【完結】色づく想ひ    作:ワンダーS

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どうも、作者です。
感想くれた人、ありがとうございます。

以上。


個別:白上 13

 

 人は代償なくしては生きられない生物である。

 これは誰が言ったのか、今はどうでもいい。

 

 重要なのは、人が何かを成すためには得てして代償が必要だということだ。

 便利なものというのはその代償が比較的軽いもののことを刺す。

 

 なら、その逆はどうだろう。

 

 後先を考えずに使用した力の代償。

 踏み出すべきではない領域へと足を踏み入れたその代償は、一体どれほど大きなものなのだろう。

 

 「がっ……!」

 

 指先一つ、動かすだけで体は悲鳴を上げる。

 起き上がろうと力を籠めれば、もはや痛みを通り越して吐き気すら催してくる。

 

 まず立ち上がれない、どうにか移動しようと這うように体を動かすが、迫りくる痛みに否応なく沈黙させられる。

 

 「ちゅん助…。」

 

 かろうじて呼び出した小鳥のシキガミに言伝を乗せて飛ばす。

 何とかそれだけやり遂げて、伸ばした腕は力なく床へと落ちる。

 

 やがて、襖の向こうから慌ただしい足音が聞こえてくる。

 言伝は無事に届いたようだ。

 

 その足音が襖の前で止まると、次いで勢いよく襖が開かれる。

 

 「透さん!」

 

 そんな声とともに白上が姿を現す。

 余程急いできたのかその呼吸は荒い。

 

 そして、すぐに白上の瞳に床に倒れ込んでいる俺の姿が映り、同時に大きくその瞳が大きく見開かれた。

 

 「大丈夫ですか!?」

 

 そう言って白上は傍まで駆け寄ってくる。

 

 余程焦っているのかその声に余裕は無く、今にも泣き出してしまいそうに震えている。

 そんな声を出さないでほしい、慰めたいがそんな余裕は現在一かけらもない。

 

 「……痛、だ。」

 

 「え…?」

 

 痛む体を押して顔を上げ、口を開くがうまく聞き取れなかったのか白上はきょとんとして聞き返す。

 だから、もう一度現在の状況を端的に伝える。

 

 「筋肉痛で、動けないんだ。」

 

 「…はい?」

 

 どんな想像をしていたのか完全に虚を突かれたようで、そんな間の抜けた白上の声が部屋に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「もう、ややこしいことをしないで下さいよ。」

 

 そう言うのは傍らに座っている白上。

 現在、彼女は布団で横になっている俺に向かって先ほどから鋭い視線をこちらに送っていた。

 

 「悪かったよ、起きたら体中痛いし動けないしで余裕がなかったんだ。」

 

 それで確か一言だけ言伝にしてちゅん助を送った気がする。

 

 「だとしても、朝から『助けてくれ』なんて一言だけシキガミから伝えられる身にもなって下さい。

  心臓が止まるかと思いましたよ。」

 

 それに関しては本当に申し訳ない。

 

 こういった時にすぐに切羽詰まった言動になってしまう。

 

 まさか自分がここまで急な事態に弱いとは思わなかった。

 いくらイワレで力を持ったとはいえ精神まで超人になった訳でない証明だ。

 

 「やっぱり昨日の影響ですか?」

 

 「あー、多分な。」

 

 限界を超えた力の行使。

 昨日の時点で予兆は出ていたが、朝になって一気に来たようだ。

 

 その代償がこの程度なら安いものだと考えるべきだろう。

 

 ただ、痛いものは痛い。

 それとこれとは完全に話が別である。

 

 「そういう訳で今日は動けそうにない。

  昨日家事をやってもらったのに悪いな、明日以降で補完するから。」

 

 今日こそはと息巻いていた分、白上に負担をかけることになるのは心苦しいし、もどかしい。

 しかし白上は特に気にしていないように首を横に振る。

 

 「いえ、そのくらいはどうということは無いんですけど…。」

 

 そう言いうと白上は何やら考え込んでしまう。 

 何か予定でもあったのだろうか。

 

 「白上?」

 

