【完結】色づく想ひ    作:ワンダーS

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どうも、作者です。


個別:白上 7

 

 「透さん、私、もう…。」

 

 隣の白上がしがみつくように腕を掴む。

 その顔にいつもの明るさは無く、震えるその声はか細く、儚さに満ちていた。

 

 身じろぎ一つ、息遣いさえ伝わってくるほどの至近距離。

 

 高鳴る鼓動を聞きながら暗い夜道を前方へと進む。

 

 足音が鳴るたび、腕を掴む手に力が籠められる。

 触れたその箇所は火が点ったかのように熱を帯びていた。

 

 隣から聞こえてくる小さな悲鳴にいちいち心を揺さぶられる。

 

 鼓動が混ざり合い、もはやどちらのモノかさえ分からない。

 

 そんな最中、やがて緊張感はピークへと達し、そして…

 

 『GuRAAAAAA!』

 

 「にゃあああああっ!?」

 

 突如として画面一杯に映る霊の顔に、大きな悲鳴を上げた白上に身体ごと、今度は首元に腕を回す形で引き寄せられて密着度が格段に跳ね上がる。

 その感触に、感じる体温に、飛んでいきそうになる意識を繋ぎ止め、宙を見上げて想う。

 

 どうしてこうなった、と。

 

 

 

 

 

 「透さんは何のゲームが入ってると思いますか?」

 

 夜、食事も終えて後約束した通りに白上の部屋に訪れると白上にそう質問される。

 

 目的は今まさに目の前に置かれている小包。

 これは大食いチャレンジの商品として獲得したものだが、中身についての説明は一切なかった。

 

 「そうだな…、無難にRPG系とか?」

 

 「王道ですね、じゃあ白上はアクション系に賭けます。」

 

 特に理由もないままに賭けをしながら、白上はその小包の解いていく。

 

 「…あれ、二つ入ってますね。」

 

 白上の言葉通り、解かれた小包からはさらに包まれた二つの小包が出てきた。

 流石の白上も数までは把握できなかったようで、驚いたように目を丸くしている。

 

 「気前良いな…まぁ、難易度的にはおかしくないか。」

 

 正直、白上がいなければ半分すら攻略することは叶わなかっただろう。

 しかし、二つとなるとこれは二人の予想が両方当たる可能性も出てきた。

 

 純粋に楽しみが二倍になったのだ、これはテンションが上がる。

 それを表すように白上の目にも輝きが宿っていた。

 

 「でも困りましたね、両方同時にやるわけにもいきませんし…。

  どっちやりましょう。」

 

 意見を求めるようにその瞳がこちらへと向けられる。 

 とはいえ、二つとも同じような見た目をしているため、選べと言われても少し困る。

 

 違いといえば包み紙の色くらいか。

 片方は紫で、もう片方がピンク色。

 

 柄も揃って無地というどうにも判断に悩む仕様だ。

 

 「んー、じゃあ紫で。」

 

 「了解でーす。なら早速開けますね。」

 

 白上もどちらでも良かったようであっさりと決まる。

 今度こそ、包みが解かれるとパッケージらしきものが顔を出す。

 

 「「これは…」」

 

 それを目にして、白上と二人言葉を失う。

 目の前には紛れもないゲームのパッケージ。そう、それに間違いはない。

 

 問題があるとすればパッケージに描かれているその絵だ。

 

 見る限り、明らかに雰囲気が暗い。

 何だったら紅い血色の手形なんかがくっきりと付けられている。

 

 これらの情報から導き出される答えは、つまるところの…。

 

 「ホラゲー、だな。」

 

 そう呟けば白上の耳がピクリと動く。

 

 確か白上は幽霊などのホラーに強くないと聞いている。

 実際に出会った当初にも幽霊が出るというだけで調査もままならなくなっていたようだし。

 

 まさかそんなピンポイントで、しかも大食いとは全く関係のないところが来るとは思わなかった。

 これはもう一つの方を開けた方が良いか?

