【完結】色づく想ひ    作:ワンダーS

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どうも、作者です。

評価くれた人、ありがとうございます。

以上。


個別:大神 4

 

 翌日

 相変わらず人であふれているキョウノミヤコの通りを大神と二人で歩く。

 

 空にはさんさんと輝く太陽が熱を発していて冷たい空気を温めてくれていた。

 おかげでそこまで着込む必要も無く、比較的身軽な格好で目的地へと向かうことができている。

 

 キョウノミヤコには別に遊びに来たわけでは無い。

 一つだけ確認しておきたいことが出来て、その調査に赴いた形だ

 

 そうなった経緯としては、今朝まで時間は遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あ、透君。今ちょっと良いかな?」

 

 朝食後、今日は昨日鍛錬を少なくした分これからの鍛錬内容を考えることも含めて一日中鍛錬に明け暮れようと考えていたところに大神から声を掛けられる。

 

 「どうしたんだ?」

 

 「前に透君が拾ったこれの事、覚えてる?」

 

 そう言って大神が差し出して見せるのは、赤い宝石の嵌った一つの指輪。

 セイヤ祭の夜、ウツシヨへの穴を閉じた折に落ちていたのを拾ったものだ。

 

 かつてクラウンが持っていた身体能力が上昇する指輪に似ていたため、一応大神に渡しておいたのだが…。

 

 「もしかして、何か分かったのか。」

 

 目を丸くして問いかけるが、しかし、大神は横を首に振る。

 

 「それが調べてみたんだけど全然。

  昨日せっちゃんにこれも聞いておけば良かったよ。」

 

 失敗したという風にため息を付く大神。

 昨日右腕の宝石が変色した後、神狐へと事情の説明と、この現象について何か知らないかと言伝を送った。

 すると返事は送ってすぐ、さほど時間も掛からずに返ってきた。

 

 内容としては、やはり変色とあの現象は関連があったようだ。しかしそれだけで、これから先は特に影響も何も無いとのこと。

 

 その事実を聞いて安堵する反面、一つ気になったこともあって。

 

 「神狐、なんか妙にテンション高めだったよな。」

 

 「うん、ウチもあんなせっちゃん初めてだった。」

 

 やけに!が付いていたり、何度も同じ言葉がループしたりと、文面からにじみ出る隠しきれない程のテンションの上がりようだった。

 

 一体全体神狐は何を理解してあそこまでの反応を見せたのだろうか。

 

 「それと今度透君と一緒に帰ってこいだって。

  今までそんなこと言ったことなかったのに…。」

 

 大神から見ても神狐の見せた反応は異常なようで、意図をくみ取りかねて困惑していた。

 

 「それで、その宝石がどうかしたのか?」

 

 脱線していた話を戻せば、大神はそうだったと手をたたく。

 

 「あのね、前のクラウンの事件の時、最終的に奥までは見てなかったでしょ?

  もしかしたらあそこに手がかりがあるかもしれないから一回見に行こうと思って。」

 

 トウヤさんの救出の際に入った地下のトンネル。

 そこでクラウンとぶつかり、結果的に捉えることはできた。

 

 けれど、その際に使用したワザの代償で俺は意識を失い、結果的に俺とトウヤさんの二人が動けなくなった。その状態で奥まで調査という訳にもいかず、騒ぎも収まったということで今の今まで調査という調査ができていなかった。

 

 「確かにクラウンも奥から出てきたし、組織だって言ってたけど誰も出てこなかったよな。」

 

 クラウンも対峙した際に誰も出てこないと言っていたことから、あの時点で既に退散した後なのだとも考えられる。 

 

 「それで、念のために透君も一緒に来てもらってもいいかな。

  もしクラウンみたいな人がいたらウチだけだとまともに調査できないから。」

 

 というのも、クラウンを捕らえるには物理的な拘束手段が使えない。

 イワレで構成された身体を持つが故に、イワレごと閉じ込める事でしか動きを制限出来なかった。

 

 もしまた同じような者がいては、大神だけではそちらに集中せざるを得ない。

 

 「分かった。

  それならすぐに準備するよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな訳で現在キョウノミヤコを大神と共に歩いている。 

 

 「それにしても異変が解決してから全然変な噂は聞かなくなったよな。

  異変が起こる前とかもこんな感じで平和だったのか?」

 

 平和な街並みを見て、ふと気になり大神に問いかけてみる。

 