 「あ、何でもないですよ。少し今日はどうしようか考えていただけです。

  最近透さんと一緒にいることが多かったので。」

 

 なるほど、そういえばそうだ。

 大神や百鬼がシラカミ神社を離れる前も、ゲームだったりオツトメだったりで一緒に行動していた。

 

 しかも、今はシラカミ神社に俺と白上のほかに誰もいない。

 そうなると必然的に一人で行動することになる。

 

 「久しぶりに一人になると何をしていいか分からなくなりますよね。」

 

 「確かにな。

  積んでるゲームはもう無いのか?」

 

 ゲームをやっていれば今度時間のある時にやろうとおいているゲームの一つや二つあってもおかしくはない。

 しかし、気軽な気持ちで聞いたはずなのだが、急に白上の視線の温度が下がった。

 

 「はい、セイヤ祭の前には既に消化してしまいました。

  残っているのは透さんとやろうと思っていたものだけです。」

 

 さっと視線をそらして白上のその視線から逃げる。

 やっぱり根に持ってるんじゃないか。

 

 いつになれば許してもらえるのだろう。

 

 「…透さん、痛みをこらえながらゲームはできますか?」

 

 座った眼の白上に若干の恐怖を覚えた。

 

 「無理だよ、鬼か。」

 

 「いえ、狐です。」

 

 そうだった、鬼は百鬼だったな。

 そんな白上だが、流石に本当に実行するつもりでは無いようだ。

 

 安堵しながら、ゆっくりと息を吐く。

 深呼吸すら命取りとは不便極まりない。

 

 「よいしょっと。」

 

 話もひと段落したところで、白上は掛け声とともに立ち上がる。

 

 「それじゃあ白上は行きますけど、何かあったら呼んでくださいね。」  

 

 「あぁ、世話をかける。」

 

 そう言って白上は襖を開けて部屋を出ていき、後には静寂のみが残された。

 

 横になったまま顔を上に向けて天井を見上げる。

 

 やることがない。

 横になったままできることなど数少ないが体も動かせないとなると、いよいよ何もできない。

 

 一体これは普通の筋肉痛と同じように一日二日で痛みがなくなるのだろうか。

 仮に一週間と続けば、発狂する自信があった。

 

 「…寝るか。」

 

 唯一とることができる行動。

 それが睡眠。

 

 後のことは体の修復機能に任せよう。

 

 目を閉じれば体も休息を求めていたのかすぐに意識は微睡、やがて深い闇の中に落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夢を見た。

 

 何処だか知らない場所。

 それは神社か、雪山か、村か。

 

 どれにでも見える、そんな場所。

 

 その中心には誰かが座りこんでいた。

 

 一人だけ、唯一この場所にいる誰かは何をするでもなく、ただ顔を俯かせている。

 

 (何をしているんだ。)

 

 声をかけようと口を開くが、そこから音が発せられることは無かった。

 よくよく見てみれば今の自分には実体が無い。

 

 ただその誰かを見ていることしかできない、それがもどかしくて、歯がゆくて。

 

 不意に、胸に何かが流れ込んでくる。

 それは座り込む誰かの感情か。

 

 寂しい

 

 寂しい

 

 寂しい

 

 寂しい

 

 途方もなく感じる孤独と寂寥感。

 

 誰もいない、ただその事実がここまで胸を抉る。

 救い出そうと、助け出そうと手を伸ばすが、その手は存在しない。

 

 ただ胸の内で吹き荒れるそれに、耐えることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「透さん…」

 

 不意に聞こえてきたその声に閉じていた目を開く。

 随分と深く眠っていたようだ。

 

 顔を横に向けて声の出所へと目を向ける。

 すると、横で心配そうにこちらを見る白上の顔が視界に映った。

 

 「透さん、大丈夫ですか。

  やっぱり体が痛みますか?」

 

 「…へ?」

 

 何をそんなに心配しているのかと思えば、視界が微かにぼやけている。

 瞬きをすれば頬を何かが伝う。

 

 これは…もしかして、俺は泣いているのか?