 

 「良いですね、最近やってなかったので丁度良かったです。」

 

 そんな考えとは裏腹に、白上のその瞳は輝きを保っていた。

 その特に嫌がるようなぞぶりを見せない白上の様子に、つい驚きに目を丸くしてしまう。

 

 「あれ、白上ってホラー駄目じゃなったっけ。」

 

 「はい苦手ではありますよ。」

 

 聞けばあっさりとそう答える白上に余計疑問が湧きたってくる。

 やはり記憶に間違いはないようだが、それなら尚更に白上がここまで前向きな理由が分からない。

 

 首をかしげている中、白上は続ける。

 

 「ホラーは苦手ですけど、ホラゲー自体は好きなんですよね。

  怖いけどそこも含めて好き…みたいな?」

 

 「そういうものか?」

 

 何となく分からないでもないが、あまりしっくりとは来ない。

 苦手なものは苦手だろうし、好きなものは好き。白上にとっては違うベクトルなのだろうか。

 

 「確かキョウノミヤコで霊が出たとき白上と大神が揃って調査すら出来てなかったよな。

  つまりゲームなら大丈夫だけど、現実で現れるのは無理ってことか。」

 

 恐怖は恐怖であるだろうが、まぁ現実では得体が知れない分その辺りの要素も含まれているのが大きな違いか。

 

 「そんな感じですね。

  透さんも現実で巨大な虫の大群が迫ってきたら逃げませんか?」

 

 「逃げる。無い尻尾撒いて逃げる。」

 

 即答である。

 想像するまでもなく瞬時に答えを出せる。

 

 なるほど、納得がいった。

 かかっていた霧が晴れるように、疑問が解消された。

 

 何はともあれ、楽しめるのなら問題は無い。

 もう一つはまた今度のお楽しみということにしておくことで意見が一致した。

 

 白上はゲームの電源を付けソフトを入れると、コントローラを持って戻ってきてすぐ隣に座る。

 

 「これ二人プレイ?」

 

 「いえ、多分一人ですね。

  ということで、どうぞ。」

 

 そう言って差し出されるのはコントローラ。

 ここで少しだけ違和感を覚えた。

 

 「…変に遠慮しなくてもそっちからで良いぞ。」

 

 「いえ、透さんにやってもらいたいなって思いまして。」

 

 そう言って尚も差し出されるそれに違和感はさらに大きくなる。

 普段であれば確実にここでどちらが先にプレイするかで一悶着が起こってもおかしくはない。

 

 しかし、今の白上にそんなそぶりは見られず、むしろプレイすることを避けようとしているようにすら見える。

 

 だがここで問い詰めようにも既にゲームは待機状態になっている。

 新しい見たことのないゲームを前にそんな時間すら惜しい。

 

 白上もこう言っていることだし、厚意?に甘えることにして、コントローラを手に取った。

 

 

 

 

 

 そして現在に戻る。

 隣には顔を隠しながらも画面からは目を逸らそうとしない白狐が一匹、左腕に憑りついていた。

 

 収まっていた胸の高鳴りが再発し、うるさいくらいに音を立てる。

 本当に厄介な体になったものだ。

 

 嘆くも現状は変わらない。

 

 「白上、ホラゲーは大丈夫じゃなかったのか?」

 

 「ふふっ、好きと言っただけで怖くないと言った覚えはありませんよ。」 

 

 決め台詞のように言おうとしてるのは分かるが、体制が体制なだけに全く決まっていなかった。

 その瞳に若干涙が浮かんでいる辺り、ガチで怖がっているのだろう。

 

 「それにしても、このゲーム逸材ですね。

  白上をここまで怖がらせるとは…。」

 

 尚も腕に顔を押し付けながら画面を見る白上。

 

 こうまで無防備に距離を詰められるというのは信頼の証と取るべきか、それとも単に対象として見られていないと取るべきか。 

 

 「確かに、結構凝ってるな。

  特に驚かせる面に関して。」

 

 ゲーム開始から既に不安を煽るような音楽が流れており、要所要所、絶妙なタイミングで仕掛けてくる。

 正直何度か悲鳴とまではいかないまでも、ヒヤリとするような場面は何度かあった。

 

 「あの、透さんさっきからやけに冷静ですけど、怖くないんですか?」

 

 ふと画面から目を外して白上が問いかけてくる。 

 

 「…そりゃ、隣でそんなに怖がられたら冷静にもなる。

  自分より怖がってる奴がいたらなんとやらだ。」

 

 実際には意識が画面よりも隣に行っていることも関与しているのだが、そこまで言うつもりは毛頭ない。

 

 「はっ、なるほど。

  なら透さんが白上より慌ててたらもしかして…」

 

 「…何か変なこと企んでないか?」

 

