【完結】色づく想ひ    作:ワンダーS

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どうも、作者です。


個別:大神 19

 

 身動きの取れない足湯にて、生温かい視線に耐え続ける覚悟を決めていた所、大神はそこまで時間をかけることなく目を覚ましてくれた。

 

 それからしばらく足湯を堪能してから、良い感じにゆっくりと出来たということで足湯を後にして再び街道へと繰り出す。

 

 「足湯って初めてだったけど、ウチは温泉と同じくらい好きかも。」

 

 「俺もだ。

  これはキョウノミヤコにあったら行列が出来ること間違いなしだな。」

 

 先ほどの足湯の感想を交えつつ、街道を二人で歩く。

 

 丁度昼を超えたあたりの時間帯で先ほどよりも人通りが増えてきただろうか、あまり横に広がって歩くのは躊躇われる。

 すると、必然的に大神との距離は近づくわけで。

 

 「わっ。」

 

 「あっと、悪い。」

 

 腕が大神の肩とぶつかる。

 ぶつかると言っても少し触れ合う程度だ、しかし、驚いたのか大神は少しだけ声を上げた。

 

 そんな彼女に詫びつつ、距離を取ろうと横に移動しようとする。

 しかし、不意に感じた腕が引っ張られる感覚にその動きを止めた。

 

 「…大神?」

 

 「…。」

 

 視線を向ければ、そこには無言で顔を俯けて俺の腕を引く大神の姿。

 

 「その、あんまり幅を取ったら駄目、だから…。」

 

 だから、こうしようと。

 

 何となく大神の意図していることは分かった。

 思わず跳ねた心臓を無視して、そのまま彼女と手を重ねる。

 

 「…っ、これなら、問題ないよな。」 

 

 そう言いつつも大神に顔を見られないように前へと顏を向け続ける。

 今は、多分彼女には顔を見せられない。

 

 触れた当初は一瞬強張った彼女の手だったが、すぐに緊張も解けてそれも無くなる。

 

 毎日イワレの鍛錬の為に大神とは手を繋いでいる。

 だが同じことをしているのに、こうも感情が搔き乱される。

 

 気にしないと決めていたのに、蓋をすると決めていたのに。

 彼女の方からこんなことをされては抑えきれなくなりそうだ。

 

 「…。」

 

 「…。」

 

 互いに無言のまま、ただ道を歩く。

 それだけなのに、退屈など微塵も感じる暇は無かった。

 

 「今日…いい天気だな。」

 

 沈黙を破ってなんてことはないあり触れた話題を振る。

 このまま黙っていると自分の思考に押しつぶされそうだ。

 

 「…うん、透君は晴れの方が好き?」

 

 「まぁ、そうだな。

  でも最近は曇り空も良いなって思ってる。」

 

 イヅモ神社に来てからこの方、曇り空しか見ていなかったおかげで妙に愛着というか、安心感を覚える様になってしまった。

 

 月も星も見えないのはいただけないが、風景としては悪くない。

 

 「そっか、ウチと一緒。」

 

 そう言った大神が微笑んだのがちらりと見える。

 優しい笑みだ。本当に、心の底からそう思っていると分かる。

 

 「晴れも好きなんだけど、それでも曇り空が無くなると不安になっちゃうんだよね。」

 

 「その気持ち、なんか分かる。」

 

 丁度今考えていたことと同じだ。

 曇り空を見ると妙に安心する。

 

 変な所で共通点が生まれた。

 これはイヅモ神社に影響された結果なのだろうか。

 

 「ね、透君。

  ウチと透君って、今周りからどう見えてるのかな。」

 

 「えっ…っと…。」

 

 何とか話題を逸らしていたのにまた戻ってきてしまった。

 突っ込んだ質問に一瞬ドキリとする。

 

 「まぁ…仲の良い友人とかか?」

 

 「友人…。」

 

 無難な答えを出したつもりだったのだが、大神としては何処かしっくりと来ないのか少し不安気にぽつりと零す。

 

 「恋人…とかには見えたりしないかな。」

 

 「…っ。」

 

 そして続けられた言葉に息が詰まった。

 

 俺はこんなにも意思の弱い人間だったのか。

 自らに対する評価がどんどん落ちていく。

 

 たった一言、それだけでこんなにも揺らいでいる。

 

 「大神、それは…。」

 

 「な、なんちゃって、冗談冗談。」

 

 ぱっと離れた大神は両手を振りながら、それまでの言葉を否定する。

 ほんのりと赤く染まった頬で、冗談だったと主張する。

 