 俺がカクリヨに来た時には既に異変について大神達は調査を開始していた。

 そのため現在の状態が元々のキョウノミヤコの姿なのか、それとも前から事件は起きていたのか判断が付かない。

 

 「うーん、一応前からも事件は起きてたけど…。

  一番の問題はウチとフブキの力比べだったから。」

 

 「…力比べって?」

 

 若干不穏な雰囲気を感じて一瞬だけ聞くのを躊躇するが、興味が勝ってしまった。

 

 「ほら、透君が来るまではフブキと二人だったから何かと二人で遊んでたりしたんだけどね。

  その過程で山が飛んだり地形が変わったりで、色々とお偉いさんからよく文句を言われてたの。」

 

 大神は朗らかに笑いながら話してはいるが、対照的に俺は絶句していた。

 山や地形が変わるなど、そんな馬鹿なと一蹴出来ない辺り質が悪い。

 

 「…大神、俺は一般人だからな。」

 

 「あやめと普通に稽古してて一般人は無理があると思うよ?

  ウチあやめより戦闘面で強い人見たことないし。」

 

 巻き込まれてはたまらないと自己申告しておくが、無情にもそれは否定される。

 山を吹き飛ばすような猛者をして見たことがないと言わしめるとは相変わらず百鬼の底が知れない。

 

 「百鬼と言えば、キョウノミヤコで何してるんだろうな。」

 

 百鬼の話に関連して不意に彼女もキョウノミヤコにいるということを思い出す。

 夜には帰ってきてるようだが目的自体は聞いていなかった。もしかしたら途中で出会うこともあるかもしれない。

 

 「うーん、荒事じゃないのは確かなんだろうけど…。

  元々あやめって一人だったらしいから前にやってた事に戻ってるのかもね。」

 

 「まぁ、落ち着いたようだったらその時にでも聞いてみるか。」

 

 出会ってから二か月ほど、百鬼もそうだが大神や白上についても知らないことはまだまだ多い。

 一番の問題は自分の記憶すら定かではない点だが、どちらにせよ時間がないという訳でもないのだ、後々知って行けばいい。

 

 しばらく歩いていれば見える景色が人通りの多い通りから、見覚えのある路地裏の道へと切り替わる。

 裏道に入ったこともあり、人通りも少なくなり道も狭くなった。

 

 確か前にここを通ったときは他に、白上や百鬼がいたのだったか。

 その後に明人と合流しての計五人だ。

 

 今回は白上には声を掛けていない。

 そもそもただの調査だけなのだ、俺は万が一の際の保険。本来であれば大神一人でもおそらくは問題は無い。

 

 天敵がいなくなった白上は今頃お菓子を摘まみながらゲームをしているか、すやすやと穏やかに寝息を立てているのだろう。

 

 明人は言わずもがな、現在どこにいるのかすら定かではない。

 一応連絡はとれるし、同郷ということもあり良い関係を築きたいものだが。

 

 考えつつも、裏道をゆっくりと歩いて行く。

 

 「…それにしても、この辺りの道は何のために作られたんだろうな。」

 

 普通、道とはそれこそ目的地へとつなぐために作成されるものだが、現在は人が使っているようには見えない程に廃れている。つまり昔に何か使用されていたと考えるのが自然だろう。

 

 「んーと、確かイワレを扱うための修練場があったらしいよ。

  今は他に新しい場所にあるけど、昔は耐久性の高い壁で地下に作ってたみたい。」

 

 「え、そんな場所があったのか。

  まぁ、確かに街中で使えないワザもあるよな。」

 

 それこそ大神の扱う炎など、制御を誤れば火事になるのは必然だ。

 イワレの存在するカクリヨではそういったワザの制御を練習する場所も必要となるか。

 

 「街中で人に迷惑にならないなら使うのは良いんだけどね。

  とはいってもそんなに強力なワザを扱う子も現れないから、普段はあんまり使われてないの。」

 

 「へー。

  ってことは今向かってるあの地下が修練場の跡地って事か。」

 

 今思えば、百鬼も身体強化を施したうえで壁を蹴って縦横無尽に駆け回っていた。

 並みの壁なら確実に崩れているところだが、そういうことならそこまでダメージが無かったのも頷ける。

 

 「というか大神もよく知ってたな。

  相変わらず博識だことで。」

 

