どうも、作者です。
「はー、ようやく一息付けたね。」
ぼすんと音を立てて大神がベットへと腰掛ける。
イヅモ神社にある温泉宿の一室、以前利用した時と同じようなそこで話の合間の休憩を取る。
大神も既に諦めたのか、それとも慣れたのか同室であることに対しては特に触れようとはしなかった。
「透君は座らないの?」
「ん、あぁ、座る座る。」
ずっと立っているというのも不自然か。
大神に促されてもう一つの方のベットに腰掛ける。
先ほど話を聞いてから思考が止まらない。
分からない事を考えても仕方ない。そう何度自分を諭しても先に進もうとする。
「…。」
考え込んでいれば、不意に目の前で無言のまま大神が立ち上がる。
どうかしたのかと不思議に思って見ていれば、大神はこちらへ向かって歩いてくると、すぐ隣へと腰を下ろした。
形としては同じベットに並んで腰かけることとなる。
どうしたのだろうか、大神の意図が読めない。
「大神?」
「透君、ここ。」
そう言って、大神は自らの太もも辺りをぽんぽんと叩く。
いや、ここと言われても。
「んー、…そいやっ。」
戸惑い、固まっていれば焦れたのか大神のそんな掛け声とともに、彼女に頭を優しくつかまれ、ぐいと引っ張られた。
唐突な行動にろくに抵抗もできまま、横へと体が倒れる。
そして側頭部に感じる柔らかな感触。
呆然としつつ上を見上げれば、大神と目が合う。
「…なんで膝枕?」
「えっとね、なんだか透君の様子がおかしい気がして。
何か気になる事でもあった?」
気になること、そう問われてドキリと心臓が跳ねた。
正直、無いと言えば嘘になる。
けれど、何故それを察することが出来るのだろう。もはや大神に隠し事など出来ないのではないかとすら思えてくる。
「あー…、でも、あくまで推測でしかないから。」
「それでも、聞かせてくれる?」
そう優しく微笑む大神を前に、誤魔化すことは出来なかった。
ちょっとした思い付きだ。
その筈なのに、そうだと確信しそうになってしまう。
こういうのは、良くない。そう分かっている、なのにそれを元に思考が進んでいく。
せめてもの逃避に目元を腕で覆って口を開く。
「さっきの命石の話。
もしかして、クラウンが持っていたものとセイヤ祭で拾った指輪は同じなんじゃないかって。」
現状、命石は一つしかない。
なら整合性を取るためにはそう考えるのが自然なのではないか。
大神は黙って話を聞いてくれる、そのせいかするすると思考が言葉に変換されていった。
「指輪はシラカミ神社でずっと保管してた。
だから途中で偽物と入れ替わった訳じゃない、入れ替わるとしたら手に入れた時しかない。」
クラウンとの戦闘後、意識を失う直前に指輪が地面へと落ちていたのを見た。
しかし、他の三人がそれを見ていたとは限らない。
「なぁ、大神。
あの時指輪を拾ったのは、誰だ?」
「…。」
察しの良い大神の事だ、既に俺の考えに見当は付いているのだろう。
だから、彼女は何も答えない。
けど、その行動が何よりの答えだった。
「…友人を疑うとか、俺は最低だ。」
「そうだね…、透君は最低だよ。」
自分から言っておいて何だが、他人から言われると意外と心に来る。
自嘲気味に笑みを浮かべる。
「でも…。」
大神が言葉を続ける。
「そんな透君だけど、ウチは好きだよ。」
腕をずらせば、柔らかな笑みを浮かべてこちらを優しく見守る大神と視線が交差した。
「…もうその手には乗らないからな。」
「透君、顔真っ赤。」
揶揄うようにくすくすと笑う大神から顔を隠すように再び目元を隠す。
最近やけにこんな形で攻められることが増えた気がする。
しかし、今回は少し毛色が違う。
