どうも、作者です。
「遅い、何処まで行ってたんだ。」
現在、季節は冬に該当する。
その為当然日の出ている時間は短くなっており、時間をかけて帰ってきたこともありシラカミ神社に到着した頃には既に辺りは暗くなっていた。
玄関を開ければ、如何にもご立腹といった雰囲気を漂わせる黒髪の少女が待ち構えていた。
「悪い、ちょっと色々と寄り道してた。」
理由を説明すれば、納得してくれたのか彼女の逆立っていた尻尾が元に戻る。
相変わらず感情が良く反映されるようだ。
「…?やけに顔が明るいな。
何か良いことでもあったのか。」
顔に出ていたのか、黒上は俺の顔を見ると怪訝な顔をして首をかしげる。
「あぁ、悩みが一つ解決したんだ。
だから今は少しテンションが高いかもな。」
今も頬が緩みかけているのが分かる。
白上への想い、これからについて、これらについて自分の中でようやく整理がついた。
そして整理がついてみて、今までそれらが心に重くのしかかっていたことを実感した。
けれど、現状を変えるつもりはない。
俺は整理がついたが白上はまだついていないのだろう、だからこそ現状が続いている。
事の発端となったのは俺が自分の感情の制御を誤ったためだ、ならこれ以上彼女を振り回そうとは思えなかった。
「ふーん、悩みがあったのか。
あたしには相談してくれなかったんだな。」
そう言う黒上はジトリと湿り気のある視線をこちらに向ける。
再び尻尾を逆立たせて不機嫌ですとあからさまに伝えてくる。
「いや、別に黒上が頼りにならないとかそんな理由じゃないんだ。
元々誰かに相談するつもりは無かったんだけど、こう、突発的にそうなって…。」
「ふふっ。」
不興を買ってしまった。
そう思い必死に弁明しようと慌てて説明していれば、途中で黒上が耐え切れないように噴き出した。
「冗談だ、何時までもそんなところに突っ立ってないで早く入れ。
夕飯の用意はできてる。」
そう言い残すと黒上はさっさと奥へと消えて行ってしまう。
また揶揄われた、それを察して思わず笑みを浮かべつつ安堵の息を吐きながら靴を脱ぎ、玄関を後にする。
居間に入れば、既に黒上は席についていた。
テーブルの上の中心には大きな土鍋が置かれており温かそうな湯気が立ち昇っている。
外気で冷えた体にとって暴力的なまでの魅力に思わず立ちすくんでしまう。
「早く座れ、冷めるぞ。」
「あ、あぁ、分かった。」
催促されて慌てて席に着く。
黒上はそれを確認すると手際よく具材を取り皿へとよそい、こちらに差し出す。
礼を言って受け取りつつも、つい彼女の顔を見入る
「…あたしの顔に何かついてるか?」
露骨に見すぎた。
こんなにじろじろと見ていては誰であれ気にはなる。
「目と鼻と口がついてる。あと綺麗な毛並みの獣耳。」
「殴るぞ。
尻尾触らせたのはただの気まぐれだから、そこは勘違いすんなよ。」
乱暴に言いながらも飲み物を手渡してくれる黒上。
こういう所だよな、とどこか感慨深く思う。
流石にまた露骨に見ると今度こそ本当に手が出てきかねない為自重しておいた。
話もひと段落着いたところで二人揃って手を合わせる。
冬に食べる鍋という料理は確実に一味も二味も違う。
一口食べれば見た目に違わない旨味が口いっぱいに広がった。
今朝から思うが並み以上に料理が出来ている。
何故今まで謙遜していたのか不思議に思う程だ。
箸を進めていれば黒上がよそってくれた具材の中に見慣れないモノを見つける。
「あれ、白身魚なんてあったっけ。」
記憶にある限り焼き魚用の魚以外をキョウノミヤコで調達した覚えはない。
「貰った小包の中身だ、多く獲れたからお礼ついでに持ってきてくれたんだと。」
「へぇ、あれか。」
そういえばサヨちゃんの父親には結局会わなかったが漁師でもやっているのだろうか。
今度会った時にでも聞いてみたいものだ。
「それにしても本当に美味いよ。
やっぱり黒上は料理が上手かったんだな。」
「…くだらないこと言ってないで黙って食え。」
素直に褒めれば黒上は照れたのかそう言いながらそっぽを向いてしまう。
このまま褒め続けるとどうなるのか気になるところだが、今は熱いうちに目の前の絶品の料理を食べてしまいたい。
具材が少なくなれば〆に未だにそこの見えないうどんを入れる。
黒上曰くあと数十日分はあるそうだ、本当にどれだけ大神は作り置きをしていったのだろう。
旨そうにうどんを啜る黒上をしり目にそんなことを考える。
何時帰ってくるのかと不意に思い、そしてあの二人がシラカミ神社を離れてからまだ五日であることに気付き、愕然とした。
