どうも、作者です。
ここから個別に入ります。
流れとしては、白上、大神、百鬼の順。
サブタイトルも見ての通りになります。
以上。
個別:白上 1
祭囃子の響く中、少女の姿を求めて歩きまわる。
広場では後夜祭の踊りが既に始まっており人の流れは比較的緩やかになっているが、それでもキョウノミヤコ中の人々が集まっているためか相応の人だかりとなっている。
そんな中のたった一人を見つけ出すのは中々骨が折れる。
自分でも何故ここまでしてその姿を探しているのか分からない。
だが不思議と、諦めようとは思わなかった。
視界の端々では楽し気に笑い合う人々。
普段は寡黙な人であっても、祭りの際にはその相貌を崩しふざけ笑う。どんなことでも楽しい一幕となる。
それを祭りの魔力とでも呼ぶのなら、この気持ちもそうなのだろう。
探して、探して、探して。
目立つ綺麗な白い長髪が見えないかと、そこら中を見回して。
そして遂に、
その姿が、
視界に映る。
「…白上っ!」
気が付けば、その名を呼んでいた。
呼んでしまっていた。
白い獣耳を携えた少女はその耳をぴんと立て、こちらへ振り向く。
その白群色の瞳がこちらへと向けられれば、蕾が花開くようにその顔に笑みが浮かぶ。
「透さん!」
名を呼びこちらへと駆け寄ってくる彼女の姿に、強く鼓動が鳴った。
それだけではない、体の底から熱いものが胸にこみ上げてくる。
今まで感じたことのないその感覚につい胸に手をやる。
「?どうされたんですか?」
そんな様子を見て、白上は不思議そうに首を傾げている。
それはそうだ、目の前でいきなり知人が胸を抑え始めれば困惑の一つもする。
「いや、何でもない。」
両手を振って無事をアピールして見せれば素直に信じてくれたようで、「そうですか」、と胸をなで下ろしている。
無事に合流もできたところで改めて目の前にいる白上へと目をやる。
白い装束に黒い短パン、白い獣耳、白い尻尾を携えた狐の少女は快活そうでいて、何処か気品を感じさせる。
その存在感はこの場にいる誰よりも強く、それでいて親しみやすさもまた同時に与えていた。
そんな彼女とこうして話せているのだから、人生何があるか分からない。
「あのさ、白上」
早速本題に入ろうと口を開いたは良いモノの、そこから先の言葉が出てこない。
ただ一緒に踊ろうと誘うだけ、たったそれだけの事が妙に気恥ずかしく感じた。
「その、俺と…俺と…」
首をかしげながらも待ってくれている白上に早く伝えようと口を開くも中々先に進まない。
ここまで緊張するようなことでもないだろう。
自分に言い聞かせるもあまり効果は無い。
意識している要因はやはり、例のジンクスだ。
ただの迷信だと分かっていても一度はそういうものであると考えてしまった。そうして張られた根は簡単には取り除けない。
…情けない。
その程度のことで何もできなくなる自分が。
もう少し上手く立ち回れると考えていたが、どうやらそれは思い上がりであったらしい。
悔しさに奥歯に力が入る。
そんな時だった。
不意に右手に暖かさを感じた。
目を向けてみれば、右手を細く小さな手が包み込んでいる。
「大丈夫ですよ。」
その声に視線を上げれば、優し気に細められた瞳と視線が交差する。
「ゆっくりでいいですから、白上は待ちますよ。」
それと同時に、意思を伝えるかのように右手を包む手に優しく力が籠められる。
触れた手からじんわりと暖かさは内部へとしみ込んでいき、やがて心の緊張をほぐした。
変に緊張していたのが馬鹿らしくなる。
ここまでしてくれているのだ、足踏みなどしていられない。
「白上、俺と一緒に踊ってくれないか?」
それを聞いた白上は驚いたように目を軽く見開くも、すぐにその顔には笑みが戻る。
「はい、喜んで!」
その返答に心の底から安堵する。
何故ただの踊りのためにここまで疲労しなければならないのだろうか。そう思うほどに感情の落差は大きかった。
