【完結】色づく想ひ    作:ワンダーS

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どうも、作者です。



個別:大神 10

 

 「あの…大神さん。」

 

 麒麟の引く荷台の中。

 恐る恐る目の前にいる少女へと声を掛ける。 

 

 「…。」

 

 一瞬、こちらへと視線を向ける彼女だが、すぐに横へと逸らしてしまう。

 その頬は今の彼女の感情を表すようにぷくりと膨らんでいる。

 

 「大神さーん。」

 

 「…つん。」

 

 再度呼びかけるが、唇を尖らせる大神には効果がないようでその唇が元に戻る様子はない。

 何かないかと辺りを見回せば窓の外から見える景色が目に映る。

 

 「あー…、外!

  いい景色だよなー。」

 

 「…そうだね。」

 

 むすりとしたままの彼女であるが、そこはちゃんと返してくれるらしい。

 相変わらずなその態度に笑みが漏れそうになるが、そんなことをすれば更にへそを曲げられかねないため、必死に抑える。

 

 しかし、状況が変わったわけでもない。

 

 大神の誤解は未だに解けていないまま。

 むしろより強固なものとなってしまっている。

 

 とはいえ、内容が内容なだけにそれを話すというわけにもいかない。

 

 (…予言より根本的な問題、ね。)

 

 昨日の白上との会話を思い出す。

 付き合いの長い白上ですら知らない、大神の根源。

 

 一体目の前の少女は何を抱えているのだろうか。

 気にはなるが、確かめる術がないのも確かだ。

 

 もどかしい気持ちを胸に外の景色へと視線を向けたまま、静かな時間だけが過ぎ去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ミオに透、よく来てくれたのじゃ。

  …ところで、話は変わるのじゃが…。」

 

 イヅモ神社に到着し、麒麟から降りてすぐに合流した神狐はそんな第一声と共に気まずそうに目を逸らす俺と頬を膨らませている大神を見比べる。

 

 「何があったのじゃ?」

 

 「…ちょっとな。」

 

 さしもの神狐も様子のおかしな俺達に戸惑いを隠せないようで困惑している。

 しかし、この雪の降りしきる中立ち話をするわけにもいかない。

 

 そう結論付けたようで、神狐は首を傾げつつも先導して歩き始めた。

 

 「のう、透よ。

  子細をはなしてみよ。あんなミオの姿は初めて見るのじゃ。」

 

 それに追従する形で歩いていれば、道中、こそりと神狐が耳打ちをしてくる。

 昨日の今日でこんな状況になっていれば気になるのも当然だろう。 

 

 「あぁ、実は…。」

 

 何か打開策が見つかるかもしれないと淡い希望を抱いて、神狐へと事の顛末を話す。

 

 「ほほう、つまりミオのあれは嫉妬ということかの。」

 

 「そう…なるな。」

 

 取り合えず白上との会話の内容は伏せて概要だけ伝えれば、事情を把握した神狐は意を得たと言わんばかりに頷く。

 

 嫉妬。

 まぁ、それ以外に要因は考えられない。

 

 自分だけ除け者にされて良い気分にはならないだろう。

 しかしそれが分かったところで彼女の機嫌をどう直したものか、それが分からなければ意味が無い。

 

 「主も隅に置けぬのう」

 

 そう言って神狐はにやけ顔をこちらに向ける。

 

 「馬鹿言え、そういうのじゃ無いって。」

 

 「そうかのう、妾にはそう見えるのじゃがな。」

 

 揶揄うように笑う神狐を前に、若干頬が熱くなる。

 仮にそうなのだとしたら素直に嬉しいとは思う。しかし、仮定は仮定だ。

 

 それに、気になる事もまだ残っている以上、安易にそちらの方向には考えたくは無い。

 

 「とにかく、今は大神の機嫌を直すのが先決で…。」

 

 「二人とも楽しそう。」

 

 「へ…?」

 

 横合いから飛んできたそんな声に振り向けば、そこには膨れ顔でこちらにジト目を送る大神の姿。

 

 「透君、最近色んな女の人と仲いいよね。」

 

 「え、いや、そんなことは…。」

 

 そっぽを向きながら言う大神。

 むしろ最近一番話をしているのは大神だと思うのだが。 

 

 これでは機嫌を直すどころか逆の結果を招いてしまっているという事実に泡を食う。

 

 「…妾も嫉妬の対象じゃったか。」

 

 「言ってないで助けてくれ…。」

 

