どうも、作者です。
評価くれた人、ありがとうございます。
以上。
「むー、お似合いだと思うんですけどねー。」
朝食後、机へと頬を押し付けながら白上は不服そうにその耳をピコピコと動かす。
「まだ言ってるのか。
さっきのはただの事故で、別に俺と大神がそういう関係なわけじゃないって。」
大神の説得によって白上の誤解は解くことができたが、白上としては誤解であって欲しく無かったようで未だに言及してくる。
何が彼女を突き動かしているのか、恐らく野次馬根性もあるのだろう。
「でも、透さんはミオと踊ったんですよね。」
「…まぁ、踊ったけど。」
白上の言葉が鋭く突き刺さり、少し遅れて肯定する。
昨日の後夜祭。
そこで大神を誘おうと探していた際に白上にも大神の居場所を尋ねていたし、実際大神と踊ったためここは事実として認める他ない。
「言っておくが、あれにジンクスは関係ないからな。」
一応の念押しとしてそれだけは伝えておく。
難しく考えて誘った訳ではない、ただふと思い浮かんだのが大神だっただけ。
それ以上でもそれ以下でもない筈だ。
「なら透さんはミオのこと、どう思ってるんですか?」
どう思ってる。
そう問われて返答に困り、どう返したものかとつい黙り込んでしまう。
良き友人。
良き同居人。
挙げるとすればこの辺りだろうか。事実、その通り俺と大神は友人である
けれど、何故だろう。関係性を当てはめることに少しの抵抗を感じた。
「…友人だよ。」
その抵抗を押しのけて、それだけ口に出す。
「…そうですか。
すみません、少し立ち入り過ぎました。」
「いや。」
それ以上聞いてくることも無く、白上はそう言って立ち上がる。
自室に戻るのだろうか。
何となく、居間を後にする白上の背を見送る。
「透さん、もし相談したいことがあったら何時でも言って下さいね。」
居間を出る直前白上は振り返るとにこりと笑顔を浮かべて言った。
ありがたいやら余計なお世話やら、どちらにせよ白上なりに気を使ってくれていることは分かる。
「あぁ、ありがとう。」
その答えを聞いた白上は満足げに頷いて、今度こそ居間を後にした。
一人になりやることも無い中、ぶらりとシラカミ神社の廊下を歩いていれば、不意に食欲をそそるような香りが漂っていることに気が付く。
匂いに釣られて歩いて行けば、どうやらその香りはキッチンの方から漂ってきていることが分かった。
白上は部屋に居るだろうし、百鬼はキョウノミヤコだ。
消去法でキッチンには大神がいるであろうことは容易に推測できる。
しかし朝食はつい先ほど食べたはずだし、昼の準備にしては些か早い。なら一体何を。
興味を惹かれてキッチンの中へと足を踏み入れる。
「あ、透君。
どうしたの?もうお腹空いた?」
キッチンの中には予想通り、割烹着を着た大神が大きな鍋で調理をしている姿があった。
大神は入ってきた俺の姿に気が付くと、こちらに振り返りながらそう問いかけてくる。
「いや、いい匂いがしたから気になってな。
何か作ってるのか?」
今正に大神の目の前にある鍋、匂いの出所は確実にそこだ。
「うん、時間もあるし折角だからちょっと凝ったものでも作ってみようと思って。
あ、丁度良かった。透君、味見して貰ってもいいかな。」
言いながら大神は小皿を取り出すと、鍋からお玉を使って中身をよそいこちらへと差し出してくる。
その皿の上には湯気を立てるタレのかかった一口大の肉が乗っていた。
「これ角煮か?」
「正解。
まだ煮込んでる最中だから少し硬いかもだけど味はどうかな。」
大神はそう言っているが皿の上の角煮は見るからに柔らかそうで。これでまだ未完成だというのだから完成品の期待値は高まる一方だ。
ゆっくりと箸で持ち上げれば程よい弾力が伝わり、予想通りのその柔らかさを実感する。
「いただきます…うん、美味い。
今でも十分柔らかいけど、まだ柔らかくなるもんなのか。」
「そうだよ。ウチなりの最高の角煮を目指しててね。
理想は噛まなくても口に入れるだけで崩れるくらいかな。」
既に完成したと言われても疑うことなく信じるレベルで完成度が高いのにも関わらず、大神はこれをさらに進化させると言う。
その向上心の高さを称賛すれば良いのか、呆れれば良いのか。
「あ、そうだ。
透君、こっちも食べてみて。」
