【完結】色づく想ひ    作:ワンダーS

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どうも作者です。



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 食事を終えてミゾレ食堂を出ると、既に辺りには夜の帳が降りていた。

 白上と大神と共に行きと同じかそれ以上の時間を掛けてシラカミ神社へと戻る。食後の運動にしては些か過剰な気もするが、息を切らす俺に比べ二人は思いの外けろりとしていた。

 「透さん、大丈夫ですか?」

 「大丈夫だ…問題ない。」

 不思議そうにこちらを見る白上にそれだけ返しつつ呼吸を整える。山の頂上付近という事もあり、行きはまだ下りの分マシであったが、食後の帰りの上り坂は最早殺人的であった。

 にも関わらず、何故この二人は平気そうにしているのだろうと訝し気な視線を二人に送るが、彼女らがそれに気づく事は無かった。

 「あ、透君の部屋はさっき使ってた部屋をそのまま使って良いからね」

 「分かった。何から何までありがとう」

 「いえいえ、どういたしまして」

 礼を受けた大神はのほほんとした表情で軽く返答する。

 見ず知らずの人間に対してここまで親切にしてくれるとは、彼女たちはもしかしなくともかなりのお人好しなのだろう。とはいえ、俺が助かったのはそんな彼女らの気質あってこそだ。

 二人の厚意に感謝しつつ、けれどそれに甘えすぎないようにと自戒する。幾ら相手が良いと言ったからとそれで何も返さないという訳にもいくまい。

 (せめて、調査で何かしらの助けにならないとな…)

 心の中で決意を新たに、二人に続いて玄関を潜った。

 

 

 

 

 あてがわれた部屋にて一人、布団の上に寝転がる。それだけで大波の様な疲労感がどっと押し寄せてきた。しかし無理も無い、たった一日にしては今日という日の内容は濃すぎた。

 見知らぬ土地に見知らぬ人達、そしてワザと呼ばれた謎の力。そして何よりも自分の記憶の欠落、この世界に迷いもむ原因と思われるカクリヨの異変。

 (到底、たった一日の情報量とは思えないな…)

 どれか一つでも十分だと言うのに、こんなにも一気に詰め込まれては混乱の一つもする。それでもこうして落ち着いていられるのは、やはりあの二人に出会えたことが大きいのだろう。

 白上に大神。獣耳と尻尾を携えた少女たち。彼女らに助けられて、状況を説明して貰えて、自分の中でも少しは現状の整理をつけることが出来た。

 正直あの二人に出会えてなかったら、などとはあまり考えたく無い。

 (けど、不安はぬぐえない)

 調査の手伝いをすると決めたが、それとこれとはまた話が違ってくる。ふわふわと落ち着かない心地になるが、こればかりはどうしようもない。

 (これから、どうなるんだろ…)

 うつらうつらとしながら考えている内に瞼はどんどん重たくなっていき、いつの間にか俺は深い眠りに落ちていた。

 

 

 「こんこーん、入りますよー」

 そんな声と共に襖が開きフブキとミオが透の部屋へ顔を覗かせる。窓から差し込む月明かりを頼りに部屋を見渡せば、すぐに二人は寝息を立てる透の姿を見つけた。

 「あれ、寝ちゃってるね」

 「今日は色々とありましたから」

 それに気づいたフブキとミオは声を落として小さく笑みを浮かべた。

 「…まだ見えませんか?」

 「うん、無理みたい」 

 不意にフブキが問いかけると、ミオは首を横に振って答える。そんなミオの笑みには紛れも無い安堵が含まれていた。

 「ミオの占星術が外れたのは初めてですね」

 ミオを気遣うような目で見ながらフブキはぽつりと零した。

 「ウチも驚いてる。やっぱり、透君の影響なのかな…」

 再び二人の視線が透へと戻る。それからミオは切り替える様に頬をぱちんと叩くとくるりと透の部屋へ背を向けてぐっと伸びをする。

 「さーて、ウチらもそろそろ寝よっか。フブキ、明日は早起きだからゲームは程々にね」

 「分かってますよー…」

 「こら、そっぽ向いて答えないの」

 確実にそんな調子で言い合いながら二人は襖を閉め、部屋を後にした。

 

 

 

 

  

