【完結】色づく想ひ    作:ワンダーS

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どうも、作者です



個別:大神 17

 

 

 『せっちゃん、見て見て!』

 

 叫ぶように言いながら、一人の小さな少女がこちらにとてとてと擬音が鳴るような足取りでこちらへと向かってくる。

 

 その様子を見て周りからはくすくすと微笑ましいものを見るような笑いが上がった。

 

 『ウチね、これ出来るようになったよ!』

 

 目の前に到着した少女は、そんな視線も気にすることなく、そう言って誇らしげにその手に抱えるものを見せてくる。

 そんな彼女が如何にも可愛く思えて、愛おしく思えて。

 

 誉めてやろうと、頭を撫でてやろうと、そんな彼女に手を伸ばす。

 そこで、世界は暗闇へと包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イヅモ神社に来てから13日が経過した。

 

 結界の修復とは銘打ってはいるが、長い休暇の様な平穏な日常が続いていた。

 当初は持て余していた大神への恋心、これも時間が経つにつれて心の整理がついたのかそこまで気にすることなく大神とは接することが出来ている。

 

 無論、その理由の一端に大神の抱える悩みが関与していることも確かだ。

 

 神狐に暫く大神に対するアプローチを止めると宣言してからこの方、彼女も無理に俺と大神をくっ付けようとするそぶりも見せずにいてくれている。

 

 親心からか、どうにも神狐は大神と俺をくっ付けることに執着しているようだが、正直悩みを抱えたままの大神に対して俺の方からアプローチをかけようとは如何にも思えないのだ。

 

 しかし交流が無くなった訳でもない。

 時々神狐は食事中に話に来たり、大神と二人で談笑している姿を見かけることもある。

 

 特に神狐といる時、大神は見たことの無い表情を見せることがある。

 この辺り二人の仲の良さを感じるとともに、何処か寂しく感じたりもする。

 

 悩みについては、まだ何も進展していない。

 

 だが焦りは禁物だ。

 大神が話してくれるのをただ待つ、それだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…それで、こんなに朝早くから呼び出してどうしたんだ。」

 

 イヅモ神社の本堂、目の前に座る神狐にあくびを噛み殺しながら問いかける。

 

 現在は早朝、いや、正確には深夜に分類されても良い時間帯。

 先日の夜にこの時間に一人で来てくれと言われたから来てみたが、やはり眠気は取れていない。

 

 「ほほっ、すまぬの透。

  主にだけ用事があってのう。」

 

 そんな俺の様子を見て小さく笑いながら神狐は軽く詫びを入れる。

 

 俺だけに用事、つまり大神には聞かせられない話か。

 そこまで考えて脳裏に浮かんだ事象。

 

 「先に言っておくが大神の悩みについてなら、何も聞く気はないからな。」

 

 「無論じゃ、妾もまだ何も話す気は無い。」

 

 一応と釘だけ打っておけば、神狐も分かっているとばかりに頷いて見せる。

 

 神狐は多分大神の悩みについて把握している。

 だがそれを聞くのは、あくまで大神から話を聞いてからだ。

 

 「主に用があるのはこちらの方じゃよ。」

 

 そう言いながら、神狐は片手を横に挙げる。

 すると出現するのは、ここ最近で見慣れてきた結界の修復の際に使用している水晶玉。

 

 「結界の方にまた問題でも起きたのか?」

 

 これを今取り出すということは、つまりここで修復作業でも行うということなのだろうか。

 しかし、それをするにしても地下の方に向かう必要があるのではないのか。

 

 「んー、まぁそんなところじゃな。

  主にはその水晶玉でいつものように協力してもらいたいのじゃ。」

 

 「?まぁ、それは良いが…。」

 

 何処か誤魔化すような神狐のその様子に釈然としない気持ちを抱えながらも、その程度の事ならと水晶玉へと手をかざす。

 

 いつものようにイワレを循環させてみるが、神狐はそれをじっと見守っている。

 

 「…神狐、結界の修復は?」

 

 流石にそんな神狐を不審に思い問いかける。

 

 「うむ、これはどちらかというと最後の下準備みたいなものじゃからな。

  修復はまた後程じゃ。」

 

 「そういうもんか…。」

 

 それを聞いた神狐はあっけらかんと答えた。

 