そう言って次に差し出されるのはたれの色に染まった煮卵。
「朝に角煮用のたれを作ってて、その余りで煮卵も作ってみたの。
…どうしたの?変な顔してるけど。」
「いや、ちょっと圧倒されて。」
ただでさえ色々と世話を焼いてくれている彼女だが、その能力を俺は未だに見誤っていたようだ。
煮卵も一つ貰うが、やはりこれも角煮同様に美味しく仕上がっている。
「これは…今朝の話じゃないけど、将来大神と結婚する人は幸せ者だな。」
「そうかな…。
それなら嬉しいかも。ありがとう。」
今朝にも同じようなことを考えたが、本当に彼女の能力の高さには驚かされてばかりだ。出来ないことは何も無いのではないかと思う程に、様々なことを極めている。
家事にしてもそうだが、占星術や熱を扱うワザも含めると普段の生活においては困ることはないのだろう。
「でも、透君も変なこと言うね。」
「へ?」
笑顔を浮かべまま、大神はこちらへと視線を向ける。
「ウチのことをお嫁さんにしてくれるのは透君でしょ?」
頬を赤らめて放たれたその言葉に世界が停止したかのような衝撃を受け、それと同時に思わず思考も停止する。
「もう、透君が言ったんだよ?
結婚しようって、プロポーズまで…。」
「え、いや、待ってくれ。
どういう…。」
顔に熱が灯るのを自覚しながら、焦る心の制御に追われる。
「…ふふっ。」
そんな俺の姿を見て、大神は耐えきれないとばかりに吹き出して破顔する。
あ、これ揶揄われているだけだ。
手で笑っている口元を隠す大神を前に、少し遅れてそれを理解した。
「大神…お前。」
「さっきのお返し。
結構焦るでしょ。」
片目を閉じて悪戯な笑みを浮かべる大神。
そんな彼女の様子にどきりと心臓が高鳴るのを感じた。
確かに唐突にこんなことをやられては心臓が持たない。
「はい、反省してるんでもう勘弁してください。」
「よろしい。」
見事にしてやられた。
両手を上げて降参のポーズを取れば、彼女も寛大な心でそれを受け入れてくれる。
「透君、顔真っ赤だよ?」
指摘されて思わず顔を隠すように抑える。
その反応を見てか、大神の笑みがさらに深まったように見えたのは気のせいでないのだろう。
よろしいと言った割にはまだ攻め込んでくる。
もしかして今朝の事を結構根に持っていたりするのだろうか。
「…そうだ、それより炬燵が壊れてたんだけど。」
居たたまれなくなり、少々強引に話を方向転換させる。
「あ、話題変えた。」
そこには突っ込まないで欲しい。
今日の一大イベント扱いになるはずの炬燵の故障だったが、その後の出来事のおかげで今の今まで頭からすっ飛んでいた。
「ていうか、炬燵壊れたの?」
大神にとってもやはり一大事なようで、表情を切り替えて目を丸くする。
「気づいたのは今朝だけどな。
最近セイヤ祭の準備で忙しくしてて使ってなかったから、壊れたのはもっと前かもしれないけど。」
毎日キョウノミヤコまで行くのも時間がかかるためそのまま宿で寝泊まりしたりと、シラカミ神社の炬燵でゆっくりということも余り無かったような気がする。
「うーん、もしかしたら中の部品がずれてるのかも。
ほら、フブキが思いっきり脛をぶつけたことがあったでしょ。」
「あぁ、あったなそんなこと。
あの不幸な事件。」
炬燵で寝ていた白上が大神の餌食になったあの事件。
未だに未然に防げなかったことが悔やまれる。
もう少し早く白上を起こしていればあんな事には…、白上には悪いと思っている。
「じゃあ中の部品の位置だけ調整すればいいのか。
分かった、ならちょっと直してくる。」
「うん、お願いね。」
原因が分かれば後は早い。
早速居間へと向かってキッチンを出る。
キッチンの入り口に掛かっている暖簾を上げれば、不意に白い何かが視界に入った。
シラカミ神社で白と言えば一人しか該当しない。
「おっと、白上か。」
丁度キッチンに入ろうとしていた白上と鉢合わせる形となったようだ。
「わ、透さん。
何だか良い匂いがしますけど。何か作ってるんですか?」
すんすんと鼻を鳴らす白上。
今なお、大神の作る角煮の香りはキッチンから漏れ出ているようだ。
「白上も匂いにつられたのか。」
「いえ、白上は隠しているお菓子を取りに来ただけですよ。
…それより白上もって、どういう…。」
「フブキ?