前までは、それこそ昨日も動揺こそしたがすぐに切り替えは出来たはずだ。
けれど今はどうだ。
同じ言葉の筈だ、それなのにいつまでも顔から熱が引こうとしない。
状況の違いもあるだろうが、多分それだけではない。
「意外と意地が悪いな、大神は。」
「いきなり結婚しよう、なんていう人よりかは大分マシだとウチは思うけどね。」
せめてもの意趣返しにと思ったが、どうやら自業自得なようだ。
流石にこれ以上この羞恥と居たたまれなさには耐えられそうもない。
「大神、そろそろ…。」
「駄目。」
話終えたことだし、と体を起こそうとしたところで、大神に抑えられて再び膝の上に戻る。
「…なんで?」
純粋な疑問が口をついて出る。
もう用は済んだはずだ、大神も足が痺れてくるのでは…。
「透君が可愛いから、もっと見ていたいかなーって。」
「…。」
今日の大神は少しおかしい。
こんな事を言われて照れるなという方が無理な話だ。
「…勘弁してください。」
「ふふっ、だーめっ。」
結局、大神は昼食の時間になるまで解放してくれず。中々現れない俺たちを探すシキガミが部屋を訪れるまで、この時間は続いた。
昼食後、俺と大神は改めて神狐から命石について情報を教えて貰った。
主な内容は命石の製造方法についてであった。
キョウノミヤコの地下で見たあの血痕塗れの広間、それを聞いた神狐は製造法までは話すつもりは無かったと言いながらも話してくれた。
要点を纏めると、まずイワレを持った者の死後、残ったイワレはカクリヨに還元されるわけだが一定以上の量が集まるとその死体を分解して一つの結晶となるらしい。
その結晶が命石なわけだが、この現象には抜け道があるようだ。
仮に一人の人間が命を落としたとして、そのイワレが一定量に達してなければそのままカクリヨに還元される。しかしここで一つの命石に対して一人の人間でなければならないという決まりはないとのことだ。
つまり複数人が一定範囲内で命を落とした時、イワレはその総量で計算される。そして、その総量が一定以上であった場合その範囲内の該当する死体全てを対象にして一つの命石が生成される。
このことから推測されるのは、あの広間でそれが起こったのではないかということだ。
故にこそ、血痕のみが残って死体は一つたりとも見つからなかった。
逆にこれ以外考えられない。
奇しくも、自らの推測を補強する事実が発覚した。
大神は心配そうにこちらを見ていたが、大丈夫だと彼女には伝えておいた。
そして続けられた神狐の話。
最後に聞いたのはその命石で何が出来るのか。
ひとまず身体能力のブースト、これは確定だ。
その他には普通使えないワザを使用出来るようになるなど。
極めつけは、命石は内部のイワレの消費量こそ大きいもののカクリヨとウツシヨを繋げる穴を開けることも可能であるらしい。
セイヤ祭の日に開けられたあの穴は、拾った命石で開けられたもので間違いは無さそうだ。
だが何故通ることが出来なかったのかまでは神狐でも分からないとのこと。
「と、まぁそんなところじゃな。
他に聞きたい事はあるかの?」
話終えた神狐にそう問われるが、聞きたいことは十分に聞けた。
「俺は大丈夫だ、大神は?」
「ウチも無いかな。
クラウンが何でそんなものを作ったのかは気になるけど、これは本人しか分からないし。」
同じように大神に話を振るが大神もこれ以上聞こうとはせず、この話題に関してはここまでとなる。
それにしても、命石、唯一見つかったウツシヨへの帰還手段がこれではウツシヨとカクリヨを行き来する手段を見つけることが出来る気がしない。仮に見つかったとしても、同じように誰かを犠牲にしてまで帰ろうとも思えない。
「さて、それじゃあそろそろ…。」
「む?