 予想外の事実が発覚したとばかりに目を丸くする神狐に助けを求めるが、彼女には聞こえていないようだ。

 

 「やっぱり…。」

 

 大神からは、それも自分に隠れて二人が会話をしている様にしか見えないようだ。

 悪化の一途を辿る状況に頭を抱えたくなる。

  

 さて、どうしたものか。 

 どうしようもないだろう。

 

 ある種の諦観から宙を見上げる。

 ひと月のイヅモ神社への滞在、その開幕は何とも不安に満ち満ちていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イヅモ神社の宿の一室。

 やはりというべきか、一部屋しか用意されていなかったその部屋に大神と二人それぞれ荷解きをする。

 

 だが一つだけ、気になる事がある。

 

 「…。」

 

 「じー…。」

 

 先程から背中に感じる視線。

 誰の、などとは考えずとも分かる。

 

 ちらり、とその視線の出所へと目を向ける。

 

 「…っ。」

 

 すると、ぱっと目を逸らす大神の姿が視界に映る。

 隠す気があるのか無いのか、これに対してどう対応するのが正解なのだろう。

 

 何も思いつかないため、そのまま何もせずに荷物へと視線を戻す。

 しかし、少しするとすぐにまた同じように背中へと視線が突き刺さる。

 

 そこに込められる意味は何だ。

 彼女の意図が読めない。

 

 もう一度、ちらりと大神を見るが、やはり目は合わない。

 意地でも目を逸らすつもりか、ならばこちらも意地だ。

 

 何故か生じた対抗心に突き動かされて、また荷物へと視線を戻す。

 

 そう見せかけてのフェイント。

 タイミングを見計らって、素早く大神へ目を向ける。

 

 「あっ…。」

 

 そうすれば予想通り、またこちらを見ようとした大神とばっちりと目が合う。

 

 流石にこれでは逃れられまい、そう思ったのも束の間。

 すーっと、静かに大神の目線が横へとずれていく。 

 

 「いやいや、それは無理があるだろ。」

 

 「あ、あはは、そうだよね…。」

 

 大胆な行動に一瞬騙されかけるが、すぐに正気に戻ってツッコミを入れれば大神は気まずそうに笑みを浮かべる。

 

 まぁ、本人からしてみれば理由も無く除け者にされていると感じれば気になるだろう。

 

 「…あのさ、大神。」

 

 「うん、分かってる。」

 

 やはり誤解だけでも解いておこうと口を開いたところでそんな大神の声が聞こえてくる。

 驚いて彼女を見れば、大神は改まった様子で真っ直ぐとこちらに顔を向ける。

 

 「透君やフブキがわざとウチを除け者にしない事は、ウチも分かってるの。」

 

 「大神…。」

 

 そう言う大神は、それでもと言葉を続ける。

 

 「けど、分かっていても、なんだか心がざわついちゃって。

  自分の感情が上手く制御できなくって。」

 

 その結果つんつんしてしまったと。

 しかし、あれはあれで可愛かった、もとい自然な反応ではあるのも事実だ。

 

 「ごめんね、透君。

  ウチ、こんな事初めてで…。」

 

 「元々の原因は俺の行動だ。

  …それに。」

 

 何やら申し訳なさそうに言っているが、ここに気が付かないとはいつも鋭い大神らしくない。

 

 「それが分かってるなら、俺がこのくらいの事は気にしないって事も分かるだろ?」

 

 まだ短い付き合いだが、それでもある程度は互いの事を知ることが出来ているはずだ。

 それを聞いた大神は大きくその目を見開いて、そして次の瞬間、力が抜けたようにその顔には笑顔が灯る。

 

 「ウチもまだまだだね。」

 

 「あぁ、そうみたいだな。」

 

 そんな彼女の姿を見て、ほっと胸を撫で下ろす。

 良かった、やはり曇った表情よりも笑顔が似合ってる。そう思うのは、やはりこの恋心故なのだろうか。

 

 「よーしっ、それじゃあ荷解きも終わったし一回下に降りよっか。」

 

 少しして、荷解きが終わるタイミングを見計らった大神が言う。

 大神の機嫌を直すことばかりに思考が寄っていたが、このイヅモ神社に来た本来の目的は別にある。

 

 結界の修復。 

 神狐に依頼されてひと月滞在することになったのだ。

 

 危うく目的を見失う所であった。

 気を取り直すように自らの頬をたたく。

 

 「そうだな、神狐も準備が出来たら顔を出すだろうし。」

 

