【完結】色づく想ひ    作:ワンダーS

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どうも、作者です。

UA6万ありがとうございます。
今回から大神ルートです。


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 熱に浮れているかのように周りでは人々が手を取り、踊り合っている。

 

 セイヤ祭

 年に一度、キョウノミヤコで開催される盛大なお祭り。街道には様々な屋台や露店が立ち並び、様々な装飾が街並みを彩っている。

 

 時は既に後夜祭、祭りのクライマックスということもあり人々のテンションは頂点へと到達していた。

 そんな中、人込みをかき分けて一人の少女を探して歩き回る。

 

 『誰と踊るの?』

 

 先ほど聞いたトウヤ君の言葉がふと思い浮かぶ。

 

 セイヤ祭で一緒に踊ったペアは結ばれる。

 キョウノミヤコでは有名なそのジンクス。

 

 ジンクスを信じているわけでは無いが、そう聞かれて真っ先に黒い狼の少女の姿が脳裏に浮かんだ。

 しかし、探せども探せどもその姿はどこにも見当たらない。

 

 「どこにいるんだ…?」

 

 早く見つけないと祭りが終わってしまう。

  

 若干の焦りを感じつつ辺りを見回しながら歩いていれば、不意にどんと肩に衝撃が走る。

 うっかり誰かとぶつかってしまったようだ。

 

 「っと、すいませ…て、白上。」

 

 「こちらこそ…あ、透さん。」

 

 目を向ければ、そこに立っていたのは白い狐の少女、白上フブキであった。

 屋台巡りでもしていたのかその両手には大量の食べ物や飲み物、景品らしきものが下げられている。

  

 「そんなに急いでどうしたんですか?」

 

 こてりと首を傾けて白上が問いかけてくる。

 丁度良い、白上にも聞いておきたかった。

 

 「大神を探してたんだ、白上はどこかで見かけなかったか?」

 

 「ミオでしたらあっちにいましたけど…。」

 

 そう言って指さされるのは、つい先ほどまで探していた区域。どうやらいつの間にかすれ違っていたようだ。

 けれど場所が絞れたのは大きい。

 

 早速探しに向かおうとしたところで、白上からじっとこちらを見られている事に気が付いた。

 

 「どうかしたか?」

 

 「いえ、もしかして透さん、ミオを誘う予定なんですか?」

 

 誘う。

 何にとは聞かなくても分かった。

 

 「一応、そのつもり。」

 

 白上もジンクスについて知っているのか、そう答えれば露骨にその瞳が輝いた。

 

 「おー、透さんも男の子ですね。

  応援してますからね!」 

 

 「あ、あぁ、ありがとう。」

 

 にやにやと揶揄うような笑みを浮かべる白上は、それだけ言うと何処へともなく去って行ってしまう。

 別にやましいことは無い筈なのだが、妙に照れくさく感じた。

 

 誘うと言っても恋愛的な意味は特にないのだが、あの様子を見るにそうは思っていないのだろう。

 訂正しようにも既に白上の背は見えない為、完全に後の祭りである。

 

 それより、今は大神を探そう。

 取り合えずは本来の目的を先に果たすことにする。幸い教えて貰った場所はすぐ近くだ。

 

 進んでいた方向とは逆方向、来た道を戻って目的地へと急ぐ。

 白上の口ぶりからしてまだこの近辺にはいる筈だ。

 

 言われた場所に辿り着いて目を皿のようにして大神の姿を探すが、しかし何処にも見当たらない。 

 既に他の場所に行ってしまったのか、それとも白上の見間違いか。

 

 前者はともかくとして、後者は考えにくいか。

 そもそも大神は一人で何をしているのだろう。白上だったら屋台巡りをしていたのだろうが、それと同様に…。

 

 「あ、もしかして…。」

 

 そこまで考えてふととある可能性に思い至る。

 

 試しに先ほどまでのように人混みに大神を探すのではなく、周りにある屋台や露店を中心に目を光らせた。すると、その中の一つに見覚えのある屋台を見つける。

 

 シンプルな装飾に少し不思議な雰囲気を醸し出しており、中には大きな水晶玉とその奥に座る人影。フードを被っていて顔までは確認できないが、直感的にあれは大神であると分かった。

 

 姿が見えないと思ったらこんなところで昼と同様に占い屋をやっていたらしい。見つからない訳だと、思わず口角が上がる。

 

 後夜祭で踊りに人が集中しているようで、昼のような人だかりは出来ていない。そのため苦労もなく屋台へとたどり着くことができた。

 