何じゃ、帰るつもりでおったのか。」
話も終わったところでシラカミ神社へと変える流れかと思い立ち上がったところ、それを口にすれば神狐がそんなことを言い出す。
逆にどうして帰らないと思っていたのだろう。
「え、けど今日ほとんど手ぶらで来たし…。
大神もそうだよな。」
「うん、ウチも今日帰るつもりだったんだけど…。」
前回とは違い、着替えも何も持ってきていない。
それは大神も同じようで、神狐の考えを読みあぐねている。
「むしろ、今日主らを呼んだのはここからが主題じゃ。」
「ここから?」
てっきり話をするために呼ばれたものと考えていたがどうやら違うらしい。
ただそうなると神狐の目的が一層見えてこない。
「せっちゃん、じゃあなんでウチたちを呼んだの?」
「うむ、それはのう。」
大神に聞かれた神狐はそう言いながら、ぴしりと指を真っ直ぐこちらへ突き付けた。
「透、主に用があるのじゃ。」
「…俺?」
まさか自分の名前が出てくるとは思わず唐突に矛先を向けられて驚きつつ、確認するように返せば力強く神狐は頷いて見せる。
「うむ、昨日に主を見てから気になっておったのじゃがな。
どうにもイワレの流れに変化があるのじゃよ。」
そう言われて思わず自らの体を見下ろす。
イワレに変化がある、そう言われても自覚するような変化があるわけでは…。
「あ、もしかしてこれの所為か?」
ふと思いつき、自らの右手の甲にある今や黒く染まった宝石を指さす。
この宝石に変化があった時、同時に妙な感覚に陥った。
あれでイワレにも影響があったのだろうか。
「恐らくのう。
妾も問題ないと思っていたのじゃがな。」
神狐からしても予想外であったようだ。
「透君のイワレに何があったの?」
「そうじゃな、言葉にするのは難しいのじゃが…。
あえて言うなら不安定になっておるようでな。」
大神の問いに答える形で神狐は少し考え込むそぶりを見せてそう答える。
「不安定って、つまりどういうことだ?」
いきなりイワレが不安定と言われても、それがどういう状態なのかしっくりこない。
一応身体強化など、基本的なものは問題なく使えていたことは確かだ。
「むぅ、何と言ったらいいのかの…。
今現在、主の体を流れるイワレが一時的に増大しておるのじゃ、じゃからその分扱いが難しくなっておっての。普段通りの使い方なら問題は無いじゃろうが、消費の大きなワザでも使えばその効果が暴走する可能性がある、ということじゃ。」
「暴走か…。」
知らないうちに中々危険な状態にあったらしい。
消費の大きいというと、イワレの封印などか、もしかすると消費はそこまで大きくないが鬼纏いですら使い方次第では暴走するのかもしれない。
「そういう訳で、しばらくすれば自然と体が加減を覚えるじゃろうが、それまではあまりワザは使わぬようにの。
今日の所は温泉に入ってイワレを調整すると良い。」
なるほど、イヅモ神社の温泉の湯はイワレに作用する、それでわざわざイヅモ神社に呼び出したのか。
「そっか…、分かった。
じゃあ、お言葉に甘える。」
そんな状態で何もせずに帰って暴走しました、では目も当てられない。
そう言うことなら、ここは素直に従っておいた方が良いだろう。
「うむ、それでよい。
二人の浴衣も用意してある故、その辺りは心配はいらぬぞ。」
神狐はそれを聞いて満足そうに頷いている。
何とも準備が良い。
まぁ、最初からそのつもりだったようだから不自然ではないな。
「じゃあウチはちょっとフブキに言伝だけ飛ばしてくるね。」
「あぁ、頼んだ。」
そう言って外に向かっていく大神の背を見送る。
思えば今の時間帯は百鬼も出かけているし、シラカミ神社には白上しかいないのか。
「…して、透よ。」
「ん、どうした?」
今頃白上は何をしているのだろう、そんなことを考えていた所に神狐から声がかかる。
目を向けてみれば、神狐は妙にニヤニヤとした笑みを浮かべている。
