自分で確認してこれ違うなって思ったことは修正するかも。足りなかったら足すみたいな。
以上。
キョウノミヤコの調査から三日が経過した。
あれから二日ほど骸骨霊が再び出現しないか様子を見るも特に何か起こる事もなく、この件については解決したと見て、俺達はシラカミ神社へと帰還する事となった。
そうして改めてシラカミ神社での生活が開始された訳だが、早くも周囲にはいくつかの変化が起こっていた。
まず、キョウノミヤコで出会った少女、百鬼が新しくシラカミ神社の居候仲間に加わった。彼女は元々他の場所に拠点を置いていたようなのだが、一緒にカクリヨの異変を調査するにあたって別々の場所に居るのも効率が悪いという事で、共に生活することとなったのだ。
次に、俺の身体にイワレが宿りだした。
右手の宝石が骸骨霊を吸収して、百鬼と対峙したあの夜に扱えるようになったこの力だが、時間の経過で失われるような事も無く、今尚自分の体内に意識を向けて見れば明確な力の流れを知覚できる。
そう簡単に身につく力ではないと聞いていたイワレ。一応大神や白上にも事情を話して使えるようになった原因について話し合ったのだが、やはりこの宝石によるものだと結論づけられた。
あの骸骨霊はイワレを吸収しているように見えたが実際にはイワレの封印に近しいものであったようで、何らかのイワレを封印したその霊を吸収したことでイワレが溜まったのではないか、とは大神の知見だ。
しかしイワレを失ったアヤカシの男性にも話を聞きに行ったが、その時には既に男性のイワレは戻っており、宝石が吸収したものの中には含まれていなかったようだ。これは閃光を放つ刀についても同様で、抜くたびにピカピカと光っている。
なら、俺は何のイワレを吸収したのか。正直この点に関しては揃ってお手上げである。大神の話もあくまで考察であり、実証がある訳でも無い。
霊も消えた今原因は迷宮入りとなったが、何はともあれ結果として俺も立派なアヤカシの一員となってしまった。
そして、最後にもう一つ。
「じゃあ始めよっか、透くん」
「あぁ、よろしく頼む」
シラカミ神社から少し離れて、木々の開けた草原にて百鬼と向かい合う。両者の手に握られているのは木刀。ひゅるりと吹いた風に目の前の少女の長髪がなびくのと同時に地を蹴った。
互いに振り下ろした木刀同士がぶつかり、カンと軽快な音が鳴る。
イワレを扱えるようになったと分かってから、俺は百鬼に稽古を付けて貰うこととなった。
当初は戦闘など出来なくとも何とかなると思っていたし、そもそもそこまで物騒な事件だとは思っていなかった。しかし先日のキョウノミヤコの件でイワレを持つ者の力の強大さを実感して最低限でも自分の身を守れる程度の力は必要だと思い、百鬼に頼み込んでみた所「良いよー」と思いの他軽く了承されて今に至る。
目の前で木刀を振る百鬼が先日とは異なりその瞳に赤い光を灯しておらず、威圧感も感じさせないのはあくまでこれが手合わせ、模擬的な木刀の打ち合いである為だ。
てっきり刀の振り方からゆっくりと教えて貰えると思っていただけにいきなり手合わせと言われた時は驚いたが、実戦の中で問題点を見つけるのが彼女なりのやり方なのだろう。
打ち合いが開始してから一分が経過した。
かなり打ち合っているが、それでも対応できる程度の力で段々と体も温まって来るのを感じる。
二分が経過。
気のせいか、少しずつ百鬼の動きの速度が上がってきている。まだ許容範囲内だが、流石に疲労が溜まってきて息が切れてきた。
五分経過。
百鬼の瞳に見覚えのある赤い光が灯りだし、その身体には赤いオーラのようなものを纏っている。流石にこのままでは対応できないと以前と同じようにイワレによって身体能力を強化するが、既に彼女の動きを目で捉えるのすら難しい。
十分経過。
何事かを呟いた百鬼の背後に鎧武者が顕現した。半透明なそれは背後霊とでも言えば良いのか、それが出現した途端彼女から感じる威圧感に脳が警告を発してくる。
「百鬼、ストップ、それ以上は無理だ!」
すぐ近くまで迫った身の危険に慌てて声を上げれば、ぴたりと百鬼は動きを止めて纏っていたオーラと背後の鎧武者も消えていった。
「ん、一旦休憩にする?」
「あぁ、そうさせてくれ」
彼女が木刀を降ろしたのを確認してから、俺は思わず膝に手をついて酸素を求めて乱れた呼吸を整えようと深呼吸を繰り返す。それとは対照的に、目の前の少女は息一つ切らさずに手に持った木刀をくるくると弄びながら不思議そうな顔でこちらを見ていた。
「透くん、大丈夫?」
「大丈夫だ…。けど、ちょっと時間をくれ」
それだけ返して額を伝う汗をぬぐい、ゆっくりと息を整える。吹く風の涼しさを感じつつ、落ち着いたところでようやく顔を上げると百鬼は待ってましたと言わんばかりに木刀を構え直した。
「いや違う、再開するとかじゃなくて。できれば刀の扱いとかを先に教えて欲しいんだが…」
