【完結】色づく想ひ    作:ワンダーS

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どうも、作者です。


個別:白上 17

 

 『あたしの名前は、黒上フブキだ。』

 

 そう宣言した彼女は、高台の上、夕日に照らされてどこか幻想的に見えた。 

 それは変化した雰囲気からか、それともその場の情景からそう感じたのか。

 

 呑み込まれてしまいそうなカリスマ性すら感じたそんな彼女は今。

 

 「んだよこれ、バグだろっ。」

 

 必死な形相でコントローラを動かしていた。

 

 カチャカチャと部屋に鳴り響く音。

 場所はシラカミ神社の白上の部屋、隣には画面を見ながらコントローラを握る彼女の姿。

 

 「…なぁ、白上。」

 

 「あたしは黒上だ。

  何回あいつと間違えるつもりだ、次間違えたら噛み殺すからな。」

 

 「あ、悪い。」

 

 見慣れないその光景に戸惑いながら声を掛けるが、白上、元い黒上は画面から目を離さないままに鋭く答えてくる。

 

 色合いが違うとはいえ、顔は白上そのものだ。

 それを前に中々認識が追いつかない。

 

 顔は白上、それでも中身は別人。

 そういうことになっているようだ。

 

 何故このような状況に陥ったのかというと、時間は数時間前ににさかのぼる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「黒上って、白上じゃなくてか。」

 

 高台の上、彼女に問いかければ、いつもの温厚な視線ではなく始めてみる彼女の鋭い視線がこちらへと送られる。

 

 「そうだ、あたしは黒上フブキ。

  あー、そうだな…簡単に言うと白上フブキの同居人ってところだ。」

 

 「同居?」

 

 同居、と彼女は言った。

 しかし、シラカミ神社に来てから黒上フブキという名の少女の事を耳にした記憶も目にした記憶も無い。

 

 「別に知らなくても無理はない。

  わざわざ話すような事でもないし、その機会もなかった。」

 

 そう言った彼女の顔を夕日が照らす。

 風になびくその黒髪は鮮やかに輝いていた。

 

 「白上フブキと黒上フブキは一心同体。二人で一つの存在だ。

  白上フブキが居れば、黒上フブキがいる。逆に黒上フブキが居れば、白上フブキもいる。

 

  まぁ、体は一つなわけだから表面化するのも必然的に一人になる。今は黒上フブキであるあたしが表面化しているってわけだ。」

 

 「一心同体…。」

 

 つまり、黒上と出会うことが無かったのは俺と会う時は白上が表面にいたからなのか。

 体が一つなら、それは出会うことも無いだろう。

 

 それなのに、白上は今はその黒上として目の前にいる。

 原因は…考えるまでも無い。

 

 俺が好意を伝えようとしたから。

 

 俺が関係を変えようとしてしまったから。

 

 寸前で止めようとしたが、流石にあそこまで言ってしまえば察しの一つ、ついてもおかしくはない。

 これが彼女の望みだというのなら、今度こそそれを違えるわけにはいかない。

 

 「いつまで難しい顔をしてるんだ。夕日も沈んだことだし、シラカミ神社に帰るぞ。」

 

 「あ、あぁ。」

 

 気が付けば夕日も地平の彼方に沈みかけていた。

 考え込んでいる間、静かに見守ってくれていたらしい。

 

 背を向けて歩いて行く彼女を追って、帰路へとついた。

 

 

 

 

 

 

 

 そして、現在に至る。

 

 あの後普通に帰ってきてそのまま二人でゲームをすることになった。

 髪の色だったり口調だったりと色々と変化しているようだが、そこは変わらないようだ。

 

 「…で?」

 

 「へ?」

 

 隣の彼女は動かしていたゲームの手を止めてこちらを見る。

 

 「へ、じゃなくて、何か用があったから呼んだんだろ。

  早く要件を言え。」

 

 …そういえば、声を掛けたのだった。

 

 「あぁ、ただ呼んだだけ。」

 

 何となく口に出しただけだけで特にこれといって用があるわけではない。

 しかし、彼女の神経を逆なでするのには十分だったようで。

 

 「…は?ということは何か?