踊りといってもさして複雑な動きをするわけではない。
周りに合わせながらでも十分形となる。それこそ子供も参加できる程度だ。
手を取り合って周りの人の動きを真似る。
ただそれだけの事が異様に楽しかった。
少し周りの視線が気になるだろうか。
だがそんなことよりも、白上と一緒に踊っている。この事実の方が大切だった。
「これ、想像以上に楽しいですね。」
少しぎこちないながらもステップを踏みながら白上は笑いかけてくる。
「想像以上って、参加したことなかったのか?」
このセイヤ祭は毎年同じ時期に開催される。
その準備を白上はシラカミ神社の神主として手伝ってきたと聞いていたが、後夜祭だけは参加しなかったのだろうか。
「はい、基本的にイワレが多く集まるとケガレも集まってくるので、毎年その処理をしてたんですよ。」
「確かに人多いもんな…ん、それじゃあ今年は…。」
毎年処理しなければならない程のケガレが集まるのなら例にもれず今年も集まっているのではないのか。
こんなところで踊っている場合ではなかった。
忙しいところを引き留めてしまっていたか、と後悔が顔に出てしまったのか、白上は慌てて訂正を入れる。
「あぁ、大丈夫です!今年は不思議とケガレが集まっていないみたいなので。
それで手持無沙汰になったところに透さんが声を掛けてきてくれたんですよ。」
そう言うことならと、今日何度目かのため息をつく。
どうにも祭りに加えて、カクリヨに残ることを決めたことで少しばかり心が浮ついているようだ。
後顧の憂いもなくなったところでしばらく音楽に身を任せる。
踊っていく内に慣れも出てきて周りの様子も良く見えるようになってきた。
隣には高齢の夫婦が、見た目にそぐわずキレのある動きを披露している。
他にも、友人同士、家族、恋人。
様々な関係性の人々が同じように踊っている。
なら他から見て、俺と白上はどう見えているのだろう。
「あの、透さん。一つお聞きしても良いですか。」
「ん、なんだ?」
不意に投げかけられた言葉に思考を中断する。
「透さんがカクリヨに残ることを選んだ理由が気になりまして。
先ほど帰れなかったから、ではないんですよね。」
その口調は至って普通だ。とりとめのない日常でするような会話でのそれと変わらない。
しかし、その瞳は、上目遣いにこちらを見つめるその瞳の奥には、別の感情が存在している。
「まぁ、気になるよな。」
今回の決断はこちらの世界をとるか、元の世界をとるか、言ってしまえばこれからの人生を大きく変えるものだ。
俺だって、知人に似たようなことをした人がいればその理由くらいは聞いてみたくなる。
だが、改めて話すとなると相手が理由の一部なだけに話すことを躊躇してしまう。
「…実は、ずっと不安だったんです。」
「不安って、白上が?」
聞き返せば、「はい」と力なく白上は答える。
その様子を見て察しが付く。
先ほど白上の瞳に見た感情を、それこそが不安。
だが、どうして白上がそんな感情を抱いたのか、そこまでは分からない。
「透さんがウツシヨに帰ってしまうことが、ずっと。
…おかしいですよね、応援するって言ったのに、こんな。」
そう言うと白上はへらりと笑って見せる。
いつものような元気に溢れた笑顔とは違う、自嘲に満ちた笑顔。
それを見て、胸が締め付けられるような感覚を覚えた。
そんな顔は、してほしくないと思った。
「このカクリヨに来て一番初めに会ったのは白上だった。」
何故そう思うのか、そんなこと今はどうでもいい。
ただいつもの笑顔が見れるのなら、躊躇などしない。
「そこから大神や百鬼と出会って、皆と過ごしていく内にそれが当たり前になった。
みんなと過ごす時間が好きになった、このカクリヨが好きになった。細かいことを言えばキリは無いけど、これがカクリヨを選んだ理由だ。」
畳みかけるように気持ちを吐露する。
こういうのは本人を前にしていうものでもないだろうが、関係ない。
