どうも、作者です。
評価くれた人、ありがとうございます。
以上。
「呆れたねぇ、それでここまで騒いできたのかい?」
ことの経緯を聞くと呆れ返った顔でミゾレさんはそう言い放つ。
村を出た俺と白上は、現在昼ということでミゾレ食堂に訪れていた。
道中の白上の怒涛の質問を何とか躱しながらたどり着いたのだが、その様子に疑問を持ったミゾレさんに事情を説明した結果、今に至る。
「だって、透さんが…。」
「だってじゃないよ。
全く、いつもと様子が違うから次は何をやったのかと思ったら。」
白上が食い下がるが、ミゾレさんは拍子抜けしたように言いながら止めていた調理の手を再開させる。
「こんなにあからさまなのに本当に分からないのかい?」
そういうミゾレさんの視線はこちらへと向けられている。
その瞳にすべてを見透かされているようで、若干の冷や汗が垂れる。
まさかとは思うがこの短時間でバレたのか?
そんなに表に出しているつもりは無いのだが、見る人が見れば分かるものなのだろうか。
「あからさまって何のことですか?」
幸い白上には気づかれていないようで、ミゾレさんの言葉に疑問符を浮かべている。
そんな白上にほっと胸をなでおろす。
しかし、その様子を見て再びミゾレさんの口からため息が漏れる。
「はぁ…、相変わらずそっち方面には疎いというか鈍感というか。
透、あんたも難儀なことになったもんだね。」
「…まぁ、俺としてはそっちの方が都合が良いので。」
やはり完璧にばれているらしい。
正直今更取り繕っても無駄だろう。
一人会話についていけずに拗ね気味な白上を尻目にコップを傾けて乾いたのどを潤す。
別に俺は白上とどうこうなりたいという訳ではない。
…いや、嘘だ。
恋人になりたい、その欲はある。
しかし、今の関係を壊したくないという思いがそれより強いだけだ。
「傍から見れば、あと一歩だとは思うんだけどねぇ。」
「あと一歩?」
何のことだろう。
確かに俺の気持ちが白上にバレるかどうかはかなり綱渡りだ。
それをあと一歩というのであれば、間違いではないか。
しかし、ミゾレさんはその様子を見て頭を抱えてしまう。
「こりゃ駄目だ、両方とも鈍感なんだね。
外部から干渉すればすぐなんだろうけど、あたしがするわけにもいかないし…。」
ミゾレさんは何やらぶつぶつと呟くと今日何度目かのため息をつく。
今度は俺もミゾレさんの意図が分からない。
白上と二人、そろって首をかしげる。
「ミゾレさん、それってどういう?」
「何でもないよ…はい、お待ち!」
白上が問いかけるがミゾレさんは誤魔化すように料理の入った皿をテーブルに置く。
話すつもりがないのなら無理に聞き出そうとは思わないが、それでも気にはなる。
だが、気にしすぎても何か分かるわけでもない。
気を取り直して、手を合わせて目の前の料理へと手を付ける。
相変わらずここの料理はどれを頼んでも外れがない。
舌鼓を打っていると、横から聞きなれたうどんを啜る音が聞こえてくる。
「…ここでもきつねうどんなんだな。」
目を向ければ白上が器を傾けて空にしているところだった。
「それは勿論、白上のソウルフードですから。」
もはや常套句となっているそれを聞きながらじっと白上を見る。
本当になぜ飽きがこないのか不思議でならない。
シラカミ神社に帰れば大量にあるのだから今は別のものを食べれば良いと思うのだが。
「俺は流石に三食きつねうどんは無理だな…。」
朝にきつねうどんを食べて、夜もきつねうどんが確定している以上その間に他のものを挟みたいと思うのはおかしくないはずだ。
と、考え込んでいると白上の箸が不意に止まる。
「あの、透さん、そんなに見られると恥ずかしいんですけど…。」
「あ、悪い。」
咄嗟に顔を赤くする白上から目を背ける。
露骨に見過ぎたか。
