どうも、作者です。
八万UA突破
感謝感激。
感想くれた人、ありがとうございます。
以上。
温泉から上がり広間へと出る。
辺りを見渡してみるが、何処へ行ったのか神狐の姿は見当たらなかった。
別にだからどうという話でも無いのだが、神狐にとっても今日は激動の日だった。
いくら表面的に平気そうに見えても、精神的にはそうもいかないだろう。
一人になりたいと思っても不思議ではない。
もしかすると気を使っているだけかもしれないが、まぁ、その辺りを推測するのは無粋というものだ。
思考を切り上げて、大神の元へと向かう。
居場所は広間に出た瞬間から分かっていた。
『…。』
近づいて行くと、それに気が付いたシキガミが無言のままこちらに頭を下げてくる。
そんなシキガミのすぐ傍らにあるベンチ、その上で毛布を掛けられて大神は眠っていた。
穏やかな寝顔、けれど涙を流したせいかその目元はほのかに赤く腫れている。
「大神を部屋に運びたいんだけど、良いか?」
確認を取るように聞けば、シキガミはこくりと頷いてその場から去っていく。
神狐がいない間、あのシキガミが大神の事を見ていてくれたようだ。
その背が見えなくなった所で、大神へと視線を戻す。
「…本当、今日は色々ありすぎたな。」
心の底からの本音を溢しつつ、大神を横抱きに抱え上げる。
身体強化を使うまでも無く軽々と持ち上げられる彼女は、抱きかかえても目を覚ます様子は無い程深い眠りについている。
身体の疲れというよりは、心労の方が大きいだろうか。
もしくはその両方かもしれない。
「…せっちゃん…。」
「っ…。」
眠っている大神の口から零れ落ちた言葉に、歩き出そうとした足が止まった。
大神に対しても、神狐に対しても大きな担架を切った自覚はある。
けれど彼女の様子を見ていると、どうしても考えてしまう。
俺は本当に、彼女を支え切れるのだろうか。
頭を振ってそんな思考を払いつつ、部屋へと向かい階段を昇る。
やがて部屋に到着し、大神を彼女のベットに寝かせてから自らのベットへと腰を下ろして一息ついた。
隣のベットには、すやすやと寝息を立てる大神。
しばらくぼうっとしながらそんな彼女を眺めるが、疲労が溜まっているのは俺も同じようで、すぐに眠気に襲われる。
しかしそのまま横になってみるも、中々眠りに付けなかった。
ぐるぐると回る思考は止まる気配が無く、時間ばかりが過ぎていった。
ぼんやりとした意識の中、不意に感じた冷気に一気に意識がクリアになる。
何時の間にか眠りかけていたようだ。
掛け布団でも落ちたのかと思い横向きに寝たまま手を動かすが、しかしきちんと首元まで布団は掛かっている。
「…?」
じゃあ、何の冷気だ。夢でも見ていたか。
そう結論付けようとしたところで、不意に背中に触れている気配を察知する。
気のせいにしては、はっきりとし過ぎている気配。
きっと神狐辺りが湯たんぽでも入れてくれたのだ、そうだそうに違いない。
期待混じりのその予想を立てた所で、背中の気配がもぞりと動きを見せる。
生き物であることが確定して思わず体が強張った。
「透君、起きてる?」
「…って、なんだ大神か。
あぁ、起きてるよ。」
背中側から聞こえてくる聞きなれた声に安堵の息が漏れる。
これで大蛇でも居ようものなら確実に上げたことの無い悲鳴を上げていた所だ。
「…どうかしたのか?」
だが、ほっとしているのも束の間。
今度は何故大神がここにいるのだという疑問が浮かんでくる。
俺は確かに大神を彼女のベットに寝かせたはずだし、勿論、彼女のベットに入り込むようなこともしていない。
