち着いたのだ。
いくら住人と親睦を深めたとはいえこうして頼れる場所は少ないと実感した。
差し出された熱いお茶をありがたく思いながら一口飲めば、気持ちが少し落ち着いた。
時々食べにくる程度の仲だが、それでもこうして話を聞いてくれていることには感謝しかない。
「あの子たちには伝えてあるのかい?」
「はい、さっきちゅん助…シキガミを送っておいたので。」
「あら、シキガミも使えるようになったのかい。」
割と近場ではあるから問題はないと思うが、一応遅くなるとだけ伝えておいた。
ミゾレさんは驚いたように目を丸くする。
そう言えばキョウノミヤコの住人でシキガミを使っている人は見かけなかった。
シキガミはあまり普及している物ではないのかもしれない。
聞いてみたいが、今はそれよりも話したいことがある。
「それで、ミゾレさんだったらどうしますか?」
最終的に決めるのは自分だとしても他の人の意見も聞いておきたい。
特にミゾレさんは俺よりも人生経験は豊富だろう。それならなおさら。
「…はぁ、あたしの意見なんか聞いても仕方ないだろう。」
しかし、そんな甘い考えは顔をしかめて放たれたその言葉で軽く一蹴される。
かなり特殊な状況である自覚はあるし、確かに聞いても仕方ないか。
やはり自分で考えるほかない。幸いまだ時間はあることだし、もしかすると名案でも…。
「結局のところあんたがどうしたいかでしかないんだよ。」
と考えたところで、ミゾレさんは続ける。
「けど、さっきも話したように俺は…。」
繰り返そうとする俺に、ミゾレさんは分かってるとばかりに手を前に出し待ったをかける。
「異物だって言うならそうなんだろうさ。あんたは本来このカクリヨにはいなかった筈の人物だ、間違いじゃない。」
そこまで分かっているのなら、なおさら何故。
「でもね、それの何が問題なんだい。あんたが既にここに居る以上、もうカクリヨはあんたがいることが前提のカクリヨになってる。今という時間の延長上にあんたのいなかったカクリヨなんてもう無いんだよ。
そういう意味なら、あんたの言うこれから追いこるかもしれない不幸もあんたがいなくなったところで関わりがあることに変わりはないよ。」
いつになく真剣な口調。それは考えてくれていることの証であり、その言葉には重みがあった。
「それにね。」
しかし、語るその顔はどこか他人事とは思えない実感のある厳しさが浮かんでいる。
「さっき親がどうとか言っていたね。それはそこまで気にする必要はないよ。」
「気にする必要はないって…やっぱり記憶が無いから。」
ウツシヨの家族からしてみれば、俺は体は同じでも中身が別人だそんな状態で帰ったところで、それが彼らの望む結果であるなどいえるはずもない。
「勘違いするんじゃないよ。あたしが言いたいのはそういうことじゃない。」
だが、それならどういうことなんだ。
俺は透だ。それ以外の何者でもない。
しかし、元の人格があるのなら、この体の本来の人格があるのなら。透という人物は消えるべきなんじゃないのか。
「あんたはあんたさ。人格も何も記憶の有無でしかない。
それにね、記憶があろうがなかろうが親というのは子供が幸せに生活してくれているのなら、それでいいんだよ。例えもう出会えなくても、どんな生活を送っているのか分からなくても、ちゃんと生きていてくれるならそれだけで、いいんだよ。」
その言葉にはいやに現実味があった。まるで自分がそうであったかのように。
ミゾレさんは一瞬だけ遠くを見つめるとこちらに向き直る。
「ミゾレさん…?」
「…少し昔話をしようか。」
ゆっくりと噛み締めるような声音でミゾレさんは話し始める。
「あたしと旦那で今このミゾレ食堂をやっているってのは前にも話したね。実はね、あたしたちには二人の子供がいるのさ。」
これには驚いた。
確かに夫婦なら子供がいてもおかしくはないが、そんなそぶりは一度も見なかった。
この辺りで見かけないということは、今はもう一人立ちしているのだろうか。
「四人でそれなりに上手くいっててね、家族仲も良い方だった。
けど、あたしと旦那がちょっとした事件に巻き込まれた。」
「事件に?」
そう言われて思い浮かぶのはキョウノミヤコの事件。
けどあれはまだ最近の出来事のはずだ。ミゾレさんの言う事件とは別物と考えて良いだろう。
「あぁ、その時助けてくれたのがミゾレだった。」
ミゾレ?その名前はミゾレさんの名前と一致している。
「ミゾレって、同じ名前の人が?」
「んー、少し違うね。」
違う?
しかし、確かに今ミゾレさんはミゾレと口にしていた。
どういうことだ?
