【完結】色づく想ひ    作:ワンダーS

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どうも、作者です。



個別:白上 15

 

 こぽこぽと泡を立てて沸騰している湯の中に麺を入れる。

 熱湯の中に放り込まれた麺は、流れのままに泳ぎだす。

 

 きつねうどんを主食にして早三日目。

 既にうどんという食材に飽きを感じ始めてきていた。

 

 「そろそろうどん以外の料理にも挑戦したいな。」

 

 「白上はずっときつねうどんでも構いませんよ?」

 

 声を掛ければ白上はけろりとした顔でそう返す。

 「そりゃ、白上は大丈夫だろうけど俺は無理だ、飽きる。」

 

 うどん自体は美味い。

 出汁にしても大神の作り置きしてくれているそれは香りもよく、しっかりと味わい深くもある。

 

 ただ、それ以外に食べるものがないというのは些か無理がある。

 

 「ふふっ、冗談です。明日辺りに買い出しにでも行きましょうか。」

 

 「だな。」

 

 その辺り、察してくれているのか白上もすぐに笑顔を浮かべる。

 

 本当なら今日のうちに買い出しに行きたいところだが、生憎天候が優れない。

 今なお降りしきる雪の中をキョウノミヤコまで買い出しに行きたいとは思えなかった。

 

 「じゃあ今日は適当にゆっくり過ごすか。」

 

 「そうですね、参拝客もしばらくは来ないでしょうし。」

 

 参拝客と言えばつい二日前にサヨちゃんが来ただけか。

 まぁ、そこまで問題が多発するようなこともそうそうないだろう。

 

 「…」

 

 「…」

 

 しばらくうどんが茹で上がるのを無言で見守る。

 これは、そろそろ突っ込んだ方がよいのだろうか。

 

 「…なぁ、白上。」

  

 「はい。」

 

 呼びかければいつものようにこちらを向いて返事を書けしてくれる白上。

 しかし、いつもとは違う点が一つ。

 

 先ほどから気になっていたのだが、いい加減無視しきれなくなってきた。

 

 鍋から目を離して、白上へと視線を向けて口を開く。

 

 「遠くないか?」

 

 「…」

 

 そう問いかければ、キッチンの隅に立つ白上は無言のままそっと目をそらす。

 

 先ほど、膝枕の件を経てそろそろ朝食にしようとキッチンに入ってからこの方、白上に微妙に距離を取られていた。

 

 「…ふ、普通じゃないですかね。」

 

 「そんな震え声で言われてもな。」

 

 らしくもないその様子に思わず苦笑いが浮かぶ。

 

 今朝からどうにも白上の様子がおかしい。

 もしかして嫌われたかという疑問もわいたが、それは先ほど否定されたところだし、他に理由があるとしか考えられない。

 

 「何かあったのか?

  俺にできる範囲なら力になるけど。」

 

 もし悩みがあるとか、不満に思うことでもあるのなら正直に話してもらいところだ。

 

 「いえ、そこまでのものじゃないんです。

  ただ…」

 

 そう言うと、白上はじっとこちらに視線を送る。

 

 「ん?」

 

 「っ…。」

 

 見られたなら反射的に見返してしまうのが常というもので、首を傾げながらも視線を交差させれば、数秒と経たずに白上は慌てるように横を向いて再び視線がそらされる。

 

 「なぁ、やっぱり…。」

 

 何かおかしいともう少し詰めようとしたところで、火にかけていた鍋から泡が噴き出してくる。

 それを見て慌てて火加減を調節する。

 

 すぐに泡は収まったものの、話が途切れてしまった。

 これではこれ以上追及することはできないか。

 

 頃合いということもあり、うどんを湯から上げて手早くきつねうどんを作る。

 

 「で、では白上は先にテーブルの用意をしてきますね。」

 

 「あ、あぁ、頼んだ。」

 

 そう言って足早にキッチンを後にする白上に返事を返しながらその姿を見送る。

 

 やはり、おかしい。

 

 ぎこちないやり取りに首をかしげながら、盆に器を二つのせ白上の後を追う。

 ただの気のせいだろうか、それならそれで良いのだが…。 

 

 居間に到着すれば、白上が空けておいてくれたテーブルに盆を置いて、器をそれぞれの席の前に置く。

  

 「「いただきます。」」

 

 二人、座り、手を合わせて朝食にする。

 

 つい白上の様子を目で追ってしまうが、先ほどとは違いいたって普通の白上だ。

 

 思い過ごしだったか?