それ程までにこの五日間は濃く鮮烈なものであった。
「どうした?」
過去を振り返っていると頭に疑問符を浮かべた黒上に声を掛けられる。
「足りないならまだうどんはあるが。」
「あぁ、そうじゃなくて。
少しだけ最近のことを振り返ってたんだ。」
立ち上がりうどんを取りに行こうとする黒上に訂正を入れて引き留める。
最近…、小さく口の中で繰り返し黒上は再び椅子に座りなおす。
そして、改まった様子で口を開いた。
「その…透。
お前は、現状をどう思ってる?」
「へ?」
質問の意図が良く理解できず、思わず聞き返してしまう。
「だから、フブキが引きこもって…、その、あたしと二人の生活になって。
…やっぱり怒ってるか?」
そう言う黒上は耳をぺたりと垂れさせている。
その姿はまるで叱られた子供のように幼げに見えた。
「怒ってるって、そんな風に見えたのか?」
それは心外だ。
無論このような状態になって驚きはした、悩みもした。
けれど可能所に対してその責任を負わせようなどと考えたことは一度たりともない。
「見え…ない、けど気になって。」
言いながら目を合わせればふいと逸らされる。
つまるところ不安なのだろう。
仕方ないと言えば仕方ないが、気負ってほしくはない。
「それなら問題ないだろ。
さっきの悩みの話ならあれは俺自身の問題だ、気にする必要はない。」
「…なら。」
黒上はそこで一瞬言い淀む。
葛藤、話すべきか迷っているようだ。
そして覚悟を決めるように唇を引き結び、口を開く。
「白上フブキと黒上フブキ、透はこれから先一緒に居るとするなら…どっちが、良い。」
「それは…。」
思わず言葉が途切れる。
何故こんな質問を、それは今はどうでもいい。
ただこの質問をすることの意味、重要なのはそこだ。
選べと言っているのか、俺に。
白上を取るか、黒上を取るか。
何の意味もない選択をしろと。
「…薄々気付いてるんだよな、俺の気持ちに。」
「っ…。」
一呼吸おいて紡いだその言葉に、目の前の少女の肩が跳ねる。
沈黙よりも遥かに分かり易いその反応に苦笑いを浮かべて、すぐに顔を引き締める。
「その上で言うぞ、俺には選べない。」
予想していた答えとは違ったのか黒上の瞳が大きく見開かれた。
「なんで…。」
「俺の本心だけで考えるならはっきり答えたい所ではあるんだけどな。
でも一緒に居るかどうかは一人で決めるべきことじゃない。少なくとも俺はそう思うし、何より…。」
目の前の少女を見つめる。
不安そうな表情を浮かべる彼女を安心させたい、その一心だった。
「白上はまだ答えが出てないんだろ。
なら、それまで俺は待つよ、どれだけ時間がかかるとしても。そこから先のことはその時に考えれば良い。」
これが結論。
どちらが良い、その質問単体で見れば間違いなく白上だと答える。しかし、今は状況が状況なだけにそう単純に行くわけにもいかなかった。
だからこそ、今の俺の本心を伝えた。
最終的に後回しにした問題もあると思うが、やはり今があって明日がある。
なら優先すべきは明確だ。
「…ふーん、そうか。」
一瞬だけ驚いたように呆けていた彼女だが、直ぐに持ち直すとそう言いながら食器を持って立ち上がる。
「…このことを白上に伝えておいてくれるか?」
「え、あ、問題ない。ちゃんと聞いてる、と思う。
あたしは先に片づけてくる。」
少しだけ狼狽した様子を見せる彼女は、そのまま逃げるように居間を出て行ってしまった。
その背中を見送ってから、大きく息を吐く。
緊張した、というよりは羞恥に近い。
言い回しを間違えた。
けど伝えたかったことはちゃんと理解してくれたはずだ。
今はそれよりも。
目の前にある空になった食器を眺める。
「…俺も食べ終わってるんだけどな…。」
先ほどの様子を鑑みるに、もう少しだけゆっくりしてから片付けに行こう。
『フブキ、透はああ言ってたがお前はどう感じたんだ?』
いつかと同じような白と黒の少女、二人だけの空間。
黒の少女のからかい交じりの声音が響き渡る。
それに対して白の少女は首を横に振って対応する。
勿論彼女とて何も感じなかったわけでは無い。
しかし、やはりまだ感情の整理がつかない、彼と共に普通に過ごせる気はしなかった。
あと少しな筈なのに最後の一歩が踏み出せない、恐怖に足がすくむ。
そんな思考を続ける白の少女を、黒の少女はジッと見つめる。
『…まだ続けるつもりか。』
その問いに白の少女は控えめに小さく首を縦に振る。
ごめん。
『謝罪はいらないって、ま、お前の好きにしろよ。
あたしは…そうだな、見守る…。』
?どうしたの?