  それだけの為にあたしの手を止めさせた訳か。」

 

 ずいとこちらに顔を寄せてくる白上、もとい黒上に気圧されて後ろに仰け反る。

 静かな声の中に確かな怒気を感じる。

 

 「悪かったって、それよりいいのか?」

 

 「何が。」

 

 こちらを睨みつける黒上はまだ気が付いていないようだ。

 そろりと視線を横に向けてゲーム画面へと目を向ける。

 

 「ゲーム、敵来てるぞ。」

 

 「え、あっ!

  あぁ…。」

 

 指摘されてようやく気が付いたようで、慌てて画面へと向き直り操作しようとするがそれも虚しく、画面にはでかでかとゲームオーバーの文字が表示された。

 

 割と良い場面だっただけに黒上は悔しそうに体を震わせる。

 

 「このっ…、どうしてくれるんだ、お前の所為だぞ透っ!」

 

 「今のは自業自得だと思うんだが。」

 

 掴みかかってくる彼女に言えば、彼女から感じる怒気がさらに強まった気がした。

 

 「いーやお前のせいだ、罰としてお茶を汲んで来い。」

 

 ただ怒りを助長しただけの様だ。

 だがお茶を汲んでくるだけで許されるとは、まだ黒上という人物については掴みきれていないがこういう所を見るに意外と緩いのかもしれない。

 

 意外と本質はそのままなんだと思えば、なぜか可笑しく思えてつい笑みが浮かぶ。

 

 「はいはい、黒上様の仰せのままに。」

 

 だが流石にここでさらに余計なことを言おうとは思わない。

 言われるがままに、お茶を汲みにキッチンへと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…ただ、あんまり上手く入れる自信は無いんだよな。」

 

 キッチンの中、やかんを前にそうぼやく。

 何か飲みたいと思った時は水を飲むし、いつもなら白上や大神が入れてくれるため、基本的に自分で入れることは無い。

 

 一応茶葉などは見つけた。ただそこから先は完全に適当である。

 

 「確か何回かに分けて入れるんだっけ。」

 

 あやふやな手順を思い出しながら、とりあえずは湯が沸騰するまで待機する。

 

 「…ん?」

 

 ふと視線を感じて振り向いてみれば、そこには最近になって見慣れてきたちょこんと座る白い小さな狐のシキガミの姿。

 相変わらず何を目的に現れるのか見当もつかない。

 

 怪訝に思いながらも見つめていればいつものように消えるのかと思いきや、シキガミはゆっくりと立ち上がるとこちらに勢いよく駆け寄ってくる。

 

 勢いをそのままに、ぴょんと跳ね上がると綺麗に頭の上へと着地された。

 

 「えっと…。」

 

 唐突にそんなことをされても反応に困る。

 しかしシキガミは我関せずといった風に位置を調整すると、そのまま座り込んでしまう。

 

 どうやら降りる気はさらさらないようだ。

 

 「…まぁ、良いか。」

 

 何の意図があるのか、この行動に何の意味を見出しているのか。

 ただ害意は無さそうなため、放っておくことにする。

 

 そこで丁度やかんが音を立てた。

 シキガミを頭にのせたままで茶葉を入れた急須に湯を注ぐ。

 

 湯を入れてからどれだけ待つのかも分からず、何分か待ってから交互に二つの湯のみに入れていく。

 音を立てて注がれるお茶は湯気を立て、良い香りを…

 

 「おい、お茶を入れるだけで何分かけるつもりだ…って。」

 

 突如背後から聞こえてくる声に振り返れば、痺れを切らしたのか黒上がキッチンの入り口からこちらを見ていた。

 しかしその言葉は途絶えて、黒上の視線が俺の頭上へと注がれる。

 

 「何勝手に出てきてんだ、早く戻れ。」

 

 その瞳はどこか警戒に満ちていて、ただのシキガミに対するには不自然な程に真剣みを帯びていた。

 

 シキガミが体を震わせたのか、頭上から振動が伝わってくる。

 そう感じた次の瞬間、頭から重みが消えた。

 

 例のごとく虚空に飛び込むように姿を消したのだろう。

 

 「お前、あいつから何も聞いてないだろうな。」

 

 聞かれたくないことでもあるのか、やけに黒上の雰囲気が刺々しい。

 

 「聞くも何も、シキガミは喋らないだろ?」

 

 これはイヅモ神社の神狐からも聞いている。

 基本シキガミは言葉を発さない。意思があることは確かだが、それでも普通の動物のそれと遜色は無いそうだ。

 