 他に客もいないようなので、そのまま目の前の椅子へと腰掛ける。

 

 「いらっしゃいませー。…って透君だ、やっほー。

  どうしたの、占い?」

 

 相手が誰であるか気づいた途端、大神は被っていたフードを取り、口調を砕けさせる。それだけなのに、彼女に身内判定されている事の表れのようで、妙に嬉しく感じた。

 

 「あぁ、そんなとこ。」

 

 まさか一緒に踊らないか誘いに来たと唐突に言い出すわけにもいかず取り合えず一旦話の流れに乗る。

 

 「よーし、じゃあ透君が相手だからね。

  折角だし張り切って占っちゃうよ。」

 

 ふんすと腕をまくって気合を入れる大神につい笑みが浮かぶ。

 大神も大神で祭りという事もありテンションが上がっているのかもしれない。

 

 「ちなみに、張り切ると結果にどんな影響が?」

 

 「んー、少しだけ表現が柔らかくなります。」

 

 大神はドヤ顔で人差し指を立てながら得意げに言う。

 

 表現が柔らかくなるって、結果自体は特に変わらないらしい。

 つまるところ、悪ければ悪いままのようだ。

 

 まぁ、占いで重要なのは結果の読み取り方とも言うし、占い師のやる気が割と重要である可能性も無くは無い。

 ただ大神の占いの場合占星術を使用すると基本的に結果から逃れようがないため、やはりあまり意味は無いのかもしれない。 

 

 「ところで…。」

 

 「ん?」

 

 そう言うと改まった様子で大神はこちらに視線を向ける。

 

 「透君は誰かと踊らないの?

  ほら、フブキとか誘って。」

 

 チラリと横にある広場、そこで踊る人々の姿を横目に見て大神が屈託のない笑顔で問いかけてくる。いきなりここを訪れた理由の核心に触れられてドキリと心臓が跳ねた。

 

 「今のところはな。

  白上は踊りよりは屋台巡りに夢中みたいだし。」

 

 「そういえばまた大量に抱えてたね。」

 

 二人して両手いっぱいの袋を引っさげた白上の姿を思い出して苦笑いを浮かべる。 

 この時間であれだけ巡っているとしても、セイヤ祭全ての屋台を巡ることはまず不可能だろう。その辺りこの祭りの規模の大きさを表している。

 

 「…幸せそうだね。」 

 

 おもむろに大神は再び広場の方へと視線を戻すと、ぽつりとそんな言葉を零す。

 広場で踊る人たちは皆、笑顔に満ちていた。その様子は、まるで空気中にまで幸せが溶け出ているかのようだ。

 

 だが、何故だろう。

 それを見る大神の表情は優し気に緩められているのに、少しだけ曇って見えた。

 

 「あ…。」

 

 「っと、それより占いだった。

  それで透君は何か占いたいことはある?」

 

 その理由を聞こうと口を開きかけるが、大神はそれより先に話題を逸らしてしまう。

 これでは追及は出来なさそうだ。

 

 「そうだな、占いたいことか…。」

 

 一旦思考の隅へと追いやって、目の前の質問へと移行する。

 急に言われても、内容については何も考えていなかったため答えに迷う。

 

 何かないかと視線を巡らせて、大神を視界にとらえたところでピンときた。

 

 「じゃあ…。」

 

 「?」

 

 だが、本当にこれで良いのかと寸前で言葉を止めた。

 そんな俺を見て、大神は無言のまま首をかしげる。

 

 …いや、今日は折角の祭りなのだ。

 だから、難しく考えるのは辞めにしよう。

 

 覚悟を決めて、小さく息を吸ってから再び口を開く。

 

 「じゃあ、このセイヤ祭で目の前の女の子と踊れるかどうかを占ってくれ。」

 

 「うん、任せて。

  えっと、目の前の…女の子、と…。」

 

 大神は快諾すると、水晶に触れながら条件を復唱する。

 しかし直ぐにその対象が誰の事を指しているのか気が付いたようで、目をぱちくりとさせてこちらを見る。

 

 その瞳を真っ直ぐに、正面から見つめた。

 緊張からか心臓が痛いくらいに鳴っている。

 

 処理に時間がかかっているのか数秒程そのままの体制で固まっていた大神だったが、唐突にポンと音が出るのではないかと思う程急激にその顔を朱色に染めた。 

 

 「え、な、透君?

