【完結】色づく想ひ    作:ワンダーS

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どうも、作者です。

評価くれた人ありがとうございます。

以上。


セイヤ祭(上)

 その後も忙しないセイヤ祭に向けての準備の日々が続いた。

 この間特に変わった出来事が起こることもなく、俺達は無事にセイヤ祭の当日を迎えていた。

 

 「それにしても、本当に何もなかったですねー。」

 

 キョウノミヤコへの道のりを歩きながら白上がしみじみと呟く。

 クラウンの言った言葉が真実であるのなら今日中にウツシヨへのトンネルが開くはず。仮にもカクリヨの異変の原因となった出来事だ、どこかのタイミングで異変が起こると予想していた。

 

 それもあって俺達は基本的にはキョウノミヤコで手伝いをしつつできるだけ留まるようにしていたのだが、それらは全て杞憂に終わったようだ。

 

 「大神の占星術にも反応はないんだよな。」

 

 「うん、定期的に見てるんだけど場所や時間以前にそれ自体が捕えられなくて。時間が近づかないと何も見えないじゃないかな。」

 

 精度自体が俺の所為で落ちているとはいえ、これまで何度もその有用性を示してきた占星術でも情報が得られない。

 しかし、それは逆に占星術に反応がない内は何も起こらないととらえることもできる。

 

 今できることは待つことだけということか。

 

 「そもそもどうやって開けるんだろうね。クラウンは消えちゃったし、他に開ける人がいるのかな。」

 

 「一応時限式って線もあるけど、誰かが裏にいるって考えてた方が良さそうだな。」

 

 クラウンもどうせならその辺のことも細かく教えておいてほしいものだ。いや、敵同士なわけだったからそうもいかないだろうが。

 

 「余、頑張るね。」

 

 「ありがとう、でもあやめはあんまり頑張りすぎないでね。相手の人がクラウンレベルだとは限らないんだから。」

 

 ふんすと気合を入れている百鬼を大神が頭を撫でながら苦笑いを浮かべる。

 ここ最近の準備でも感じたが、白上や大神もキョウノミヤコ全体で見ても隣に立つ相手がいないレベルで力を持っていることが分かった。

 

 つまり彼女らでトップクラスなのにも関わらず、そんな二人が同時に相手をしてようやく対等な百鬼はやはりカクリヨにおいても頭一つ抜けている。

 そんな彼女に全力を出されてはいくら何でもその相手が可哀想そうだ。

 

 キョウノミヤコに到着すれば既に通りには多くの露店が並び、活気に満ちていた。

 

 ところどころ先日手伝いをした店も見える。

 こちらに気が付けば笑顔で手を振ってくるので振り返しておく。

 

 「それじゃあ、一旦ここからは自由行動にしようか。」

 

 「伝達用のシキガミが使えるのはミオと透さんですね。何かあれば連絡お願いします。」

 

 折角の祭りなのだ、緊急性も現時点では無い。というよりできることが何もない。

 それなら楽しまなければ損というものだ。

 

 解散の流れとなり、三人は各々行きたい方向へと歩いて行ってしまう。

 さて、じゃあ俺は…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 がやがやと騒がしい屋台通りを歩く。

 いつかキョウノミヤコに来た際にも同じように歩いたことがあった。あれはどちらかというと聞き込み中心で楽しんではいたが堪能は出来ていなかった。

 

 確かあの時は百鬼はいなかったのだったか、白上や大神は楽しそうだったな。

 特に白上なんかは両手に大量の食べ物を持っていた。

 

 「おじさん、これ二本下さい!」

 

 「あいよっ!」

 

 そうそうあんな風に。

 と、デジャブを感じてよく見てみれば、白上が屋台で焼き串を調達していた。

 

 その手には既に持ちきれない程の食べ物が下げらており、祭りを堪能していることが一目瞭然であった。 

 この短時間でどうすればあそこまで屋台を巡れたのだろうか。

 

 「白上さん、これ持てるのかい?」

 

 「あっ…。えぇっと、ちょっと待ってくださいね。」

 

 出来上がったようで屋台の店主が串を差し出すが、両手いっぱいに持っている中どう受け取ろうかと白上が四苦八苦している。

 

 …仕方ないな。

 

 「すみません、俺が持つから大丈夫です。」

 

 「おう、連れがいたのか。それじゃ、ほいお待ち!」

 

 横から割って入って差し出されている串を受け取る。

 