 名案が浮かんだとばかりにきらりと目を光らせる白上に何やら嫌な予感を感じる。

 とはいえゲームは今だに続いており、何をするつもりなのか意識を向けることしかできない。

 

 画面の中では先ほどドアップになった霊に追われてプレイヤーが走り回っていた。

 

 この霊が中々に厄介で、一度捕まればゲームオーバーなのにも関わらず、転移に透明化という厄介な性質を持ち合わせていた。

 お陰様でよく目と耳を凝らさなければ前兆をすぐに見逃して、再び霊の顔が画面一杯に映る羽目になる。

 

 丁度今転移した音が聞こえた。

 こういう時は大抵後ろに現れる。

 

 余裕をもって回避を試みる。

 

 「わっ!」

 

 「うお!?」

 

 急に耳元で上げられた大声。

 驚きに操作が乱れる。

 

 当然後ろに回っていた霊がその隙を見逃してくれるはずもなく。

 

 『GuRAAAAAA!』

 

 「にゃあっ!?」

 

 案の定、画面一杯に映った霊とその絶叫に、隣の白上が耳の近くで悲鳴を上げると再び腕にくっつき直る。

 解放されたと思ったところに舞い戻るそれに心臓が跳ねる。

 

 「何がしたかったんだお前は…。」

 

 「う…、と、透さんが驚いてるのを見たら怖くなくなるかなーって。」

 

 動揺を出さないよう努めながら呆れたように問いかければ、白上は目を逸らしながらそう答える。

 

 それでこのザマか。

 せめて驚かせるのなら成果を出してほしかったところだ。

 

 「というか、本当に一人でプレイできるのか?

  どう見てもまともに操作できるようには見えないんだけど。」

 

 今こそ俺が操作しているが、流石に毎度この反応をしていてはゲームどころではないと思うのだが。

 

 「あまり見くびらないでください。

  白上だって、布団を被って枕を抱いて部屋の隅でやれば何とかなったりします。」

 

 「完全防備だな…。」

 

 そこまでしてなお何とかならない場合があるのだから救えない。

 白上がこれということは、同じくホラーが苦手という大神も同じような感じなのだろうか。

 

 「因みに大神とは一緒にやったことはあるのか?」

 

 聞いてみれば白上は少し考えるように顎に指を添える。

 

 「そうですね、一回だけミオとはどっちがビビりか勝負したことがあるのですが…。

  まぁ、結果はお察しです。二人揃って布団にもぐりました。」

 

 聞くからに不毛な争いであったのが目に浮かぶ。

 カミだというのに親しみを持ち易いのはそういった欠点があるからなのもありそうだ。

 

 勿論、これは良い意味でだ。

 いくら強大な力を持っていようと、彼女等も意思を持つ個人であることの証左でもある。

 

 「…というか、それならいつものスタイルになればもう少しマシになるんじゃないか?」

 

 そうすれば白上は恐怖が軽減されて、俺は心臓の負担が無くなってと両者Win-Winの関係を築ける。

 だが、未だに白上は腕から手を離そうとしない。

 

 「うーん、それなんですけど…。

  透さんの傍にいる方が安心できるんですよね。」

 

 「…っ」

 

 唐突に投げつけられたその言葉に思わず息が止まりかける。

 

 大丈夫だ。どうせいつもの友人判定だ。

 この程度で一々反応していてはやっていけないぞ。

 

 自らに言い聞かせ、冷静さを保とうとする。

 

 「まぁ、あんまり怖がったりするタイプでは無いからな。」

 

 自分とは違い落ち着いて見えるから、その分安心感を抱きやすい。

 理由としても一番あり得そうだ。

 

 「いえ、そういう訳じゃなくて、何と言えば良いんでしょうか…。」

 

 しかし、そんな自己暗示も容易く否定される。

 

 「透さん体大きいじゃないですか。」

 

 「…そりゃ、白上に比べたらな。」

 

 言う程大きいわけではない、平均よりは上だとは思うがその程度だ。

 

 「それに白上と違ってしっかり筋肉もついてますし。」

 

 「最近、ようやくだけど。」

 

 腕に触れている白上の手に軽く力が籠められる。

 

 「力もあって、けど基本的に周りを気遣ってくれて。」

 

 「…」

 

 それは俺から見た白上だ。

 カミとして大きな力を持ちながら、人一倍周りに気を配っている。

 