 いまいち腑に落ちないが、何かしら神狐なりの意図はあるのだろうと今のところはそれで納得しておくことにして、そのままイワレの循環を続ける。

 

 「にしても、これの何処が大神に聞かせたくないんだよ。

  わざわざ俺だけを呼んだって事は、これ以外にその理由があったりするのか?」

 

 特別な話も、事情も無く、ただイワレを循環させる。

 つい昨日まで大神と共にやっていたことを今度は俺一人で意図的にやらせるというのは少々不自然に思える。

 

 故にそう邪推してしまうのも無理はないだろう。

 しかし、それを神狐は首を横に振り易々と否定した。

 

 「否じゃ、主にしてもらいたいのは正真正銘それだけじゃよ。 

  …ミオはまだ起きておらぬのじゃろう?」

 

 「大神か?

  あぁ、俺が部屋を出る時にはまだ寝てた。」

 

 それを伝えれば、神狐は安堵するように密かに息を吐いた。

 やはり、大神には見られたくないようだ。

 

 まぁ、これだけ材料が揃えば何となく察しは着く。

 多分これは大神の悩みに関係しているモノだ。

 

 それなら神狐が頑なに理由を話さそうとしないことにも説明はつく。だがそれが分かったところでという話に変わりはない。

 

 (一体全体、俺は何をやらされているんだ。)

 

 疑問は尽きない中、時間だけが過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 水晶玉にひたすらイワレを循環することおよそ数十分。

 結局それ以外に何も起こらないまま神狐は終わりを告げて、俺は解放された。

 

 これだけの為に眠気を抑えていたと思うとどうにも釈然としないが、まぁ、天災のようなものだと割り切ってしまう他ないだろう。

 

 若干拍子抜けしつつ、これからの事について思考を巡らせる。

 

 (にしても、想像以上に時間が余ったな。)

 

 時間が経ったと言っても通常であればまだぬくぬくと布団の中で夢の中にいる時間帯である。

 このまま早めに鍛錬でもしようかとも思うが、しかし未だ感じる眠気に従って寝なおすというのも魅力的だ。

 

 少しの間葛藤するが、結果欲望が勝ってしまった。

 愛しいベットを求めて、宿の部屋へと続く道を急ぐ。

 

 (あ、大神。)

 

 部屋の襖を開ければ、椅子に座り机に向かっている大神の姿が視界に映る。

 どうやら既に起きていたようだ。

  

 相変わらず早めに起きるようにしているらしい。

 

 一応襖を開けた時点で音は鳴っているはずなのだが、集中しているのか大神がこちらに気が付いた様子はない。

 

 「…大神、何してるんだ?」

 

 疑問に思い、部屋に入りつつ声を掛けてみる。

 すると返ってきたその反応は劇的であった。

 

 「わひゃあ!?」

 

 声を掛けると同時、大神はびくりと体を震わせると驚きの声を上げ、慌てて机の上に置いてあった何かを隠そうと手をわたわたと振る。

 

 「と、透君!?

  おかえり、どこ行ってたの?鍛錬?今日は早起きだったんだね!」

 

 「あ、悪い、驚かせるつもりは無かったんだ。」

 

 顔だけこちらに向けると、大神は早口でそう捲くし立てる。

 明らかに焦っている大神に軽く謝りながら、不意に大神が慌てた際に机の上から床へと落下したモノへと目が移る。

 

 「タロット?」

 

 そこに落ちていたのは大神がよく占いに使用しているタロットカードの一枚。

 思わず声に出せば、それに気が付いた大神は目にもとまらぬ速度でカードを回収する。

 

 「い、今の、見た?」

 

 「え、いや、絵柄までは見えなかったけど…。」

 

 焦った様子で問いかけてくる大神へとそう返せば、彼女はほっとしたように小さく息を吐いた。

 

 まさかそこまで驚かれるとは思わなかったもので、少々狼狽しつつ改めて彼女へと目を向ける。

 まだ着替えは済ませていないようで服装は寝る時のままで、その髪には珍しく寝ぐせが残っている。

 

 「占いをしてたのか。」

 

 何をしていたのかを察して口に出せば、大神はぎくりとして一瞬体を固まらせる。

 