 「透さん。すみません助かりました。」

 

 「いいって、それより一旦どこかで落ち着こう。」

 

 幸いにもすぐに手ごろなベンチを見つけそこまで二人で歩いて向かう。

 座って一息つくと改めて白上に対して疑問を投げかける。

 

 「それで、その荷物どうしたんだよ。そんなに腹減ってたのか?」

 

 食いしん坊キャラではなかった筈なのだが。…いや、きつねうどん食べてるときは例外だ、あの場面だけ見れば満場一致でそのキャラが付く。

 

 「いえ、別にお腹が空いているわけではないんですけど…。

  お祭りの出店は制覇したくなりません?」

 

 「…なるわ。」

 

 記憶にはないがこの熱狂感には覚えがある。

 普段はお目にかかれない出店、その食べ物。特にかき氷やチーズドッグ、フランクフルトなどは祭りならではといった側面もある。

 そんな夢のような食べ物がずらりと並んでいるのだ。それでなくとも、一度は全てを食べてみたいと思うだろう。

 

 「ですよねっ!じゃあじゃあ、一緒に制覇の旅に繰り出しませんか?」

 

 共感を得られたのが嬉しかったのか白上は目を輝かせながらこちらにずいと寄ってくる。

 確かにやることもなかったし、何より面白そうだ。

 

 「ぜひ、ご一緒しますとも。」

 

 「ふふふ、よきにはからえー。」

 

 芝居がかった口調でふざけ合う。

 とはいえ、このまま出発するわけにもいかない。

 

 「まずは今あるこれを片付けないとな。…俺も何か貰ってこようかな。」

 

 食欲をそそられる匂いが漂ってきて、つい腹が鳴りそうになる。

 

 「それなら透さんも手伝ってくださいよ。」

 

 「ん?だけど全種類食べるんだったら俺も同じの買わないと…。」

 

 「ですから」

 

 そう言ってたこ焼きを一つ爪楊枝ですくい上げ、こちらへと向ける。

 

 「シェアしましょう。」

 

 いい笑顔で言ってくる白上。

 しかし、これは理解したうえでの行動なのだろうか。

 

 白上に視線を向けるも、不思議そうに首を傾げられるのみ。

 …これは気にしすぎない方が良いな。

 

 そう判断して、差し出されたたこ焼きにかぶりつく。

 

 が、それが間違いであった。

 

 「あっふ!?」

 

 「そう言えば冷ましてませんでしたね。」

 

 今さら気づいても遅い。

 口の中を熱で蹂躙され、もだえ苦しむ。

 

 さてはこれ出来立てを貰ってあまり時間たってないな。でなければここまではならないだろう。

 

 「透さん、これ飲んでください!」

 

 「…っ。」

 

 手渡されたのは冷たい瓶。

 ガラス玉で蓋がしてあり、開けるのにひと手間かかるものだ。

 

 状況には全く適していないが、それ以外にないなら仕方がない。大急ぎで栓を開け中身をあおり、胃の中へともろとも流し込む。

 

 心地よい炭酸が焼けた舌を冷ませば、ようやく地獄から解放される。

 

 「あー、ひどい目にあった。」

 

 「たこ焼きはやっぱりきちんと冷まさないとですね。」

 

 どの口が言うのだか。

 視線を向けてじっと見てやれば、悪びれる様子もなく舌を出し片目を閉じて見せる。

 

 「それより、白上にも飲ませて下さい。それ一本しかないんですよ。」

 

 「おう。と、悪いな結構飲んじまった。」

 

 構いませんよと言いながら白上は中身が三分の一になってしまった瓶を受け取る。

 後でまた調達しておくか。

 

 「…白上ってさっぱりした性格してるよな。」

 

 「?何ですか、急に。」

 

 白上は瓶を傾けながら疑問符を浮かべている。

 これはワザとなのか、本当に気が付いていないだけなのか。

 

 「いや、一応これ間接キスだろ?まぁ、ガキでもあるまいし気にすることでも…」

 

 「あっ…」

 

 そんな声を上げて白上はその手に持つ瓶に視線を落とす。今気が付いたようだ。

 するとみるみる内に白上の頬が紅潮していく。

 

 「えとっ…その、わ、私急用が出来まして…あの、失礼します!」

 

 早口でまくしたてるように言うと、白上は顔に手を当て駆け出してしまう。

 唐突のことで唖然として、追いかけようにも完全に出遅れた。

 