 

 「あ、いや、大丈夫だ。問題ない。」

 

 まさか夢を見て泣いたところを想い人に見られるとは。

 妙に気恥ずかしさを感じて思わず涙を拭う。

 

 そう、拭ってしまった。

 

 「いっでぇ…!?」

 

 途端に遅れてやってきた痛みに再び、今度こそ痛みによって涙が浮かぶ。

 

 「もう、大丈夫じゃないじゃないですか。」

 

 呆れたような白上の声。

 仕方ないだろう、寝起きで忘れてたんだから。

 

 そう反論しようにも痛みによって悶える中ではそれは叶わない。

 

 しばらくしてようやく痛みも収まり改めて白上へと視線を戻す。

 

 「それで、白上はどうして部屋に?」

 

 特に白上にシキガミを送った覚えはない。

 なら何か用事でもあったのか。

 

 「そろそろお昼ですから、お腹が空くと思って麺がゆを持ってきたんですよ。

  そしたら透さんが寝ながら涙を流していたから声を掛けたんです。」

 

 昼、というとかなり長い間寝ていたのか。

 意識してみれば確かに腹は空いている。

 

 「そっか、ありがとう。ちょうど腹が減ってたところなんだ。

  後、泣いてた件については忘れてくれ。」

 

 一応言ってはみるがおそらく忘れてはくれないのだろうことは察した。

 

 「痛みじゃないなら何か怖い夢でも見てたんですか?」

 

 「…まぁ、そんなところだ。」

 

 怖い夢、そう捉えることもできるか。

 あの夢は一体何だったのだろう、夢は心の奥を映すとはよく聞くが、もしや俺は知らぬ間に寂しさや孤独感を感じていたのだろうか。

 

 考えたところできっと答えは出ないし、正直それで泣いていたとは思いたくない。

 

 「それより麺がゆって、白上が作ったのか?」

 

 一旦思考に折り合いをつけて話題を変える。

 

 「はい、一応このくらいなら出来ると思いまして。

  起き上がれそうですか?」

 

 「多分、ゆっくりなら。」

 

 白上の手を借りてゆっくりと体を起こす。

 それだけで激痛が走るが、まだ何とか耐えられた。

 

 少しずつではあるがこの痛みにも慣れつつあるようだ。

 

 「んー、その様子だとスプーンを使うのも厳しそうですね。」

 

 痛みに耐えながら腕を動かそうとすると、それを見た白上はふとそう言い、おもむろに盆の上にあるスプーンを手に取る。

 

 そして、それを使い器の中にある麵がゆを一匙すくい上げると、そのままそれをこちらに差し出す。

 

 「はい、あーんして下さい。」

 

 「…ん?」

 

 一瞬何が起こったのか理解できず困惑が前面に出る。

 

 そうか、さてはまだ味見をしてなくて一度確認しようというのか。

 なるほどなるほど、そういうことか。

 

 そんなこじ付けにも等しい予想を立てるが、明らかにそのスプーンは白上側ではなくこちら側へと向いている。

 

 「どうされました?」

 

 首をかしげる白上はなおもスプーンを差し出し続ける。

 

 「いや、流石にそのくらいは自分で…。」

 

 「でも痛いんですよね。無理はしなくていいですよ。」

 

 そういう問題ではないのだが。

 

 確かに理にはかなっている。そちらの方が食べやすいし、落とす心配もない。それは理解できる。

 これは感情的な問題だ、流石に食べさせてもらうというのは…。

 

 「ほら、早く食べてください。落ちちゃいますよ。」

 

 しかし、葛藤している時間も無いようだ。

 気恥ずかしさを感じながら、半ばやけくそで差し出されるスプーンにかぶりつく。

 

 「…あ、美味い。」

 

 「本当ですか?」

 

 口の中に広がる優しい味わいに素直な感想が口を突いて出れば、白上は安心したように笑みを浮かべる。

 これを白上が作ったのか、自信がなさそうに言っていたが十分すぎるほどに料理もできるらしい。

 

 「料理できたんだな。」

 

 「簡単だからですよ、それよりお次をどうぞ。」

 

 一度やってしまえば、後はもう何度やろうと同じだ。

 差し出される麺がゆを黙々と食べ続ければ、やがて器の中は空となった。

 