  それって…。」

 

 「あぁ、俺は大神と踊りたい。

  良かったら一緒に踊ってくれないか?」

 

 分かり易く慌てる大神に向けて手を差し出す。

 自分がこんな行動をしていることは不思議に思う、だが、これ祭りのテンションに当てられた結果だというのなら甘んじて受け入れよう。

 

 それよりも重要なことが今、目の前にある。

 

 大神は一瞬迷ったように視線をさまよわせた。

 しかしすぐにその手はゆっくりと上げられ、手と手は重ねられた。

 

 「…もう、透君は何時からそんな遊び人みたいなことをするようになったのかな。」

 

 「言わないでくれ、自分でもどうかしてるとは思ってるんだ。」

 

 まだ頬は少し赤いだろうか、けれども大神はしっかりと目を合わせてくれる。

 

 「それで占いの結果はどうだった?占い師さん。」

 

 「…もう、分かってて聞いてるでしょ。」

 

 恨めしそうな視線を向けられるが、やはり直接聞いておきたいのだ。

 じっと答えを待っていると、根負けしたのか大神は小さく息を吐くとその相貌を軽く崩した。

 

 「勿論、イエスだよ。」

 

 ふわりと微笑んで言われたその言葉を聞いて全身の力が抜けてしまうのではないかと思う程の安堵が心に広がる。

 それと同時に、先ほどと同様に鼓動が早まりだした。

 

 しかし、これは緊張からではない。

 なら…。

 

 自分の事の筈なのに分からない事だらけだ。

 

 これも多分祭りの空気の所為だ。 

 そう結論付けて大神と共に広場へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 広場、キョウノミヤコの中心部にあるものに比べれば小さく感じるが、それでもキョウノミヤコの何区画か分の広さはある。とはいえ通りも広場も関係なしに人々は踊り合っていた。

 

 広場の端、ちょうど良いスペースを見つけて改めて二人手を取り合う。

 

 「…ちなみに透君。」

 

 いざ実践だ、といったところで不意に大神が声を掛けてくる。

 

 「何だ?言っておくが俺は踊り方は知らない。」 

 

 「え、どうしよう、ウチもよく知らないんだけど…。」

 

 その言葉に思わず互いに目と目を合わせ合う。

 てっきり大神は知っているものかと考えていたのだが、この展開は予想外だった。 

 

 「まぁ、周りに合わせればいいか。」

 

 幸いにも見本は文字通りそこら中にある。

 細部までは無理でも形程度なら何とでもなるだろう。

 

 「う、上手くできるかな。何だか緊張してきた。」

 

 「そんなに重要なものでもないんだ、気楽にやろう。」

 

 そして若干表情の硬い大神と共に、周りで踊る人々を真似て右へ左へと揺れる。

 中には複雑な動きをするペアもいたが、そこはスルーしてまず基礎的な動きだけを参考にした。

 

 だが、踊り始めてすぐに浮かんだ疑問が一つ。

 

 「大神、本当に踊ったこと無いのか?」

 

 そう思えるほどに大神の足運びは初めから今に至るまでスムーズで、綺麗なものであった。

 先に見かけたおそらく熟練のペアに遜色のないそれに驚きのあまり思わず口が開く。

 

 「その筈、なんだけど…。

  なんでウチ踊れてるの?」

 

 それは彼女も同様で、ぽかんとした顔で華麗にステップを踏む様はかなりシュールな光景であった。

 

 「ということは、大神の秘められた才能が開花したとか。」

 

 「そうなのかな…ウチ今ならどんなステップも踏める気がする。」

 

 「俺は転ぶと思うから勘弁してくれ。」

 

 瞳を輝かせて息巻いてるところ悪いのだが、大神は良くても俺が付いていけないためその辺りは自重してもらうことにする。

 

 しばらく踊っていれば、やがて踊りにも慣れ始めてきて周りにも目を回せるようになった。

 子供、大人、老人に至るまで年齢に関係なく、人々は手を取り合っている。

 

 この光景はキョウノミヤコの景色の中でも最上のものだとすら思える。

 そして自らもその景色の一部なのだと思うと、えも言われぬ高揚感がある。

 

 祭りばやしの中、音楽はなり、踊り合う。

 

 「ねぇ、透君。」

 

 不意に同じく周りを見回していた大神に名を呼ばれる。

 どうしたのだろうと目を向ければ、大神はゆっくりと口を開いた。

 

 「透君は、幸せってどういうものだと思う?」

 

 感情の読めない瞳で大神はそう問いかけてきた。

 

 「幸せ?」

 

 幸せについて、とはまた哲学的な問いかけだ。

 人によって変化するのだから答えなどは無いだろう。

 