 「おい、これはどうするんだ!」

 

 「差し上げます!」

 

 遠のく背中に呼びかければそんな声だけが帰ってきて、すぐにその姿は人ごみの中に消えてしまった。

 ぽつんと残されたのは大量の食糧と、周囲からの生暖かい視線のみ。

 

 だが、そんなことを気にする余裕はない。

 

 「気にするのかよ…。」

 

 熱くなった顔を隠すように手を当て、呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 通りを歩いていると何やら人だかりが出来ていた。

 この祭りの最中、そんなものが出来ていれば気にならないわけがない。

 

 その人だかりに交じり、少しづつ前へ進んでいく。

 どうやら何かの出店に群がっているらしい。

 

 中央では黒いローブを纏った人物が水晶玉に手を置いて男女の二人組と向き合っている。

 占いか、ということは。

 

 「はい、あなた方の相性は申し分ないでしょう。少し先に困難が立ちふさがっていますが、互いを信じれば乗り越えられるはずです。」

 

 「本当ですか!?やったねきーちゃん!」

 

 「もう分かってたことじゃないみーくん、あたいも嬉しいけどっ!」

 

 その結果に満足した二人は礼を言うと意気揚々と歩いて去っていく。

 

 それにしても、凄い筋肉だった。筋骨隆々の肉体に、見るものを威圧するような眼光。

 今でも人混みがある中でその頭が見えるほどの大きさだ。

 

 恐らく彼氏であろう人物を肩に載せて去るその姿に、カクリヨの多様性を感じた。

 

 「次に占いを希望の方ー、いませんかー。」

 

 占い師が希望者を募っている。折角の機会だ活かさない手はない。

 手を挙げれば、そこの方どうぞ、と呼ばれたので前に出る。

 

 「いらっしゃいませー、って透君!」

 

 「やっぱり大神か。」

 

 予想通り狼の少女、大神がその眼を丸くしてこちらを見つめている。

 

 どうして店を出しているのか、それも先ほど別れたばかりで。

 相変わらず行動の読めないところがあるな。

 

 「占いくらい言ってくれればいつでもやるよ?」

 

 「いやいや、祭りの席でやるのが良いんだろ。」

 

 占い自体にも興味はあるが、本音を言えばこの雰囲気を楽しみたいだけである。

 その意図を察したのか大神はくすりと小さく笑い改めて向き直る。

 

 「ふふっ、そうだね。

  それじゃあ何について占いましょうか。健康、運勢、恋愛、何でもござれ!」

 

 両手を大きく広げて宣言する大神。

 周りでは見物客がこれでもかというほど集まっている。これは下手なことを聞いてはブーイングの一つでも起こりそうだ。

 

 「そうだな…じゃあ、俺のこれからの人生について占ってくれ。」

 

 いつか同じようなことを聞いたが現在それがどこまで進んでいるのか、またどれだけ変わっているのかは気になる。

 

 「分かった、ちょっと待ってね。」

 

 大神が手をかざせば水晶は輝きだす。

 中では煙のようなものが渦巻いている。これを使って読み取るのだろう。

 

 「…ふむふむ、透君、あなたは今大きな分岐点にいます。

  あなたの選択によって未来は枝分かれし、大きな運命を動かすことでしょう。」

 

 「ちょっと待って、いきなり重たい。」

 

 未来の枝分かれと大きな運命って、俺の選択一つで色々なものが動きすぎだろ。

 大きな選択を下したばかりでこれでは不安になってくる。

 

 「あ、でも全体的に幸せに繋がっているので安心してください。」

 

 「そうなの?まぁ、なら良いか。」

 

 ほっと胸をなで下ろす。

 意外と心臓に悪いな。もう少しライトなものを想像していたが、状況も相まって変なプラシーボ効果が生まれそうだ。

 

 ここで終わりかと思われた占いだが、大神が閉めようとした瞬間異変が起こる。

 

 「ん?えぇっと…へ!?」

 

 「どうした?」

 

 何やら水晶玉が光ったかと思えば、大神が変な声を上げて動きを止める。

 余程変な結果でも出たのか言おうか迷っているように見える。

 

 だが占い師としての矜持か、大神はその重たい口をこじ開ける。

 

 「…補足、透君あなたはその選択により、生涯の伴侶を得るでしょう。

  お相手は…あなたの身近にいるとのことです。」

 

