どうも、作者です。
お気に入り300件を超えました。
あざます。
以上。
「だーれだっ」
そんな声と共に視界が突如として暗闇に包まれる。
目元に当たる少しだけ冷たい感触とその声に犯人は一人に絞られた。
「白上。」
答えれば視界を覆っていた手が離れ、瞼の先で光を感じる。
目を開け振り返ると、案の定白い狐の少女が悪戯な笑みを浮かべて立っていた。
「正解です、そんな透さんには10フォックスポイントを差し上げましょう。」
「何に使うんだそれ。受け取っとくけど。」
両手で狐を形作る白上にフォックスポイントとやらを贈与される。
何か特典でもありそうな語感だが、まぁどうせ何もないのだろう。
「ここに居るってことはそっちはもう終わったのか?」
向き直り、根本的な疑問を投げかける。
白上が担当していたのは北と東。
今いるここは西区の端だ。
そんな白上がここに居るということは…。
「はい、全体的に見て回って四人のケガレを払ったので透さんと数を確認しようと思いまして。」
「あー、そっちもか。」
同じ考えに至っていたらしい。
だがそれで俺ではなく白上がこちらに来たということはつまり、白上の方が早く先に同じ人数を払い終えたということになる。
そう考えると謎の敗北感が胸を軽くよぎった。
「西と南はどうでしたか?」
「こっちも四人だった。それぞれ二人ずつ。」
「なら、合わせて八人ですね。」
何はともあれこれでオツトメも終了と見て良いだろう。
「と、その前に白上、ケガレの消し方を教えてくれないか?
ずっと持ったままになってたんだ。」
まだ終わりではなかった。
未だに周りを浮遊させている四つの球体を白上に見せる。
「それでしたらワザを使う時みたいにイワレを込めてあげると消えますよ。」
「分かった、やってみる。」
言われた通りに四つの結界の内部に向けてイワレを流し込む。
すると、見る見るうちに内部の黒い靄が減っていく。
調和作用でも働いているのだろうか。
考えてみればケガレを負とすれば普通のイワレは正だ。
割合は分からないがそれで浄化出来てもおかしくはないか。
「お疲れ様でした、透さん。」
完全に結界の内部のケガレが無くなったところで声を掛けてくる白上。
「白上も、お疲れ様。」
互いを労いながら軽くハイタッチをする。
しかし実際にやってみて思ったが…。
「予想以上に大変なんだなオツトメって。
白上はいつもこれを一人でやってるんだろ?尊敬する。」
精神的な疲れもあるが、単純にキョウノミヤコを走り回るだけで十分に重労働だ。そこにケガレを払うためにワザを使用することも考えると、普通に疲労は溜まる。
「そう言われるとちょっとむずがゆいですね。
でも月に一回ですし、ミオに手伝って貰うこともありますので。」
「それでも、凄いと思うよ。」
一人でやるとなると今日の二倍は走り回ることになる。
頷きながら素直な感想を口に出せば、白上は一瞬うつむいたかと思うとこちらをジトリと睨みつける。
「透さん、わざとですよね。」
「ん、何のことだ?」
とぼけて答えればやっぱりといったように目を見開くと、その頬が軽く膨れた。
「最近こういうこと増えましたよね、隙を見せたらすぐに褒め倒そうとするんですから。」
そう言って白上は拗ねるように横を向く。
そっちがそう言うならこっちにだって言いたいことはある。
「それを言うなら白上だってゲームで容赦なくなってきただろ。
最初の頃はそれなりに普通にプレイしてたのに。」
そんな白上に負けじと反論する。
この前など即死コンボを何度も決められて発狂しかけたものだ。
「それは…まぁ、それなりに付き合いも長くなってきましたし。
長く…。」
語尾に行くにつれて音量が下がっていく。
「長…くはないのか?」
突如湧いた違和感に二人揃って首をかしげる。
確か俺がカクリヨにやってきたのが大体二か月程前か。
そう考えると白上と出会ってからも必然的にそれと同じということになる。
「どちらかというと短い寄りだな。」