なら、必然彼女の方からこちらに来たという事になる。
「透君、さっき言ってくれたよね。」
問いかければ、ぽつりとそんな答えが返ってきた。
言ってくれた。
一瞬何のことかと記憶を探るが、すぐに答えを見つける。
「少しだけ、寄りかからせて欲しくて。
良いかな。」
「勿論、お安い御用で。」
不安げな声で尋ねてくる大神にはっきりと返せば、後ろの彼女がほっとしたのが分かる。
「…せっちゃんの話を聞いたからなのかな、昔の夢を見たの。」
「昔って…、イヅモノオオヤシロの?」
聞けば、否定するように大神は首を横に振った。
「もっと、昔。
多分、せっちゃんと会う前の。」
それを聞いて、ドクンと自らの心臓が鳴るのを感じた。
神狐と出会う前の大神。それは、恐らく神狐ですら知らない話だ。
固唾を飲んで、彼女の話に耳を傾ける。
「雪山の中でね、歩いてるの。ずっと、ずっと一人でひたすら。
楽しさなんて無かった、喜びも無かった、あったのはどうしようもない孤独感だけ。」
穏やかに話す大神だが、背中に触れる彼女の手は確かに震えていた。
せめて夢の中だけでもと考えていた、けれど、記憶が刺激された影響かそれすら阻まれてしまう。
「起きた瞬間も凄く寂しくて。
だから、ちょっと甘えたくなっちゃった。」
「…そっか。」
そう言って、大神は照れたように笑う。
慰めたい、けれどそのやり方を俺は知らない。
上手くできる気がしなくて、それだけしか言葉に出来なかった。
「でも、これで本当に俺は大神の力になれてるのか?」
やっていることと言えば、大神の話を聞いているだけ。
こんなことしかしてやれない自分が、こうももどかしい。
そんな俺の心に反して、大神は頷いて肯定する。
「うん、これ以上ないくらい。
何だか、透君の傍にいると落ち着くの。」
「落ち着く…か?」
予想外の言葉に、疑問が口から零れ落ちる。
自分ではそう言った類の認識は持てないが、まぁ、こういうものは抱く者にとっての透という人物像が影響してるだろうし、大神にとってはそうなのかもしれない。
「それに暖かい。
こういう所、せっちゃんみたい。…っ。」
そう言い切ると同時に、何かに気が付いたように後ろの大神が震えた。
「あ、心配しないでね。
透君をせっちゃんの代わりみたいに思ってるわけじゃないの。二人とも、ウチにとっては掛け替えのない人だから。」
「ははっ、分かってるって。」
あまりに必死に弁明するものだから、思わず笑いが溢れてしまう。
今頃、大神の頬はぷくりと見事に膨らんでいる事だろう。
「もう、笑わないでよ…。」
「悪い。でも、そっか。
俺も大神の中では掛け替えのないって思われる程度の存在にはなれてたんだな。」
予想通りの反応。
拗ねたように抗議してくる大神に謝罪しつつ、この数か月で得たものを再認識する。
「それはそうだよ。
だって透君はウチにとって…あ。」
「え?
…あ。」
ふと、言葉を区切る大神。
それと同様に、俺もその原因に思い至って思わず声が出た。
そう言えば何かと話が入り組んで有耶無耶になっていたが俺と大神はイヅモノオオヤシロで互いの想いを伝えあっていた。
「透君、あのね。
ウチは…。」
「あー、大神。
その話は考えなくて良い。」
言葉を続けようとする彼女に対して、先んじて言っておく。
「今は、それよりも優先することがあるだろ?」
「…うん。」
今の彼女は、恐らく様々な事が重なって心の容量はぎりぎりの筈だ。
その中で無理に事を進めるよりは、後伸ばしにしてしまった方が良い。