これが俺の本心だ。
「それに決着、まだついてないからな。」
いつか言っていたゲームの決着。
直近ではあまり出来ていなかったが、これからは時間はいくらでもある。
二人で遅くまでゲームをして、お菓子を食べて、大神に説教されて。
そんな日々を送りたいと思ってしまったのだ。
顔を上げた白上と目が合う。
「…そうですね、帰ったら早速勝負です!」
そう言って白上は今度こそ満面の笑みを浮かべる。
そうだ、その表情が一番似合っている。
などと後から思い返せば穴に入りたくなるような思考をしていることに気づく。
つくづく、今日は祭りの魔力にやられているらしい。
「あ、その前に屋台巡りをしておかないとですね。お昼はあまり回れませんでしたし。」
「誰かさんの所為でな。あの後大変だったんだぞ。」
白上が走り去ってから独り黙々と大量の食べ物と戦闘を繰り広げていた。
おかげさまでその付近の人からは、かなりの大食漢だという誤解を受けてしまった。
その原因となった出来事を思い出したのか、徐々に白上の頬が朱に染まっていく。
「もぅ…思い出させないでくださいよ。」
話を振ったのは白上の方だろう。
それにしても、この点においては本当に驚いた。
てっきり気にしないタイプだと思っていたところにあの反応だ。おかげでこっちまで照れてしまった。
「正直白上のその辺の線引きが分からないよ。」
今までそういったことがなかったのも事実だが、普段接している感じではそう考えてしまっても不思議はない。
この辺り、まだまだ知らない面はたくさんありそうだ。
「線引きって、そんなつもりはないんですけど…。
あの時は急に恥ずかしくなっちゃったんです。」
言葉の通り今もなお恥ずかしいのだろう、白上は赤い顔を隠すようにふいと横を向いてしまう。
まさかラムネ一つでこうなってしまうとは、案外初心な一面もあるらしい。
「ラムネって飲むときコツがいるじゃないですか。その、それを意識しちゃって…。」
赤かった顔がさらに染まっていく。
しかしそれは恐らくこちらも同じで、今は二人揃って顔を朱色にしているだろう。
自分で言って照れるくらいなら言わなければいいものを、そこまでして巻き込みたかったのか。
「…むっつり猫。」
「狐じゃい!…って、違うそうじゃなくてっ!」
照れ隠しに言った言葉に白上は条件反射のように反応する。
しかし、否定する部分を間違ったためかあたふたと弁明しようとしている。
「ふふっ。」
二人でわいわい騒いでいれば唐突に後ろから小さな笑い声が聞こえる。
その声の出所は近くにいる老夫婦。
「あら、ごめんなさいね。あまりに微笑ましいやり取りだったものだからつい。」
それだけ言い残すと老夫婦は颯爽と去っていく。
そうだ、ここには大勢の人が集まっている。
距離もそれほど遠いわけでもないため、普通に話していれば耳に入るのは必然であった。
一体どのあたりから聞かれていたのだろうか。
そして、気が付いた。
周りからこちらをちらちらと見つめる視線に。
物珍しいものを見るようなそれに、予想以上の人に聞かれていたことを悟る。
白上と二人いたたまれない空気に耐え切れず、逃げるように互いへと視線を戻す。
「うぅ…透さんが変なこと言うからですよ。」
「白上こそ。」
赤い顔を突き合わせて今度は周りに聞こえないように小声で会話をする。
周りからしてみればただ顔を近づけているだけに見えることを理解せずに。
そんな時間もやがては終わりを告げる。
音楽も最後の盛り上がりを見せてきた頃、最後のポーズを取ろうとして他の参加者も身構えだした時。
「あっ…。」
広間の地面にかけている部分があったようで、ブーツの踵が嵌り白上の体制が崩れる。
「白上ッ!」
咄嗟に手を引こうとするが既に白上の体は後ろへと傾いてしまっている。
ならば、と腰に手を回し支える。
それと同時に、最後を飾るように音楽が鳴りやむと花火が打ち上がり空を照らす。