いくら見ても見飽きないからつい見続けてしまう。
…なるほど、こういうことか。
少しだけ、白上がきつねうどんに飽きない理由が分かった気がした。
「あ、いえ、別に見るなというわけでなくて。
ただ、そんなにガン見されるといたたまれないと言いますか。」
「分かった、ならこっそり見るよ。」
許しを貰ったところで、ちらりちらりと今度は横目で白上を観察する。
「こらっ、調子に乗らないで下さい。」
「あたっ。」
そんな声と共におでこを尻尾で叩かれる。
どうやらこっそりでも駄目らしい。
ジトリとした視線を感じながら正面へと視線を戻す。
こういったやり取りを重ねて白上のラインを見計らっていく必要がありそうだ。
そうしているうちに料理も食べ終わり、食後にお茶を飲んでゆっくりとする。
今日はあまり人も多くないようでミゾレさんも比較的暇そうにしていた。
そんな中帰ったところで特にやることもない。
二人のんびりと湯呑を傾ける。
平和なまさに日常といった空気で、とてもつい先ほど死にかけたとは思えない。
「そういえば透さん、先ほど使ってたのって鬼纏いだったんですか?」
ふと思い出したように白上が聞いてくる。
先ほどとは崖から落ちた時の事だろう。
「あれか…。
鬼纏いの延長上だとは思うけど、はっきりそうだとは言えないな。」
普段の鬼纏いではあそこまでの出力は出ない。
火事場の馬鹿力と言ってしまえばそこまでだが、制御不能となると話が変わってくる。それに加えて体が壊れるのではないかと思うほどの痛みだ、白上がいなかったらと思うとぞっとする。
「取り合えず、何か分かるまでは気軽には使わないつもりだ。」
「そうですね、それが良いです。
得体のしれない力こそ慎重になるべきですから。」
…珍しく白上が大真面目なことを言っている。
いや、言っていることは尤もなことではあるのだが、普段が軽い雰囲気なだけにギャップを感じてしまう。
こんな部分も惚れた要素の一つなんだろうな。
「…透さん、珍しく真面目なこと言ってるなこの狐。みたいなこと考えてませんか?」
目を細めた白上が鋭い視線をこちらに送ってくる。
自分が分かりやすいのは自覚してるが…。
「なんでピンポイントでその部分だけ当てるんだよ…。」
「あー、やっぱり!」
非難めいた声を上げられるが、内容が内容なだけに訂正ができない。
静かに目をそらすと、白い尻尾に再び襲われる。
ただ白上はまだ気づいていない、柔らかな尻尾に叩かれてもただ心地よいだけであると。
「…最近、透さんの意地が悪い気がします。」
尻尾を止めないまま、白上は愚痴るように言うと、恨めしそうにこちらを見つめる。
「そりゃ…まぁ、否定はしないが。」
「そこは否定してくださいよ。」
そう取られてもおかしくない言動が続いているのは確かな事実だ。
素直に答えるも返ってきたのは尻尾による鋭いツッコミであった。
(…いつまでやってるつもりだろうね、あの二人は。)
そんな二人を静かに眺めながらミゾレはふと思う。
視線の先には不貞腐れているのかほほを膨らませる白い狐の少女と、その尻尾に打たれ続けるもどこか幸せそうにしている透の姿がある。
(あれで隠しているつもりなら、大根役者もいいところだね。)
白い狐の少女に関しては恐らくまだ芽生えかけている段階。
それでも表面に出ている辺り、花開くのも近いだろう。
問題は透の方だ。
あれでは想いを前面に押し出しているだけだ。
本人としては努めて押さえつけようとしているのだが、傍から見てみれば丸分かりである。
その対象の相手である少女が気づかないのが不思議なくらい、一緒にいるだけで幸せだという表情をしている。
(それに、極めつけは…。)
無論ミゾレとてそれだけで断定したわけではない。
人の心とは複雑なもので表情一つでそこまで決定づけることはできない。