 「う、うん、ちょっと今日の運勢だけ。

  本当にそれだけだから。」

 

 「…。」

 

 明らかに嘘をついている。

 おかしいな、彼女はここまで嘘をつくのが下手だっただろうか。

 

 いつも分かりやすいと言われる俺だが、相手の気持ちが今は少し分かる気がした。

 

 「…本当だよ?」

 

 「…分かった、そういうことにしとく。」

 

 上目遣いで視線を向けてくる彼女に、ため息を付きながらそう返す。

 そこまで必死に隠そうとされては、これ以上突っ込むのが可哀そうに思えてくる。

 

 それに藪蛇とは言わないが、変に詮索するのも控えておいた方がよいだろう。

 

 しかし、驚いた拍子に完全に眠気が飛んでしまった。

 これでは寝なおすことは叶わないな。

 

 「じゃあ、俺は温泉に入ってくるから。また後でな。」

 

 言いながらひらひらと手を振り、着替えだけを持って再び部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぱたりと音を立てて襖が閉じる。

 

 「…はぁ、びっくりしたー。」

 

 彼にはバレなかっただろうか、少し不安に思いながら拾ったタロットを机の上に置く。 

 今の生活に慣れてきて、つい気が緩んでしまった。

 

 バレていないにしても、怪しまれたのは確実。

 

 「やっぱり、そろそろ話さないと…。」

 

 これ以上は隠して置けないのは分かっている。

 どちらにしても時間の問題なのだから。

 

 シラカミ神社に帰ったら、フブキやあやめにもちゃんと話さないと。

 

 そんな決意を固めながら、少女、大神ミオは窓の外へと目を向ける。

 相変わらずの曇り空、雪の舞い散るその景色をその瞳に映し出して、彼女は何を思うのだろうか。

 

 そして机の上では、それを嘲るように死神がその相貌を歪めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…え、牛乳はもう無いのか?」

 

 驚きに目を丸くしながら問いかければ、目の前に立つ狐顔のシキガミはこくりと肯定するように首を縦に振る。

 

 温泉から上がり、楽しみである冷えた牛乳を頼もうとしてシキガミに頼んだところの出来事である。

 どうやら在庫が切れてしまったらしい、つまり昨日飲んだものが最期であったと。

 

 「マジか…もっと味わって飲めばよかった。」

 

 後悔先に立たず、とはいえ昨日に同じことを言われてもどうせ同じような反応になったことだろう。

 

 「まぁ、仕方ないか。

  悪かったな、急に無理言って。」

 

 無いものをねだってもただ困らせるだけだ。

 潔く諦めようとした所、シキガミが動きを見せた。

 

 「え?少し待ってろ?」

 

 こちらに手のひらを見せてくるシキガミに意図を確認するように声に出せば、シキガミは首を縦に振り、そのままキッチンのある方向へと駆けて行った。

 

 普段あまり意思を見せないだけに、面食らってしまった。

 

 その背を見送ってからしばらくせずに、シキガミはお盆を持って再び姿を現した

 盆の上には、コップに入った氷と緑色の液体が乗っている。

 

 「これ、青汁か。」

 

 そう問いかければ、シキガミはこくりと頷きずいとこちらにそれを差し出してくる。

 牛乳の代わりにとわざわざ作ってくれたのか。

 

 「ありがとう、いただくよ。」

 

 ありがたく思いながら、それを受け取る。

 青汁というのも、中々飲む機会は無かった。少し感じる好奇心と共に、コップに口をつけて傾ける。

 

 「あ、美味いな。

  牛乳も良いけど、青汁もアリだ。」

 

 風呂上がりで水分の不足した体に染み渡る、牛乳とはまた違うそれに絶賛の声を挙げれば、シキガミはしてやったとばかりに握り拳を作り、ガッツポーズを取る。

 

 「ん?今ガッツポーズした?」

 

 シキガミってそんなに感情表現豊かだったっけと思い、突っ込みを入れればシキガミは今度は否定するようにふるふると首を横へと振る。

 

 「いや、でも今確かに。」

 

 ふるふると首を横に振るシキガミ。

 

 「けど…。」

 

 ふるふると首を横に振るシキガミ。

 まだ何も言ってないだろ。

 

 するとシキガミは追及から逃れる様に急ぎ足でその場を後にした。

 