周りからは歓声が上がり、さぞ綺麗な光景が広がっているのだろう。
だが、それよりも。
そんなものよりも、俺は目の前の光景から目が離せないでいた。
「…」
「…」
間近に迫った白上の瞳に俺の顔をが反射して見える。
逆に俺の瞳には白上の顔が反射しているだろう。
腰に回した手で白上を支えながら、至近距離で見つめ合う。
動けない。
周りの喧噪が遠くのものに感じる。
まるで、二人だけの世界に迷い込んでしまったかのようで。
どれほどの時間が経過したのかさえ分からない。
「…透…さん?」
呆然としたように白上がぽつりと零す。
その声にようやく止まっていた時間が動き出す。
「わ、悪い!」
腕の中のさほど力を籠める必要もないほど軽い体を起こし上げ、すぐに手を離す。
「あっ…」
手のぬくもりが離れれば妙な喪失感を感じた。
白上も同じように感じたのかそんな声を漏らす。
「す、すみません、助かりました。」
「あ、あぁ、気にするな。」
それを誤魔化すように白上はあたふたとしながら礼を言い、二人ぎくしゃくとしながらぎこちない会話を繰り広げる。
心臓は早鐘を打ち、今にもはち切れてしまいそうだ。
どうしてしまったのだろう。
次々に湧き上がってくる感情に困惑する。
痛いほどに鳴る心臓は落ち着く気配を見せない。
何なのだろう。
この気持ちは、何なのだろう。
自分に問うても答えなど帰ってこない。
目の前の少女に目を向ける。
彼女も同じ気持ちなのだろうか、それを無性に知りたいと思った。だが、同時に聞くべきではないとも考えてしまった。
そんな気持ちをもどかしく思う。
「あ、あの…透さん。」
「ん、どうした?」
白上が俯きながら服の裾を引いてくる。
何事かとそちらに思考を向けたところで、やけに周りが静かなことに気が付いた。
あれだけ騒がしかったのに、何か他の行事でもあったか。
そう思い周りに視線を向ければ、こちらに向けられるいくつもの生暖かい視線を察知する。
こちらを見ている皆が揃って珍しいモノでも見るようにこちらを見ている。
「あー、なるほど…。」
白上が伝えたかったのはこれの事か。
確かにこれは耐えきれそうもないな。
急激に頭がクリアになり、この場での最適解を導き出した。
「…逃げるぞ、白上!」
「はい!」
再び白上の手を取りその場から走り離脱する。
それを見た観衆から歓声が上がるが、構っていられない。
人ごみを抜け、人気のない公園までやってくるとようやく一息つく。
落ち着いたところで改めて白上と顔を合わせれば、先ほどまでのやり取りがやけに可笑しいものに感じ、どちらかともなく笑い出す。
どうかしていた。
今さら白上とあんな空気になるとは思いもしなかった。
「本当に呪いでもあるんだろうな、あれは。」
「あ、透さんもジンクスの事聞いてたんですね。」
ジンクス、ということはやはり白上も詳細は分からないようだ。
ひとしきり二人で笑い合う。
あぁ、実感してみれば納得せざるを得ない。
迷信と言えど、これは本物だ。
「仕切り直しとは言いませんが、屋台巡り、行きませんか?」
笑いも収まったところで白上が誘ってくる。
結局、俺も屋台を回っていない。終わる前に堪能しなければ。
「そうだな、今度は置いてかないでくれよ?」
「しませんよーだ。」
いつも通り、気の置けない友人としての白上と屋台巡りへと繰り出す。
こうして、年に一度のセイヤ祭は幕を閉じた。
「ん?」
「どうしました?」
昼間と同様に大量の屋台をめぐり両手いっぱいに食べ物を持って歩いていると、不意に右手の甲に熱を感じた。
覚えのある感覚に立ち止まり、手を挙げて宝石へと目をやる。
相変わらず濁ったままの宝石。
そんな宝石が一瞬だけ、白に色を変えた。
目をこすりもう一度見てみるがそこには元の濁った色の宝石。
見間違いだろうか。
「いや、何でもない。」
気のせいだ、そう判断して答え、白上との屋台巡りを再開した。
気に入ってくれた人は、シーユーネクストタイム。