 「ご馳走様でした。

  ありがとうな、白上。」

 

 何から何まで世話になりっぱなしだ。

 これは大きな貸しになりそうだ。

 

 「いえいえ、お粗末様でした。

  では白上は食器を片づけてきますね。」

 

 そう言って、白上はお盆を持って立ち上がると部屋を出ていく。

 それを確認して、ゆっくりと横になると大きく息を吐く。

 

 先ほどから鳴り響く鼓動の音。

 白上にはバレていなければよいのだが。

 

 「本当、変なところで照れるくせに、照れないときは全然動じないんだよな。」

  

 表情に出ないように抑えるのが精一杯だった。

 

 両目を手で覆う。

 体が悲鳴を上げるが、今はその痛みすら心地よい。

 

 白上にとっては何ともないことなのだろうが、俺にとっては一大事だ。

 嬉しいやら気恥ずかしいやらで感情がごちゃ混ぜとなっているのが分かる。

 

 そうして鼓動を落ち着けていればさほど時間も掛からず襖が開き白上が戻ってくる。

 

 次は何をするのか、何となく白上の姿を追うが特に何をするでなく、先ほどまでの位置まで来ると白上は横になってごろごろとくつろぎだした。

 

 「…白上?」

 

 「はい、何ですか?」 

 

 声を掛ければくるりとこちらへ振り返る。

 

 「いや、自分の部屋には戻らないのかと思って。

  別にここにいるのがダメってわけじゃないんだが」

 

 正直に言って、この部屋には白上の部屋のようにゲームがあるわけでもなければ、暇をつぶせるものがあるわけでもない。

 それなら部屋でゲームをしている方がまだマシなはずだ。

 

 「ちょっと透さんと一緒に居たくなりまして。

  お邪魔でしたら帰りますけど…。」

 

 そんなことを言われては何も言えなくなってしまう。

 

 「それは大丈夫だ、俺も暇だったから。」

 

 実際話すぐらいしか出来ない中でどうやって暇をつぶそうか迷っていたのもある。

 先程まで寝ていたせいで眠れそうもなかった。

 

 「それなら、良かったです。」

 

 しばらく二人で横になってゆっくりとした時間を過ごす。

 

 別に二人で何かをしているわけではない。

 ただ、同じ部屋に居るだけ。

 

 そんな中、少しだけ白上の様子がおかしいことに気づいた。

 いつもなら適当に会話を投げかけてくるものだが、気でも使っているのかただ静かに横になっている。

 

 「…午前中。」

 

 不意に、白上が口を開く。

 横を向いて目を向けてみるが、白上はこちらに背を向けておりその表情はうかがい知れない。

 

 「一人で色々とやってみたんです。」

 

 何か話したいことがある、直感的に理解して黙ってその話に耳を傾ける。

 

 「ゲームをして、お菓子を食べて、気分転換に掃除をしたり、料理をしたり。

  けど、どれもこれも物足りなくて。」

 

 今のシラカミ神社には俺と白上しかいない。

 俺が眠っていれば、必然的に白上は一人で過ごすことになる。

 

 「久しぶりに一人になって、いつもは楽しいことが全然楽しめなくて。」

 

 心なしか、その声は震えているように聞こえた。

 

 「ミオも、あやめちゃんもどこかに行っちゃって。

  静まり返った神社に、お前は一人なんだって突き付けられた気がして。」

 

 多分、今日だけではないのだろう。

 いつも胸に秘めているであろう、白上の本心。

 

 「透さんまで何処かに行ったらと思うと、耐えられなくて。」

 

 ウツシヨに帰るか決めた時にも言っていたではないか。

 本当は不安だったと。

 

 人との関係を何より大事にする彼女だからこそ、人と離れることは何よりも辛いことなのだろう。

 

 「やっぱり、一人は、寂しいです。」

 

 そこで言葉は途切れる。

 

 俺がカクリヨに来てから最初に出会ったのが白上だ。

 その時から今まで過ごしてきて、初めて、彼女の弱さに触れた気がした。

 

 「白上。」

 

