鬼の種族のみに使える身体強化のワザ、鬼纏い。
それが使えることが示す真実、それはつまり
「透君に聞きたいんだけど。
君は鬼なの?」
静かに風が吹き抜ける中、百鬼は真っ直ぐにこちらを見つめている。
その瞳が何を映しているのかは読み取れない。
ただ分かるのは、此処で適当なことは答えてはいけない。そう思わせるほどの真剣味があった。
なにが正解なのかは分からないが、此処は正直に答えよう。
「違う…と思う。
俺には自分自身に関する記憶が無いから断定はできないけど。」
「…まぁ、そうだよね。角も生えてないし。」
伏し目がちに百鬼は返す。
その落ち込んだ様な悲しむ様な声に、声を掛けようとするも上手く言葉にできない。
気まずい沈黙が2人の間を流れる。
「ごめんね、変なこと聞いて。
よーし、それじゃあ稽古の続き、始めるよ!」
先程とは変わり、空気を入れ替える様に明るく話す。
これは百鬼の根幹にある悩みというか、闇の部分なのだろう。
そこに立ち入るには、まだ早い。
そんな資格は俺には無い。
ただ黙って頷く。これが俺にできる今の最良だった。
「それにしても、透君は鬼纏い使いこなせてるよ。
本当に初心者なの?」
「それに関しては、俺自身もそう思うよ。
ただ、感覚的にわかるというか。俺の中の何かがやり方を教えてくれているような気がするんだ。」
実際、鬼纏いを発動しようとした時も、何となく浮かんだ手順で宝石にイワレを流し込んだだけだ。
褒められても、自分の成果じゃないようで複雑な気分になる。
ただ、この感覚に助けられている面もあるので、あまり悪いものであるとは思えなかった。
「そっか、ありがとう。じゃあ、今度こそ。」
百鬼が構えをとると、そんな雑念も切り捨てる。
しかし、自分から頼んでおいてなんだが、百鬼は本当に楽しそうに刀を振るう。
戦闘狂なのだろうか。すでに待ちきれないとばかりに体を揺らしている。
これから始まるであろう地獄に冷や汗を流しながら、こちらも刀を構えなおした。
「おーい、二人共ー、ご飯だよー!」
その稽古は、大神が呼びに来るまで続いた。
想像以上に実のある稽古になった。
終始ぼこぼこにされていただけのようにも思えるが、刀だけでなく足さばきや体術まで、かなり参考になる。学んでいくことは大切だが、その見本がいるというのは大きい。
「と、その前に透くんは水浴びしてね。汗だくになってるよ。」
「…あぁ、分かった。」
息も絶え絶えに何とか返事をする。
一つ解せないのは、あれだけ動いておいて百鬼は汗一つかいていない点だろう。
悪戯気に笑いながら手を振る百鬼に、顔が引きつっている自覚がある。
大神が持ってきてくれたタオルを礼を言って受け取り、水場へと向かう。
…今さらっとタオルを受け取ったが、大神の面倒見がよすぎる。
ミゾレ食堂に行くこともあるが基本食事は大神が作ってくれているし、今のようにタオルの準備もよくしてくれる。
改めて大神の偉大さに気づかされた。だからおかんと呼ばれるんだろうな。
待たせるのも悪いので、ざっと汗を流すとすぐに戻る。
テーブルにはすでに全員そろっていたらしく急いで席に着く。
「悪い、遅くなった。」
「いいですよー、そんなに待ってませんし。」
「フブキちゃんもさっき来たもんね。」
「フブキはゲームしすぎだよー、昨日も遅くまでやってたし。」
てへ、と全く反省していなさそうな白上。大神も慣れっこなのか特に言及はしない。
「百鬼、稽古ありがとな。また頼んでいいか?」
「もちろん、あれくらいなんでもないよ。」
笑顔で快諾してくれる。
よかった、気にはしていないみたいだ。いや、無かったことにしようとしているのか。
「よーし、それじゃあ全員そろったことだし食べよっか。」
大神の号令でみんな揃って手を合わせる
「「「「いただきます。」」」」