 「それより透君、まだまだ時間はあるよ。

  次は何処に行こっか!」

 

 にこやかな明るい笑みで大神は前を行く。

 

 「…あぁ、そうだな。

  じゃあ次は…。」

 

 俺自身この話題を続けることは望んだことでは無い。

 手に残った彼女の温もりに寂しさを覚えながら、彼女の後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 (ちょっと調子に乗りすぎたちゃったかも…。)

 

 少女、大神ミオは足を進めながら心の中で反省していた。

 

 先ほどの行動、完全に感情に流されてしまっていた。

 自制が効かなくなる一歩手前で何とか軌道を修正できたが次もそれができるとは限らない。

 

 (…透君には、もう見透かされてるよね。)

 

 自分の行動がおかしいことは彼女自身自覚している。

 けれど、これが最後だと思うとどうしても自分を甘やかしてしまう。

 

 (気を付けないと。) 

 

 そんな決心を胸に、彼女は透へと向き直った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 街道に並ぶ露店はなにも食べ物のみを扱っているわけでは無い。

 様々な小物や、どうやって使うのか分からない道具まで幅広く展開している。

 

 「こういう所はキョウノミヤコと変わらないよな。

  カクリヨの文化みたいなもんか?」

 

 ふと思い立って大神へと聞いてみる。

 まだ訪れたことのある都市はキョウノミヤコとイヅモノオオヤシロの二つのみ。

 

 決めるのは些か総計にも思えるが、ここまで似通っているとそう思ってしまうのも仕方のないことだろう。

 

 「そうだよ、ヤマトにある都市って呼ばれてる場所は大体こんな感じかな。」 

 

 「大神はヤマトを回ったことがあるんだっけ。

  俺も将来ヤマトだけじゃなくてカクリヨ全体を見て回りたいな。」

 

 こうしてイヅモノオオヤシロに来てみて分かったが、その地域にしかない特徴など、キョウノミヤコの周辺では知りようのないものが多くあった。

 

 多分、カクリヨ全体で見たらこんなものではない。

 知らない風景、知らない食べ物、知らない人々。

 

 それを想像するだけで、探求心がくすぐられる。

 

 「あ、それ良いね。

  ウチは一緒に行けないけど、凄く楽しそう。」

 

 そう言って、大神はにこやかに笑う。 

 だが、その一言にふとした引っ掛かりを覚えた。

 

 「…大神。」

 

 その引っ掛かりを言葉にしようと口を開く。

 

 「どうしたの?透君。」

 

 「…あ、いや、何でもない。」

 

 しかし、そこから先へ踏み込むことは無かった。

 咄嗟に誤魔化して他の話題へと切り替える。

 

 そうだ彼女は普通に応援してくれているだけだ。

 けれど、そんな理屈とは別に妙な胸騒ぎを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人で露店の小物を見て回るが、中々どうして品ぞろえが豊富にある。

 

 「これ何に使うんだろうな。」

 

 「んー、手品とか?

  でもそれにしてはちょっと…。」

 

 とある露店で見つけた謎に大きなシルクハット。

 被ろうにも、確実に顔全体を覆ってしまう。

 

 巨人用かとも考えたが、そもそもカクリヨにおいて巨人を見かけたことは無い。

 居てもおかしくはないが、その上で何故シルクハットなのかという疑問は残る。

 

 「シルクハット…。」

 

 首を傾げていると、ぽつりと大神が零す。

 

 「どうした?もしかして欲しいとか。」

 

 これをどう使うのか想像もできないが、大神なら何か用途を思いつくかもしれないと聞いてみれば、大神は否定するように首を横に振る。

 

 「ううん、ちょっとクラウンの事を思い出して。」

 

 「クラウン?。

  …あぁ、そう言えばあいつもシルクハット被ってたな。」

 

 少しだけ懐かしい名前が出た。

 懐かしい、というと語弊があるかもしれないが。

 

 「ウチもフブキと色々事件を解決してきたけど、あそこまで大きな事件は初めてだったよ。」

 

 「俺も、まさか幽霊騒動の次にあれが来るとは思わなかった。」 

 

 キョウノミヤコで命石を作成していた、謎の人物。

 最初はただの行方不明者の調査、それに伴うカクリヨの異変についての調査だった。

 

 「キョウノミヤコで調査をして、直接対峙して。

  あれから結構時間も経ったな。」

 

