【完結】色づく想ひ    作:ワンダーS

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どうも、作者です。

評価、感想、誤字報告、ありがとうございます。




個別:白上 18

 

 翌日

 

 まだ日も出ていない早朝

 日課の鍛錬も兼ねてシラカミ神社周辺の山を駆けながら昨夜の出来事を想う。

 

 強大な力を持つカミ。

 その代償とでも言うかのようなその孤立性。

 

 黒上から聞いたそれらに、改めて白上を含むカミという存在がカクリヨにおいていかに特別なものであるか知らしめられた気がした。

 

 白上と大神、それに百鬼。

 何故カクリヨでも珍しいカミがシラカミ神社の一か所にここまで集まっているのか。それはカクリヨの異変、その解決という共通の目的もあるのだろうが、それ以上に同じような境遇、存在であるという点も少なからず関与しているのであろう。

 

 そして白上の目線では、突然大神と百鬼がシラカミ神社を離れて行き、さらにカミ以外での友人との関係までもが変化しようとした。

 

 現在の状況はいわば白上にとっての緊急措置。

 少ない縁を少しでも留めようとする彼女の意思の表れだ。

 

 まぁ方法が方法だが、そこには目をつむるとして。

 

 とにかく方針は変わらない、彼女の望む通りこの関係を続けるだけだ。

 この少々歪ともいえる関係を。

 

 「ふぅ…。」

 

 簡単に結論が出たところで一度立ち止まり、呼吸を整える。

 膝に手を突けば、右手の甲にある白色に染まった宝石が目に入った。

 

 色に変化はない、つまりそれは彼女への想いは変わっていないことを意味する。

 

 「…まぁ、そうだよな。」

 

 今なお胸に灯る想いは色褪せることなく燃え続けている。

 事の発端であることを理解したうえでこれなのだから、我ながら懲りないものだ。

 

 しかし、このままでは何時また同じ過ちを犯してしまうのか気が気ではない。

 

 「…でもいざという時は黒上が止めてくれるか。」

 

 何せ彼女とは共犯者なのだ、持ちつ持たれつで助けてくれるに違いない。

 

 「いてっ。」

 

 そんなことを考えていれば突如として後頭部に衝撃を感じる。

 振り返ればどこからともなく石が飛来してきて、今度は額を捉える。

 

 「…。」

 

 甘えるな、そんな黒上の声が聞こえた気がした。

 

 最初から他力本願になるのも良くないか。

 すぐさま考えを改める。

 

 次は無いと考えれば冷静さを保つこともできるだろう。決して彼女の圧に屈したわけでは無い。

 

 誰にともなく言い訳を浮かべて思考を切り替える。

 何時までもここで立ち止まっている訳にもいかない。

 

 再び足を前に進める。

 先の事は分からない、ただ進むだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつも通りの内容をこなして水浴びから帰ってくる。

 見れば、既に太陽が水平線から完全に顔を出していた。

 

 大きな日の丸を背に玄関の扉を開けて中に入る。 

 シンと静まったシラカミ神社、しかしどこからか食欲をそそる香りが漂っている。

 

 「まさか…。」

 

 慌てて靴を脱いでキッチンへと向かう。

 廊下の先に暖簾の先から洩れた光が見えた。

 

 中を見てみれば綺麗な黒い髪を携えた狐の後ろ姿。

 

 「…黒上?」

 

 一呼吸置いて声を掛ければ目の前の少女はびくりと肩を跳ねさせて、すぐにこちらにその鋭い視線を向ける。

 

 「っ…なんだ透か、早かったな。」

 

 誰が声を掛けたのかを視界に映せば、エプロンを身に着けた黒上は澄ました顔で返事をする。

 

 「早いって、もう日は昇ってるぞ。」

 

 「そんなはず…あー、マジだ。」

 

 それを聞いた黒上が窓から外を覗き込むと、言いかけていた言葉が途切れる。

 朝日が差し込んでいるが、それでも気が付いていなかったらしい。

 

 「それより黒上、それ…。」

 

 だが、今はそんなことよりも気になることがある。

 先ほどから漂ってきていた香りは黒上の手元からだと本能が告げている。

 

 黒上の前のコンロの上には湯気を立てる鍋に、焼き目の付いた魚。まな板の上には綺麗な卵焼き。

 