食事の後、白上と大神は用事があるといってどこかへ出かけてしまった。
何やら、大神の方が主で白上は手伝いに行くらしい。
俺と百鬼は仲良くお留守番となった。
「なぁ、昨日の夜も白上の悲鳴が上がってたけど、今度はどんな脅かし方をしたんだ?」
刀の手入れをしている百鬼にふと気になったことを聞いてみる。
百鬼はいったん手を止めて、唇に指をあてて考える。
「んー、一回肩を叩いてあげてね、振り返った後、また後ろに鬼火で人の顔を設置したの。」
「うわ、えぐいな」
そりゃ、悲鳴の一つでも上がるわな。
これから夜にこの神社を歩くときは気を付けておこう。
いつ、またターゲットにされるか分からない。
一昨日だったか、夜に廊下を歩いていると横からいきなり人影が現れた。
そこまではよかった。
しかし、だれか確認しようとした際に顔を見ると、その顔がなかったのだ。
驚き、後ろに飛び退ると、百鬼の笑い声が聞こえてすべてを察した。
「…あんまり心臓に悪いのはやめてくれよ?」
百鬼は無言のまま二ヤッとだけ笑う。
その顔はいかにも悪ガキといった風貌だった。
どうやら、ターゲットにされる日は近そうだ。
せめてもの反撃に全力でいやそうな顔を送っておく。
その顔を見て百鬼は面白そうに笑っている。
そんなに面白かっただろうか。
そろそろ手持無沙汰になってきたので、百鬼に倣い、刀の整備をしてみよう。
この機会にこちらも教わっておこう。
部屋に戻り、刀を持ち戻ってくる。
「百鬼ー、刀の手入れの仕方教えてくれー」
「いいよー、透君本当に刀扱ったことないんだね。
普通一番最初に倣うのに。」
百鬼はふとこちらに視線を送ると、何かに気づいたのか驚いた表情になる。
「どうした?なんかついてる?」
聞きながら刀を抜こうと手をかける。
すると、百鬼は唐突にあたふたしだした。
「ちょ、ちょちょ、待った、その抜刀待った―!」
「え、なんだいきなり」
いきなりこちらに手を伸ばし声を荒げる百鬼に、あわやもう少しのところで手を止める。
それを確認すると百鬼はほっとしたように息をついた。
「その刀あの時のでしょ、それ抜いたら前みたいに目が痛くなるよ。」
フブキちゃんから、どんな刀なのか聞いたんだから、と早口にまくしたてる。。
どうやら、前回の目つぶしが少しトラウマになっているらしい。
それもそうか、あんな至近距離で気絶するほどの閃光を浴びたのだから、かくいう俺も同じ状態になっている。
あー、びっくりした、と胸をなで下ろしている百鬼に、これはチャンスではと天啓が下りる。
「なぁ、百鬼。」
「ん、なに」
声をかけて何か言う前に堂々と刀を抜いて見せる。
「へ、きゃっ…!?」
悲鳴を上げ、百鬼は慌てて腕で目を覆う。
しかし、抜いた刀から光が漏れることはなく。当然何の影響もない。
それに気が付くと、呆然としたように目を瞬かせている。
その様子に何とか笑いをこらえながらネタばらし。
「実は、ちゃんとコントロールできるようになってたんだよ。
一昨日の仕返しな。」
ぽかんとしている百鬼についに笑いをこらえられなくなる。
やがて現状を把握できて来たのか、段々とそのほほが朱色に染まっていく。
「な、な…」
何か言おうとしたようだが、自分も同じことをしているだけに何も言えないらしい。
小さなリベンジに、達成感に浸っていると。百鬼の目が座りだした。
あれ、何故か少し悪寒が…
「…透君、今日の夜から覚悟しておいてね。」
華の開くような笑顔で言い放つ百鬼に、代償の大きさを悟る。
それから数日の間、夜中のシラカミ神社には男の野太い悲鳴が数回にわたり鳴り響いたという。
余談ではあるが、悲鳴が鳴り響くたびに白狐も小さく悲鳴を上げていたとか。
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