 何と無しに口に出しただけで、正直答えが返ってくるとは思っていなかった。

 本当に知識の幅が広い。

 

 「ありがと。

  博識といっても昔色々調べたことがあるだけなんだけどね。」

 

 薄っすらと笑みを浮かべつつ応える大神。

 

 それを博識というのだと思うが。

 大神も変な謙遜をする。

 

 「それに、肝心の知りたかったことは何も分からなかったし…。」

 

 ぽつりと呟く大神の顔には自嘲が混じっていた。

 

 「…知りたかったことって?」

 

 そんな顔をされては流せるものも流せない。

 気になり問いかければ、大神はしまったという風に顔を歪ませる。

 

 「あー、ちょっとね。

  昔気にしてただけで、今はそこまで知りたいわけじゃないから。気にしないで。」

 

 あまり話したくはないようで、大神は誤魔化すように笑みを浮かべながら手を振った。

 

 「…そっか、分かった。」

 

 最近、こういうことが増えた。

 いや、距離が近づいてきて気づくことが増えたというべきか。

 

 明らかに大神は何かを隠している。何かを抱えている。

 

 それを話されない、ということはつまり俺ではどうしようもない内容で、大神にとって俺はそこまで踏み込むことの出来るような存在ではないということだ。

 

 (…あれ。)

 

 それを意識した途端、ずきりと不意に胸に痛みが走る。

 変な感覚だ、胸が痛むなど。それではまるで…。

 

 「透君、大丈夫?」

 

 「え?」

 

 大神に声を掛けられて、ようやく自分が考え込んでしまっていたことに気が付く。

 顔を上げれば、そこは既に地下へと続く梯子の目の前であった。

 

 「あ、あぁ、悪い。ちょっとボーっとしてた。」

 

 頬をたたいて思考を切り替える。

 考えるのは後にして、ここから先は流石に目の前の事に集中するべきだ。

 

 まず光源を下に落としてから大神、俺の順で梯子を下りていく。

 

 梯子の先は薄暗いトンネルとなっており、大神の出した炎が無ければそれこそ暗闇に包まれて何も見えないだろう。

 

 「前はこの先にトウヤ君がいたんだよな。」

 

 少し先にある広間。

 そこに番人として配置されていた化けもの。

 

 それこそがケガレによって変化したトウヤさんの姿だった。

 

 「うん、正直前は今ほど気楽に歩けなかったから印象に残ってる。」

 

 そう言う前を歩く大神の表情は伺えない。

 

 「透君。」

 

 「ん?」

 

 するとぴたりと立ち止まった大神に名を呼ばれる。

 同じように立ち止まれば、くるりとこちらに振り返る大神と目が合った。

 

 「改めて、あの時はありがとね。 

  透君がいなかったら、多分ウチは…。」

 

 そこで区切られた言葉の先は容易に想像ができる。

 

 普通、ケガレによって変質したヒトが元の姿に戻ることは無い。

 一度変わってしまったらそのままなのだ。

 

 最後の未練のみにしか執着できなくなったそれへの救いはただ一つ。

 

 あの時は都合よく右手の宝石に助けられて、イワレやケガレを封印するワザを使えるようになったことでトウヤさんは今も元気でヨウコさんの元にいる。

 

 この世界においてイワレや特にケガレに干渉できる者はほとんどいない。

 その事実が、ケガレを事前に祓うことの重要性へと繋がっている。

 

 「運が良くて、それに加えて大神達が信じてくれたからだ。

  結果的にうまくいったから良かったけど、今思えば突拍子も無いことだったのに。」

 

 何の脈絡もなく、信じてくれと言っただけなのに、信じて時間を稼いでくれた。

 あれで失敗していたら目も当てられなかった。

 

 「それはもう、透君の顔に絶対助けるって書いてあったから。」

 

 「…嬉しいことなんだけどな。

  素直に喜べないのは何故だろう。」

 

 前から言われているが、表情に出やすいのはどうにかならないものか。

 しかも、その悪癖が役に立つこともあるのだから、もはや矯正する必要も無いのかとすら思える。

 

 「でも透君のそういう所、ウチは結構好きだよ。」

 

 「へ?」

 

 思わぬところから飛来してきた弾丸が直撃して思わずぽかんと口を開けて変な声を出す。

 

 「ほら行こ、透君。」

 

 そんな俺を置いて、気にした様子もなく大神はさっさと先へと進んでいってしまう。

 慌ててその背を追いかけるが、内心混乱していた。

 