 「朝飯、作ってくれたのか。」

 

 確かに昨日の食料の買い出しで材料はあるがまさか作ってくれているとは思わず、驚きで片言になってしまう。

 

 「べ、別に、ついでだからな。

  もう少し掛かるからお前は先に居間に行ってろ。」

 

 「わ、分かった。」

 

 表情を隠すように鍋の方へと顏を向けながらぶっきらぼうに黒上は言ってのける。

 驚きの抜けないままに、その言葉に従いおとなしくキッチンを後にする。

 

 居間にたどり着き座れば驚きは抜けるが、今度は謎の緊張が全身を包み込んだ。

 昨日の今日でこんなことになられると、理解もそうだが何より感情が追い付かない。

 

 もしや何か考えがあっての事なのだろうか。

 そんな予測を立てるも、それらしい理由も思いつかない。

 

 結局、黒上が盆を持って居間に来るまで姿勢一つ動かさずに固まっていた。

 

 「お待たせ…って、どうした、かなり滑稽な顔してるぞ。」

 

 「いや、ちょっと緊張して。」

 

 答えを聞いた黒上は怪訝そうな顔をしながらも持っていた盆をテーブルに置く。

 そして目の前に先ほども見た焼き魚に卵焼き、味噌汁、白米とザ和食といったラインナップの朝食が並べられる。

 

 「おぉ…。」

 

 「何だよ。」

 

 予想以上の完成度に感嘆の声を上げれば居心地悪そうな黒上に睨みつけられる。

 

 「ここまで料理できるとは思わなかったから、素直に驚いた。」

 

 「はっ、当たり前だ、あたしを誰だと思ってるんだ。」

 

 感想をそのまま伝えれば、黒上はがらりと表情を変えて口調の割には機嫌良さげに笑みを浮かべる。

 

 黒上も座ったところで早速手を合わせてから箸を手に取る。

 

 「美味い…。」

 

 まず卵焼きから食べてみるが、見た目に違わない美味しさにぽつりとそんな声が零れる。

 卵焼きだけではない、どれもこれも普段作らないとは思えないほどに美味い。

 

 「そうか、そいつは良かったな。」

 

 澄まし顔でそう言う黒上だが、その後ろでは尻尾がゆらゆらと気分良さそうに揺れており、喜びが隠しきれていない。

 

 その様子を見て指摘してやろうかと一瞬考えるが、そうすると次から作ってもらえないかもしれない。

 それは避けたいと思えるほどには黒上の作った朝食が気に入っていた。

 

 「なにニヤニヤしてる。」

 

 「別に。」

 

 向けられる疑惑の視線を躱しながら味噌汁の入った椀を傾ける。

 

 しばらく無言で食べていれば、すぐに全て綺麗に食べきってしまう。

 空の食器を前に、これは毎日でも食べたいという欲が顔を出す。

 

 だが、今日は気まぐれで作っただけなのかもしれない。

 頼み込もうかとも考えるが、かなり朝早くから作ってくれていた所も鑑みるとそれも憚られる。

 

 「ごちそうさまでした、美味しかったよ。」

 

 「ん、お粗末様でした。」

 

 悶々とした感情を弄びながらも、手を合わせ、黒上に感謝を伝える。

 

 そうだ、あまり欲張りに成るものではない。

 今日作ってくれただけでも十分すぎるほどに嬉しかった、それで良いのだ。

 

 黒上も食べ終わったようで食器を纏めると立ち上がろうとする。

 

 「あぁ、食器は俺が洗っとくから黒上はゆっくりしててくれ。」

 

 わざわざ朝早くから作ってくれたのだ、このくらいはさせて貰いたい。

 皿洗いを買って出れば、黒上も意をくんでくれたのか上げかけていた腰を下ろす。

 

 「それなら頼んだ。

  あたしは部屋に戻って寝なおす。」

 

 やはり眠いらしくあくび交じりの黒上に思わず苦笑いを浮かべながら食器をすべて盆の上に纏めて持ち上げる。

 

 「…透。」

 

 キッチンへ向かおうと居間を出る寸前で不意に黒上から声がかかり、何事かと振り返り黒上を見る。

 

 「その…卵焼き、甘さとかどうだった。」

 

 言いながら黒上は照れくさそうに頬をかく。

 