 そんな彼女のことが、俺は…。

 

 「だからなのかは分からないんですけど、近くに居て凄く安心できるんですよね。」

 

 そう言って微笑む白上に急激に顔が熱くなるのを感じる。

 

 勘違いしそうになる。

 もしかしたら、そんな淡い希望を持ちたくなる。

 

 ポーズボタンを押して、ゲームを一旦停止させる。

 

 「?透さん?」

 

 「なぁ、白上。」

 

 突然の行動に不思議そうに首をかしげる白上。

 呼びかければ、彼女は言葉を待つようにこちらに視線を向けてくる。

 

 どうしたんですか?、そんな言葉が浮かぶような瞳を見つめ、ゆっくりと空いている右手を伸ばす。

 そして、白上の頭へとその手を乗せると、わしゃわしゃと髪を崩してみる。

 

 「わわっ、透さん、いきなり何するんですか!」

 

 唐突な行動に白上離れて距離を取ると頭を両手で抑える。

 

 「あ、悪い、無性に感情のぶつけ先が欲しくて。」

 

 そんな白上に両手を合わせて詫びる。

 

 距離が離れてようやく感情が収まった。

 どうにも昨日の今日で完全に制御できるわけではないようだ。

 

 「もー、それで白上の頭にぶつけないで下さいよ。」

 

 恨みがましい視線を向けて言いながら手早く乱れた髪を整えると、白上は再びすぐ隣へと近寄ってきて座りなおし、また腕を掴んでくる。

 

 「…白上?」

 

 「はい、なんですか?」

 

 思わず呼びかければ、白上はきょとんとした顔をこちらに向ける。

 そんな顔をされても困るのだが…。

 

 「いや、止めてるから今は引っ付く必要はないだろ?」

 

 実際に、画面では特に霊の姿などもなく普通の村の風景のみが映っているだけだ。

 それ故にわざわざ腕を掴む理由はない筈。

 

 「言ったじゃないですか、近くに居ると安心するって。

  それとも駄目、でしたか?」

 

 そんな白上の瞳には不安げな色が映る。

 その表情は卑怯だ。

 

 別に駄目なわけでも嫌なわけでもない。

 ただあまりに引っ付かれると理性というか精神力が凄まじい勢いで削れていくだけで。

 

 ただでさえ自覚したばかりで整理もついていないのに、ここまで追い込まれると暴走して何か口走ってしまいそうなのだ。

 

 「…」

 

 「…」

 

 じっと視線が交差する。

 ここは断るべきだ、そう判断する理性とこのままでいたいという本能の板挟み。

 

 均衡を保っていたかのように思われたそれは、揺れる白上の瞳にすぐに傾いた。

 

 「…駄目…じゃないです。」

 

 謎に敬語口調になりながら肯定すれば白上の顔はパッと明るくなる。

 真意は分からないが、今は好きにさせていよう。

 

 「ん?」

 

 取り合えずゲームを再開して気を紛らわせようとポーズを解除しようとしたところで、唐突に白上が声を上げる。

 

 「どうした?」

 

 「いえ、何だか透さんから良い匂いがしたので。」

 

 「匂い?」

 

 突拍子もない話題に思わず目を向く。

 しかし、すぐに原因に思い当る。

 

 「あー、ここに来る前に大神の手伝いで油揚げ漬けたり、出汁取ったりしてたから。」

 

 「油揚げですか!?」

 

 その単語に分かりやすくテンションを上げる白上。

 にしても、いくら作業をしていたとはいえそこまで匂いは移らないはずだが、どんな嗅覚をしているのだろう。

 

 「もしかしたら明日はきつねうどんかもな。」

 

 「おー、これは明日の楽しみが一つ増えてしまいましたね。」

 

 後はうどんを茹でるだけで完成するようになっていた。

 恐らく大神なりの白上対策のようなものなのだろう。

 

 空気も和んだところで、今度こそポーズ状態を解除する。

 

 瞬間、霊が移動するときの特徴的な音が聞こえた。

 

 「あっ。」

 

 「え?」

 

 まさかそんな絶妙なタイミングで来るとは思わず、完璧に対処が遅れる。

 

 『GuRaaaaaa!』

 

 「にゃああああ!?」

 

 画面一杯に映る、割とトラウマチックな霊の顔。

 

 こうして時折白上の悲鳴が上がりながら夜は更けていった。

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 





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