 大神の様子からしてそこまで大きな意味は無いのか、それとも意味はあるのか。

 どう受け取ればいいのか分からず、思考が纏まらない。

 

 ふわふわとした思考を宥めつつ、大神の背を追う形で歩いて行けば、例の広間へと出る。

 前回とは違い番人らしき影は無い、その事実に若干の安堵を覚えた。

 

 この辺りから修練場になっているのか、頑丈なはずの壁だったがところどころひびが入っている様にも見える。

 ただの経年劣化だとは思うが、不意に百鬼が足場にしていたことを思い出す。

 流石に関係はないと思いたい。

 

 自らの思考を否定しつつ、広間の反対側のあるもう一方のトンネルを見る。

 クラウンの口ぶりからしてあの奥に何かがあるのは確実だ。

 

 気を引き締めて大神と目を見あわせ、一つ頷いてそのトンネルの奥へとさらに進む。

 

 鬼が出るか蛇が出るか。

 

 歩いていれば、再び開けた場所へとたどり着く。

 先ほどの広場と同等かそれ以上の大きさ。同じように向かい側にトンネルがある。

 

 そしてその広間の全貌を目にして、浮足立っていた感情がサッと凪のように沈んだのが分かった。

 

 「何…これ。」

 

 ぽつりと呟く大神も、目の前の光景に目を見開いて口に手を当てる。

 

 恐らく四角形の広間。

 その壁にびっしりと残された赤い模様。

 

 いや、模様ではない。

 これは明らかに血痕だ。時間が経っているのか既に乾ききったそれは四方、床、天井に至るまで続いている。

 まるでこの場で集団が惨殺でもされたかの様な凄惨な光景を前に、茫然として立ち尽くす。

 

 そしてそれを見てようやく理解した。

 

 『私以外がそこから出てくることは無いでしょう。』

 

 その言葉の意味。

 クラウンが俺たちの前に姿を現した時には既に、組織はクラウンの手によって壊滅させられていたのではないか。

 

 だが、何故。

 わざわざそんなことをする理由は何だ。

 

 「…一応、何か手がかりが無いか探してみよう。」

 

 「そうだな…。」

 

 今決めつけるのは早計だ。

 まずはここに来た目的を果たそう。

 

 炎に照らされた血に固まった床を踏みしめて辺りを見て回る。

 

 しかし、探せども探せども何も見つからない。

 そして気になるのは、血痕以外に何も無いという点。

 

 血は体に流れるものだ、ならその体は何処だ。

 それとも血液だけを用意してぶちまけたのか、いや、それこそ無意味な行為の筈だ。 

 

 「…調査のつもりが、これじゃ謎が増えただけだな。」

 

 「クラウンが消えてなかったら聞き出せたかもしれないんだけど。

  もっと早く来るべきだったかも。」

 

 向かい側のトンネルの先はそのまま地上へと続く梯子までつながっていた。

 一応人一人が入れる程度の横穴を見つけたが、その先にも手がかりらしきものも無かった。

 

 もう一度だけ見て回りつつ、そろそろ調査を切り上げることにする。

 

 大神の言うようにせめて一人でも事情を知る者がいればいいのだが、占星術を使用したとしても見つけ出すことは難しそうだ。

 

 降りてきた梯子の場所まで戻って、梯子を昇り地上へと戻ってくる。

 

 「結局血痕以外には何も見つからなかったね。」

 

 「だな、その唯一の手掛かりも指輪には繋がらなさそうだし。」

 

 クラウンの持っていたものと、ウツシヨとカクリヨをつなぐ場所に落ちていた二つの指輪。

 全く同じ形状のそれらは何の関連があるのか。

 

 最終的に成果は得られなかった徒労感はやはり拭えない。

 振り出しに戻った気分だ。

 

 「この後はどうする。

  他の場所でも当たってみるか?」

 

 まだまだ一日は長い、他の場所を調査する余裕はまだ残っている。

 

 「んー、そうだね…。

  それじゃあ…あ。」

 

 今日の方針について何か話そうとして、不意に大神は途中で何かに気づいたように視線を固定して言葉を区切る。

 

 「ん?」

 

 何を見ているのか疑問に思い、その視線を辿れば路地の細道、その端の辺りに狐の顔をした半透明の人影を見つける。

 

 見覚えのあるその姿は、確かイヅモ神社で見かけたシキガミの姿に似ている。

 

 「…なぁ、あれって神狐のシキガミだよな。」

 

 「うん、どうしたんだろ。」

 

 確認するように大神に問いかければ、肯定が返ってくる。

 やはり間違いは無いようだ。

 

 シキガミはこちらが見ていることに気が付いたのか、おもむろに顔を上げるとこちらへと近づいてくる。

 

 『なんじゃ主ら!