 「えっと、さっきの出丁度良かったけど…。」

 

 何故そんなことを聞くのだろう。

 そう考えた時、一つ予想が頭をよぎる。

 

 「もしかして、また作ってくれるのか?」

 

 「…うるさい、黙ってとっとと行きやがれ。」

 

 しっしと追い払うように手を振る黒上を尻目に居間を出る。

 

 問いへの返答は無かったが否定もされなかった。

 つまりはそういうことなのだ。

 

 キッチンへと歩きながら小さく片手でガッツポーズをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「すー…、すー。」

 

 皿洗いを終えて居間へと戻れば机に突っ伏して寝息を立てる黒上の姿があった。

 部屋で寝ると言っていたが、それすら叶わずに力尽きてしまったらしい。

 

 理由が理由なだけに起こすのもためらわれるため、このまま寝かせておくことにする。

 とりあえずブランケットだけかけて、向かい側へ座れば、体が弛緩してあくびが出た。

 

 ここまで気持ちよさそうに寝られるとこちらにまで眠気が伝播するかのようだ。

 

 「…何してようかな。」

 

 このまま寝顔を見ていると後々のリスクが高まりそうだ。

 かと言って特にやることも思い浮かばない。

 

 「…ん?」

 

 頭を悩ませていれば、不意に頭の上に重みを感じた。

 この感覚には覚えがある。

 

 「頭の上が気に入ったのか?」

 

 問いかければ肯定するように頭をトントンと叩かれる。

 

 一応横の棚のガラスに目を向ければ、反射した自分の姿が反射する。

 その頭の上には、予想通り白い狐のシキガミの姿。

 

 「見つかったら怒られるからって、寝てる間に出てきたのか。」

 

 再び頭を二回叩かれる。

 とはいえ、会話をするわけでもない。

 

 頭の上に乗られたところで、状況は特に変わることは無かった。

 

 「あ、そうだ。

  来い、ちゅん助。」

 

 意外とウマが合うのではないかと鳥のシキガミを呼び出してみる。

 

 『…』

 

 『…』

 

 ちゅん助が寄っていけば白い狐のシキガミは、じっとその様子を見ている。

 かと思えばシキガミは面倒くさそうにちゅん助をあやし始め、ちゅん助もそれを楽しんでいるようだ。

 

 しかし、一つ誤算があるとすれば、それらがすべて頭の上で行われているということだろう。

 

 せめて机の上でやってくれないものかと何とか下ろそうとするも、断固として降りるつもりはないようで、引っ付いたまま離れようとしない。

 

 「…仕方ないか。」

 

 これ以上はただの徒労になることを理解して一つため息を吐き、潔く諦めて頭の上を提供することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ん…。」

 

 しばらく頭の上のシキガミ達の様子をガラス越しに見守っていれば寝ていた黒上がそんな声を上げて身じろぎをする。

 

 それと同時に頭の上の重みが一つ消える。

 

 不満そうな鳴き声を上げるちゅん助を戻していると、のそりと黒上が体を起こした。

 

 「んー…透…。」

 

 名を呼びながら目をこする黒上はどこか寝ぼけているようで、しかし段々と意識がはっきりしてきたのか目の焦点があってくる。

 

 「…あれ、寝てたのか。どのくらい寝てた?」

 

 「多分一時間も経ってないな。」

 

 きょろきょろと辺りを見回しながら問いかけてくる黒上にそう返せば黒上はそうか、とあくびをして目じりに涙を浮かべる。

 

 「…ブランケット…、ありがとう、感謝する。」

 

 「どういたしまして。」

 

 体を動かした拍子に肩からずり落ちて気が付いたらしい。

 礼を言ってくる黒上にお馴染みの返答をする。

 

 「それで、透は何してたんだ?