俺自身、この状況で色ボケ出来るほど楽観的な感性は持ち合わせていないことも理由の一つではある。
「せっちゃん、凄くお節介でしょ。」
「あぁ、まさか本当に大神にあれを渡されるとは思わなかった。」
言いながら大神はくすくすと笑うが、こちらとしては一大事だ。
録音で大神に想いを伝える形になるなど、夢にも思っていなかった。
行動力があると言えば聞こえはいいが、あれはそんな言葉で流していいものでは無い気がする。
「ウチも。
けど、せっちゃんも悪気は無いと思うの。ただやり方が間違ってるっていうか、不器用なだけで。」
それには完全に同意見だ。
あそこまで空回りをする者も珍しい。
本人もそれは分かっている筈なのに。それにも関わらず、神狐は一人で突っ走ってしまう。
「失敗しちゃうこともたくさんあったと思う。
でも、せっちゃんはいつも、ウチの事を考えてくれてて…。」
「あぁ、それは見てて分かる。
神狐はずっと、大神の為に動いてた。」
贖罪の意が無いと言えば嘘になるだろう。
しかし、神狐の大神に対する行動には全てそれ以上の愛情が込められていた。
だからこそ、神狐が大神を見殺しにすることなど無い。
自らを犠牲にしてしまうからこそ、彼女は神狐セツカなのだ。
「本当、困っちゃうよね…。」
多分心からの言葉なのだろう。
しかしそれとは裏腹に、その声は穏やかだった。
「でも、それを含めて大神は神狐の事が好きなんだな。」
「…うん、大好き。」
そう言って、大神は背中へと額を当ててくる。
「…ウチ、明日から普通に接していけるかな。」
「大神なら大丈夫だ。
辛くなった時は、俺にぶつければ良い。」
不安混じりの彼女の声にはっきりとそう伝えれば、緊張が取れたのか安堵するようなため息と共に、後ろにいる彼女の体から力が抜けるのが分かった。
「うん…ありがとう、透君…。」
語尾に行くにつれて彼女の声からも力が抜けていき、それから間も無く、後ろから規則正しい寝息が聞こえてきた。
大神も寝てしまった所で、再度彼女をベットまで運ぼうと体を動かすが、わずかな抵抗を感じて動きを止める。
どうやら、大神に服の背中辺りを掴まれているようだ。
無理に引きはがせば、恐らく大神は目を覚ましてしまうだろう。
どうしたものかと思考を巡らせようにも、眠気に襲われてそれもままならない。
(…まぁ、良いか。)
自問自答していても答えは出ないだろう。
そう結論付けて、思考を放棄し、目を閉じる。
こうして長かった一日は幕を下ろし、夜は更けていった。
「…ほほう、これはこれは。」
頭上から聞こえてくるそんな声に、意識が覚醒した。
何事かと、目を開けて声の出所へと向ける。
「「…。」」
すると、まず視界に映ったのは大きな瞳。
ニヤニヤとした笑みを浮かべた神狐セツカの顔が目の前にあった。
「…は!?」
「朝から元気じゃな、透よ。」
驚きのあまり目を見開いて声を上げれば、神狐は顔を離すように上空に移動して愉快そうに笑う。
「神狐、どうしてここに?」
「普通に入り口からじゃ。
妾にとっては扉も襖もあってない様なものじゃからな。」
寝起きで鈍い思考で問いかければ、神狐はあっけらかんとそう答えて見せる。
あぁ、そうだった。そう言えば実体が無いんだった。
自体いが無いが故に、通り抜けてこれてしまうという訳だ。
これではわざわざ仕切っている意味が無いな。
未だバクバクとなる心臓を宥めながら、丁度頭上でふわふわと宙に浮かんでいる神狐を眺める。そんな彼女の顔にはニヤニヤとした笑みが張り付いたままだ。
「それにしてものう。
透、主も男じゃったのじゃな。」
「は?
