【完結】色づく想ひ    作:ワンダーS

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どうも、作者です。


個別:大神 18

 

 がやがやとした喧噪に包まれた街並みを大神と二人で歩く。

 キョウノミヤコとはまた違った趣のあるこの街は、けれども人々の活気に満ち満ちていた。

 

 通りには露店が立ち並び、季節も相まってかそこら中から白い湯気がゆらゆらと立ち昇っている。

 

 イヅモノオオヤシロ。

 ヤマトにおける数ある都市の一つであり、イヅモ神社のある山からそう遠くない場所に位置するこの街は話に聞いていた通り栄えて見えた。

 

 その中でも所々、イヅモ神社にあるような模様など共通点も見られ、伝統というものも感じられる。

 

 「にしてもすごい人の数だな、キョウノミヤコよりも多いんじゃないか?」

 

 先ほどからすれ違う人の数が尋常ではない。

 街に入ってからそこまで時間は経っていないが、それでもすれ違った人数は数十人は下らない。

 

 「キョウノミヤコよりも街の大きさが小さいからね。その分人口密度は比較的高く感じるかも。

  人口はキョウノミヤコの方が断然多いと思うよ。」

 

 「へぇ、そうだったのか。」

 

 どうりで妙に人が多く感じる訳だ。

 けれど体感的にはあまりキョウノミヤコとは変わらないな。

 

 そんな中でも一つだけキョウノミヤコと違うとすれば、大神の姿を見ても特に視線を向ける人がいない。

 キョウノミヤコではかなり顔の知られている彼女だが、ここではそうでも無いらしい。

 

 「大神はよくここに?」

 

 ふと疑問に駆られて尋ねてみる。

 すると、大神は記憶を辿るように口に指をあてて一瞬宙を見上げた。

 

 「んー、近場だったから昔にちょっとだけ。

  だからあんまり詳しいわけじゃないんだよね。」

 

 「確かに、ここイヅモ神社から結構近かったもんな。」

 

 例の如く今回も麒麟の世話になった訳だが、乗っていたのは精々数分が良いところだ。

 それこそ乗ってすぐに到着した感覚。

 

 この距離でイヅモ神社に住んでいたのなら訪れる機会もある事だろう。

 

 「…あ、透君、こっちこっち!」

 

 「おっと、大神!?」

 

 不意に何かに気づいた様に大神はそう声を上げると、俺の手を取って走り出してしまう。

 突然の事で反応が遅れるも、そのまま手の引かれるがままに同様に走り出す。

 

 声を上げる間もなく、すぐに目的地へと到着したのか大神は足を止めた。

 そこは何かの屋台のようで、食欲をそそる香りが漂っている。

 

 「ここのぼんじり串。

  前に食べたきりだけど凄く美味しかったの。」

 

 「って、初っ端から食べ物か。」

 

 何処に連れていかれるのかと思えばまさかの屋台の登場に驚きを隠しきれなかった。

 しかし、ぼんじりか。そこは大神らしいというべきか何というか。

 

 それを指摘された大神は羞恥からか、ほんのりとその頬を朱に染める。

 

 「だって、前食べた時美味しかったし。

  それに…。」

 

 「それに?」

 

 言葉を続ける大神に復唱して聞き返せば、彼女はちらりとこちらに視線を向ける。

 

 「よくフブキが屋台巡りをしてたから、似たようなことをしてみたいなーって…。」

 

 そんな羞恥交じりの大神の言葉に、ぽかんと口が開きそうになる。

 

 どうやら白上に触発されていたらしい。

 確かにセイヤ祭でも白上は屋台巡りをしていて、とても楽しそうにしていたが…。

 

 「あ、ちょっと透君、笑わないでよ!」

 

 堪えきれずに噴き出せば、大神から抗議の声が飛んでくる。

 まさかその程度の事でそんなに深刻そうな表情をされるとは思いもしなかった。

 

 「あぁ、悪い。

  セイヤ祭の時だって、言ってくれればいくらでも付き合ったのに。」

 

 「あの時は…、他の事で頭が一杯だったから。」

 

 他の事、とは踊りの事だろう。

 セイヤ祭では急に誘ったにも関わらず大神は俺に付き合ってくれた。

 

 なら、今度はこちらの番だ。

 