途切れた言葉に、白の少女は首をかしげる。
それを見て黒の少女もすぐに誤魔化すように笑みを浮かべる。
その様子に白の少女は安堵した。
しかしだからこそ、彼女は気づかない。
黒の少女が言い残した言葉に。
『見守る…ね。』
食器の片づけを終えてしばらく、黒上はあの後部屋へと帰って行ってしまった。
その為、現在久しぶりに一人で部屋で時間を過ごしていた。
端的に言えば暇を持て余しているともいえる。
刀の手入れをしようにも、その刀は既にお陀仏だ。
ちゅん助と戯れていようかと考え始めたところで、こんこんと部屋の襖がノックされ開かれる。
「透、これやるぞ。」
「これ、って何の…あぁ、賞品の。」
部屋の入り口に立つ黒髪の手にはピンク色の包装を施された小包。
前にキョウノミヤコの大食いチャレンジでゲットした賞品のもう片方だ。
「やっても大丈夫なのか?」
一応形式として聞いておく。
後から駄目だったなんて展開には間違ってもなって欲しくはない。
「問題無いから誘ってるんだ、早く部屋に来いよ。」
そんな不安を冷静に吹き飛ばした黒上はそう言い残してさっさと戻って行ってしまう。
丁度よいと、直ぐに立ち上がり、そう言えばコーラを調達してきたのだったと思い至り外の雪の中に置いていたそれらを持って黒上の部屋へと向かう。
「黒上ー、入るぞ。」
襖をノックしつつ声を掛けてから開ける。
部屋のでは既に黒上がゲームのコントローラを用意して待っていた。
「来たか。菓子は用意してある、飲み物は…。」
「コーラ持ってきた。
それで肝心のゲームは何だった?」
「まだ開けてない。」
話しながら隣まで行き、用意されている座布団の上に座る。
それを確認すると黒上は礼の小包を取り出す。
ピンク色の包装、前回開けたのは紫色の方だ。
あれの中身は確かホラーゲームで、耐性の無かった白上は大騒ぎだった。
「何が入ってるんだろうな。」
「さぁな、まぁ、開ければ分かるだろ。」
そう言って黒上は手際よく放送を解いてい行く。
どんどんと進められて、やがてパッケージの絵が顔を出した。
「あ?」
「これは…。」
でかでかと描かれた可愛い女の子、その隣に立つ青年の絵。
そして二人の上にアーチのようにかかったタイトルロゴ。
これまた説明文を読まなくてもパッケージだけでなんとなく察しが付く。
一応とばかりに裏面の説明文を読めばそれは確信へとつながった。
恋愛シミュレーションゲーム。
それがこのゲームの分類になる。
「ホラゲーとこれって、どんな組み合わせだよ。」
何の互換性もない、しかも王道とは程遠い賞品の品々に思わず笑みが浮かぶ。
「…。」
黒上は無言のままパッケージを眺めると、ソフトを取り出しゲーム機へとセットする。
「え、これ本当にやるのか?」
「文句あるか。」
睨まれた。
普通こういうゲームは二人で操作できるものではないし、他のゲームをするものかとも考えたが強行するらしい。
やがてモニタにタイトル画面が表示される。
勿論セーブデータなど無い為最初から。
内容としてはとある王国の姫と騎士による恋愛劇のようだ。
「これ長さどのくらいなんだろうな。」
問いかければ黒上は手元にあったパッケージへと目を落とす。
え、書いてあるのか。
「二時間くらいだと。」
「聞いた俺が言うのもなんだけど、目安書いてあるんだな。」
個人差があるはずだから平均的なクリア時間とかだろうか。
二時間というと短めのゲームなのだろう。
そんなに何時間もかかるとそれこそ徹夜になるため、二時間というのは割と丁度良い時間なのかもしれない。
「あ、ヒロインが飛び降りた。」
「騎士が助ける前提か、肝の太いお姫様だことで。」
画面の中では騎士の青年がそんな姫に心底ほっとしたようにため息をついている。中々苦労人な主人公なようだ。
しばらくそんな二人の日常が描かれた。
お忍びのデートや、お祭り、城での生活。