何の事…。」
揶揄うように言ってくる神狐。
そんな彼女に聞き返しかけたところで、傍らに存在する温もりに、神狐が何を考えているのかを察した。
「いや、そうじゃない。
これはただ一緒に寝てただけで。」
「そうかのう、その割には焦っておるようじゃが。」
サッと顔から血の気が引くのを感じながら即座に体を起こして弁明するも、しかし、決定的現場を見たとばかりに神狐はその表情を崩そうとはしない。
むしろ慌てれば慌てるだけドツボにハマりそうだ。
「ん…。」
だが、このまま弁明しなくては誤解が定着してしまう。
これはマズイと焦りが生まれ始めたあたりで、隣の大神がそんな声と共にもぞりと体を動かす。
「透…君?」
目をこすりながら大神は体を起こす。
まだ寝ぼけているのか、彼女はどこかぼんやりとしている。
「透君、おはよう。おかげで安心して眠れた。」
「あぁ、うん。
それは良かったんだけど、今はこっちの弁明を手伝ってもらっても良いか?」
「弁明…?」
そう呟きながら大神は寝ぼけ眼のまま辺りを見渡して、その瞳に宙に浮かぶ神狐の姿を捉える。
「せっちゃん?」
「ほほっ、なに、様子を見に来てみれば主らが同じベットで共に眠っておったのでな。
何かあったのではないかと思ってのう。」
それを聞いた大神は状況を把握するように再度こちらへと視線を戻し、また神狐へと視線を向けてを繰り返す。
時が経つにつれて、意識が覚醒しだしたのかそんな彼女の瞳には光が宿っていく。
「へ…あ…あう…。」
やがて何事かを理解したようで、急激にその顔を朱色に染めた大神は耳をぺたりと倒して黙り込んでしまう。
「ほうほう、やはりそうなのではないか。」
そんな大神の変化を見て、神狐はその顔に浮かべていた笑みをますます深めた。
「違うから!
大神もどうしてそこで顔を赤くする。」
「だ…だって、ウチ。
昨日はどうかしてて、なんであんな大胆なこと…。」
自分の弱っているところを見られて今更羞恥が爆発しているらしい。
視線に耐えきれなくなったのか、イモムシの様に布団の中へと大神は潜っていく。
「そうじゃ、今日はご馳走にせねば。
幸い食料は昨日調達したばかりじゃしのう。」
「待て待て、部屋から出ていこうとするな!
大神も、そんなに恥ずかしがるような事じゃないから!」
るんるんと嬉しそうに宙を舞う神狐を引き留めつつ、布団にもぐってしまった大神に声を掛ける。
結局、二人が落ち着くのは雲の上の太陽が完全に顔を出した頃であった。
「はー、焦った…。」
「あ、あはは、お疲れ、透君。」
部屋の中で、ようやく無事に誤解を解き終えて思い切り息を吐けば、少し気まずそうに大神は笑みを浮かべて頬をかく。
まさか朝からこんなにも体力を使う羽目になるとは思わなかった。
これは今日一日の先が思いやられる。
「何じゃ、手の一つでも出せばよいものを。」
そんな気持ちを知ってか知らずか、神狐は何処か不服そうに頬を膨らませている。
「出さないって、俺を何だと思ってるんだ。」
「つーまーらーぬーのーじゃー。」
ハッキリと否定すれば、神狐は駄々っ子の様にじたばたしたかと思うと、そのまますーっと宙を移動して何処かへと去って行ってしまった。
一瞬気を使っているのかとも思ったが、どうにも本音も含まれているような気がしてならない。
まぁ、神狐とはそういう奴なのだ。
「…なんだか、せっちゃん幼くなってる?」
「まぁ、見た目的には違和感ないけどな…。」
昨日からは考えられない程に、空気が弛緩する。
これも彼女の狙い通りではあるのだろうか。
何処まで計算しての行動なのか測りかねる。
「…ね、透君。」
「ん、どうした?」
そんな思考の最中、声を掛けられて改まった様子の大神と目を合わせる。
その顔には昨日見たような憂いは残っていない。
「その、改めて昨日はありがと。
おかげでちゃんと、せっちゃんと向き合えるから。」
笑顔でそれだけ言い残して、大神は部屋を出て行った。
これも一晩経って色々と整理の付いたことの現れなのだろう。
「ありがとう…か。」
一人残された部屋の中で、ぽつりと呟く。
何も礼を言われるようなことでは無い。
謙遜などでは無く、これは純然たる本心だ。
こうするしかない、ただそれだけの理由しかない。
だからこの胸の痛みは、そんな自分への戒めなのだろう。
けれどもう進むしかないのだ。
そんな覚悟を胸に秘め、彼女の後を追った。
(満月の日まで、残り13日。)
気に入ってくれた人は、シーユーネクストタイム。