「この店は元々その人のものでね。旅に出るからと私たちに丸々残してどこかに行っちまったのさ。それで二代目ってことで本人了承であたしもミゾレを名乗ってる。」
「それでミゾレさんはその名前に…。」
つまり、ミゾレという人物が先に居てこのミゾレさんはその名前を引き継いだと。
ミゾレ食堂にミゾレがいないよりは居るほうが恰好もつくということだろうか。
「まぁ、そう言うことで二人とはそれきりで、戻る当てもないままこうしてしがない食堂を営んでるってわけさ。
奇しくも、あんたとは立場が似ているようで全くの逆ってことになるね。」
そう言うミゾレさんはどこか寂し気に見えた。
ミゾレさんは思い出すように宙を仰ぐ。
「下の子は幼かったけど、上の子はしっかりしてたからね。今も何とかやれてるとは思う。
勿論申し訳ない気持ちはあるさ。けどこればっかりはどうしようもなくてね。
でも、あの子達のことを忘れたことなんて一瞬たりともない。例えもう会えないとしても、二人が幸せでいてくれることが一番の願いなんだよ。」
今は軽く話しているがミゾレさんも悩んだのだろう。
会いたくてももう会えない、それがどれだけ辛いことなのか俺にはただ想像することしかできない。
実際に感じるそれがこの想像をはるかに超えてくることはミゾレさんの表情を見れば察するに余りある。
「ま、とにかく家族のことはそこまで気にする必要はない…てわけでもないがね、もし往復出来るような方法が見つかれば、その時にでも顔を出してやればそれで十分だよ。」
「ミゾレさん、俺まだ残るって決めたわけじゃ…。」
その言い方では俺が残ることが前提となってしまう。
「分かってるよ、でも一度ウツシヨに帰ったらもうカクリヨには戻れないだろ?
両方取れる選択肢もあるってことさ。」
ウツシヨとカクリヨの両方を。
確かに、ウツシヨへとつなげること自体は存在している。というのもクラウンのやろうとしていたことだ。
つまり方法自体は存在するのだ。
問題の先送りと言われればそうかもしれない。
だが、ウツシヨに帰ったとして俺は幸せになれるのかと言われれば首を傾げざるを得ない。
それほどに今の生活が俺は好きなのだ。
俺が本当に望んでいるのは…。
「ありがとうございますミゾレさん、俺決めました。
俺は…」
言いかけたところで前触れもなくミゾレ食堂の扉が開く。
言葉が途切れ、自然と視線はそちらへと向かう。
「あ、やっと見つけました!」
そんな声が響いてくる。
入ってきたのは、白い髪を携えた狐の少女。
「もうフブキ、先に行かないでよ。」
それを追いかける形で黒い狼の少女が。
「ミゾレさんに透くん、やっほー。」
軽いノリで手を振りながら鬼の少女がそれぞれ入ってくる。
「三人共、何でここが…。」
遅くなるとは言ったがこの場所のことは伝えていなかった筈、どうしてここに居ると…。
そこまで考えて、ふと気が付く。
少し、ほんの少しではあるが白上の息が上がっている。
大神も心なしか。百鬼は…涼しい顔をしているな。
探してくれていたのか。
「透さんがまた悩んでいるんじゃないかと思いまして。」
「うちらの事、もっと頼ってくれてもいいんだよ。」
「透くんの為なら、余頑張るからね。」
口々に言われる言葉に何と答えれば良いのか迷った。
今決めたばかりで、実感なんて何もない。それでもこれが正解なのだろう。
「…そっか、ありがとな。もう大丈夫だ。」
誰が決めるでもない、俺自身がそう思えた。
悩みも消え安心した途端、腹が空腹を訴えてきた。
そろそろいい時間帯になっていた、腹が鳴るのも仕方ない。
「白上もお腹すきましたし、ここで食べて帰りましょう。ミゾレさん、白上はきつねうどんで!」
「そうだね、うちはぼんじり定食で。」
「から揚げ定食お願いします。」
「え、じゃあ余は…」
立て続けに入る注文に、こちらを傍観していたミゾレさんは面を食らったように口を開け呆然とする。
そして理解が追い付いたのか、その顔が苦々しいモノへ変わっていく。
「…まったく、あんたらがいれば暇なんて生まれそうもないね。」
「もー、いきなり褒めないでくださいよ。」
「皮肉に決まっているだろう…すぐ作るから席について待ってな。」
照れたように頭をかく白上を軽くあしらいながらミゾレさんは厨房へと消えていく。
何だかんだで、ミゾレさんは白上や大神と仲が良い。
…そうだ、聞きたいことがあったのだった。
「なぁ、ミゾレさんってどんな人なんだ?」
「え?どんな人って…あ、もしかしてそのお話聞いたんですか?」
最初こそ困惑した者のすぐに意図を察してくれる。
今のは少し説明が足りなかったな。