「主、ミオのどんなところを好きになったのじゃ?」
「すっ…!?」
落ち着いていた筈なのに、急速に顔に熱がこもるのを感じた。
その狼狽ぶりを見て、神狐は楽しそうにからからと笑い声をあげる。
「…なんでそう思うんだよ。」
大丈夫、これはただのカマかけだ。
ここでぼろを出さなければまだ誤魔化しは効く。
「それはもう、ほれ、主の右の甲の宝石が黒くなっておるじゃろう。
その宝石は意中の相手を示しておる。主の周りで黒と言えば…のう。」
その説明に、既にどうしようもないことを悟る。
なるほど、どうやらこの宝石を見た時点で神狐にはバレていたらしい。
道理であそこまでテンションが上がっていたわけだ。
「…てか、あの時から好きになってたのかよ…。」
「なんじゃ、自覚したのは染まるより後じゃったか。」
石が黒く染まったのが確か二日前、その時から既に俺は大神に惚れていたらしい。
原因があるとしたらセイヤ祭か。あそこで意識して、その翌日には惚れていたと。
本当にジンクスは存在するのかもしれない。
「…我ながら単純すぎる。」
自分に対する落胆というか、単細胞ぶりに思わず顔を押えてしゃがみ込む。
「ほほう、恋愛しておるようじゃのう。
ちなみにそれなら主はいつ自覚したのじゃ?」
「さっき。」
つい先ほど大神に膝枕をされて、あのやり取りを得て。
認めざるを得なかった。
何となく感じていた感情が確信に変わってしまった。
「…主ら、二人きりで何をしておったのじゃ。」
しかし、何を勘違いしたのか神狐は戦慄したように声を震わせる。
「違うから、ただ話をしてただけだから。」
そこに膝枕という単語は付くが、それだけだ。
だが神狐も無駄に鋭いようで本当かのう、などと呟きながら疑いの視線を送ってくる。
「じゃが…うむ、妾としてはいくら主らが乳繰り合おうと構わんがの、むしろ推奨するのじゃ。」
「そこは止めてくれ、頼むから。」
そんなもの推奨されたところで居たたまれないだけだ。
どうしたものかと考えていたところ、白上への連絡を終えた大神が帰ってくる。
「あれ、何かあった?」
「いや、何でもないです。」
俺と神狐の様子を見て疑問に思ったのか大神に問われるが、無論本人に話せるはずもなく取り繕って応える。しかしそこは鋭い大神さん、何事かを感じ取ってか軽く眉を顰めるが、それ以上追及してくるようなことは無かった。
その事実に安堵の息を吐いていれば、神狐はくすくすと小さく笑う。
これは厄介な相手にバレた、そんな確信を得てしまう。
「さてと、妾はそろそろ行くとしようかの。
ミオと透よ、何かあればシキガミに申し付けると良い。ゆっくりするのじゃぞ。」
そう言って、神狐は再びどこかへと去って行ってしまう。
毎度思うが、彼女はいったいどこへ行っているのだろうか。
「大神も神狐がどこに行ってるのか知らないんだよな。」
「うん、ウチも知らない。
…それより透君。」
名を呼ばれて大神の方へと視線を向ければ、思っていたよりも近くにあった彼女の顔に思わず仰け反る。
「せっちゃんと何話してたの?」
「え、何って…、世間話?」
回避したと思ったら再び問い詰められて動揺を隠せないままに誤魔化しを口にする。
「嘘、透君の頬ちょっと赤かった。」
当然その程度で騙されてくれるはずもない。
しかし、話す訳にもいかない。
なら俺に出来ることは一つだ。
「あ、あー、そうだ温泉に入りに行かないか?
ここの温泉、俺好きなんだよなー。」
「ちょっと、透君!」
ジッと見つめてくる彼女から目をそらしつつ、我ながらかなり棒読みな演技で宿へと足を向ける。
これ以上問い詰められるのは精神衛生上よろしくない。
「…もう。」
ぷくりと頬を膨らませた大神は小さくそうぼやく。
彼女への恋心を自覚してから数時間、既に幸先が不安になる一幕であった。
気に入ってくれた人は、シーユーネクストタイム。