 今にして思えば早いものだ。

 クラウンについては詳しい情報は手に入らなかったが、どちらにせよもう過ぎたことだ。気にしても仕方がない。

 

 「本当、あの時透君には助けられてばっかりだったね。」

 

 「何言ってんだ、助けられてばっかりなのは俺の方だよ。」

 

 カクリヨに来てから今に至るまで、俺は彼女たちに救われている。

 

 「透君、ウチがこの話するといつもそうやって返してくるよね。」

 

 「そりゃ事実だからな。」

 

 少し不満げに頬を膨らませる大神にすました顔で答えて見せる。

 ここまで、基本同じ流れだ。 

 

 「もう…ほら、次の場所に行こ。」

 

 そう言って、前を行く彼女の背を追いかける。

 

 「…って結構早いな!」

 

 何気なく歩き始めたのだが、すたすたと予想以上の速度で歩いて行こうとする彼女に少し小走りになる。

 

 「ごめんごめん、ちょっと悪戯。」

 

 「それは良いんだが、なんで普通に歩いて小走りと同じくらいの速度を出せるんだよ…。」

 

 からからと笑ってみせる大神だが。

 また一つ彼女の底知れなさを体感し、思わず苦笑いが浮かんだ。

 

 「…ん?

  これ、大神がつけてるやつに似てるな。」

 

 「え?あ、本当だ。」

 

 不意に視界に入った露店に並ぶアクセサリ、その中に大神が良く身に着けている髪留めを見つけてつい足を止める。

 

 「色と装飾がちょっとだけ違うけど、殆ど一緒。」

 

 「もしかすると同じ人が作った物なのかもな。」

 

 気になり店主へと話を聞いてみれば、どうやら昔から代々継いできた技術で作られたものだそうだ。

 大神の髪飾りも先代の内の誰かのものであるらしい。

 

 「これそんな伝統的なものだったんだ…。」

 

 それを聞いた大神は感心したように息を吐く。

 

 「知らなかったのか?」

 

 「うん、昔せっちゃんから貰ったモノで…。

  あれ?せっちゃんから貰ったんだっけ…?」

 

 よく思い出せないのか、大神はそこで言葉を区切り考え込んでしまう。

 また記憶が曖昧になっているらしい。ということはかなり昔の事なのだろう。

 

 「ま、思い出せないならまた神狐にでも聞けば教えくれるだろ。」

  

 「…そうだね、後で帰ったら聞いてみる。」

 

 ただ秘密主義だという神狐が素直に答えるかは謎だが、その程度なら隠し立てすることも無いだろう。

 

 「あ、そうだ、ウチはもう持ってるから透君が付けてみるのはどう?」

 

 「俺が?」

 

 勧められて、ついそれを身に着けた自分の姿を想像してしまう。

 が、

 

 「いや、似合わないな。」

 

 即断で断言する。

 ここまで似合わないと、いっそのこと笑いに走った方がマシなレベルだ。

 

 「えー、似合うと思うのに。」

 

 「大神のそれは全然信用ならないんだよな…。」

 

 彼女についてはメイド服の件がある。

 これで鵜呑みにして付けて帰れば神狐が大笑いすること間違いなしだろう。

 

 妙に後ろ髪を引かれている大神を連れてその露店を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからも、二人で色々な場所を回った。

 小物を見て回ったり、小腹が空けばまた屋台で食べ物を調達して。

 

 住民から聞いた隠れた名所のような場所や、イヅモノオオヤシロで一番大きな銭湯も入りこそしなかったが見ているだけでも十二分に楽しめた。

 

 交流してみて、キョウノミヤコの住人と同様に、イヅモノオオヤシロの住人達も気の良い人ばかりであった。

 

 物珍しいものも多くあり、話題が尽きることも無く。

 ひたすらに楽しんでいれば、いつの間にか夕日が街を黄金色に染めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「はー、今日は楽しかったね透君。」

 

 黄金色に染まった街道を歩きながら、大神はそう言って笑いかけてくる。 

 屈託のないその笑顔は、彼女が心の底から今日という日を楽しめた証なのだろう。

 

 「そうだな。

  物珍しいものが多すぎて少し驚き疲れた面もあるけど…。」

 

 「あれ凄かったね。

  なんで空飛んでたんだろ。」

 

 未だに原理が謎なものも多いが、そこは何かしらのワザの影響だと割り切るしかない。

 

 今日体験したもの、その感想。

 帰り道を歩きながら話していれば、大神が不意にその足を止めた。

 