しかし決定的な証拠があれば話は違ってくる。
ミゾレの視線は二人の姿から焦点を移し、透の右手へと移動する。
その手の甲には埋め込まれた白い宝石。
これを宝と呼べるかは疑問だが、以前に見た時とは違う色をしたその石は明らかに白く輝いている。
この石にとって普段の色は特にどうだっていい。
それこそ見る人によって色を変える。そこに意味など存在しない。
なら今はどうだ。
ミゾレだけではない、現在どこの誰が見たとしてもその石は白色を保ち続けるだろう。
この石は所有者の心を、想いを示している。
その想いが誰に向けられているのか、石はそれを色として反映させるのだ。
(けど、確かこれには条件があったはず。)
所有者が想いを向ければ相手が誰であれ色がつくわけではない。
対象がいるのだ、その石ごとにそれぞれ異なる。
仮にそれが成立しなければ、この石は真価を発揮することは無い。
だが今この時、石は確かに色づいている。
(つまり、そういうことなんだろうね。)
だだ、そうすると新たな疑問が一つ残る。
それは…。
「ミゾレさん、難しい顔してますけどどうかされましたか?」
考え込んでいたところに水を差されて、はっとして顔を上げる。
視線の先では、先ほどまで話していたはずの二人がこちらを見ている。
「…何でもないよ、それよりお茶菓子でも出そうかね。」
それ以上先には思考を進めない、適当にはぐらかすとミゾレはキッチンの奥へと消えていった。
キッチンの奥へと消えていったミゾレさんを見送る。
何やら思いつめるように考え込んでいたが、何事もなればよいのだが。
「珍しいですね、普段はどっしり構えている人なんですけど。」
「だな、どうしたんだろ。」
白上も心配なのかじっとキッチンの奥を見ている。
悩みがあるなら力になりたいが、あまり人を頼るような人でもないだろう。
なんでもないというのなら、できることは無いか。
「ん?…なんだい、人の顔を見て首をかしげて。」
それからさほど時間も掛からずにミゾレさんは戻ってくる。
その手には言っていた通り人数分の茶菓子があった。
既に切り替えたのか、先ほどまでの思いつめるような雰囲気はかけらも無くいつものミゾレさんに戻っていた。
そこからはしばらく三人で雑談となった。
この時間帯なら人が来てもおかしくないと思うのだが、特に来客は無いようだ。
「…というと、今はあんた達二人しかいないのかい。」
「そうなんですよ、ミオもあやめちゃんも出かけちゃってて。
一言くらい声をかけてくれても良かったんですけど。」
まだミゾレさんには伝えていなかったと、大神と百鬼がシラカミ神社を離れたことを話す。
それを聞いたミゾレさんは目を丸くして驚いていた。
やはりミゾレさんから見てもシラカミ神社から一時的とはいえ人が減るのは珍しいことなのだろう。
ちなみに。白上に声がかからなかったのはただ白上が寝ていただけである。
「へぇ、よりによってねぇ。」
「なぜだか言い方に棘を感じますね。」
「何でだろうな。」
頬杖をついたミゾレさんの不安交じりのその眼差しに思わず白上と目を見合わせる。
何が不安だというのか。
大神に比べれば家事の腕は劣るだろうが、一定水準程度にはできると声を大にして宣言しておきたい。
「別に何が悪いってわけじゃないけどね。
所で、あんた達は料理は…。」
そう言って、頭をかきながら核心を突かれる。
鋭いその問いかけは稲妻のように俺と白上の間を駆け抜けた。
「…魚は焦がさないな。」
「しばらく料理はしてませんね。」
正直に答えればミゾレさんの顔が若干引きつったのが分かる。
そんな一朝一夕で身につくものでもないため、こればかりはどうしようもない。
「…なるほどね、それで今日は昼からうちに来たのかい。」
そう言うミゾレさんの顔は何処か納得しているように見えた。