 依頼人である神狐は例のごとくイヅモ神社に到着するや否やその姿をくらませていた。

 相変わらず何処で何をしているのか不明な彼女だが、そのうち出てくるだろうと大神と意見は一致している。

 

 結界の修復とはいっても、その概要はまだ説明されていない。

 

 「何をするんだろうな。」

 

 「ね、ウチもよく知らないんだよね。」

 

 などと二人話しながら入り口の襖を開く。

 すると、不意に視界の下の方に金色の獣耳が映る。

 

 この神社で金色で小さいと言えば神狐しかいない。

 どうやら部屋の前まで来ていたようだ

 

 「神狐か、丁度今…。」

 

 足を止めて視線を下へと下げれば映り込んだその光景に、思わず言葉が途切れる。

 

 「どうしたのじゃ、ご主人様?」

 

 そこには白いフリルをあつらえたメイド服に身を包む金色の狐の少女の姿があった。前に一度だけ身に着けていたのを見たことがあるが、なぜ今その格好に。それとご主人様って。

 

 「…。」

 

 思考が渋滞を起こし、口を開けてただ絶句する。

 

 「せっちゃん…?」 

 

 「おぉ、ミオよ!」

 

 同じく戸惑っているような声で声を掛ける大神に気が付いた神狐はぱっと顔を輝かせて声を上げた。

 

 「ほれ、見ての通りじゃ。

  妾と透は主従関係なだけでの、決して主の思うておるような関係では無いのじゃ!」

 

 「…は?」

 

 そう言って手を広げる神狐に、流石に脳を再起動させる。

 主従関係、何だそれは。そんなもの結んだ記憶は無い。

 

 つまり、これはただの嘘。

 大神に誇示するように言ったのは、大神の誤解を解こうとしてか。

 

 「…へぇ。」

 

 しかし、それを理解できるのは当事者の俺だけで。

 後ろにいるはずの大神が聞いたことの無いような冷たい声を発する。

 

 それはそうだ、傍から見れば見た目の幼い少女にご主人様と呼ばせるという中々マズイ奴にしか見えない。

 

 恐る恐る後ろを振り返れば、瞳孔の開いた肉食獣の瞳をこちらに向ける大神。

 

 「まて大神。

  早まるな、神狐はさっきの誤解を解こうと…。」

 

 「そう、ご主人様とは何も無いのじゃ。

  先日一緒に温泉に入ったのもご主人様の背中を流しておっただけなのじゃ。」

 

 「一緒に温泉…。」

 

 ただでさえ手の付けられない状況に更に爆弾を落とす神狐に手で目元を覆って宙を仰ぐ。

 

 終わった。もう大神を見れない。

 

 「…うむ?

  透よ、何故かミオの様子がおかしいのじゃ。一体何をやらかしたのじゃ?」

 

 「たった今、お前がな。」

 

 神狐は大神に聞こえないように小さな声で言うが、原因は彼女自身である。

 一応神狐も何とか誤解を解いてくれようとしてくれた、それはありがたいと思う。

 

 しかし、現状先ほどよりも確実に状況は悪化していた。

 そのため、素直に感謝が出来ない。

 

 完全にこじれたが、これ収拾は付くのだろうか。

 そんなことを考えていればおもむろに大神は無言のままゆっくりと前に出て神狐へと近づく。

 

 「もう、せっちゃん。冗談も程々にしなさい。」

 

 「む…。」

 

 そして神狐へと向けられたその言葉にはっとして思わず彼女へと視線を向ける。

 この口ぶり、もしかして…。

 

 「大神、冗談って。」

 

 「流石にウチも分かるよ、せっちゃんの悪ふざけだって。

  最初はびっくりしたけど、よく考えたらそんな暇も無かったし。」

 

 どうやらあれは驚いていただけらしい。

 紛らわしい表情にすっかり勘違いをしてしまった。

 

 「しかしミオよ、確かに主従関係は嘘じゃが。温泉は…。」

 

 「神狐、もう十分だ。気を使ってくれてありがとうな!」

 

 強引に会話を終わらせて、また余計なことを言おうとした神狐を遮る。

 丸く収まったところに再点火されては堪ったものではない。

 

 幸い大神は怪しんでいる様子は無い。

 

 「それでせっちゃん、さっきみたいな冗談は良くないと思うよ。

  透君も困るでしょ。」

 

 「むぅ、じゃが…。」

 

 「じゃが、じゃないの。」

 