 「伴侶って…」

 

 『おぉ…!』

 

 その野次馬であれば興味を示すであろう単語に周囲が色めき立つ。

 割と平和に終わりかけたところで最後の最後で爆弾を投げ込まれた気分だ。

 

 「あの兄ちゃん、確かシラカミ神社で居候してるんだよな。」

 

 「あぁ、それで身近と言えば…」

 

 そして俺の交友関係の少なさが仇となった。

 基本的にシラカミ神社の三人以外とはそこまで共に行動したことはない。故に対象は限定されてしまう。

 

 周りからの視線の熱が上がった気がした。

 そりゃあの三人キョウノミヤコでの知名度高いし、そこに色恋沙汰の気配を感じれば食いつきもするか。

 

 …何故だろう、凄く嫌な予感がする。

 

 「なぁ、あの二人の相性って占えないのかな。」

 

 「確かに…それあるな。」

 

 誰かがぽつりと呟けば、視線に徐々に期待が混じってくる。

 こういう時の予感程当たるのはどうしてだろうか。

 

 大勢がこちらの反応を伺っている。

 これは逃げられそうもない。

 

 「どうするんだ、大神。」

 

 小声で話しかける。

 強行突破で逃げることは出来る。屋根伝いに走れば抜け出すことは簡単だろう。

 

 しかしここで逃げては周囲は大ブーイング間違いなし、これからに支障すらきたしそうな勢いだ。

 

 「もうやるしかないよね…。」

 

 覚悟を決めたように言うと、大神はタロットカードを取り出しそれらを混ぜ始める。

 

 「透君、この中から一枚引いて。」

 

 その瞳には一種の覚悟のようなものが見える。

 そうか、大神。お前は腹をくくったのか。

 

 「分かった。」

 

 それなら、俺がここで怖気づくわけにはいかない。

 

 意を決して一枚のタロットを引き抜きテーブルに置く。

 これが、全てを決める。

 

 「…それじゃあ、めくるね。」

 

 ここに集まるすべての人間がそのタロットに注目していた。

 そんな中、大神の手によってその絵柄があらわとなる。

 

 「正位置の…恋人…。」

 

 この土壇場でそんなものが出て仕舞うのは、最早運命の悪戯としか思えない。

 

 誰もがその意味を知っている。

 結果の説明は、不要であった。

 

 『うおぉぉぉっ!!!!』

 

 肌がびりびりと震えるほどの大歓声。

 その中心にいる当事者二人はいたたまれない空気に包まれていた。

 

 しかし、すぐに限界を超えたようで…。

 

 「もー!おしまいおしまーい!!!」

 

 そんな大神の絶叫はキョウノミヤコ中に響いたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キョウノミヤコにあるとある広場。 

 歩きどおしだったこともあり休憩でもしようかと足を運ぶ。

 

 広場の中では子供たちの元気な声が響いていた。

 無邪気に遊んでいるその姿をほほえましく思いながらベンチに座っていると。

 

 「あ、透くんだ。もしかして休憩中?」

 

 「ん、あぁ百鬼か、今は…」

 

 後ろから聞こえてきた百鬼の声に答えながら振り返れば、そこには当然百鬼が立っている。

 しかし、それだけではなかった。

 

 じっとこちらを見つめるいくつもの瞳。

 百鬼の足元は大勢の子供の姿で溢れていた。

 

 物珍しそうにこちらを見る子、人見知りか百鬼の後ろに隠れる子。

 

 あまりに予想外な光景につい思考がフリーズする。

 

 「透くん?」

 

 「え、あ、大丈夫だ、問題ない、ちょっと休憩してるだけ。それより百鬼は何してんだ?」

 

 見たところ子供達と遊んでいるようにしか見えないが…

 

 「余はみんなと遊んでるの。今は何をしようか決めてるんだよ。

  ねーみんな。」

 

 百鬼が呼びかければ、ねー、と元気よく返事が返ってくる。

 意外なところで面倒見がいいな。

 

 「おねぇちゃん、あの人だれ?」

 

 先ほど百鬼の後ろに隠れた大人しそうな女の子が百鬼の服の裾を引いて声を掛ける。

 

 「余のお友達の透くんだよ。優しい人だから怖がらなくても大丈夫。」

  

 なるほど、話から察するに人見知りというよりは怖がられていたようだ。

 そうだよな、子供と比べて体は大きいし刀は腰にさしてあるし…。

 