「そうですね、何だかもっと長く一緒にいるような感覚になってました。」
改めてカクリヨでの日常がいかに濃いものであるかを実感した。
いや、この二か月で起きた出来事が多すぎただけなのだが。
「ま、大切なのは時間より内容だな。」
「そうですね。白上達は白上達です。」
しかし…そうか、まだ二か月しか経っていないのか。
驚きはしたがあまり気にするようなことでもない為簡単に結論付ける。
過程がどうあれ、今の関係があるのならそれでいい。
「それより透さん。」
「ん?」
改めて過去を振り返っていると白上が気を取り直すように呼び掛けてくる。
「折角キョウノミヤコに来たことですし、遊んで帰りませんか?」
何かと思えば遊びの誘い。
確かに、このまま帰るというのも何だか味気がないととは思っていた。
「良いな、でもまずはどこかで腹ごしらえでもしよう。」
見れば既に太陽は真上に位置している。
動き回っていたせいか胃が何か入れろと先ほどから催促してきていた。
「じゃあ歩きながら何か探しましょうか。」
ということで、キョウノミヤコを二人で回ることとなった。
適当に当てもないまま辺りを歩いて回る。
「この辺はよく来るのか?」
「んー、あんまりですね。
キョウノミヤコには良く来ますけど、基本的に屋台の多い場所に行くので。」
それもそうか、オツトメで全域に足を運ぶことはあっても一つ一つの場所を詳しく覚えるほどにゆっくりする余裕はなかった。
「屋台といえば結局全部回れなかったよな。」
「セイヤ祭の時ですよね。
予想以上に数も多かったですし、何より時間が無かったのが痛かったですね。」
「次はもっと最適なルートを…」などとぶつぶつと呟きが聞こえてくる。
変に情熱を刺激してしまったようだ。
これだからガチ勢は。
「というか、夜だけで回るのは無理があるだろ。」
「やっぱりそうですよね。そもそもお昼のタイムロスが…。」
そこまで言うと突然白上は言葉を区切り黙り込んでしまう。
怪訝に思い白上を見てみれば、彼女は真っ赤な顔をして軽く俯いていた。
「…まだ引きずってんのかよ。」
引きずっている、というのはセイヤ祭でのラムネの件だ。
あれから時間も経った事だしそろそろ飲み込んでしまえばいいものを。
「うぅ、仕方ないじゃないですか。
流石にあそこまで行くと許容範囲外なんです。」
「相変わらずラインが分からないな。」
大抵のことは軽く受け流す癖に時々このように意識するのだから性質が悪い。
こちらまでいたたまれなくなるのだから勘弁してもらいたい。
しばらく歩いていれば人通りの多い道に辿り着いた。
この辺りなら色々と見つかりそうだ。
「あ、透さん透さん!」
横からテンション高めな声が聞こえてきたかと思うと腕を引かれる。
「何かあったのか?」
「あそこ、面白そうじゃないですか!?」
指さす先には大きな看板を出している店が見える。
「えッと…ジャンボパフェチャレンジ。
成功者には、賞品あり?」
でかでかと書かれた文字を読み上げる。
「丁度お腹空いてましたし、何よりゲーマー魂に火がついてしまいました。」
それに関しては完全に同意だ。
チャレンジというだけで心惹かれるのに、さらに賞品まで付いてくる。
これを逃す手はないだろう。
「賛成だ、これは挑戦するしかないな。」
決まるや否や揃って意気揚々と店内に入る。
中ではその看板の効果もあってかかなり盛況のようだ。
幸い空いていた席に座り、ジャンボパフェとやらを頼む。
「透さんは甘いモノ好きですか?」
「俺か?まぁ、好きだな。
でもどっちかというと煎餅とか塩気のある方が好きではある。」
「ほほう、でしたら今度秘蔵のものを用意しておきますね。」
適当に雑談をしながら調理を待つ。
ジャンボというからには相応の大きさなのだろう、今のうちに覚悟は決めておく。
そして、遂にその時はやってきた。
「お待たせしました。」
例にもれず鉄球を落としたかのような音を響かせて巨大な塔がテーブルの上に着地する。