 瞼を貫いてくる朝日に目を覚まして体を起こす。疲労もあってかあのまま一晩中ぐっすりと眠れたようだ。窓の外を見てみれば丁度朝日が顔を出しているところだった。山の頂上付近な事も有り景色は良い。

 「二人はもう起きてるのか…?」

 彼女らの生活習慣など知らぬ存ぜぬである。取り合えず一階に降りようと部屋の襖を開けると、急に目の前へ黒い獣耳が現れた。

 「「あっ」」

 軽く下を向けば大神と目が合い、二人揃ってそんな声を上げる。どうやら丁度大神も部屋へ入ろうとしていたようだ。

 しかし何故か大神は「やっべー」と明らかに何か失敗したように表情を固めていて、そんな彼女の両手には金属製のフライパンとお玉が握られている。

 それを見てすぐに大神が何をしようとしていたのか察しがついた。恐らく今なお夢の中に居た場合、けたたましい金属音が神社に鳴り響いていたのであろう。

 未然に防ぐことが出来たのは何よりだが、しかしこれは之で気まずさを感じる。

 「えっと…おはよう、大神」

 「おはよう…あ、あはは、透君朝早いんだね…。ウチはフブキを起こしてくるから先に水浴びをしてきなよ、水場は神社の裏手を進んだ所にあるから!」

 大神は誤魔化し笑いを浮かべ、タオルを押し付けながら早口でまくし立てるとそのまま逃げる様に去って行ってしまった。

 「…止めた方が良かったか?」

 そんな大神の背を見送りつつ一人呟く。起こすとは恐らく今先程失敗したものと同じ方法が用いられるのであろう。

 「まぁ…もう手遅れだし、別に良いか」

 若干白上が不憫に思えるが大神は既に行ってしまったし、生憎と白上の部屋の場所を俺は知らない。もしかすると白上が起きているかもしれないという絶望的な可能性に賭けつつ、水場へと足を向けた。

 

 大神に教えられた通りに神社の裏手側の木々の間を進んで行けば、間も無く水音が聞こえて来て小さな滝と湖が見えてきた。

 道中神社の方からがんがんと言った金属音とそれに伴って甲高い悲鳴が聞こえてきたが、そこまで気にしなくとも良いだろう。

 思っていたよりも低い水温に体を震わせつつ水浴びを終えてから再び神社へと戻る。

 冷たい水によってさっぱりとした気分のまま髪の水気を取りつつ居間へと入れば、テーブルの前に座って眠そうに眼を擦っている白上の姿を見つけた。

 「おはよう、白上。今朝は災難だったみたいだな」

 「おはようございます、透さん。ほんとですよ…、もうあんな起こされ方は懲り懲りです…」

 やはり大神の餌食になっていたらしい白上は不満げに言いながらテーブルに突っ伏してしまう。心なしか揺れる彼女の耳と尻尾には力が入っていない。

 「…透さんは大丈夫だったんですね。」

 「あぁ、丁度部屋の前で鉢合わせてギリギリセーフだった。」

 白上がそっと組んだ腕の間からこちらを覗き込む中、今朝の事を思い返し彼女の向かい側の椅子に座りながら答える。 

 本当にタイミングよく起きれて良かった。ほっと息を吐くも、しかし白上としては同士が欲しかったのか少し詰まらなそうにぺたりと耳を垂れさせた。

 「そうですか…。…ん?それなら透さんはミオの悪行を止められたのでは?」

 「妙な所で勘が良いな…」

 ばっと顔を上げる白上から目を逸らす。

 もしかするとあの場で急いで大神を追いかけることも出来ない事も無かった。それこそ大声で呼べば反応くらいは返って来ただろう。しかし俺はそうしなかった、何故なら…。

 「まぁ、止める理由も無かったしな」

 「あー、やっぱり!!止めなかったんだ、白上の安眠が邪魔されるのを見逃したんだ!」

 「あー、聞こえない聞こえないー」

 立ち上がり大声で糾弾してくる白上の声を両手で耳を塞いで聞こえないふりを決め込むが、そこで白上が引き下がる様子は見えず、むしろ無理やりでも声を聞かせようと毛を逆立たせて襲い掛かって来る。