百鬼のやり方に従おうと思っていたが、しかしこちとら刀を握って数日の初心者である。最初から何となくで刀を扱ってはいるが、そろそろ正しい扱い方を教えて貰いたい。
それを伝えると、百鬼は完全に意表を突かれたのかキョトンとした表情をその顔に浮かべた。
「え、透くん今まで刀使ったこと無かったの?」
「そうだけど…、気づいてなかったのか?」
思わず聞き返すと、百鬼は「うん…」と呆然としたように頷くとしげしげとこちらに視線を向ける。
「見た限り問題なかったし、大丈夫だと思うけど…」
「…んー、まぁ百鬼が言うんだったらそうか」
素人目に見ても百鬼が刀の扱いに秀でている事は分かる。それ程に彼女の振るう刀の軌跡は洗練されていて綺麗だった。そんな彼女が問題ないというのだ、偶然自分のやり方が正解だったのだと納得するほかない。
だから百鬼もこうしていきなり手合わせから入ったのだろう。しかし当の彼女は「あれぇ…?」と未だに不思議そうに首を傾げている。
「…本当に、余と会った時に初めて刀を振ったの?」
「あぁ、事前に教えて貰ったのは刀の抜き方だけだな」
確認するように問いかけてくる百鬼に、頷いて肯定を示す。
あの時は刀の能力があればそれで良かったし、そもそも振るう意味自体がそこまでなかった。そんな中まさかイワレを扱えるようになるとは、完全に想定外の事態だったのだ。
「一応聞いておきたいんだけど、何か細かい所で気になる所とかないのか?あれば変に癖がつく前に治したい」
こういうのは最初が肝心だ。間違えたやり方で慣れてしまうと、その期間が長ければ長い程修正が難しくなる。
そう思って聞いてみたのだが、何故か百鬼は表情を固くする。
「百鬼?」
「あ…うん」
呼びかけるとそんな曖昧な返事が返って来る。一瞬逡巡するように視線を泳がせた彼女は、しかし決意するように一度目を閉じてからゆっくりと口を開いた。
「…じゃあ、身体強化をしてみて?」
「ん…分かった」
予想外の点を指摘されて反応が遅れるが、すぐに言われた通りイワレの流れに意識を向けて、身体の中心から浸透させていく。
(なんか、違うな…)
感覚が研ぎ澄まされて、力が沸き上がる。先ほどの手合わせの時と同じ感覚、けれど改めて実感してみると何処かキョウノミヤコで使用した時とは感覚が異なる気がした。
「出来たけど、どうだ?」
この違いが問題点なのだろうかと百鬼へ確認を取るが、しかし予想外に百鬼は頷いて見せた。
「うん、大丈夫。…じゃあ、次はもう一つ上でお願い」
「もう一つ上…」
何の事だろう。見当もつかないまま何度か試してみるが同じ身体強化を繰り返すばかりで変化は無い。
「悪い、俺には出来ないみたいだ」
「え、でも余と戦った時は出来てた」
真剣な目をした百鬼に言われて、当時の事を思い返してみる。あの時は全身を炎が駆け巡るような感覚を覚えた。確かに、今の身体強化ではその感覚は無くただイワレが身体中を巡っている様な感じだ。
だがそれが分かったところで、どう再現すれば良いのかが分からなければ意味が無い。
(あの時は右手の宝石から…)
と、試しに宝石を起点にしてイワレを流そうとするも、やはり変化は無かった。
「…透くん、イワレを流すんじゃなくて使って消費するみたいな感覚で、もう一回やってみて」
それから一拍置いて、目に赤い光を灯らせて百鬼が提案してきた。使って消費、その言葉を聞いて、それだと妙な確信が芽生えた。
目を閉じ、集中して右手の宝石へ意識を向ける。今度は不思議と何をどうすれば良いのか、直感的に理解できた。
(ここからここに…)
感覚に導かれるがままにイワレを扱うと、やがて宝石は熱を帯び始め、血液に乗るようにして炎の様な熱は全身へと伝播していく。
「…百鬼、これであってるか?」
出来た、そんな確信の元ゆっくりと目を開き百鬼の様子を伺う。
「うん…あってる」
てっきり満足そうな表情を浮かべていると思った彼女は、けれど悲しみと喜びの入り混じった様な複雑な感情が顔に浮かんでいた。
「あ、ごめん、ちょっとびっくりしちゃって。…見間違いかもって、思ってたんだけど…」
そう話す百鬼は見るからに動揺している。思えばキョウノミヤコで意識を飛ばす前、百鬼は何かを見て隙を見せていた。恐らくこれを見たからだと目の前の彼女を見て分かる。
少し落ち着いてきたのか百鬼がそっと息を吐くと同時、身体強化を発動させた彼女から威圧感を感じる。
「これが普通の身体強化で、アヤカシになったら誰でも使えるような基本的なワザ。その上が…」
そこで言葉を区切るった百鬼は赤いオーラを纏い、更に彼女から感じる威圧感が増した。そうして開かれた彼女の瞳は紅に輝いている。
「このワザは『鬼纏い』って言ってね。余みたいな鬼にしか扱えないワザなんだよ」
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