 名を呼べば、白上は目元を服の裾でごしごしと擦るとこちらに振り返る。

 少しだけ潤んだその瞳を見て、すっと白上へと腕を伸ばす。

 

 痛みが走るが、今はそんなもの気にもならない。

 

 白上の額の辺りで手を止めると、親指で人差し指を抑えて力を籠め、開放する。

 いわゆる、デコピンだ。

 

 「あいたっ、な、いきなり何するんですか!」

 

 がばりと白上が起き上がり、非難の声を上げる。

 まさかの事態に目を白黒させながらこちらを見る彼女。

 

 これから話をするというのに、いつまでも寝たままという訳にはいかない。

 腕に力を籠め同じように起き上がる。

 

 「っ…。」

 

 当然、腕を動かした時とは比較にならない激痛に思わず顔がゆがむが、それすら押し殺して白上と向き合う。

 

 「何って、勘違いしてるみたいだったから喝を入れただけだ。」

 

 「勘違い…?」

 

 何のことか理解できないようで、白上は疑問符を浮かべている。

 

 「あぁ、勘違いだ。

  そこで不安に思うってことは、いつか俺がここを離れるって思ってるんだろ?」

 

 問いかければ、図星なのか白上は押し黙り何も答えない。

 

 確かにそう考えるのは普通のことだ、白上からしてみれば俺はここに留まる理由も何も無いのだ。

 今は良くても、いつかは。そう思うのも無理はない。

 

 「そこから間違ってるんだよ。

  俺はお前が思う以上に今の生活を気に入ってる。追い出されでもしない限り、自分からここを離れることはあり得ない。」

 

 ずっと隠しているこの想いも交えれば、絶対にここを離れるという選択肢は生まれない。

 

 「むしろ、最近は何時追い出されるかこっちが心配になるくらいだ。」

 

 「そ、そんなこと、絶対にしませんよ!」

 

 肩をすくめていえば、白上はそうして食い気味に否定する。

 まぁ、そうだろうさ。そう答えることが簡単に想像できる程度にお人好しだということは、この短い付き合いの中でも十分に理解できる。

 

 「なら、なおさらあり得ない。

  白上が一人だと?馬鹿を言うな。」

 

 本当に馬鹿な話だ。

 大神も百鬼も、白上を切り捨てるような奴らではない。

 

 そして何よりも。

 

 「俺が、お前を一人になんかさせない。

  覚悟しろよ、白上が嫌がっても簡単には離れてなんかやらないからな。」

 

 それを聞いた白上は、ぽかんと口を開けてこちらを見ていた。

 

 取り合えず、言いたいことは言った。

 後はなるようにしかならないだろう。

 

 「…もう、何ですか、それ…。」

 

 ぽつりと呟くと白上の顔には薄っすらと笑みを浮かぶ。

 それを見て、胸をなでおろした。

 

 「…話してたら喉が渇いてきましたね、お茶を入れてきますので少し待っててください。」

 

 「おう、頼んだ。」

 

 白上はすくっと立ち上がると、足早に歩いて行き襖を開けると外へと出て行った。

 

 あの様子を見るに、問題は解決したとみていいだろう。

 後、残った問題と言えば…。

 

 「いってぇ…。」

 

 無理に動かした体が痛みをもって抗議をしてくる。

 何なら途中意識がうっすらと飛びかけていた。

 

 「ま、良いか。」

 

 必要な犠牲だった。

 そう考えて甘んじて痛みを受け入れることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「はっ…はっ…。」

 

 少女は部屋を出ると、足早にキッチンへと駆け込んでいく。

 その呼吸は少しの距離を移動しただけにしては荒いものであった。

 

 呼吸を落ち着けるように深呼吸をして壁へと背を預ければ、少女はへたりとその場に座り込んでしまう。

 

 その顔は熟れた果実のように赤く染まっていた。

 

 自分の知らない感情が胸の中を渦巻いている。

 彼の顔が頭にちらつくたびに、壊れたように心臓が跳ねた。

 

 何かが変わってしまった。

 

 そんな実感を灯す胸を少女は手で抑える。

 

 「…なんですか、これ…。」

 

 

 

 





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