 …それは百鬼も同じはずなんだけどな。

 少しだけ気持ちがしょんぼりした。

 

 「にいちゃん、元気出せよ。」

 

 そんな俺の心情を察してか、この中でも年長で元気そうな男の子が肩を叩いてくる。

 お前、良いやつだな…。

 

 「そうだ!透くん、この後用事がないんだったら余達と遊ばない?」

 

 百鬼がそう言えば、他の子たちも本当?と目を輝かせてこちらを見つめる。

 これは断れないな。

 

 どうせ何も予定などないのだ、断る理由もない。

 

 「そうだな、みんな、仲間に入れてもらえるか?」

 

 聞けば満場一致で肯定の声が上がる。

 良かった、これで拒絶でもされようものなら心が折れて精神年齢が彼らにぐっと近づくところだった。

 

 その後、何をして遊ぶか話し合ったところ【おままごと】をすることになった。

 百鬼は主導となった女の子たちと配役を決めている。

 

 「みんなは良かったのか?鬼ごっことか体を動かす遊びの方が好きだろ。」

 

 特に、今いる男の子達は皆活発そうな子達ばかりだ。

 それなのにも関わらずなんの意見も出さず、決定を受け入れていた。

 

 彼らは顔を見合わせると、先ほどの年長の男の子が前に出る。

 

 「うん、おれ達はあそこの子達よりも年上だから、あいつらの好きなことをさせてやりたい。」

 

 その言葉に全員が頷く。

 恐らく彼がこのグループのリーダー格なのだろう。

 

 しかし、彼の考えに反するものはその中にはいなかった。全員が望んでそうしている。

 それに気づいて、思わずわしゃわしゃとその頭を撫でてしまう。

 

 「わっ、なんだよにいちゃん。」

 

 驚いたようだが、特に嫌がるそぶりはない。

 

 「いや、凄い奴だなって思ってつい。」

 

 凄い子ではない、凄い奴だ。

 子供でありながら既にしっかりとした意思を持っている。

 

 そこで配役も決まったようで、全員が一度集まる。

 どうやら一家庭ではなく各々がやりたいもの、例えば花屋や飲食店などをやり、一つの町のようなものになるらしい。

 

 そして、俺は父親役で百鬼が母親役、先ほどの年長の男の子と大人しそうな女の子で一つの家庭となるらしい。名前はそれぞれ、ケンジとアヤカというようだ。

 

 配役も終わった所で、ようやくおままごとが開始された。

 

 「えっと、今帰った。百鬼、今日の夕飯は何かね。」

 

 威厳のある父親役と言われてもよく分からなかった。

 取り合えずそれっぽく演じてみたがどうだろう。

 

 横目で子供役、及び審判でもあるアヤカちゃんの様子を伺う。

 

 アヤカちゃんは、むっと眉を顰めると、ケンジ君に何やら耳打ちをする。

 

 「…うん、にいちゃん、ねえちゃんとは夫婦なんだからちゃんと名前で呼ばないとだってさ。」

 

 「…マジで?」

 

 聞き返せば、アヤカちゃんは何度も頷いてくる。

 気恥ずかしいが、やるしかないようだ。

 

 ごほんと咳ばらいを入れて仕切りなおす。

 

 「あ、あやめ、今日の夕飯は何かね。」

 

 「あぅ…ゆ、夕飯は肉じゃがだよ。今日もお疲れ様…その、あなた。」

 

 お互いどこかぎこちない会話。

 百鬼も恥ずかしいのだろう、はにかみかみながら頬を微かに赤く染めている。

 

 「お父さん、お母さんと二人でいちゃついてないで僕にも構ってよ。」

 

 「おぉ、悪かった。何かしてほしいことはあるか?」

 

 そんな中をケンジ君が間に割って入る。

 先ほどとはキャラが完璧に違う。演技力も高いようだ。

 

 「え、あー…」

 

 しかし、細部までは考えていなかったらしい。

 聞けばそんな声を出して考え込んでしまう。

 

 「じゃあ、肩車で…。」

 

 視線を逸らしながらケンジ君はそう口にする。

 そのくらいならお安い御用だ。

 

 そっぽを向いているケンジ君をひょいと持ち上げて肩に乗せる。

 

 「うわぁ…たけぇ…」

 

 表情は見えないが、素の感想が出る程度には楽しんでくれているようだ。

 と、服の裾が引っ張られた気がして下を見てみれば、アヤカちゃんがこちらをじっと見ている。

 