 「…大神?」

 

 不思議に思い、足を止めて彼女へと振り返る。

 

 「…実はね、透君に話したいことがあるの。」

 

 夕日に照らされた彼女の顔には、真剣な表所が浮かんでいる。

 何を話そうとしているのか、何となく察して。どきりと心臓が鳴る。 

 

 だが、決めていたことだ。

 どんな話でも受け止めると。

 

 「あぁ、なんだ?」

 

 「その、まずは謝りたいことなんだけど…。」

 

 覚悟を決めて返事を返せば、大神は何やら紙を取り出した。

 見覚えのあるその紙、否、お札は確か…。

 

 「」

 

 それを認識した途端決めたはずの覚悟は何処へやら、声にならない悲鳴が口から飛び出る。

 

 あれは音声を録音するお札である。

 しかも内容は聞けば俺の大神への想いが完全にばれてしまう。 

 

 「お、大神…なんでそれを…。」

 

 「前にせっちゃんが投げ渡してきて、咄嗟に再生したら…その。」

 

 やりやがったあの狐。

 混乱する心の中でロリババア狐へと恨み言を送る。

 

 「ごめんね。

  あの時は驚いて透君に嘘をついたの、だからそのことをずっと謝りたくて…。」

 

 「あー…そう言うことか。

  まぁ、うん。それに関しては悪いのは大神じゃなくて神狐だ。」

 

 申し訳なさそうに言う大神だが、まぁそこは気にしていない。

 何方かというと今すぐ神狐に問いただしたい思いで一杯だ。

 

 「ん?

  じゃあ、俺の気持ちはずっと…。」

 

 ふと気が付いた、あの時点で知っていたのなら今日まで大神は俺の想いを知っていたということになる。

 

 「…。」

 

 確認を取るように問いかければ、彼女はその顔を真っ赤に染めてこくりと無言のまま頷いた。

 それはそうだ、むしろ知らない訳が無い。

 

 「マジか…。」

 

 自らの顔に熱が帯びるのが分かる。

 

 「…あぁ、そうだよ。」

 

 そしてここまで来たらもう後戻りは出来ないと開き直り、改めて大神へと向き直った。

 

 「俺は、大神の事が好きだ。」

 

 「っ…!」

 

 今度は録音ではない自分の言葉で、自らの想いを告げる。 

 

 それを聞いた大神は、目いっぱい目を見開く。

 その綺麗な瞳は涙に潤んで夕日を反射させていた。

 

 「…ウチも。」

 

 彼女の口からぽつりと零れ落ちる様に紡がれる。

 

 「ウチも、透君の事が…好き。」

 

 そんな彼女の言葉に、心臓が早鐘を打つのが分かる。

 

 「透君、覚えてる?」

 

 大神はそう言って言葉を続ける。

 

 「丁度こんな風に夕日に照らされる中で、透君はウチの事庇ってくれた。」

 

 一言一言に秘められた感情。

 

 「ウチが袋小路で覚悟を決めるしかなかった状況を、透君が止めて救ってくれた。」

 

 どれもこれも最近の話ではない。

 

 「自覚したのは最近だけど、ウチはずっと、透君に恋をしてた。」

 

 あの時から、彼女はずっと。

 それを聞いてようやく理解した。

 

 けれど、何かが変だ。

 

 「大神、なら…。」

 

 なら、どうして…。

 

 「でもっ…!」

 

 どうして、そんなに辛そうな顔をする。

 

 

 

 「ウチは、透君の恋人になれない。」

 

 

 

 無理やりに笑って見せる大神、その頬には瞳から零れ落ちた雫が伝う。

 そんな彼女の言葉を受けて動揺するがすぐに自らの心を叱責し、彼女と向き合う。

 

 「けど、そう言うことなら俺と大神は両想いの筈だろ。

  ならなれない理由は。」

 

 しかし、大神はそれは出来ないと首を横に振って言外に伝えてくる。

 

 「まだ、この事はフブキにも話せてないんだけどね。」

 

 「何を…。」

 

 疑問を口にする前に、大神は再び何かを取り出しこちらに見せる。

 

 「あとね、数年もないの。」

 

 初めてだった。

 彼女の話を聞きたくないと、理解したくないと思ったのは。

 

 「ウチに残された時間。」

  

 大神の手に握られるタロットカード。

 描かれた死神はこちらへとその笑みを向けている。

 

 今宵は新月。

 暗闇の中を明るく照らす月明かりは、何処にも存在しなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





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