 「…そうか、それならいい。」

 

 それを聞いて黒上は安心したように静かに息を吐く。

 同時に発していた刺々しい雰囲気もまた鳴りを潜めた。

 

 「…で、お前は何をしてたんだ。

  やけに時間をかけてたみたいだが、煎餅でも焼いてたのか?」

 

 「いや、普通にお茶入れてた。」

 

 そう答えれば黒上は怪訝そうな顔をして手元を覗き込んでくる。

 そこには湯気を上げる茶の入った湯のみの姿がある。

 

 しかし、それはいつもの茶に比べて明らかに色が濃い。

 香りも柔らかなものではなく、強く鼻に残るような香り。

 

 黒上は無言のままそれを見るとおもむろに湯呑を一つ手に取り、口をつけて傾ける。

 

 次の瞬間、黒上のその端正な顔がしかめられた。

 

 「…うぇ、渋っ。

  透、お前これ湯を入れてからかなり時間置いただろ。それと茶葉も多すぎ。」

 

 「す、すんません。」

 

 次々と投げかけられるダメ出しに自分でも何となく間違っていることが分かっていただけに思わず謝罪が口に出る。

 

 「ったく、ほら、入れ方くらい教えてやるから。」

 

 そう言うと黒上はせっせとやかんに水を入れて沸かす準備を始めた。

 

 「え、教えてくれるのか?」

 

 予想外の展開に脳内が驚きで埋め尽くされる。

 呆然とする俺を意に介さずに黒上は手を動かし続ける。

 

 「そう言ってるだろ。

  けど、教えるのはこれっきりだからな。ちゃんと覚えろよ。」

 

 「…あ、あぁ、分かった。」

 

 口調の割にはきちんと教えてくれるようだ。

 黒上は意外と面倒見の良い性格なのかもしれない。

 

 やかんが再び音を立てる。

 

 それを見て黒上は火を止め急須にではなく新しく出した湯のみに入れた。

 

 「こうやって一回湯を冷ますんだ。

  沸騰してすぐに入れることもあるが、今回はこのやり方で行く。」

 

 一概に茶の入れ方と言っても種類はいくつかあるようだ。

 

 「茶葉はそんなに何杯もいらない、二人分なら…まぁ、このくらいだな。」 

 

 「へぇ…。」

 

 手順を説明しながら、黒上は手際よく茶葉を急須へと入れていく。

 手慣れたその様子からは普段から茶を入れ慣れているような印象を受けた。

 

 茶葉を入れ終わると、湯のみに入れて冷ましていた湯を急須に入れる。

 そこから一分も経たずに黒上は急須を手に取り、軽く揺らしてから湯のみに中身を少しずつ、交互に注いでいく。

 

 最後の一滴まで注ぎ終われば、そこには先ほど自分で入れたものとは比べるのもおこがましい程の出来の茶が、ほんのりと湯気を立てていた。

 

 「これが茶の入れ方だ。あたしにここまでやらせたんだ、抜けなく頭に叩き込んだんだろうな。」

 

 「勿論、少なくともさっきみたいな失敗はしないさ。」

 

 別段複雑な過程があるわけでも無かった、茶葉の量や時間さえ把握できれば酷い結果にはならないだろう。

 それを聞いて、なら良い、と黒上は得意げに笑みを浮かべる。

 

 「まぁでも、最後の湯のみへの注ぎ方はちゃんとできてたみたいだな。

  頭でも撫でてやろうか?」

 

 「それは遠慮しとく。」

 

 黒上の揶揄うような口調に苦笑いを返す。

 それに対して彼女は特に気分を害した様子もなく、冗談だ、と笑いながら湯のみ盆に乗せる。

 

 「あ、透、そこの戸棚の奥に菓子があるから適当なの持ってきてくれ。」

 

 指さされるのはキッチンの奥の棚。

 そこは確か白上の菓子の隠し場所だったか。

 

 「菓子か、分かった。…でも良いのか?」

 

 白上と黒上、二人が別の存在だとするなら今の状況で勝手に持っていくのも不自然だろう。そう考えて確認を取れば、黒上はこちらに振り返り口を開く。

 

 「良いんだよ、引きこもってるあいつが悪い。

  ほら、行くぞ。」

 