 「まぁ、でもそう言うことなら今日の方針は決まったな。

  屋台でもなんでも、今日は色々と回ってみよう。」

 

 「…っ、うん!」

 

 そう言ってはにかんで見せる大神。

 喜んでくれているようで何よりだ。

 

 「…こほん。」

 

 二人で話していると横合いから飛んでくる咳払い。

 ふと目を向けて見れば、屋台の店主であろう初老の男性と目が合った。

 

 「「あ。」」

 

 そう言えばここは屋台の目の前であった。

 完全に失念していた事実に、思わず二人目を見合わせる。

 

 やってしまった。

 そんな顔をしている大神、恐らく俺も一緒だろう。

 

 それが何だか可笑しく感じて、揃って笑みを浮かべる。

 

 「「おじさん、ぼんじり串二つ下さい!」」

 

 当初の目的を果たそうと大神と声をハモらせて店主へと改めて注文する。

 こうして、何とも締まらない形でイヅモノオオヤシロでの一日は始まりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イヅモノオオヤシロには、キョウノミヤコと比べても遜色がない数の屋台が立ち並んでいる。

 そのため、気になったものを片っ端から回っていると全ての屋台を回る前にすぐに両手が一杯になってしまった。

 

 「一回どこかに座るか。

  これ以上持っての移動は難しそうだ。」

 

 「そうだね…、あっ、あそこはどう?」

 

 そう言って大神が指さしたのは冬にも関わらず花を咲かせている木の下にあるベンチ。

 丁度良く人もいないということで、そこに座ることにする。

 

 二人で座っても十分な広さで、かなり余裕はある。

 

 「はー、結構回れたね。ウチ屋台でこんなに大きな袋持ったことないよ。」

 

 大神は言いながらその手に持つ大きな袋を揺らして見せる。

 

 「だな、思ったより屋台の種類も多かった。

  こういうのって基本被ったりすると思うんだが…。」

 

 「同じ屋台が一つも無かったね…。」

 

 そう、基本的に屋台というのは品物の種類からして少し歩けば同じようなモノを取り扱う屋台に遭遇することも少なくない。

 

 しかし、かなりの距離を歩いたが見覚えのある屋台が登場することは無く、逆に何だこれはと思うようなものがいくつも現れた。

 

 「特にあのゲルは何だったんだろうな。

  明らかに食べるなって色をしてたけど。」

 

 「流石にウチもあれは食べられないかも。」

 

 今も鮮明に思い出せるゲルの蛍光色、いや、もはや発光すらしていた。

 スプーンと共に渡していたから食べ物であるとは思うのだが、本当にあれを食べる猛者は存在するのだろうか。

 

 「あの人、今から食べるみたい。」

 

 「え、何処だ。」

 

 少し遠くを指さされてそこへと視線を向ければ、確かに凄まじい色をしたゲルを今正に口へ運ばんとしている人物が目に入る。

 

 「「…。」」

 

 思わずごくりと喉を鳴らして見入る。

 その人物はためらった様子もなくゲルをスプーンで掬い取ると、それをそのまま口の中へと放り込んだ。

 

 「おい、倒れたぞ。」

 

 「助けに…、って、起き上がったね。」

 

 ばたりと華麗な五体投地を決めるも、その人物は何事もなかったかのように起き上がり、歩いて行ってしまった。

 

 「…倒れるほど美味しいのかな。」

 

 「にしては表情に変化がなさすぎるだろ。

  毒だって言われた方がまだわかる。」

 

 見る限りあの人物は一連の流れを無表情で行っていた。

 仮に意識を失う程美味であるのなら口角の一つでも上げて良いはずだ。

 

 「…まぁ、あのゲルを食べるかどうかは後にして。

  まずはこっちを片付ける方が先だな。」

 

 そう言って、ぽんぽんと大量の食べ物の入った袋を叩いて見せる。

 すべて回っていないとはいえ、それでも相応の量がある。

 

 昼も近づいてきて腹は空いているとは言えども、全てを食べきれるか不安に思う量ではある。

 

 「ウチもお腹空いてるから今なら食べきれる気がする。」

 

 大神もここまで多くの屋台の料理を前にするのは初めてのようで、少しテンション高めに笑みを浮かべている。

 

 いや、多分料理だけではない。

 イヅモノオオヤシロに来た当初から大神はいつもと比べて妙にはしゃいでいるように見える。

 