 大神は何故こんな質問を。

 疑問に思いつつ、とりあえずは主観での答えを考えてみる。

 

 「…そうだな、将来への不安がない…いや、少し違うか。」

 

 一度口に出してみるが、中々これだという感覚はしない。

 ならこれか、こういうものか、頭の中で色々と考えてみるがやはりしっかりと来ない。

 

 「…やっぱりよく分からないな。」

 

 大神には悪いがこの質問に答えるには、俺では不足らしい。

 

 「…だよね。

  ごめんね、いきなり変なこと聞いて。」

 

 誤魔化すような笑みを浮かべる大神。

 真意は分からない。

 

 けれど、俺でも答えれることはある。

 

 「でも少なくとも俺は今、幸せだよ。」

 

 大神が顔を上げる。

 感情に連動するように揺れるその瞳を真っ直ぐに捉えて、ゆっくりと口を開く。

 

 「このカクリヨに来て正直激動の日々だったけど、大神達に会えてからずっと、俺は幸せなんだと思う。」

 

 これは隠し立てすることのない俺の本心だ。

 様々なことが起きた二か月だったが、この世界に残りたいと強く願う程に幸せな時間を過ごせた。

 

 だから、幸せについては上手く言葉に出来ないが、それがどんな状態であるのかは何となく理解できた。

 

 「透君…。」

 

 ぽつりとそう呟く彼女は今、何を思っているのだろう。

 

 「ウチね、ちょっとだけ透君が羨ましい。」

 

 「大神…?」

 

 その言葉と共にパッと辺りが明るく照らされて、遅れて心身に響くような爆発音が空から降ってくる。

 

 セイヤ祭の締めとして打ち上げられた花火。

 その光で照らされた大神の顔には自嘲的な笑みが浮かんできた。

 

 「わ、凄い。透君、花火だよ。

  綺麗だね…。」

 

 だが、次の瞬間には花火にはしゃぐ彼女の姿、いつもの大神に戻っていた。

 けれど瞼に焼き付いた先ほどの笑みが頭から離れない。

 

 何故そんな表情をする。

 大神、お前は…。

 

 周りから歓声が聞こえる。

 人々が空を見上げている中、俺は一人の少女から目を離せないでいた。

 

 「?どうしたの?」

 

 「あ…いや、何でもない。」

 

 視線に気が付いた彼女に問いかけられて、反射的に誤魔化してしまう。

 

 「…なぁ、大神。」

 

 だが、やはり頭から離れない。

 もう少し先へと踏み入りたい。

 

 無言のままこちらを見て首を傾げる大神に問いかける。

 

 「お前は今、幸せか?」

 

 それを聞いた大神の瞳は驚いたように見開かれた。

 何にそこまで驚いているのかは分からない。

 

 大神は小さく息を飲むと、ゆっくりと吐き出す。

 

 「…良くわかんない。」

 

 まるで以前にも答えたことがあるかのようにスムーズな受け答え。

 その顔に浮かぶ達観と諦観。

 

 多分ここから先は大神の触れられたくない部分。

 俺が触れることのできない部分。

 

 詰まるところ、俺ではそれこそ不足なのだ。

 彼女の抱えているものを知ることは出来ない。

 

 「…そっか。」

 

 それ以上追及することなく、空へと視線を向ける。

 次々と打ち上げられる花火は夜空で大きく開いて暗闇を照らし、そして散っていく。

 

 けれど俺の心にはもやもやとした暗闇が漂ったまま。

 

 しかしそれと同時に彼女の事を知りたい、もっと彼女に近づきたい。そんな想いが芽生えてどんどんと大きくなっていくのを感じた。

 

 「透君、難しい顔してるよ。」

 

 「え、ほんとか?」

 

 大神に指摘されてつい顔に手をやる。

 まさか顔にまで出ているとは、我ながら相変わらず表情に出やすい。

 

 「うん、この辺りに皴が寄ってた。」

 

 そう言って大神の手が伸ばされて眉間の辺りを触れられる。

 ただそれだけ。

 

 けれど

 

 ドクンと心臓が一層強く鳴る。

 何かが自分の中で変わった、そんな確信がした。

 

 夜空に大きな華が咲く。

 おそらく祭りの最後を飾る特大の花火。

 

 それは辺りを色とりどりに照らして、人々の関心を搔っ攫った。

 

 大神もその花火に目を奪われている。

 その事実に心の底から安堵した。

 

 今の自分の顔を、彼女には見られたくは無かった。

 

 






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