 さしたる興味も無い素振りでそれだけ言うと、今度こそ歩いて行ってしまう。

  

 「…引きこもってる、か。」

 

 黒上の背が見えなくなったところでぽつりと呟く。

 つまりはそういうことなのだろう。

 

 気にしすぎるのも逆効果か。

 思考を切り替えて、戸棚の奥の隠し場所からいくつか菓子を取り出すと部屋へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『フブキ、本当にこれでよかったのか?』

 

 黒の少女が問いかければ、こくりと対照的な白の少女が頷く。 

 

 ここは少女の夢の中。

 この場所では二人の少女は同時に存在できる。

 

 互いを確認し合い、互いと触れ合える。

 

 『この関係が長くは続かないのは、お前が一番理解してるんだろ。』

 

 沈黙。

 

 白の少女が黙り込んでしまうのを前に、黒の少女は困ったように頭をかく。

 

 黒の少女としては、白の少女の気持ちを汲んでやりたいとは考えている。

 何を恐れ、何を危惧しているのかも知っている。

 

 だが、だからと言ってこのままで良いとは考えられなかった。

 

 『…まぁ、しばらくは見守ってやる。』

 

 もどかしさを感じながらも、一旦は流れを見てみることにする。

 そう判断し黒の少女は白の少女へとそれを伝える。

 

 ごめんね。

 

 声の代わりに返ってくるそんな謝罪の意思。

 

 『謝罪なんか必要ない、お前が落ち込んでいるとあたしも…何というか、あまりいい気分にはならないんだ。』

 

 黒の少女の言葉に、思わずといった形で白の少女が小さく笑う。

 

 『…何を笑ってる。』

 

 なんでもない。

 

 不機嫌そうにジトリとした視線を送られながらも白の少女はかぶりを振る。

 黒の少女にこういう所があることを彼女は知っていた。

 

 『まぁ、そういうことだ。

  あたしのためにも、早く結論をだせよ。』

 

 …ありがとう。

 

 『…礼もいらない。』

 

 その言葉を最後に聞きながら、今度こそ白の少女は眠りの底へと意識を落としていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「眠れないな…。」

 

 布団に入ってしばらく、今日の出来事が頭をぐるぐると回っていて中々寝付けないでいた。

 

 先ほどまで黒上と菓子を食べながらゲームをしていたが、もう眠たくなったと黒上が言ったところで今日の所は解散となったため、現在は自室である。

 

 「…夜風にでも当たるか。」

 

 このまま横になっていたところで寝付けるとは到底思えなかった。

 

 布団から出て部屋を後にする。

 シンとしたシラカミ神社を歩いて玄関で草履を履き、外に出た。

 

 上を見上げれば、雲一つない満天の星空が広がっている。

 山の頂上ということもあり、遮るものも明かりもないこの場所からはよく星が見える。

 

 もう少し高いところから見ようと、屋根に上がり一番上へと進む。

 

 「ここなら少し落ち着けるか。」

 

 座れそうな場所を見繕って腰を下ろす。

 壮大な自然を前にすればとも考えたが、そこまでの効果は無いようだ。

 

 だが、それでも少しは胸が軽くなった気がした。

 

 白上の事、黒上の事。

 目下はこのことで頭がいっぱいになる。

 

 自業自得ではあるのだが、それ故にこの問題は重くのしかかってくる。

 

 「…どうしたもんかな。」

 

 「何がだ?」

 

 ぽつりと零れた独り言に返事が返ってきたことに完全に不意を突かれて肩が跳ねる。

 声の出所へと目を向ければ、見慣れた姿が視界に移る。

 

 「しらか…いや、黒上か。」

 

 「正解だ、良く分かったな。」

 

 黒い髪を携えた狐の少女はそう笑うと横まで歩いてくる。

 辺りに明かりがないのは星を見る分には好都合だが、色の識別は難しい。

 

 眠っているのかと思えば、まだ起きていたようだ。 

 

 「そういえば、自己紹介はまだだったよな。

  俺は透だ、改めてよろしく。」

 

 「あたしは…って、これはもういいか。

  よろしくしてやるよ、透。」

 

 手を差し出せば、ぱしりと軽く叩かれる。

 挨拶も終わったところで、夜空へと視線を戻す。黒上も星を見に来たのか、それとも他に目的が有るのか。

 