途中、申し訳程度に選択肢が出てきたが、基本的には一本道でストーリーは進んでいった。
「なぁ、黒上。」
それを見ながら何んとなしに黒髪に話しかけてみる。
「なんだ、もうへばったのか。
まだ半分も終わってないぞ。」
「違うって、このくらいじゃまだへばらない。」
一応これでも白上とゲームをして鍛えられているのだ、ほんの一時間足らず座っていたくらいで疲れが出るほどに体力はないわけでは無い。
ただ一つだけきいておきたいことがあっただけだ。
「昼にサヨちゃんが白上の事探してただろ。
あの後どうなったんだ?」
問いかければ一瞬だけ黒上の体がぴしりと固まる。
「…さあな、あたしは見てなかった。」
「そっか。」
見てないというのならこれ以上何か聞いても無意味だ。
そう判断して目の前の画面へと視線を戻す。
またしばらくの間騎士と姫の日常が流れ、そして展開は動き出す。
騎士と姫の互いに対する恋心。
それを自覚した二人に待ち受ける立場の違い、周りからの妨害。
途中で折れそうになりながらも二人はめげずに己を貫き通す。
そして、迎えたハッピーエンド。
めでたく二人は結ばれる。その光景はあまりにも幸福に満ちていた。
その後少しの後日談を挟んで、画面はエンディングムービーへと移行する。
オープニングもそうだが、きちんとエンディングも共にしっかりとした音楽が組み込まれている。
「幸せそうだな。」
ぽつりと呟くように黒上が言う。
画面にはこれまでの過程がシーンごとに流れている。
どれもが笑顔が溢れていて、この二人がこれからもそうであると想像するのは容易であった。
「透。」
「ん?」
不意に黒上に声を掛けられる。
何事かと顔を向ければ黒上は画面から目を離さないままに、ゆっくりと口を開く。
「その…恋愛って、恋をするってどんな感覚だ。」
「…はい?」
予想の遥か彼方の問いかけに思考が停止する。
何故今そのような質問を。
「だから…っ、恋ってなんだ。」
「あ、あぁ、恋ね。
また哲学的な質問だな。」
そして何とも答えに困る質問でもある。
どう答えたものか、下手に答えるとただの自爆になりかねない為慎重に考える。
「そうだな…。
えッと…その人とずっと一緒に居たい、その人の傍に居たいって思う、感じか?」
取り合えず俺が白上に対して想う事柄を何とか言葉にして伝える。
「なんで疑問形。」
「仕方ないだろ恥ずかしいんだ。」
恥を忍んで答えたにも関わらず失礼な奴だ。
今、鏡を見ずとも自分の顔が赤いことは自覚している。
「傍に居たい…一緒に…。」
黒上は、ぽつりとそう呟くと顔を俯かせる。
少しの間、静寂が部屋を支配する。
エンディングも既に終了し、画面はただ黒く染まっていた。
「なんで、恋について?」
「…。」
静寂に耐え切れずにか、それとも好奇心が勝ってか。
気が付けば黒上にそう問いかけていた。
すぐに答えは返ってこない、
鼓動の音が伝わっていないかと不安になるような静けさ。
やがて、意を決したように黒上は顔を上げた。
「その…気になった、だけだ。」
「…さいですか。」
本当に興味本位、というか感化されただけのようだ。
意外と影響されやすいのか。
ならこの話はもうここでお仕舞い、次の話題を探そうと積まれたゲームソフトへと目を移す。
『…気が変わった。』
そこで気が付く。
画面の少し前の据え置き型のゲーム機の本体、その上に小さな白い狐がいつの間にか座っている。
それと同時に響いてきた声、それは紛れもなく黒上フブキの声だ。
その声が白い狐から聞こえてきた。
隣へと目を向けるも、驚いたように目を丸くしている黒上の姿があるのみ。
「なんで…。」
震える声で言う黒上の顔には困惑がありありと浮かんでいる。
それに構う様子もなく、白い狐のシキガミは告げた。
『あたしは結果の見え透いた勝負を見るほど、気は長くない。』
次回白上ルートラスト。
気に入ってくれた人は、シーユーネクストタイム。