 そんな疑問を残したまま箸を取る。

 

 このまま食べても良いのだが、少しばかりアクセントが欲しい。

 辛味を求めて一味を掛けようと探せば、白上の手元辺りにあるのを見つける。

 

 「白上、そこの一味取ってくれ。」

 

 「一味ですか?…はい、どうぞ。」

 

 頼めば白上はすぐに一味を手に取って、こちらに差し出してくれる。

 

 「ありがとう。」

 

 礼を言って受け取ろうと手を伸ばす。

 すると、その際に白上と軽く手が触れた。

 

 「っ…!」

 

 瞬間白上の手がこわばり、一味の容器が宙を舞った。

 

 「おっと!?」

 

 危うくテーブルの上に落下する一歩手前でキャッチに成功する。

 このまま落ちていたら中身がぶちまけられていたところだ。

 

 かろうじて大惨事を回避して、ほっと小さく息を吐く。

 

 「す、すみません!」

 

 「いや、大丈夫だ。」

 

 慌てたように言う白上にそう返してうどんに一味を掛ける。

 

 やはり何かあったとしか思えない。

 それは確実なのだが踏み込みすぎるのも少し躊躇われる。

 

 白上の個人的な悩みだろうし、話しにくいこともあるだろう。

 

 何より、俺自身白上に話せない隠し事もある。これで変に突っ込んで自爆する、なんてことになれば目も当てられない。

 

 (…もどかしいな。)

 

 そう思いながら何気なく白上に目をやる。

 

 いつものように爆速できつねうどんを食べ始めるかと思いきや、視線の先では箸を動かさず、先ほど触れた手をぼーっと眺めている白上の姿がある。

 

 「白上?」

 

 「は、はい!?」

 

 不思議に思い試しに声を掛けてみると、本気で驚いたのか白上はびくりと震えると耳をぴんと立てる。

 

 「あー、うどん食べないのかなって思ってな。」

 

 その反応に少々驚きながら言えば、白上はようやく気が付いたのかはっとした顔をすると、誤魔化すように笑みを浮かべる。

 

 「そうですよね、早く食べないとせっかくのきつねうどんが伸びちゃいます。」

 

 言いながら白上は器に手を掛けると、箸を動かし始める。

 それを後目に俺もうどんを食べようと目を落とす。

 

 「ごちそうさまでしたっ!」

 

 「え?」

 

 一瞬だ、白上がうどんを食べ始めて目を離したほんのわずかの時。

 その後にそんな声が聞こえてくる。

 

 馬鹿な、さしもの白上といえどもこの間に食べ終えることは不可能なはず。

 体調が悪くて食べきれなかったのか?

 

 しかし、心配に思いながら器を見てみるも中身は空である。

 

 何故あの質量を消すことができるのだろう。

 物理法則か何かに干渉でもしているのではないだろうか。

 

 それは一種の技術の極致であった。

 

 「それでは片づけてから見回りに行ってきますので、失礼します!」

 

 「わ、分かった、気をつけてな…。」

 

 口早にまくしたてると器をもって白上は居間を出ていった。

 あまりの出来事の連続に唖然としながらその姿を見送る。

 

 「…見回りってなんのことだ。」

 

 一人になり、改めて引っかかった疑問が口を突いてでる。

 

 この雪の中どこに行くつもりなのだろう。

 

 とはいえ、出るとしてもシラカミ神社の周辺くらいか。

 遠くに行くのならそうと言うのが白上だし、放っておいても問題は無いな。

 

 そう結論づけ、残っているうどんを胃へと流し込むべく器を傾けた。

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 うどんを食べ終えてキッチンへと片づけに足を運ぶが、案の定白上の姿は無かった。

 取り合えずささっと洗い物だけしておいて、なんとなしにシラカミ神社を白上の姿を探して散策する。

 

 しかし、探せども探せどもどこにも白上の姿は見つからない。

 

 「?本当にどこに行ったんだ?」

 

 まさか外に出ているのだろうか。

 かなり道が悪かったし、危ないのでは…。

 