 しばらく会話も無く、静かな時間が流れた。

 

 「…透。」

 

 そんな静寂を破るように黒上が声を発する。

 

 「ん?」

 

 やはりただ星を見に来たわけでは無いらしい。

 ようやく本題に入るのかと彼女の話に耳を傾ける。

 

 「フブキのことは悪く思わないでやってくれ。」

 

 「…」

 

 どちらのこと、とは聞かない。

 黒上と白上、名は両方フブキだが彼女がフブキと言えば、それは白上の事だ。

 

 「悪いのは俺だ。白上には何の非も無いだろ。」

 

 そうなれば内容にも見当はつく。

 黒上だって、現在渦中の人物だ。

 

 その原因となったのは間違いなく俺で、彼女に罵られても文句は言えない立場にある。

 

 「フブキはお前の気持ちに薄々感づいた上で逃げてる、それでも非がないと言えるのか?」

 

 ドキリと心臓が跳ねる。

 あの状況で気づかない方がおかしい、しかしそれをいざ他人の口から聞くと動揺が心を揺さぶる。

 

 「…だろうな。

  というか、その口ぶりだと黒上には完全にばれてるんだな。」 

 

 「そりゃ間近で見てきたからな。それより、どうなんだ。」

 

 逃げや誤魔化しは許さない。

 そんな圧力を感じながら口を開く。

 

 「白上は関係が変わってほしくないからこうしてるんだろ。

  なら、やっぱり俺に非がある。」

 

 現状維持で良いところに、水面に意思を投げ込むように変化を起こした。

 場に流されそうになった弱さがこの結果を招いた。

 

 「…まぁ、お前がそう思うならそれで良い。

  あたしが話に来たのはその理由だからな。」

 

 「理由?」

 

 聞き返せば、黒上は夜空を見上げながら続ける。

 

 「フブキが変化を避けようとするのは、カミという強大な存在であることに起因する。

  別にフブキに限った話じゃないがあいつはあれで寂しがり屋だからな、それはお前も知ってるだろ。」

 

 「あぁ、確かに。」

 

 異様に距離が近かったり、一緒にゲームができなくて拗ねたり。

 それ以外にもいくつか思い当たる節はある。

 

 「でもそれとカミであることと何の関係が。」

 

 寂しがり屋とカミ、この二つが白上が変化を嫌う理由になるのか疑問に思い問いかける。

 

 「とにかく聞け。

  知っての通りカミってのは強大な力を持ってる、それこそ世界でも数えるほどしかいないレベルのな。だからこそ人からは崇められて、頼りにされる。

  

  けどそれは対等言えるか?

 

  否だ、人はカミを自分より上の存在として扱う。

  いくらフレンドリーに接していても、心のどこかで目上の存在として見ている。

 

  だから対等に接することのできる人間というのは、それだけで希少なんだ。

  それは大切にしたいと思うし、崩れそうになればそれはもう恐怖そのものだ。

 

  特にフブキはその辺り、カミの中でも敏感ということだ。」

 

 黒上の瞳がこちらに向けられる。

 その瞳は感情を映し出さない、だが、その奥にわずかな憐憫が見えた。

 

 「恐怖か…。」

 

 あの高台で見た白上の瞳に浮かんだ怯え、恐怖の正体はそれか。

 自分でも驚くほどにすとんと胸に落ちる。

 

 「どうして話してくれたんだ?」

 

 「お前には知っておいて欲しかった、それだけだ。」

 

 愚問だった。

 かなり内面に踏み込んだ話。それは誰にでも話すような事でもない。

 

 そこでふととある可能性が思い浮かぶ。

 

 「ちなみに、白上は今俺と黒上が話してることは…。」

 

 「勿論、知らない。ばれたら多分大木槌が飛んでくるな。」

 

 黒上の独断であったらしい。

 いくら同居人と言えどもそこまでは許されないか。

 

 「とにかく、これでお前とあたしは共犯者だ。密告なんて寒い真似はするなよ?」

 

 出来るわけがない。

 

 黒上は人差し指を口に当て片眼を閉じる。

 星を見に来ただけで、いきなりこんな爆弾を抱えることになるとは思わなかった。

 

 「了解だ、共犯者。」

 

 「なら良い。」

 

 そう返せば、黒上は満足そうに笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

  






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