 「あ、青汁ありがとうな!」

 

 その背に向かって声を投げかければ、ぴくりとシキガミの耳が震えたのが分かった。

 

 「…ちゅん助。」

 

 それを確認してから、おもむろに自らのシキガミである小鳥のちゅん助を呼び出す。

 いきなり呼び出されたちゅん助は不思議そうな瞳をこちらへと向けていた。

 

 「んー、一応ちゅん助も言葉…は理解してないにしても意思はちゃんと理解できてるみたいだしな。」

 

 イワレについて練度の低い俺ですらちゅん助のようなシキガミを使役できているのだ。

 その何段階も上を行く神狐のシキガミなら尚更か。

 

 「透君、そんなところに立ってどうしたの?」

 

 「ん、あぁ、大神。」

 

 不意に後ろからそんな声がかかって振り返ってみれば、そこには着替えを済ませた大神の姿。

 既に落ち着きは取り戻しているようで、先ほどのような慌てぶりは何処にも見受けられない。

 

 「さっきシキガミに会ったんだけどさ。

  あのシキガミって結構感情表現豊かだと思ってな。」

 

 顔は狐だから表情は読めないが、それ以外の身振り手振りで十分に感情が伝わってくる。

 つい先ほど出来事を搔い摘んで話せば、大神は納得したような声を上げる。

 

 「確かにウチもそう思う。

  せっちゃんのやることって大抵人並外れてることが多いんだよね。」

 

 「だよな、あれが普通って訳では無いよな。」

 

 また自分の常識を更新する必要が出来たのかとも思ったが、どうやらその必要は無いらしい。

 その事実に安堵しつつ、呼び出していたちゅん助を戻す。

 

 「でもそれなら今は牛乳無いんだ。

  ウチも楽しみだったのに…。」

 

 若干落ち込んだように肩を落とす大神。

 確かに新たな味覚を開拓できたとは言え、無いと言われれば多少の落胆はある。

 

 「あ、でもそれなら…。」

 

 何か閃いたのか、一瞬大神の瞳が煌めいた。

 

 「どうした?」

 

 「えっとね、牛乳が無くなったってことはた明日辺りにでも補充に行くと思って。」

 

 補充。

 そういえばシキガミが定期的に結界の外に食料の調達に行っているのだったか。

 

 「透君、せっちゃんは見なかった?」

 

 「神狐か?

  いや、温泉から上がってからは見てないな。」

 

 補充について神狐に話でもあるのか居場所について問われるが、今朝会ったきりで以降は特に足取りはつかめない。

 

 割と気まぐれに顔を出したりするから如何にも行動の予測がつかない。

 

 「ふむ、呼ばれた気がしたのじゃ。」

 

 「て、いるのかよ。」

 

 すると、何処からか話を聞いていたのかと思うほどの速度で神狐が姿を現す。

 もはや名を呼べば何処へでも姿を見せるのではないだろうか。

 

 「ね、せっちゃん、明日補充に行くんだよね。」

 

 「む?そうじゃな、そろそろとは考えておったがそれが…あぁ、そう言うことであったか。」

 

 神狐は何か分かったようだが、こちらとしては何が何だかさっぱりである。

 しかし、それを聞く間もないまま話は先へと進む。

 

 「良かろう、明日に手配はしておくのじゃ。」

 

 「ありがとう、せっちゃん。」

 

 話は完結したのか、そう言い残して神狐はどこかへと去って行ってしまった。

 

 「…それで何の話をしてたんだ?」

 

 ここまで完全に話に置いて行かれているため、改めて大神へと問いかける。

 むしろ神狐は何をもって大神の言いたいことを察したのだろうか。

 

 「明日の補充なんだけどウチ達もついでに外に連れて行って貰えないかなと思って。」

 

 「ついでに?

  それに外ってことは…。」

 

 外とは結界の外ということである。

 このイヅモ神社の周辺にあるものと言えばイヅモノオオヤシロと呼ばれる都市が一つ。

 

 シラカミ神社周辺で言えば、キョウノミヤコに近しいものであると聞いている。

 

 「透君。」

 

 大神に名を呼ばれて改めて彼女と向かい合う。

 

 「明日、ウチと一緒にお出かけに行かない?」

 

 

 





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