俺が聞いたのは現在調理をしているミゾレさんではなく、一代前の今は旅をしているというミゾレさんだ。
知り合いではない可能性もあったが、反応的にどうやら知り合いであるらしい。
「そうですね、基本的には二人のミゾレさんは似た者同士なところはありますね。
特に似てるのは起こると怖いところでして。」
「うちとフブキも何回も怒られたよね。店の中で暴れないのっ!って。」
白上だけでなく大神も面識はあるようだ。
この流れはと百鬼の方を向くが、首を横に振り否定される。
それもそうか、百鬼を出会ったのはそれこそここ最近の出来事であるし。それ以前にこの二人とも会ったことはないと聞いている。
「へぇ、大神まで怒られるのは珍しいな。」
基本的には大神は説教をする側なイメージがあるが、初代ミゾレさんはその上を行くらしい。
会ってみたいような、会いたくないような。
複雑な気分だ。
「ミオちゃん怒ると怖いのに、それより怖いの?」
同じ感想を抱いたようで、百鬼は戦慄の表情を浮かべている。
まだ顔すら知らないのにここまで恐怖させるとは、やはり只者ではない。
「安心してくださいあやめちゃん。あちらのミゾレさんと違って手は出さない優しい人でしたので。」
「誰が手を出す優しくない人なんだい。」
「にゃっ!?」
いつの間にか白上の後ろに立っているミゾレさんから拳骨が白上の頭へと落とされる。
声にならないうめき声をあげながらテーブルに突っ伏し、すぐに涙目をミゾレさんへと向ける。
「そういうところですよ!何一つ間違ってないじゃないですか!」
その様子を見て、ミゾレさんは呆れたように息を吐いた。
「まったく、イワレのないあたしの拳骨なんざ大して効きやしないのに大袈裟に反応しすぎなんだよ。」
「え?」
その言葉に耳を疑った。
イワレがない、つまりミゾレさんはカミでもなければアヤカシでもない。普通の一般人ということか?
「普通に痛いものは痛いですよ、某サイヤ人だって同じなんですからね。」
口を尖らせる白上を横目に、ついミゾレさんをまじまじと見てしまう。
今までの行動から、てっきりミゾレさんもカミかそれに近しい存在だと考えていた。
「ミゾレさん、今の話本当ですか?イワレが無いって。」
「ん?そうさ…確かあやめだったね。イワレが見えるんだろう?確かめてもらっても良いよ。」
「うん、それじゃあ。」
声を掛けられて、百鬼がミゾレさんを視界に収める。
その瞳が赤く輝きだすと、すぐに百鬼の顔は驚愕に染まっていった。
「ホントだ、普通の人と変わらない。」
「ま、イワレなんてあってもなくても変わらないからね。」
涼しい顔でそう言ってミゾレさんは厨房へと戻っていく。
しかし驚いた。今日で一番の驚愕の事実かもしれない。
「百鬼も知らなかったんだな。」
百鬼は対象のイワレを見てその状態を把握することが出来る。
それなら、既に見て知っていてもおかしくはない筈なのだが。
「うん、他の人のイワレを勝手に見るのはマナー違反だからね。
見るときはできる限り許可を取ってから見てるの。」
「そうだったのか。」
なるほど、力があるからと言ってそれをむやみに使わないようにしてるのか。
これは百鬼だけでなく、他の二人もそうなのだろう。
元々、俺を探してくれていた時だって、大神の占星術を使えばすぐだったものを自分たちの足で探してくれていたようだ。
見習わないとな。
しかし、一つだけ引っかかった。
「なぁ、百鬼。前さ俺のイワレの流れが澱んでた時、百鬼のおかげでそれが分かったよな。」
「?うん、透くんの動きが悪かったから気になって…。」
それ自体は本当に助かった。
あれがなければ今頃も状況は悪くなる一方であっただろう。しかし…。
「俺その時確認取られてない気がするんだけど。」
言えば、思い出しているのか宙を見ると次の瞬間あからさまに目が泳ぎ始めた。
「…」
「百鬼さん?」
無言で目を逸らそうとするので、その視界に入り込むように移動し呼び掛ける。
更に逸らそうとすれば、それを追いかける。
「…うぇぇん、透くんにいじめられる!」
二度、三度と繰り返せば限界を迎えたのか大神に泣きついて行ってしまった。
大神は待ってましたとばかりに腕を広げ百鬼を迎え入れる。
「透さん、やりすぎですよ?」
「悪かった、反応が面白くて。」
正直いくら見られても構わないのだが、反応が思いのほか良くつい調子に乗ってしまった。
「あやめちゃんをいじめて良いのは白上だけなんですから。」
「…お前も大概だよな。」
そんな日常。
これがこれからも続くのだと思うと心が躍った。
気に入ってくれた人は、シーユーネクストタイム。