白上の胴回りよりも一回り大きいそれに既視感を感じた。
「なぁ、白上。
もしかしてお前と一緒に何か食べようとするとそれが巨大化する呪いとかかけられてないか?」
「いえ特には。いきなりどうしたんですか?」
予想を軽く超えた目の前の塔につい白上に確認を取れば、不思議そうに首を傾げられた。
「いや、気にしないでくれ。」
なるほど、そこに因果関係は無かったか。
そうであればすぐに払ったものを。
「あ、これが器みたいですよ。
何だかワクワクしますね。」
そう言って手渡されたのは片手では掴むことのできない、肘から手の先程まであろうかというほどの容器。
恐らくこれでチャレンジメニューとして出されても余裕で信じる自信がある。
そう、これは戦である。
多少の見当はずれがなんのその。
「あぁ、早速始めよう。
俺たちの聖戦を。」
「透さんて時々変なことを口走りますよね。」
ほっとけ。
「おめでとうございます、こちらが賞品でーす。」
そう言って差し出された小包を白上が受け取る。
およそ七割を白上が平らげたことでチャレンジは無事成功となった。
てっきりきつねうどんのみの特攻なのかと思えば他にも適用されていたらしい。
「あー、もうしばらく甘味はいいな。」
「美味しかったですねー。…ん?」
歩きながら貰った賞品をしまおうとしたところで、白上が何かに気づいたように声を上げる。
「どうした?」
「いえ、この手触り、感触…、音、匂い…」
白上は丁寧な手つきでその小包を調べ始めた。
そして数秒ほどでまるで新しいおもちゃを買ってもらった子供のようにその顔を輝かせる。
「透さん、これゲームソフトですよ!」
「なに、マジか!」
流石ゲーマーというべきか、中身も見ずに内容物を当てて見せる。
何故そんなものが賞品になっているのかは謎であるが、喜ばしいことに変わりはない。
「どんなゲームでしょうね。
いつやりましょうか。」
「今日…は厳しいだろうから、また後日だな。」
流石に帰ってからゲームをする気力が残っているとは思えない。
隣の白上は高かったテンションが賞品によりさらに上がったようでついには鼻歌まで歌いだす始末だ。
しかし、その気持ちは十二分に理解できる。
何せ未知のゲームソフトが手に入ったのだ、こんなにも燃える展開に何も感じないはずがない。
「協力系のゲームだと嬉しいですね。」
「だな、そういう系ってあんまりやらないし。」
どちらかというと対戦系の方がやることは多い。
というのも、白上の持っているゲームがそちらに偏っているのもある。
特に理由は聞いていないが、まぁただの趣味だろう。
「次は何します?」
「そうだな…じゃあ。」
そして俺たちはキョウノミヤコを遊びつくした。
「あ、透さん、これかけてみてくださいよ。」
「何だ?…って眼鏡か。こんなものまで置いてるんだな。」
露店で置かれている物を物色したり。
「それでミオも一緒に怒られたんですよ。」
「本当、色んな所でやらかしすぎだろ。」
足が疲れれば茶屋で茶を飲みながらなんて事のない雑談に興じてみたり。
「え、なんだあれ。」
「旅芸人の人たちですね。白上も久しぶりに見ました。」
旅芸人の芸を見て盛り上がったり。
その道中では様々な人に声を掛けられた。
老人から子供まで、年代に問わず白上の姿を見かけては一言声を掛ける。
「またねー!」
「はい、気を付けて帰るんですよー。」
今もなお子供達に笑顔で手を振っている白上を横目に見る。
「シラカミ神社の神主さんは人気者だな。」
「顔を覚えてもらえるのは嬉しいですけど、少し気恥ずかしいんですよね。」
頬を指でかきながら照れたように白上は笑う。
人気者特有の悩みというやつか、残念ながらというべきか俺には一生分かる気はしない。
「そういう透さんだって、キョウノミヤコでは結構有名になってるじゃないですか。」
「そうか?」
言われてみればセイヤ祭の準備の際にシラカミ神社の居候だと知られていたような記憶がある。
「でもそんなに目立った特徴もないし、俺が…」