  もうデートとやらに出かける様な仲になっておったのか!』

 

 「うわっ」

 

 近づいてきたシキガミから突如聞こえてきたそんな神狐の大音量な声に思わず驚いて肩が跳ねる。

 

 「ちょっと、せっちゃん。

  音大きいよ。」

 

 『む、久方ぶりに使うと調節が難しいのう。』

 

 大神に指摘されると、シキガミ越しに『えっと…、これがこうで…』と何かをいじっているような神狐の声が聞こえてくる。

 

 「大神、これって…。」

 

 「シキガミを使った通話だよ。

  今シキガミ越しにせっちゃんのいるイヅモ神社に音声と映像が送られてるの。」

 

 苦笑いを浮かべる大神の解説に神狐に対してもはや驚嘆を通り越して呆れの感情すら湧いてくる。

 なんでも出来る、というのは比喩でもなんでもないのかもしれない。

 

 『うむ…このくらいかの。』

 

 やがてそう時間も掛からずに神狐は調節を終えたようで適切な音量となって再び声を上げる。

 

 「それで、いきなりどうしたの?

  普段はシキガミ通話なんて使わないのに。」

 

 『先日の文にあった透の宝石の様子を見ておきたくての。

  シキガミを透に送ったと思ったらキョウノミヤコで二人きりでいる主らの下に辿り着いて驚いておった所じゃ。』

 

 シキガミ越しでも分かるほどに楽しそうな神狐の声、今頃イヅモ神社にいる神狐の顔がにんまりと歪められているのが目に浮かぶようだ。

 

 何をそんなに楽しんでいるのか疑問に思いながら、見たいと言う右手の甲の宝石をシキガミの目の前辺りに掲げてみる。

 

 『ほほう…うむ、やはり間違いない様じゃのう。』

 

 「テンション上がり過ぎだろ、そんなに嬉しいことなのか?」

 

 声だけで今にも飛び跳ねてしまいそうな神狐に戸惑いつつ問いかける。

 この宝石について知っているようだが、黒く染まっただけで何が違うのか見当もつかない。

 

 『まぁの。

  理由までは話せぬがやはり嬉しいものなのじゃよ。』

 

 神狐が話そうとしない理由については以前に聞いているが、その割には何とも楽しそうにしている。

 

 「もしかしてそれだけの為にわざわざシキガミを飛ばして通話までしたの?」

 

 『そうじゃよ?

  本気を出せば本体で来れるが、流石にそれは自重しておいたのじゃ。偉いじゃろう。』

 

 姿は見えないが、胸を張ってドヤ顔を決めていることだろう。

 声だけで良くここまで感情を伝えられるものだ。

 

 大神もそれは同じようで、困ったような笑みを浮かべている。

 

 「…あ、そうだった。

  ねぇせっちゃんまた聞きたいことがあるんだけど。」

 

 『?なんじゃ。』

 

 ふと思い出したように大神は例の指輪を取り出してシキガミの前に差し出す。

 

 「この指輪なんだけど、何か知らない?」

 

 『……。』

 

 大神の質問に先ほど同様に軽快に答えるのかと思えば、予想に反して神狐は一向に返事を返さず、じっと黙り込んでしまう。

 

 「…せっちゃん?」

 

 『主ら、それをどこで見つけたのじゃ。』

 

 声の雰囲気が明らかに変わる。

 真剣なその問いに思わず顔を引き締める。

 

 「クラウンっていう奴が持ってたのと、もう一つキョウノミヤコの近くの山で拾ったものがある。」

 

 『…なるほどのう。』

 

 それきり、神狐は考え込むように再び静かになる。

 やはり知っているようだ、今回は話してくれるのかどうか。

 

 しばらく待っていれば、シキガミは顔を上げてこちらへと真っ直ぐ向ける。

 

 『明日、早朝に迎えをそちらに遣わす。

  詳細は直接話すこととする、拒否権は無しじゃ。』

 

 

  





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