 そこまで楽しみなモノでもあるのか、それともここ自体が思い入れのある場所なのか。

 どちらにせよ真相は大神自身にしか分からないだろう。

 

 「透君、食べないの?」

 

 「ん?…あぁ、食べる食べる。」

 

 何処かいつもとは違う彼女に違和感を覚えながらも、その大神に声を掛けられて一旦思考を中断する。

 

 とにかく、今はこの時間を楽しもう。

 胸に残る一抹の不安に蓋をしながら、袋の中の串へと手を伸ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「はー、もう何も入らない…。」

 

 「俺もだ、一つ一つの量を舐めてた。」

 

 揃って空を仰ぎながら一息つく。

 傍には今や空となった袋。

 

 凄まじい満腹感、苦しいほどではないがこれ以上に何かを食べようとは思えなかった。

 それは大神も同じようで、屋台巡りはここで終わりとなった。

  

 「屋台巡りをするのにも、相応の能力がいるんだね。

  フブキの胃袋がちょっと羨ましい。」

 

 大神はそう言いながら自らの腹部をさする。

 

 本当にその通りだ。

 半分も回れていないのにこの満腹感だ。全てともなるとそれこそ無尽蔵に食べれる資質が必要となる。

 

 「白上に関してはワザの域だな、いくらでも食べれるみたいな。

  あれで太らないのも不思議だけど。」

 

 「確かにそうかも…。

  って、それフブキが聞いたらまたハリセンで叩かれるよ?」

 

 大神は意地の悪い揶揄うような笑みをこちらへと向ける。

 しかし、そうは言っているが大神もその点については疑問に思っているのだろう、特に否定しようとはしなかった。

 

 「そこは大神も肯定したから同罪だ。」

 

 お返しとばかりににやりと笑って見せれば、大神は悔しそうにぐぬぬと唸り声を上げる。

 むしろ此方の方が白上の神経を逆なでしそうだ。ふしゃーと怒りの声を上げる白上を想像して思わず吹き出しそうになる。

 

 「…意地悪をする透君は今度から一品おかず抜きにします」

 

 「え、それはズルいだろ。

  悪かったって、この通り、許してくれ。」

 

 そこを引き合いに出されてはもう敗北を認めるほかない。

 イヅモ神社ならまだしもシラカミ神社において食事に関することで大神に逆らうことは無謀と言わざるを得ない為、これは合理的な判断ともいえる。

 

 軽くじゃれ合いつつ雑談を交えていれば、話題は自然と次の行き先の話にシフトする。

 

 「もうお腹いっぱいだし、屋台巡り以外だよね。」

 

 「取り合えず、あと小一時間くらいはあんまり動き回りたくはないな。」

 

 このままベンチに座っているのも良いが、折角のイヅモノオオヤシロの一日の時間をそこに浪費しても良いものかと葛藤が芽生える。

 

 頭を悩ませていると、不意に辺りを見回していた大神は何か閃いたように手を叩いた。

 

 「…あ、じゃああれなんてどう?」

 

 そう言って彼女が指さした先にあるのは、足湯と書かれた看板。

 

 「足湯か、良いな。

  確かにゆっくりするのにピッタリだ。」

 

 キョウノミヤコでは見かけない為加えて物珍しさもある。

 それを見つけた大神は何処か誇らし気に胸を張る。 

 

 「ふふっ、そうでしょ。

  早速行ってみようよ、透君。」

 

 「あぁ、すぐ行こう。」

 

 言うが早いか先ほどまでの腰の重さはどこへやら、足早に看板の掲げられている場所へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気温が低いことも相まってか白い湯気の立ち昇らせている湯、敷かれた座布団に座りその中へと足を入れれば体の底から息が押し出される。

 

 「あー…、これはもう出たくなくなるな。」

 

 温泉ならイヅモ神社で毎日のように入っているが、足湯は温泉とはまた違った魅力がある。

 炬燵のような安心感に似ているだろうか、足から温められる感覚は病みつきになりそうだ。

 

 「透君なんだかおじさんみたいだよ?」

 

 「これは誰でもこうなるって。」

 

 そんなに年寄りじみた反応だっただろうか。

 しかし、そうなってしまうのも無理はない。そう思えるほどに足湯の魔力は強力であった。

 

 「ここちゃんと効能もあるみたい。」

 

 壁に掛けられた板に書かれているようで、それを読んだ大神がそう声を掛けてくる。

 

 「へぇ、どんなのがあるんだ?」

 

 「それがね、イヅモ神社のものと同じみたい。」

 

 イヅモ神社と同じ、つまりイワレの調整をしてくれてかつ魂の疲れを取るということか。 

 集中してみれば、確かにイヅモ神社の温泉に入ったときのようなぴりぴりとした感覚を感じなくも無い。

 

 「…言われてみれば、何となくそんな感じはするか?