 「狐の怨念を思い知らせてやりますよ!」

 「その程度で…、ちょっ、見た目の割に力強くないか!?」

 その細腕の何処からそんな力が沸き上がって来るのか、全力で抵抗しているにも関わらず普通に手が耳から離れそうになる。

 必死に抵抗する俺と、何とか手を引きはがそうとする白上。そんな俺達の謎の攻防戦は朝食を持った大神が居間に戻ってくるまで続くこととなった。

 「ほら二人ともじゃれ合ってないで、朝ごはんだよ」

 「「ッ!?はいっ!」」

 そんな声と共に漂ってくる味噌汁と白米の香りに俺と白上ははっとしたように戦を止め、我先にと席に着きテーブルの上を片づけ始める。 

 「…もう、二人ともいつの間にそんなに仲良くなったの?」

 そんな俺達の様子を見て大神は呆れたように笑い、それを受けて思わず白上と目を合わせた。

 自然と気安く接していたが、そう言えば昨日が初対面だったことを思い出す。

 「何と言っていいのか分からないんだが…」

 「気が合うと言いますか、絡みやすいんですよね…」

 続けられた白上の言葉に彼女も同じ感想を抱いていたのかと内心驚く。彼女の言う通り、馬が合うのか妙に接しやすいのだ。

 何故かと考えるも答えは出ない。ただ不思議と白上には親しみ易さを覚えた。

 「へー…じゃあウチは?透君、ウチは接しやすいかな」

 「大神か?」

 首を傾げ合う俺と白上の様子を見て大神も気になったらしくそう問いかけてきて、改めて彼女の事を見てみる。  

 確かに大神も話しやすいのだが、しかし白上と同じ感覚かと言われれば違うと答えざるを得ない。白い割烹着を着た彼女の姿はまるで…。

 「「おかんだな(ですね)」」

 「なんでよー!」

 白上と声を揃えて答えれば、そんな大神の悲鳴が上がる。カクリヨに来て二日目、これからも何とかやっていけそうだと思えた。

 雑談交じりに朝食を終えてから、白上の淹れてくれたお茶を飲みつつ俺達は今日の予定について話をすることになった。

 「それでは、今日はキョウノミヤコへ行きたいと思います。」

 高々と宣言する大神へぱちぱちとまばらな拍手が飛ぶ。

 キョウノミヤコ。名前からして何処かの街か都市の事だろう。このカクリヨで訪れた場所はミゾレ食堂とシラカミ神社のみで、街など人の大勢いる場所に行くのはこれが初めてだ。緊張に鼓動が早まるのを感じる。

 「目的は少し前からキョウノミヤコで流れてる変な噂の調査なんだけど…何でも夜に幽霊が街を徘徊してるんだって」

 流暢に話を続ける大神だったが、何故か噂の内容の部分でがたりとテンションを落とした。大神だけではない、よく見てみれば白上も同様に気落ちしている様に見える。

 そんな二人の様子にピンときた。

 「もしかして、二人共幽霊系が駄目なのか?」 

 「「はい」」

 即答である。

 少し前からという事は以前から情報自体は掴んでいたのだろうが、それが原因で調査には踏み切れていなかったようだ。

 「その、昼間はウチとフブキも手伝うから、夜の方は透君にお願いしたいなって…」

 「夜の幽霊は無理なので本当にお願いします、透さんが居ないと本当に詰みます」

 早口で拝み倒す勢いで懇願してくる二人に、何もそこまでしなくてもと思わず苦笑いが浮かぶ。しかし、二人にとっては死活問題なのだろう。必死さがひしひしと伝わって来る。

 「分かった。寧ろそういうのは全部俺に回してくれ、じゃないといよいよ俺の立つ瀬が無くなる。」

 ただでさえ世話になっているのだ、二人の出来ない事を俺は肩代わりできるのなら率先してやっていきたい。そう思い快諾すると、パッと白上と大神の顔が輝いた。

 「ありがとー!いやー、透君に出会えて良かったよー」

 「本当ですねー」

 「…もう少しマシな喜ばれ方をされたいもんだがな…。まぁ任せてくれ。」

 そうしてあらかた方針が決まったところで一時解散となりそれぞれが身支度を整えると、早速俺達はキョウノミヤコへと出発した。

 







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