 「次…アヤカも。」

 

 「分かった、じゃあ交代な。」

 

 ケンジ君を下ろして、次はアヤカちゃんを抱き上げる。

 肩に乗せようとするが、どうやら肩車より抱っこの方が良いらしい。

 

 ということで左腕にアヤカちゃんを乗せる形を取る。

 

 しかし、先ほどから視線を外そうとしない。

 目が乾かないのかと心配になる程アヤカちゃんはこちらを見つめ続けている。

 

 そんなに見られてはどうにも落ち着かない。何か失敗したところでもあっただろうか。

 心配が顔を出してきた頃、唐突にアヤカちゃんは首に腕を回して抱きしめてくる。

 

 え、絞殺される?

 

 「アヤカ、ぱぱのお嫁さんになる!」

 

 どうやらそういう訳ではないらしい。

 なるほど、お父さん大好きな娘役という訳か。

 

 「ありがとう、アヤカ。でも困ったなぁ。」

 

 あッはッはと笑いながら話していると、唐突に右腕に柔らかな感触を感じる。

 

 「ん?」

 

 慣れない感覚に首だけ動かして右を見れば百鬼がむっとした顔で俺の右腕に抱き着いている。

 

 …なんで?

 

 「透くんは余の旦那さんなんだから、アヤカちゃんにはあげないからね」

 

 謎の対抗心を燃やしているようで、ぴったりとくっついて離れようとしない。

 

 「あの、百鬼…」

 

 声を掛けようとすれば百鬼は不満げな顔をこちらに向ける。

 分かった、分かったよ。

 

 「あ、あやめ、そんなにムキにならなくても…」

 

 「ぱぱはアヤカのだもん!」

 

 なだめようとした瞬間火に油を注ぐアヤカちゃん。

 これが計画通りなのだとすれば相当の策士だ。

 

 首に巻き付いている腕に力が籠められる。それに対抗するように右腕の圧迫感も強くなる。

 

 「やっ!余の!」

 

 「アヤカの!」

 

 同レベルの争いをしている二人を見ながら、これもアリかもしれない。そんな考えが浮かぶ。

 これはつまり妻と娘に取り合われているようなものだ。

 

 そう考えれば…そう、

 

 

 悪くない。

 

 「にいちゃん…」

 

 そんな俺の心情を知ってか知らずかケンジ君の冷ややかな視線が突き刺さった。

 

 

 

 しばらく続いたそのおままごとは昼も近づいてきたこともあり、お開きとなった。

 

 「またな、にいちゃん!」

 

 次々と帰っていく子供たちを見送り、百鬼と二人広場に残った。

 

 「楽しかったね、透くん。」

 

 「あぁ、全員いい子だった。」

 

 見知らぬ俺にもすぐに懐いてくれて、みんなが互いのことを考えていて。

 子供の頃、自分がどのような子だったのかは知らないが、少なくともあそこまでではないだろう。

 

 「ね、透くんが良かったらなんだけど、余と一緒に…。」

 

 何かを言いかけて言葉が途切れる。

 そこで止められると逆に気になってしまう。

 

 「どうしたんだ?」

 

 「…ううん、何でもない。それよりお祭り、一緒に回ろ!」

 

 しかし、言うつもりはないようで誤魔化すように笑うと手を引っ張って走り出してしまう。

 

 まぁ無理に聞き出すようなことでもない。

 そう結論付けて、腕を引っ張る彼女に合わせて走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

   

 

 

 

 

 

 楽しい時間はあっという間に過ぎ去っていく。

 既に辺りの街並みは茜色に染まっており、祭りもそろそろ本番である夜の部の準備が始められている。

 

 ここまで何も起こることなくいたって平和な祭りそのモノであった。

 これでクラウンの言っていたことが単なるでたらめであったのなら、無駄な警戒をしていたと笑い話にでもなっただろう。

 

 しかし、そう現実は甘くないようだ。

 

 目の前には大神からのシキガミ。

 

 『異変の兆候アリ、至急集合。』

 

 事前の取り決め通り大神のシキガミを返すと、白上へと同じ内容を添えてちゅん助を飛ばす。

 百鬼へは大神がシキガミが帰り次第送るはずだ。

 

 分かっていたことだ。

 緩んでいた気持ちを引き締めなおし、集合場所へと足を向けた。

 

 





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