「お、白上さんに…あんたは透さんだな。
これ持っていきな!」
言いかけたところで通りがかりの露店からそんな声が上がり、気の良さそうな中年の男性が果実を俺と白上のそれぞれに投げて寄越す。
それを礼を言って受け取るが、中々どうして状況的には複雑な気分だった。
「俺が…何ですか?」
「…何でもない。」
そんな心境を見透かしてか、白上は勝ち誇ったように笑みを浮かべると顔を覗き込んでくる。
煽ってくるようなその様子を腹立たしく思いながらも、何も言い返すことは出来ない為顔を逸らす他無かった。
そうこうしているうちに徐々に空が赤らんできた。
路地を埋め尽くすような人ごみも、今はまばらに人が歩いているだけ。
始まりが昼なのだと考えると、よくここまで遊んだものだ。
「最後に一か所だけ良いですか?」
そろそろ帰ろうかというところで白上がそう提案してくる。
今さら断ることなんてしない。
「勿論、何処に行くんだ?」
「それは着いてからのお楽しみということで。」
口に人差し指を当てると、白上は「こっちです。」と方向を指さしながら歩き始める。
その後を追いかけるようについて歩く。
何処へ向かっているのか見当もつかないが、やけに階段や坂を上に登る。
しばらくして、キョウノミヤコでも一番高い場所にある高台へとたどり着いた。
「ここに来たかったのか。」
「はい、目立つようで意外と知られていない穴場なんですよ?」
穴場って何の。
その疑問を口に出す前に、白上は備え付けられた階段を上り一番上へ向かう。
ここで立ち止まっているわけにもいかない。
白上に続いて上へと歩を進めれば、横合いに光が照らされる。
驚き一瞬瞼を閉じるが、すぐに慣れてきて薄っすらと目を開ける。
その光の正体は夕日だった。
今にも沈もうとしている夕日が横合いに照らしているのだ。
「透さん、こっちですよ。」
前には柵のそばに立っている白上の姿。
手招きをする彼女の隣まで歩いて行くと、そこから見えた光景に言葉を失った。
目の前に広がるのはキョウノミヤコの街並み。
壮大なその景色が、今では夕日に照らされて赤と金色の織り交ざった輝きを放っている。
単一色で表されたその風景はそのまま切り取ってしまいたいほどに綺麗だった。
「気に入ってもらえましたか?」
「…あぁ、正直驚きすぎて声が出なかった。」
会話の最中も目の前の景色から目が離れない。
「…良かったのか、俺に教えて。穴場なんだろ?」
他人に教えるのは惜しいと思えるほどの景色。誰もがそう思うからこそ、ここは穴場として成立しているのだろう。
白上だってそれは同じはずなのに。
「んー、今日のお礼…みたいな感じですかね。
透さんのおかげで早くオツトメを終わらせることが出来たので。」
「それにしては、壮大が過ぎるけどな。」
今日一回の手伝いの報酬としてはつり合いが取れてなさすぎる。
ここまで大きなものを貰ってしまうとなると、今日一日分では到底賄えきれない。
「でしたらまた手伝って貰えますか?
それで早く終わらせて、遊んで、またこの夕日を見ましょう。」
そんなことを言われては断ることなんてできない。
今日一日を過ごしてみて、断ることなど不可能だ。
「最初からそのつもりでこれを?」
「さぁ、どうでしょう。」
しらばっくれるように言う白上に苦笑しながらそちらへと視線を向ける。
瞬間息が止まった。
目の前には夕日に照らされた彼女の姿。
それだけだ。それだけなのに。
目が離せない。
先ほど見た風景が霞んでしまう程、目の前の光景に魅入られた。
その視線に気づいた白上はこちらへ振り向きいつものように笑みを浮かべる。
「どうしたんですか?」
鼓動が跳ねあがる。
「…何でも、ない。」
それを聞いた白上は再びキョウノミヤコへと視線を戻す。
言葉とは裏腹に、鼓動は速度を増すばかり。
得体のしれない感情が胸埋め尽くす。
世界に色が付いたような、そんな感覚。
何なのだろう。
この気持ちは、何なのだろう。
気に入ってくれた人は、シーユーネクストタイム。