言われてみればミゾレ食堂には基本的に夜に行くことの方が多かった気がする。大神の存在はシラカミ神社全体に影響を及ぼす程に大きいのだろう。
しかし、それはそれとして料理が出来ないと言うのもやはり考えものである。
当初からの懸念ではあったが、出来るに越した事は無いのもまた事実だ。
「ちなみにミゾレさんのところで教えて貰うことって…」
「うちは無理だね、そんな余裕有りはしないよ。」
無理を承知で頼めないか聞いてみるが素気無く断られる。
もしかしたらと思ったが、やはり駄目か。
最初から分かり切っていたことだ、仕方がない。
「まぁ、でも。」
話はそこで終わりかと思われたその時、ミゾレさんが口を開いた。
「花嫁修業だというなら考えなくもないがね。」
にやりと口角を上げながらそう言うとミゾレさんはその視線を一直線に白上へと向ける。
いきなり何を言っているんだ。
内心焦りながらもここで止めるのも不自然なため黙っていることしかできない。
「花嫁って、白上がですか?」
それを受けた白上はきょとんと眼を丸くして聞き返す。
まさかとは思うがこれは援護射撃のつもりなのだろうか、そうなら生憎だがこれは援護ではなく友軍射撃にしかなっていない。
仮にここで白上に意中の相手がいると発覚すればそれこそ立ち直れる気がしない。
「もう、白上はそんなガラじゃないですよ。そもそも相手もいませんし。」
しかし予想とは裏腹に白上は破顔しながら何ともなしに言ってのける。
それに安心したような、残念なような。
ミゾレさんの同情を含んだ視線が痛い。
心配せずとも少しだけ地面に埋まりたくなっただけだ。
そうして何ともない会話は続いていき、帰るころには既に日が暮れかけていた。
ミゾレ食堂を出てシラカミ神社までの道を歩く。
「…ん?」
少しだけ、体に違和感。
けれど先ほどのような痛みがあるわけではない、ただ筋肉が張っているような感覚。
ぴりぴりと肌が泡立っているようで落ち着かない。
「どうされました?」
「いや、何でもない。」
この程度なら無視しても大丈夫だ。
心配そうに聞いてくる白上にそうとだけ返す、
「白上、今日はゲームはどうする?」
昨夜やった商品のゲーム。
もう一つ残っているが、今日中にやってしまうのか。
「んー、さすがに二日で終わらせるのも勿体ないですしね。
それにですよ、透さん。」
横を歩いていた白上は立ち止まるとぴしりとこちらに指を向けた。
「顔に疲れたって書いてあります。
今日は無茶したんですから早めに休んでください。」
そう言われて思わず顔に手をやる。
疲れたと書いてあるって、今俺はどんな顔をしているのか。
手鏡で確認したいところだが、そんなものは持っていないため断念する。
自分では分からないが疲れでも溜まっているのか。
「…分かった、今日は早く寝ることにするよ。」
「はい、それが良いです。
残っている家事は白上がやっておきますので、透さんはゆっくりしてください。」
そう言って白上ははにかむが、流石にそこまでしてもらう程弱っていはいない筈なのだが。
だが、せっかく気を使ってもらっているのだ、今日のところは甘えさせてもらうおう。
「じゃあ、頼んだ。
でもできることがあれば何でも言ってくれよ。」
「はいっ!」
伝えれば白上は満足そうに頷き、再び前を向いて歩き始める。
その姿を見ながらつくづく恵まれていると感じた。
白上に何かあれば俺が力になる、逆に俺に何かあれば白上が手助けしてくれる。
そんな関係の相手がいることが今は何よりも嬉しい。
問題はそれを崩しかねないこの想いだけだ。
捨てられるものなら捨ててしまいたいが、たぶん無駄だろう。
何度捨てたとしても、白上と接していればまた恋をするに決まっている。
そんな確信があった。
気に入ってくれた人は、シーユーネクストタイム。