  でも、結構違いがある。」

 

 足だけ浸かっている所為かとも考えたが、しかし部位によって変化はない筈だしそこは関係は無さそうだ。

 

 「同じ効果だけど、多分効力は数百分の一くらいになると思う。

  ほら、イヅモ神社のはせっちゃんが手を加えてるから。」

 

 「ほんと神狐って何かと規格外だな…。」

 

 もはやここまで来ると驚嘆より先に呆れが来る。

 

 恐らく、この足湯の効力がカクリヨにとっての普通なのだろう。

 それを魔改造した結果があれなのだと考えると末恐ろしい。

 

 この足湯で完全に魂の疲れを取ろうとすると、疲れが取れる前にのぼせて倒れるのがオチだと容易に想像ができる。

 

 「にしても、温泉の効能が有るのはこの辺の地域の特徴なんだな。」

 

 少なくとも、シラカミ神社周辺では特殊な効能が有るとは聞かない。

 探せばあるのだろうが、街の中に普通に設置されているくらいに浸透しているのは珍しい筈だ。

 

 「温泉には全部効能が有るって最初は思ってたからウチもびっくりした記憶があるよ。」

 

 「あー、そっか。

  神狐と二人で生活してたらそうなるのか。」

 

 神狐が基準になってしまうと、いざ他の場所に行った際には感覚を合わせるのに苦労しそうだ。

 万能なのも良いが、万能が故の欠点もあるということか。

 

 そこまで考えたところで、不意にあくびが出た。

 

 「透君、眠くなった?」

 

 それを見た大神がこちらを覗き込んで聞いてくる。

 

 「今すぐ寝そうになる程じゃないけどな。

  予想以上にリラックスしてるみたいだ。」

 

 少し冷えていた体が足湯で温められてつい眠気を誘われた。

 シラカミ神社の周辺に無いのが惜しまれる。

 

 「…そうだね、ウチもちょっと…。」

 

 何処かぼんやりとした大神の声、それと同時に肩の辺りへぽすりと軽い衝撃が加わった。

 

 「…あれ、大神?」

 

 何事かと彼女の方へと視線を向ければ、彼女の耳が頬をくすぐる。

 見てみれば、大神がこちらへともたれかかっていた。

 

 ドキリと跳ねた鼓動を誤魔化すように声を掛けてみるも、返事は返ってこない。

 

 ちなみに現在は俺と大神の二人きりではない。

 公共の場のため、当然他の利用者もいる訳で…。

 

 「あらあら。」

 

 「まぁまぁ。」

 

 そんな声と共に向けられる生暖かい視線に、顔に熱が集まるのを感じる。

 

 「マジか…。」

 

 横から聞こえてくる規則正しい寝息に、大神が眠ってしまったのだと察した。

 つまり俺はこれから大神が起きるまでの時間を、この視線に耐えなければならないことが確定した。

 

 現実逃避気味に空を見上げる。

 久しぶりに見た青空、しかし、今は妙にそれが憎らしく見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (ごめんね、透君。)

 

 狼の少女は心の中で隣の無言で羞恥に耐える透へと謝罪する。

 彼から聞こえてくる高鳴る鼓動の音は、しかし、少女自身のそれと混ざり合ってもうどちらのものかすら把握できない。

 

 (もう少し、もう少しだけだから。)

 

 少しでも長く彼と触れ合っていたい、少しでも近く彼の傍にいたい。

 真っ赤に染まってしまった顔を彼に見られないように顔を俯かせて、胸に灯る熱い想いと共に隠す。

 

 (今日だけだから、どうか許して。)

 

 これ以上は望まない、これ以上は欲さない。

 だから、この短い一時だけ我儘を言わせてください。

 

 この淡い恋心を、どうかこの一瞬だけ。

  

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 





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