 そこまで考えて、白上が自分より上位のカミであることを思い出す。

 いくら可憐な少女に見えるとはいえ、本質はそこらの人間を遥かに凌駕する力の持ち主だ。

 

 少なくともそこらで転んで泣いて帰ってくるような玉ではない。

 

 いないものは仕方ない。

 炬燵でみかんでも食べていようと居間の方へ足を向ける。

 

 「透さーん…。」

  

 「ん?」

 

 不意に玄関の方から白上の声が聞こえてくる。

 やはりどこかへ出かけていたようだ。

 

 何か用事だろうか、と要件に当たりを付けながら玄関へと向かう。

 

 「白上、何か用か…って何があった?」

 

 玄関へと到着し、一目白上の姿を見てぎょっとする。

 

 白上の姿は一言でいえば、濡れた猫であった。

 見事な毛並みの獣耳と尻尾はぐっしょりと濡れていつもに比べて細くなっているように見え、髪や服すらも見てわかる程水気を含んでいる。 

 

 「すみません、タオル持ってきてください…。」

 

 「わ、分かった。」

 

 若干涙目の白上に、言われた通りにすぐにタオルを取りに行く。

 タオルを手に戻ってくれば、白上は玄関に立ったままの状態で動いていなかった。

 

 「ほら、タオル。」 

 

 「ありがとうございます…。」

 

 取り合えず手渡してやれば、白上は礼を言って受け取り、髪と獣耳にタオルを押し当てて水気を取る。

 しかし毛皮はかなり吸水率が高いようで、乾くまでには時間がかかりそうだ。

 

 生憎と今日は雪のせいでいつも以上に気温が低い。

 このまま放置していれば風邪の一つ、引いてもおかしくは無いだろう。

 

 「…ちょっと我慢してくれよ。」

 

 一応一言断ってから余分に持ってきていたタオルを白上の頭にかけて、わしゃわしゃと髪と獣耳を拭いてやる。

 

 「わひゃ!?と、透さん!?」

  

 タオルの下で白上が驚いた声を上げるが、一旦無視して手を動かし続ける。

 

 「このくらい一人でできますから!」

 

 迷惑そう、というよりかは気恥ずかしいようで、白上は若干抵抗するように身をよじる。

 

 「でもこのままだと風邪ひくだろ。

  心配しなくても、濡れた耳とかの扱い方は大神から聞いてるから。」

 

 しかし、このままでは本当に体調を崩しかねない。

 

 落ち着かせようとそう言った瞬間、今まで騒いでいたはずの白上の動きがぴたりと止まる。

 どうしたのだろう、急に大人しくなられると逆に不安になる。

 

 首をかしげていると、白上はおもむろにくるりとこちらへと振り返った。

 

 「ミオに教えて貰ったって、何時ですか?」

 

 心なしかその瞳には妙な迫力があり、声は冷ややかに聞こえた。

 

 「え、イヅモ神社に行った時に機会があって、それで…教えて、貰いました。」

 

 その迫力に負けて、思わず謎に敬語が出る。

  

 「へー、そうだったんですか。

  なるほどなるほど。」

 

 「あの、白上さん?」

 

 白上は平坦な、抑揚のない声で言ったかと思うと、くるりとまた前に向き直り今度は身を預けるようにこちらに寄りかかってくる。

 

 「…やっぱり、一人では拭けないので手伝ってください。」

 

 「え?あ、あぁ、勿論だ。」

 

 若干むくれた顔で先ほどの言葉を撤回する白上に少し困惑しながらも、止めていた髪を拭く手を再び動かし始める。

 

 何かが白上の琴線に触れたようだ。

 しかし、怒気を感じるわけでもない。

 

 …まぁ、それならそれで良いのだが。

 

 「…透さん。」

 

 「ん?」

 

 耳に力を入れすぎないように慎重にタオルを当てながら名前を呼んでくる白上に返事をする。

 

 「透さんは尻尾と耳触るの、好きなんですか?」

 

 「…」

 

 その問いかけに思わず押し黙る。

 試されている、俺は今、試されている。

 

 落ち着け、状況はそこまで良くは無い。

 

 仮に、仮にだ、ここで正直に答えたとしよう。

 そうすると、当然普段からそう考えていると思われるのは必然。

 