今隠してたお菓子って聞こえたけど。」
入り口で話していれば中にいる大神にも話し声は聞こえるのも必然というものだ。
キッチンの中から聞こえてきた大神の声に白上の肩が跳ねる。
「あの、何故かミオの声が聞こえたんですけど…。」
「まぁ中にいるからな。」
真実を教えてやれば白上の顔が絶望に染まる。
「透さん…。」
助けを求めるような視線、けれど、今の俺にはその視線に応えることが出来るだけの余裕は無かった。
「悪い、白上。
俺、炬燵の修理しないとだから。」
「そんな…、透さん…!」
こちらへ近づいてくる足音を背に、俺はキッチンを後にする。
すまない、前の事もあるし今度こそは助けたいと思ってるんだ。
けど現状大神に弱みを握られているようなもので、何の助けにもなることが出来ないのだ。
「もー、フブキー、お菓子の食べ過ぎはダメって言ってるでしょ。」
「ごめんなさーい!」
そんな二人の会話を背に、廊下を歩いて行く。
恐らく白上はこの後、大神に暫く捕まったままなのだろう。
心の中で合掌する。
そうこうしている内に居間へと到着し、早速炬燵の修理に取り掛かることにした。
取り合えず挟んである布団を取り外してから、テーブルをひっくり返し、熱を発する装置を見える様にする。
「…げ、意外と厳重に固定してるな。」
見たところ、天板のようなものが幾つかのネジなどで固定されている。
それが何層か。一つ一つを外すだけなら簡単だが、それが複数ともなると少し時間がかかりそうだ。
「これで中の装置が外れたって、どんな衝撃だったんだよ。」
取り付けられているのはテーブルの端ではなく、真ん中部分であり、それを脛で打っただけで外すのだからその衝撃は想像に余りある。
何はともあれ、やらなければ終わらないと一つ目のネジに手を付けた。
しばらく無言で作業を続けながら、ふと先ほどのやり取りについて思考がシフトする。
まさかあんな形で大神から復讐を受けるとは思わなかったな。
脳裏に浮かぶのは大神の茶目っ気に溢れた悪戯な笑み。
『ミオのこと、どう思ってるんですか?』
「っ!?」
不意に思い起こされた今朝の白上からの問いに、自分でも驚くほどに動揺してついネジを緩める手が止まった。
大神はただの友人だ。
その問いに同じ答えを思い浮かべながらも、それをどうしようもない程に否定したがる自分の心を自覚する。
昨日から、妙に大神の事が心から離れない。
これは例のジンクスの影響なのか。それとも。
「…って、こんな考えが浮かんでること自体が既に可笑しいな。」
自嘲気味に笑いつつ。おもむろに自らの胸の中心に視線を落とす。
皮膚があり、肉があり、骨があり、その奥にある自らの心臓。
胸に手を置いてみれば静かに脈拍を打つそれは、彼女の事を考える時だけさらにその速度を、強さを増す。
「そういうことなのか…?」
一人になって考えてみると、やはりその結論にしか至らない。
「…まさかな…。」
浮かんだそれを鼻で笑って一蹴する。
我ながら影響されやすいものだ。
まだ祭りのテンションが抜けないらしい。
それに、わざわざそうだと決めつける必要もない。
結果的には後回しになるのだろう。
けれどそれで何が良いわけでも、悪いわけでもない。
急がば回れ。
無理に結論づけるのではなく、ゆっくりと向き合えばいい。
考えが纏まったところで止めていた手を動かし始める。
暫くしてようやく外れた天板を開けてみれば、そこにはやはり既定の位置よりずれている装置があった。
見てもいないのに、よく原因を特定できるものだ。改めて感心しながら装置が作動していないことを確認して、位置を戻そうと手に取る。
その瞬間であった。
「は…?」