  まさかずっとそこでぼーっと座ってたわけでもないんだろ。」

 

 「あぁ、さっきまで…。」

 

 目を服の袖でこすりながら聞いてくる黒上に先ほどまでの光景を説明しようとしたところで、はっとして口を噤む。

 

 白い狐のシキガミとまた会っていたことは黙っていた方が良いのだったか。

 

 「…ちゅん助と戯れてた。」

 

 「何だその間は。まぁ、別に何してても良いんだが。」

 

 言えない部分だけ削って伝えると、怪訝な視線を送られるがそこから特に追及されることは無かった。

 これだと自分のシキガミ大好き人間だと思われるだろうが…間違いではないし、ちゅん助は可愛いし。

 

 黒上はその場で猫のように伸びをすると、立ち上がる。

 

 「よし透、お茶を入れろ。

  昨日の今日で入れ方を忘れてないかあたしが直々に確認してやる。」

 

 「唐突だな、流石に忘れてないって。

  じゃあ、ちょっと待っててくれ。」

 

 教えて貰ってからは時間的にまだ丸一日も経っていない。

 流石にこの期間で忘れるほど記憶力は悪くはない。

 

 立ち上がり居間を後にすれば、その後ろを黒上も追従する。

 

 …。

 

 「え、黒上も来るのか?」

 

 「?当たり前だ、入れ方を見るんだから。

  それとも自信が無いのか?」

 

 ギラリと黒上の瞳が光る。

 これは逃げられそうもない、そもそも逃げる気などないが。

 

 そういうことで、そのまま黒上と共にキッチンへと向かう。

 

 直接見られながらというのも中々に緊張する。

 それも間違えたら後がないと考えれば尚更に。

 

 ただお茶を入れるだけのことにびくびくとしながらついにキッチンへと到着する。

 

 「よし、始めろ。」

 

 黒上の号令で早速お茶入れに取り掛かる。

 昨日教えて貰った手順をなぞり、てきぱきと行動していく。

 

 湯を沸かし、茶葉を適量急須に入れ、湯呑に入れて少し温度を下げた湯をその中に入れていく。

 

 「…。」

 

 この間、無言でそれを見てくる黒上から妙な圧というべきか、プレッシャーを感じる。

 しかし、ここまでくればもう終わったも同然。

 

 一分と経たずに湯のみに交互に最後の一滴まで注げば完成だ。

 

 「黒上、どうだ?」

 

 「…。」

 

 黒上に問いかければ、彼女は湯のみを手に取り一口飲む。

 高鳴る心臓の音を聞きながら、判決が下るのをじっと待つ。

 

 こつんと湯のみがテーブルに置かれて音を立てる。

 

 「…まぁ悪くないんじゃないか。」

 

 その言葉を聞いて全身から力が抜けるかのような安堵が胸を埋め尽くす。

 

 「はぁー、良かった…。」

 

 「大げさだな。

  あたしが教えたんだ、このくらいできて当然だ。」

 

 大げさとは言うが間違えれば確実にへそを曲げる程度では済まなかったのだ、このくらいの安堵は感じて然るべきだ。

 

 そんなすました顔で言っている黒上だが、その顔は喜色に満ち満ちている。

 いつものポーカーフェイスが剥がれて満面の笑みがそこに浮かんでいた。

 

 この結果がそれ程に嬉しかったようだ。

 

 「あたしは茶菓子を持っていくからお前は先に茶をもって居間に戻ってろ。」

 

 言いながら既に黒上は戸棚を開けて奥を探っている。そして、今朝と同様にその尻尾は感情を表すように揺れていた。

 

 「ふむ…。」

 

 その尻尾は見るからにさらさらとした綺麗な毛並みで、極上の触り心地なのだろう。

 そんなものが無防備に目の前で揺れている。

 

 だが流石に触ろうとも、それをお願いしようとも思えなかった。

 

 理由は様々だが、仮に勝手に触ったとして。

 

 とりあえず刀が出てくる。

 そして多分見たことのないワザも出る。

 

 肉片が残れば上々だ。

 

 「ん、何見てんだ?」

 

 「何でもないです俺先に居間に戻ってるな!」

 

 つい尻尾を目で追っていれば視線を感じたのか黒上が振り返ったため早口でそうまくし立てて盆に湯のみを乗せてキッチンを後にする。

 

 危なかった、友好な関係をこんなくだらないことで危険にさらすものではないな。

 茹りそうな頭を冷ましながら、廊下を歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 慌てて去って行った透の姿を見送って、何を見ていたのか視線の先にあったものへと目を向ける。

 

 「ふーん…。」

 

 キッチンの中に少女の声が響く。

 自らの尻尾を視界に映して、透が何を見ていたのかを察して。

 

 「なるほど。」

 

 そう言って、少女は顔に悪戯な笑みを浮かべた。





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