 確か神狐は大神の母代わりだと聞いていたが、目の前の光景を見るに逆だと言われた方がしっくりとくるのは俺の気のせいでは無い筈だ。

 

 助けたい所だが、変に口を出すとまたいらぬ誤解を招きかねないため神狐には犠牲になってもらう他ない。

 

 大神による神狐への小言はそれからもしばらく続くこととなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「それでは気を取り直して、結界についてなのじゃが。」

 

 こほんと空気を切り替える様に咳ばらいを一つ入れると神狐は喋り始める。

 とても先ほどまで叱られていたようには見えない。

 

 場所は一階の広間、ベンチに腰かけて今回の滞在の目的について説明を受ける。

 

 「不安定になったのは、やはり経年劣化によるもののようでな。

  安定させるには全体的に補修をする必要があるのじゃ。」

 

 「全体か…。」

 

 イヅモ神社を取り囲む結界はかなりの大きさを誇る。

 そのため予想はしていたことだが、やはり一筋縄ではいかなそうだ。

 

 「主らに手伝ってもらいたいのは結界を修復する際の補填じゃな。

  補修部を張りなおす間の穴を埋めて貰いたいのじゃ。」

 

 「分かった。」

 

 神狐に大神と揃って頷きを返せば、神狐は小さく笑う。

 

 「説明はそんな感じじゃな、何か気になる事はあるかの。」

 

 そう言って、確認するように神狐は俺と大神を見る。

 

 「じゃあ、具体的にどうやって穴を埋めるのか聞いても良いか。」

 

 結界の穴を埋めると一概に言われても、それをどのようにするのか知らなければどうしようもない。

 事前に聞けるうちに聞いておいた方が良いだろう。

 

 「あぁ、それなのじゃが妾が用意する水晶玉にイワレを籠めてくれれば良い。

  そうすれば自動的に割り振ってくれるのじゃ。」

 

 「やることは結構単純なんだな。」

 

 予想していた以上にやることは少ないようだ、本当に俺や大神の手伝いが必要なのかすら怪しく感じる。

 

 それにしても水晶玉か。

 

 そう言えば大神の占星術も水晶玉を使用していた。

 あれと似たようなものなのだろう。

 

 「難しいよりは良いじゃろう。

  他に気になる事はあるかの?」

 

 再びの問いかけ。

 一応、聞いておくべきことは聞けため他には特にない。

 

 「いや、俺はもう大丈夫だ。」

 

 「ウチも聞いておきたいことは今のところないかな。」

 

 大神の答えも聞いたところで、神狐は満足げにその尻尾を揺らす。

 

 「うむ、では作業をするのは明日からになる故、今日はゆるりと過ごすがよい。」

 

 それだけ言い残すと、神狐は再びどこかへと去って行ってしまう。

 明日からということは、まだ何かしら調整でも必要なのだろう。

 

 「にしても…、神狐はあれ気に入ってるのか?」

 

 神狐の恰好を思い出して隣に座る大神へと問いかける。

 ここまでの説明の間、終始神狐はメイド服のままであった。

 

 どこかのタイミングで着替えてくるのかと思いきや、そのまま進めるものだからどう突っ込んで良いものかと頭を悩ませていたのだ。

 

 「服だよね。

  せっちゃん、そこまで服装にこだわってるイメージは無いんだけど…。」

 

 「何であんな服持ってるんだろうな…。」

 

 先月の滞在時にはそこまで気に留めていなかったが、神狐は何のためにメイド服を仕入れたのだろう。

 彼女の密かな趣味だったりするのだろうか。

 

 しかし、それは別として。かなり似合っていた。

 あまり見かけない服装なだけに新鮮さもある。

 

 もしかして大神用のメイド服も用意していたりしないのだろうか。

 

 「…?

  どうしたの?じっと見て。」

 

 「あ、いや。

  何でもない。」

 

 メイド服を着た大神の姿を想像していれば、目の前の彼女に不思議そうに問いかけられてすぐに思考を中断する。

 

 「それより時間空いたな…。」

 

 「そうだね…。」

 

 二人、座ったままぼーっとする。

 何をして時間を過ごそう、そう考えたところでふと思いつく。

 

 「あ、じゃあ大神。

  イワレの鍛錬に付き合ってくれないか?」

 

 そう言えば早朝から出発したこともあり、今日はまだできていなかった。

 

 「うん、勿論。

  じゃあ今日は…。」

 

 頼めば大神は快諾してくれて、そして互いの手を取った。

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 






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