 それは避けたい。

 

 しかし、ここで嫌いというのも、それはそれで角が立たないか。

 ならば、この場面での最適解は。

 

 「…好き…です。」

 

 脳が限界を超えて導き出した最適解。

 それを押しのけて素直な感情が、それを一瞬で無に帰した。

 

 自分でも何故こう答えたのかは分からない。

 だがそうするべきだと、口に出す直前で直感的に思ったのだ。

 

 「そうですか…。」

 

 タオルに隠れて白上の表情は伺い知れない。

 そう呟いた白上は今どんな表情をしているのだろう。

 

 「もし触りたくなったら、ミオじゃなくて白上に言って下さい。」

 

 「…ん?白上、それってどういう…。」

 

 予想の斜め上の反応に、思わず慌てて聞き返す。

 表面上取り繕ってはいるが、既に脳内は混沌としていた。

 

 すると、タオルの下で白上がかすかに笑うように震える。

 

 「…なんて、ちょっとした冗談です。」

 

 冗談。

 白上はそう言うが、本当にただの冗談だとは思えなかった。

 

 だからこそ、本気で困惑したし狼狽したのだ。

 

 白上もそれに気が付いていないわけでは無いのだろう。

 

 「なんだか、昨日から変なんです。」

 

 小さく息を吸うと、白上はぽつりと零すように話し始める。

 

 「変って…何がだ?」

 

 「感情が、安定しないんです。嬉しいとか恥ずかしいとか、いつもなら気にしなかったことが気になったりして。

  すぐに心がざわついて。」

 

 そして、白上は鼓動を確かめるように自らの胸に手をやる。

 

 「さっきも、そのことについて考えてたら水場の中に落ちちゃいました。」

 

 「…それでずぶ濡れになったのか。」

 

 水場というと裏の方にあるいつも利用している場所だろう。

 この寒さの中でも氷は張っていなかったが、その分水温は低くなっていた。

 

 今すぐにでも濡れた服を着替えるべきなのだが、今はそれよりも白上の話を聞くべきだと思った。

 

 「透さん。」

 

 白上は再び振り返りジッとこちらを見つめる。

 自然目が合うが、その瞳に映し出されるのは不安か、それとも恐怖か。

 

 「白上と透さんは、これからも友人同士でいれますよね。」

 

 これからも友人で。

 それが白上の望みなのだろう。

 

 正確に白上の悩みを把握できたわけでもない。だが、関係を崩したくない。

 白上もそう思ってくれているのなら。

  

 「…あぁ、勿論だ。

  俺と白上はこれからも、友人同士だ。」

 

 だから、俺はこの想いを伝えはしない。

 表に心の中で蓋をするのだ。

 

 正直隠しきれている気はしない。

 

 だが白上に伝わらないのなら、それで良い。

 

 この関係が終わってしまう程に恐ろしいことは、他に無いのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 「俺と白上はこれからも、友人同士だ。」

 

 彼のその言葉を聞いて、少しだけ心のざわつきが収まった気がした。

 けれど。

 

 (…痛い。)

 

 胸を痛みが苛む。

 

 何故、この答えを求めていたはずなのに。

 自分で自分を理解できない。

 

 彼の顔を見るだけで、彼の声を聴くだけで、簡単に胸は高鳴り落ち着きを保てなくなる。

 先ほどの話の時だって、親友である狼の少女にモヤモヤとした感情を抱いてしまった。

 

 (どうして…。)

 

 その疑問の答えは出ないまま、白い狐の少女は透の胸にもたれかかる。

 

 「…ずっとこの関係が続けばいいのに。」

 

 透には聞こえない程に小さなその呟きは、誰にも届くことは無く消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな二人の様子を見守る。

 

 二人共が互いに意識し合っている様は見ていて飽きないが、しかしもどかしいことこの上ない。

 

 これで本当にうまくいくのか。

 そう思わせる危うさに思わず舌打ちが出そうになる。

 

 だが、どれだけもどかしかろうと、鑑賞はしても干渉はするわけにはいかない。

 

 これは二人の問題だ。

 あの二人、フブキと透で解決されるべきモノだ。

 

 だから、まだしばらくの間は見守ってやることにしよう。

 

 






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