唐突に視界が一気にホワイトアウトする。
何も見えない光の中、自らの体の存在さえあやふやな中感じる浮遊感。
下に落ちている、上に昇っている。
異なる感覚を同時に味わい、思わず地面へと手を突く。
その動作を自覚した途端に、それらは霧のように霧散して世界は色を取り戻した。
「…なんだ、今の。」
時間にすれば一瞬の出来事。
けれど、その衝撃は時間に反比例していた。
びっしょりと冷や汗に濡れた背の感覚。
大丈夫、俺の体は確かに存在する。
そして手のひらが焼ける感覚。
痛いな、けれど痛みも体の重要な触覚の一部。
「…手が焼ける?」
視線を痛みの走る右手へと向ける。
先ほど既定の位置へはめ込もうとした装置、それが今、目的通りはめ込まれた状態で手の中にある。
どうやら地面に手を突いた時に丁度良くはまったようだ。
そして、はめ込まれたそれはなぜか作動していて熱を発している。
「熱っ!!!」
ようやく仕事をした反射運動により凄まじい速度で装置から手を離す。
けれど、既に十分すぎるほどに手は焼かれていたようで。
「うわ、酷いな。」
手のひら全体の火傷。それを眺めて顔をしかめる。
確か冷やせば良いのだったか、とりあえずもう熱の放出は終わったようだが、一応天板を被せておいて水場へと足を向け…。
「透君、大きな声が聞こえたけど…。
わ、何その火傷!」
ようとした所で、キッチンまで声が届いていたのか割烹着を着たままの大神がやってきて俺の火傷した右手を見て声を上げ、目を丸くする。
「手、貸して!」
そんな彼女は慌てて駆け寄ってくると、火傷した右手を手に取った。
両手で優しく包まれるのと同時に、柔らかな光が発せられる。
徐々に引いていく痛みに、そう言えば前にも傷を治して貰ったことを思い出す。
「そっか、大神って傷も治せるんだっけか。
ありがとう、助かった。」
やがて痛みは完全に消えて、見れば捲れていた皮膚も綺麗に治っていた。
「もう、だからって怪我をしていい訳じゃないから気を付けてね。
…それで何があったの?」
流石にただの不注意であそこまでの火傷は負わない。
大神は心配そうに聞いてくる。
「あぁ、それが…。」
そんな彼女に事の顛末を説明する。
自分でも原因は分からない。ただ唐突に起こった現象だった。
「んー、何かの病気だったりするのかな。」
「病気か…、いくら身体能力が上がってもそれは如何にもならないか。」
カクリヨの病。
この世界に来てから触れたことは無かったが、ウツシヨ出身である俺が耐性のない病もあるだろう。
「あれ?…透君、ちょっとごめんね。」
頭を悩ませていると不意に大神が一言断りを入れてぐいと右手を掴んで宝石が埋め込まれている手の甲を上へと向ける。
宝石がどうかしたのか。そう問いかけようとして気が付いた。
「黒く、染まってるな。」
「前まで透明だったのに…どうして。」
今朝には変化は特になかった。
タイミングとして、考えられるとしたら。この宝石が原因であの現象が起こったと考えても不自然は無いだろう。
少なくとも候補の一つではある。
「もしこれが原因だとしたらどうしようも無いかも。
ウチ、この宝石については全然知らないし…。」
「あぁ、俺もだ。」
未だに謎に包まれているこの宝石。
今までは助けられてきたが、何時までもこれが味方であるという保証もない。
せめてこの宝石について知っている人が誰かいれば…。
「あ。」
そこまで考えて一人だけ、該当する人物が思い当たる。
「大神、神狐なら何か知ってるかも。」
大神の良く知る人物。
神狐セツカ。
彼女はこの宝石を知っている。
もしかすると、何か手がかりを掴めるかもしれない。
気に入ってくれた人は、シーユーネクストタイム。